空腹だったわけではない。 別段、それが好きだったわけでもない。 ただ、なんとなく、手を伸ばしてみたかった。 それだけだった。 ものには順序というものがあると、大谷は三成を制す。勝手にしろと言ってみたが、急いているのか、募っているのか、成したい気持ちが落ち着かない。 情報を求めに行った忍が帰ってはいやしないかと、彼の者の部屋を訪れた。「何を、している」 一歩踏み入れると、そこには甘ったるい香りが充満していた。 思わず、顔をしかめる。「おお、石田殿。石田殿も、お一つ、如何か」 山と積み上げられた団子を、勧められる。「――――何を、している」 もう一度、繰り返した。「佐助が、情勢を調べに行っておりまする。いつなりと出陣できるように準備をし、それを待つのが今の某の身なれど、まんじりともいたしませぬ故、こうして時間を潰し、かつ腹がくちくなれば眠れるのではないかと団子を食しておりまする」 言っている先から団子に手を伸ばし、租借している。その様子は、ひどく、楽しそうにも、幸せそうにも見えた。 触れてみたい。 特にこれといった理由もなく、そういう衝動が沸き起こり、手を伸ばす。「石田殿――? いしっ」 口を塞ぐ。舌を伸ばし、口内に入れると団子に触れた。自分の口内に引き入れて租借する。 甘い。「んっ、ふっ、ふんっ、ふっ」 困惑している瞳が、間近にある。それを真っ直ぐに見返す。 状況を、把握できていないのか。 三成自身も把握できていないのだから、把握させる必要は無いと両手で腰をまさぐる。 ただ、触れたい。それだけのために今、触れている。 その衝動が、どこから来ているものなのかなど、興味がない。 触れたいと思い、触れられる場所にそれがある。 ただ、それだけだった。「石田殿、な、何を」「五月蝿い。貴様はおとなしく、団子を食っていろ」「し、しかし」 狼狽しきっている相手を無視し、唇を顎に、首に、肩に、胸に移動させる。色づいた場所に触れると、鼻にかかった息が漏れた。「ふっ、ん――」 抵抗をする様子は無い。動揺が、流されるという選択肢しか彼に与えなかったのだろう。執拗にそこを口に含み、食む。小さく跳ねる腰に手を伸ばし、熱を帯びて形を変えた下肢に指を絡めた。「はっ、ぁ、ぁあ……ぁ」 ずいぶんと、熱い。 彼が戦場で、異様なほどの熱量を放つのは、自身が人よりも体温が高いからなのだろうか。 その熱を奪うように、三成の口は指に絡めた場所に動き、強く吸い上げながら舌を絡める。「ぁ、は、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ」 一定の速度で、嬌声を上げる。それが段々早く、高くなっていく。三成も、動きを早める。「や、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁあぁああ――――」 腰が浮き、叫びに変わった幸村の体から体液があふれ出る。喉に絡むねばついたそれは、茶の湯よりも熱く、苦い。「は、ぁ――ぁ、も、申し訳、ござらぬ」 頬を朱に染めて、両腕で顔を覆いながら謝る相手に、眉根を寄せる。「何故、謝る」「そっ、某……石田殿の口に――ッ」「俺が咥えて、出させた。貴様が謝る必要など、どこにも無いだろう」「う、ぅう」 朱を深めて、体を丸める相手に首をかしげる。 何を、言っているのかが理解できない。「ぁ、い、石田殿ッ」 足を広げ、奥まった場所に指を這わせる。硬く閉じたそこは、三成を拒むように収縮している。ふと、目の端に映った団子を手にして、それをゆっくりと押し込んでみた。「ぁ、あぁあ、い、石田殿っ、何を――石田殿っ」「これら全てを胃に収めれば、動きが鈍くなるだろう」「だ、だからと言って、そのような場所にっ――――ぅ、あ」 ゆっくりと、次々と団子を押し込んでいく。放ったばかりの牡が起き上がり、団子を食む箇所と連動して奮えている。ぬちぬち、と団子が鳴る。牡の先端を指で潰すと、似た音がした。「は、ぁ、ぁ、ぁ――も、もぉ、入りませぬ、ぅう」 足の指を握り締め、幸村が訴える。観察するように団子を押し込み、牡を捏ねていた三成が顔を上げ、顔を隠したままの幸村と、まだ山のように残っている団子を見た。唇を、団子を食ませている箇所に寄せる。「は、ぇ、ぁ、い、石田殿っ、そ、そんな所に――ッあぁ」 甘い声が上がる。彼の体内でつぶれた団子のように。 舌を伸ばし、団子を吸い出すが、うまくいかない。「は、んっ、ぁあ――ふっ、ふんっ、ふあぁあ」 じくじくと、牡の先端から蜜があふれ出る。三成の息も、いつの間にか熱くなっていた。「貴様は、熱いな」 えっ、と問うような目が彼の腕の間から覗く。緩んだ腕を解き、あらわになった顔に唇を寄せる。 彼の熱が、自分に移ってきている。これほどに体が熱くなったことなど、かつて、一度も無かった。「んっ、石田殿――はぁ、あ、ん」 唇を角度を変えて重ねながら、邪魔な布を脱ぐ。ひたり、と自分の熱を押し当てると、幸村の体が強張った。「拒絶を、するな」 出た声は、自分でも聞いたことがないほど熱を持ち、うわずっていた。「石田殿――――」 呆けたように呼んでくる相手の足を抱え上げ、一気に貫く。「はっ、あぁああぁあっ、ひっ、ぁ、あうぅ」 幸村の内壁と三成の牡が、団子をすり潰し、熔かし、にちゃにちゃと音を立てる。甘さを深めていく幸村の表情を眺めながら、三成は自分の体内にこれほどに熱くなる要素があったことに、驚いた。「はっ、は――真田ッ、く、はっ」「んっ、は、はんっ、はっ、いしだっ、どのぉっ」 腕が、足が、肌が絡み、一つの生き物のように蠢く。息が絡み、鼓動が重なり、熱を共有し、思考が失われる。「はっ、ァ、ぁんっ、ぁ、ひっ、はっ、はぁ、ぁ、ぁあっ、あ」「ふっ、ふっ、ふっ、く、ぅ、ふ」 同じ旋律を、違う音で紡ぎ出す。高まり、速度が上がり、やがて全てが溶け合い弾ける。それでも離れることを厭い、幾度も幾度も、二人は同じ熱を貪りあった。 泥のように眠る姿を見つめる。 触れたいという衝動は、どこから来たのか認識できないまま、三成は彼を求めた。 衝動のままに、手を伸ばした。 厭う間を失ったらしい相手は、いつしか腕を伸ばして背に爪を立ててきた。その痛みが、心地よいと思う。 その感情は、どこから来ているのか。 これ以上は危険だと警告する何かと、そのまま進んでしまいたいという欲求が混在している。「真田、幸村」 この、熱の塊を指す言葉を口にして、額に張り付いた髪に触れる。規則正しい呼吸が崩れる気配は無い。「貴様は――――」 言いかけ、何を言おうとしたのかが解らずに口を噤む。 月光が、部屋に滲む。 冷え冷えとしたぬくもりが、幸村以外の輪郭を、ぼんやりと滲ませていた。2011/02/25