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庵京5
  家に帰ると、草薙京が居た。なにやら懸命にゲームをしている。庵の部屋に京が転がり込んでいるのは珍しくもなんとも無い。庵は彼が居ることなど認識していないような態で荷物を置き、サイフを腰から外し、冷蔵庫を開けて入れた記憶の無いビールを取り出してプルタブを開けた。
「あ、オレも」
「自分で取れ」
「手が離せねぇんだよ」
 顔も上げずに言う京の言葉を無視し、庵は部屋に入る。
「ケチ」
 という言葉が背中を追ってきたが、それを叩き落とすように扉を閉めた。
しばらく何をするでもなく過ごしてから部屋を出ると、京の姿は消えていた。相変わらず勝手な奴だと思いながら、自分にそういう男の顔を思い出してソファに座る。ふと見ると、テーブルに携帯ゲーム機とメモが置かれてあった。
『ちったぁ誰かの世話をするってことも、覚えてみろよ』 そっくりそのまま返してやりたい気分になりながら、庵はなんとはなしに携帯ゲーム機を手に取った。電源を入れると、気の抜けそうな平和な音楽が流れてきた。やがて、愛らしいキャラクターがひょこりと現れる。どうやら、このキャラクターの世話をするというものらしい。一体なんのゲームを一生懸命やっていたのかと思えば、まったくもってばかばかしいと思いながらも、庵はそのゲームをプレイしはじめた。

 暇をもてあまし、なんとなくそういう気分になったので京はフラリと庵の部屋に立ち寄ることに決めた。数週間前に立ち寄ってみたものの庵はおらず、暇つぶしに始めたゲームに夢中になって、そのまま部屋を後にしてきた。まともに庵の顔も見ずにだ。別にそれはどうでも良かったが、ゲームを本体ごと置いてきてしまったのでそろそろ手に戻したくもなっていたし、顔も見ずに帰ったことで庵が拗ねているんじゃないかとも思った。
――――ま、そんなことは無ぇだろうけどな
 自分で自分の考えを否定し、勝手に作った合鍵でドアを開ける。リビングに気配があった。どうやら買い込んできた食糧と酒は無駄にならずに済みそうだ。
「おーい」
 呼びながらずかずかと入り、リビングのソファに背を丸めて何かをしている庵を目に留める。――作詞か作曲か。そう予測をつけた京は、ソファの背から彼に体当たりをするように覆いかぶさり手元を見て、ぎょっとした。庵の手の中には自分の置いていったゲーム機が納まっており、画面には愛らしいキャラクターが映っている。
「あ、えっと――――庵、もしかして、置いていったゲームやってんの?」
「貴様には、これがそれ以外に見えるのか」
「いや」
「下らん質問をするな」
 キラリーンとゲームが音を鳴らし、キャラクターが嬉しそうな仕草をする。庵の顔は笑むでもなく黙々としていて、何故このゲームをしているのかが京にはわからない。
「えっと、楽しい?」
 黙殺された。手にしていた袋を床に落とし、庵の身体を抱きしめる。
「うるさい」
「まだ、なんも言ってないんだけど」
「貴様が世話をしろを置いていったんだろうが」
「いや、あのさ――――――もしかしてオマエ、拗ねてんの?」
「下らん」
 だよなぁ、と思う。思いながら庵を見る。見るのに、表情が読み取れない。長い前髪を持ち上げて顔を覗き込むと、心底わずらわしそうな顔をされた。
「画面が見えん」
「じゃあ、オレを見ていればいいだろう」
 今度は、心底呆れた顔。ニンマリとわらってキスをしながら、ずるりと身体を庵の横に移動させる。ソファの背に足をかけたまま上半身だけを庵に密着させると、ため息が鼻にかかった。コトリとゲーム機がテーブルに置かれた音に、京は満足そうな顔を浮かべる。
「オレの相手をする以上に、テメェが優先するようなことなんて無ぇだろう」
 庵は何も応えない。庵の返事を勝手に聞き取った京が、庵の鼻先を嘗める。庵の手が京のわき腹を撫でて服の中に手を入れてきた。
「つめてぇよ」
「ガマンしろ」
「ぜってぇイヤだ」
 庵の眉間にシワがよる。
「だから、つめてぇ手が気持ちよく感じるまで、オレをアツくしろよ」
 庵が鼻をきゅっとしぼって渋面を作る。ニヤニヤ笑う京がぱくりと庵の鼻を咥えた。
「――――何が、楽しい」
「さあな」
クックと笑いながら京が庵を脱がしにかかる。憮然とした顔のまま庵が京の首に歯を立てる。
「痛っ、ったく」
 わしわしとかき混ぜるように頭を撫でて、庵の唇に唇を重ねた。
――――――オレの中をかき回しながら、だらしなく咆哮する獣が好きだと、京は気を遣りながら瞳を閉じた。

 だらりとソファに転がったまま、テーブルの上に広げられた酒のつまみに手を伸ばして口に放り込む。喉が渇くと枕代わりにしている庵を叩き、ぬるいビールを口移しに飲んだ。身体がだるい。動けないほどでもないが、動きたくない。気だるそうな空気をまとう庵は、面倒くさそうに京の催促にビールを口に含んで与えている。
「なぁ」
 呼ぶと、ちらりと視線が京の上に落ちた。
「ゲーム、楽しかった?」
 フンと、鼻を鳴らして庵の目がゲーム機に向く。
「世話を始めたものを、放り出すわけにもいかんが、貴様が引き取りにきたのなら、必要ない」
 目を丸くした後、京はきゅっと身をしぼめてから体中で庵を抱きしめた。
「オマエって、結構世話好きなのな」
「貴様が適当すぎるだけだろう」
「違いねぇ、かも」
 クックッと笑う京が、あるかなしかの笑みを浮かべた唇に舌を伸ばす。
――――オレが飽きずに世話をしようと思うのは、テメェくれぇだよ。
 また、刻まれる。



2010/01/31



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