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境界


 トン
 何かに押されたような気がして、紅丸は振り向いた。ネオンが滲んでいる街の中、一人、歩いている。
 少し首をかしげると、風がさらりと長い金髪を揺らした。暖かさの中に冷たさを内包したそれに、口角を上げる。停滞している空気は嫌気がさすほどの暑さであるのに…………。
 前方に視線を戻すと、赤い光が2つ、同じ間隔で滑り、流れていった。
 はっとする。
 獣の瞳のように見えたそれが、テールランプであると気付くまでの数瞬、脳裏に閃いた姿があった。それと共に、酷く遠い場所に行ってしまった友の、不遜な、懐こい笑みが浮かぶ。
 ふと、小刻みな震えを感じた。
 取出し、画面に浮かぶ名前を見て、鼻から柔らかな呆れが抜ける。
 通話ボタンを押して、耳にあてる。
 すぐに、つい先ほどまで会っていたかのような様子で、名前が呼ばれた。
「ああ、うん――――久しぶり、京」
――俺は、押されても境界を踏み越えることは、出来ない。
2011/06/25




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