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庵京
 暑く湿った空気に包まれた部屋に、窓からわずかに涼やかな風が入ってくる。それが更にねっとりとした暑さを増幅させて、京の体を包んでいた。何度も寝返りを打ち、それでも治まらない何かが体中をくすぶりながら這い回る。
「っ……あぁ、クソッ」
 勢いをつけて体を起こし、首を振って深い息を吐いた。
 こんな夜は、同じ想いで居るはずだ。アイツも。
「だよなァ?」
 口の中でつぶやき、ベッドから降りて脱ぎ捨てられたままのジーンズを、足の指で器用につかみ、持ち上げる。月が、部屋の中を蒼く染めている。誰かの存在を思い出させるような、静かで、蒼い――――
「こんな半端な夜は、居心地が悪ィよなぁ? 八神」
 片方の口の端だけを持ち上げて、言う。手早く着替えを済ませ、玄関をくぐり、天を仰ぐ。
「本当、わかりやすい奴だよな。テメェはさ」
 ユラリ――京の右で影が動いた。
「治めなくちゃ、おちおち眠れやしねぇだろう」
 天を仰いだまま、影を見る。
「仕方が無ぇから、付き合ってやんよ」
「ほざけ」
 影が動く。
「素直に言えよ。八神」
 ドン、と影の居た空間が弾ける。瞬間、京は右手を持ち上げた。庵の拳が眼前で止まる。
「態度で示したってか」
 同時に間合いを作る。庵の居た空間がまた弾けた。しゃがんだ京の髪にを、庵の指が掠める。
「オイオイ。こんなところでおっぱじめんのかよ。こらえ性の無ぇ奴だなっ、とォ」
 立ち上がりざま、ひじを突き上げる京。身を仰け反らせてよけた流れのまま、庵の足が高く上がる。
「おわっ」
 くるりと回って避け、軸を変えて目の前の膝に上から拳を叩きつける。が、拳は空を切り、庵の靴が視界に映る。肘で受け止め、歯を見せて京が笑った。
「テメェは雄たけび、ウルセェんだkら、邪魔が入らねぇトコに行こうぜ。邪魔、されたく無ぇだろう?」
 まゆ毛をピクリと動かし、ゆっくりと足を下ろす庵。鼻を鳴らし、京の襟首を掴んで歩き出した。
「っ、オイこら。逃げねぇから放せ。歩きにくいだろが。八神、オイッて」
「貴様の言うことは、信用できん」
「ンだよソレ! もうホラ俺こけるじゃん。放せって。はーなーせー。あぁもう、逃げねぇから――――ったく」
 ぐいと強く庵の肩を引き寄せて、耳元に唇を寄せる。
「俺だって、治まんなくてツレェんだよ」
――わかるだろ?
 薄い笑みを浮かべた京の目が言う。フン、と鼻を鳴らし、庵が手を放す。開放された京は、尻ポケットに手を突っ込んで肩をすくめた。
「不安なら、手ぇつないでくか?」
 ニヤニヤ笑う京を一瞥し、先の倍の速度で歩き出す庵に小走りに近づく。
「スネんなよォ」
 肩をぶつけてきた京をにらみつけ、立ち止まる。
「今ここでも、俺はかまわんのだがな」
「だぁから、邪魔が入ったら興ざめだろ」
「ならば、さっさと歩け」
 唇を突き出して言う京に、舌打ちをする。
「イライラすんなよ。ヤりてぇのは、俺もおんなじだって」
 チラ、と庵が見てくる。
「あ、信用してねぇだろ」
 顔を覗き込んでくる京を無視するように、顔を背けた。
「そんな短気じゃ、モテねぇぞ」
「あいにく、女には不自由してないんでな」
「悪ぃ奴だなぁ。つか、必要無ぇんだろ」
 軽いステップで数歩先に進み、庵の正面に立つ。
「俺じゃあ、無ぇもんなぁ」
 目を細め、首を横に傾けた京の口が、大きな笑みの形を作った。庵の喉が鳴る。
「俺じゃなきゃ、何やっても足んねぇんだろ」
  庵の足が横に開き、腰の位置が落ちる。
「もう少しだから、ガマンしろよ。ココではまだ、オアズケだぜ?」
 庵の空気が揺らめくのを、楽しそうに眺めながら言う。
「最高の俺を、食わせてやるからさァ」
 今にも飛びかかってきそうな庵に背を向け、歩き出す。背中に受ける獣の息遣いに、細く長い息を吐き、拳を握る京の目に、鳥居と深い闇が映る。鋭さを増した気配に、こみ上げる笑みを奥歯でかみ殺し、普段と変わらない口調で声をかける。
「ちゃんと、奥まで行ってから、だからな」
 舌打ちが聞こえる。それに笑みを深くして、口の中でつぶやいた。
「躾が、行き届いてンじゃねぇか」
「何か、言ったか?」
「あぁ? 風で木が騒いでんじゃねぇか」
  片手を上げて振りながら鳥居をくぐる京のあとに、庵が続く。 木々が足元を黒く染める。砂が立てた音を、木々が吸い取り静寂を保とうとする。境内へと続く階段に足をかける京。庵が足を一段目に乗せると、京の体がふわりと浮いた。
「っ?!」
 まっすぐに落ちてくる京の体を抱きとめる。顔をのぞくと、楽しそうに笑い、見上げてくる。
「――何を、考えている」
「なァんも。――――テメェと居ンのに、頭使う必要もヒマも、あったもんじゃねぇだろうがよ」
 京の腕が庵の頭を包む。
「コーフンしすぎちまってさぁ、動きづれぇことになっちまってンだよ」
 言いながら、唇を寄せる。
「ヒサシブリすぎてさぁ」
 唇で唇を噛む。
「なぁ」
 くるりと体を回転させ、庵の襟首を両手で掴む。体重をかけて手すりと庵の体で自分の体をはさむような格好にする。庵の手が、手すりを掴んだ。
「先にコッチを治めねぇと、テメェもツライだろ」
 ギシ、と手すりが鳴いた。
「オレ、もう痛ぇ位ンなってんの」
  くすくす笑いながら、庵の股間に太股を擦り付ける。
「苦しそう、だな」
 首をかしげて問いの視線を向けると、ゆっくりと口を開いた庵が噛み付くようなキスをした。
「ンッ…………なぁ、咥えて?」
  目が細められる。指を滑らせ、シャツの胸元から指を滑り込ませた。庵の動きが止まる。
「チ●ポ、しゃぶってくれっつってんの」
  唇を尖らせて、不満顔を作る。
「それとも、オレに咥えて欲しい?」
 言いながら、庵を剥いていく。
「せっかく艶っぽく誘ってやってんだから、ウンとかスンとか言えよなぁ」
 剥いた端から軽い音を立ててキスをしていきながら、文句を言う京。
「テメェも限界きてんだろうがよ。こういうときは、情調たっぷりにノッてくるもんだぜ」
「情調など、キサマにはカケラも無いだろうが」
「あぁ?」
 ベルトに手をかけた京が、上目遣いににらむ。庵が、肩から落とされたジャケットもシャツも投げ捨てる。
「情調もクソも無ぇから、わかんねぇだけだろ。動物みてぇに単純でさぁ」
「そんなものを理解している奴が、文句を言いながら人のチ●ポを引きずり出すとは思えんな」
「噛み切るぞ、テメェ」
 庵が鼻で笑う。舌打ちをして、下着の上から庵の股間に歯を立てた。
「っ……」
 顔をしかめた庵に、満足そうに笑んで下着を歯でつかみ、ずりおろす。勢いよく飛び出したペニスが、京の顔を打った。
「ハッ! すっげェな」
 ニヤニヤ笑う京が、それを指ではじく。庵の手が京の頭を掴み、彼の口内へペニスを突き立てる。
「んぐっ!」
「するなら、さっさとしろ」
「ほぁ……ふぁうふふぉひ、ひょうほほふほうぁ、ふぁあふぁ」
 呆れた顔で何事かを言う京に気分を害し、頭ではなく髪を掴んで京からペニスを抜きざま膝を繰り出す。腕を振り払い、転がりながら避けた京の足が、庵の足首を狙った。間合いを広げて交わし、舌打ちをする。
「っぶねぇなぁ。何しやがる。つか、チ●ポ出したまま戦闘態勢とってると、ヘンタイっぷりは元からとして、アホさが増すな」
「キサマが、出したんだろうが」
「文句言うなら仕舞えよっ……って、ムリかそれじゃ」
 クックと笑う京に再び舌打ちをして、大またに近寄る。剣呑な空気に唇を嘗め、上着を脱ぎ捨てベルトを外し、ファスナーを下ろして京が笑う。
「ハデにヤろうぜ」
  にやつく唇を庵に近づける。手を伸ばし、庵の背に腕を回す。唇が触れる前に庵の首が動き、京の首に痛みが走った。
「ぐっ……こ、のヤロッ」
 京が拳を繰り出すよりも早く、庵の手が股間を捉える。息を呑んだ京の耳に、低い笑みが流れ込む。
「痛みに、感じたか」
 絡む指が、欲の香りを滲ませる先端をこねる。舌が、血のにじむ歯型の上をなぞった。
「こっ……ふ、ぅ」
 下唇をかむ京の鼻から息が漏れる。目を細めた庵が、京の前歯を下でなぞり、鼻に噛み付く。
「くはっ、――ぁう」
 息の流れを止められて、口を開く京。そこに指を突っ込み、乱暴にまさぐる。
「う……おふっ――あ、ァ…………む、ふっ」
 京の腕が、庵の背中から肩へ動き、強く爪を立てた。興味のあるものをもてあそぶように、庵の指が口内とペニスを好き勝手にまさぐり、いじる。満足に出来ない呼吸に涙が滲み、翻弄される体にもどかしさが募る。膝が落ち、庵にぶら下がるような形になった京の目が、鋭く笑う。庵の唇が、ゆっくりと横に広がり、鋭い歯がむき出しになる。
「はっ、アァ――…………っ!」
 口内から指が抜かれ、呼吸に気をとられた直後、尻を割られた。
「あ、ぎっ…………の、ォ――ンあっ」
 歯を剥いて威嚇してくる京の中へ、強引に指をねじ込み掻き毟る。仰け反る顎に吸い付き、うっとりと熱い息を吐き出して、庵が喉を震わせて笑う。庵の髪を掴み、唇に噛み付いて京が吼えた。
「人の腹にサカリきったチ●ポ押し付けてねぇで、さっさと来やがれ」
「なんだ、ガマンの限界か?」
「ハッ! よく言うぜ。ソッチが……ひふっ、ン」
 京の好みなどお構いなしだった指が、ペニスの括れをあやし始める。鼻にかかった、高く甘い泣き声を出す経に、小ばかにしたような笑みを浮かべて、呆れた声で言葉をつむぐ。
「俺が、何だ?」
「はひっ――ずる、ぃア…………」
 ぶるるっと体を震わせた京の目が蕩ける。高揚した息を吐き出した庵が、一気に京を貫いた。
「ガッ――――ッ」
 頭の先まで突き抜けた衝撃に気をとられた直後、首に痛みが走る。
「ぁぐっ、う――」
 噛み付く庵を引き剥がし、頭突きをする。のけぞった庵の膝裏に足を絡ませ、地に落とす。
「ンはっ!」
 落ちた衝撃で体内の庵が深くなり、京のペニスが跳ねた。頭を振る庵を見下ろし、舌を出す京。
「今度はテメェが。鳴く番だぜ」
 腹に力を入れ、庵を締め付ける。ヘソを弄くりながら、腰をスライドさせた。
「ぅっ――ク、ぁ………っ」
「は、ンッ……サイッコーだろォ? もっとデケェ声で、鳴いてもイ、っンだぜぇ」
「ほざけっ――ッ」
 庵の手が京の腰を掴む。上体を起こし、鎖骨に噛み付きながら京の中をかき回す。
「痛っ、この――アァッ…………ひ、ィ」
「ふっ――フ、……っク」
 首を振る京に、勝ち誇ったような笑みを浮かべる庵。
「チッ……の、ヤロっ――ぉ」
 庵の腰に足を絡め動きを加速させる京に、庵が目を細めた。
「イッちま――――え、ッ」
「貴様がな――ッ」
「はっ――ぁく、ぅ…………ふぐ――――ッ」
 どちらがどんな動きをしているのかなど、当にわからなくなっている。がむしゃらに突き上げ、締め付け、腕を絡め、首をめぐらせ様々な角度で唇を重ねた。
「ふひっ――ぁ、くぅ…………ンッ」
「はっ――――クッ、ふ」
 熱が高まる。境界が消える。互いの匂いが体内に充満する。理性など、とうに消えている。
「アァッ――ひぐぅ、ぎ、ガぅ…………ッ」
「ふっ、ふ――ク、ぅ…………ッ、ン」
 むちゃくちゃに体がはねる。全てが溶け、そして――――
「はっ――アァアアッ!」
「――ク、ぅ……ッ」
 弾けた。
 ビクビクッと肌を震わせ、ゆっくりと強張った体から力が抜ける。息を吐きながら庵を抜き、京が地面に転がった。
「っはァ――」
 胸で呼吸をする。チラリと横目で見ると、胡坐をかき薄く目を閉じた庵も、胸を上下させていた。思わず笑みがこぼれる。その音に、庵が怪訝な顔をした。
「別に。なぁんも」
 ひらひらと手を振りながら言い、大の字になってソラを見る。汗ばんだ体に、砂がつくのもかまわずに。
「あー、動くの面倒くせぇ。テメェも転がったら?」
「断る」
 そっけない声に肩をすくめる。立ち上がる気配の無い庵に、やわらかな視線を向けた。
「なぁ」
「何だ」
「今、オレにキスしてぇなぁとか、思っただろ」
「は?」
「思ったよな。つか、触りてぇよなぁ」
「貴様、何を――」
 言いかけて、満足そうな笑みを浮かべる京にため息を吐いて腕を掴み、起き上がらせる。
「おっ」
 そのまま唇を重ねると、京がヘラリと笑った。
「砂まみれで、キモチわりぃ」
「知るか」
 腕を回すと顔を背けた庵の両頬を掌で包み、自分に向ける。
 雲が静かに月を隠し、日の残り香を風がさらった。
「明日は、涼しくなりそうだなァ」


                      END
2009/06/07



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