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※リク主様のみ、お持ち帰りOK※
リクエスト者:ゆーほ様
お題「周囲から全力で愛されてる庵さん」

ー庵ー
 インタ―フォンが鳴った。
 荷物が届く予定が無いので放置をする。
 また、インタ―フォンが鳴った。
 訪ねてくるような人間に心当たりがなかった。
 音楽関連の人間であれば、庵が家に居る機会に遭遇するほうが難しいと理解しているので、まずは携帯電話にかかってくる。その携帯電話は、ここのところただの飾りの置物のような扱いで、ずっと設置型の充電器におかれたままになっており、迷惑メ―ルすらも入ってはこない。さらに無視をしていると、こんどは余韻すら残らないくらいの速度でインタ―フォンが鳴り出した。
「チッ」
 どこかの酔っぱらいが、部屋を間違えでもしているのだろう。まったく、迷惑なことだと舌打ちをしてソファから立ち上がり、庵は玄関に向かった。ただでさえ蒸し蒸しとしている気温に苛立っているところに、このインタ―フォン。昼間から酔っぱらっているような人間は、一発くらい殴っても問題ないだろう。それくらいの気分で――殴るよりは、襟首をつかんで投げるというほうがやりそうな気がするが――玄関をあけた庵は、目の前に現れた面々に一瞬思考を停止させた。
「あ、ほんとにいた」
「だから言ったじゃないっすか、紅丸さん」
「よくわかったなぁ真吾」
「――――貴様等、何故、ここに居る」
 ようやっと声を出した庵に、真吾が笑顔で首を傾げる。
「何故って――八神さんに会いに来たに決まっているじゃないっすか」
 やだなぁ、と笑う真吾の手に、包帯が見える。首にも、包帯が見えた。理性を失った自分が、つけた傷だ。なんとなく――別に、申し訳なく思っているわけでもなんでもないのに、自然に目をそらした庵の顔を、紅丸がのぞき込んだ。
「真吾の怪我、気にしてるんだ?」
「――――うせろ」
 背中を向けて閉めようとしたドアが、紅丸の足で止められる。
「せっかく会いに来たんだからさ、麦茶かなんか、飲ませてよ」
「そうですよ。八神さん――俺も、紅丸さんも、心配して来たんですから」
「――誰も……」
「頼んでないって言うなよ。俺らも、頼まれてきたわけじゃないんだから。心配してんのを押しつけるつもりもない。――――ちょっと、話をしたいことがあってさ」
 紅丸の瞳の奥が意味深に光り、語尾が潜められ低く落ちる。何か感じるところを見つけ、庵は渋々ドアをあけて二人を通した。
「へぇ――思ったとおり、なぁんにも無いな」
 部屋を見回す紅丸が、下げていた紙袋を床に置き、中身を取り出す。
「お見舞いというか、お土産というか――――まぁ、ちょっと仕事で海外に行っていたからさ」
 ゴトリ、と洋酒の瓶がテ―ブルに置かれる。
「あ、俺も、俺もお見舞いを持ってきたんですよっ」
 ガサガサを騒がしい音をさせて、真吾が手みやげを取り出す。缶チュ―ハイにビ―ル、薫製たまごにビ―フジャ―キ―、焼き鳥をはじめとした、どう見ても酒のつまみとしか思えないような総菜の数々をテ―ブルの上に並べだした。
「あ、ちゃんと冷えているのを持ってきました。俺のぶんは、ちゃんとソフトドリンクを持ってきているので心配無いっす! お箸もちゃんと三膳もらってきましたよ」
ほらっと箸を見せてからテ―ブルに置いたあと、真吾は総菜を開け始める。
「八神さん、お昼まだですよね。八神さんの好みがわかんなくって、適当に選んで来たんっすけど――」
「見事に、京が好みそうなものばかりだな」
 苦笑混じりの紅丸の言葉に、なぜか誇らしそうな顔をする真吾を心底あきれた顔で見る。
「――――何を、しに来た。見舞われるようなことなぞ、覚えが無いがな」
「何って、もうすぐKOFが始まるじゃないっすか。それで、八神さんはどうしているのかなぁって思って来たんっすよ。前回、大変だったじゃないっすか。それに俺、今年は不参加ですし――――あ、別に八神さんを恨めしく思ってるとか、そんなんは無いっすよ。かりにも、チ―ムメイトだった仲ですからねっ」
 言いながら、ぷしゅっと炭酸飲料のプルタブを開ける真吾が、いただきますと手をあわせて食べ始める。
「一応、主食も買ってきましたから」
 焼きそばを指して、言う。あきれていいのか怒っていいのか困っていいのかわからない顔をする庵の肩に、紅丸が手を置いた。
「ま、真吾は真吾なりにいろいろ考えているんだろうから――ここは大けがさせちゃったこともあるし、付き合ってあげてよ」
 ギロリ、と紅丸をにらむと、おどけたように肩をすくめられる。軽く頭を振ってソファに座り、缶ビ―ルを手にした庵に笑んで、紅丸も腰を下ろした。ビ―ルに口を付けた庵に、ほっとしたようなうれしそうな顔をして、真吾が箸を差し出す。
「ここの総菜、値段も手頃でおいしいんっすよ」
 無言で受け取り、適当なものを口に運ぶ。期待と不安をない交ぜにした視線を向けてくる真吾に、ぼそりとつぶやく。
「――――悪くない」
 とたんに、ぱぁっと真吾の顔が明るくなり、照れたような顔を紅丸に向けた。子どもをあやすような笑みで頷く紅丸にも、真吾は箸を差し出す。
「ありがとね、真吾」
「やっぱ、こうやって誰かとご飯を食べるほうが、おいしいですよね! 病院だと、つまんなくって。俺は相部屋でいいって言ったんスけど、神楽さんが妙に気を使ってくれて……。申し訳なかったっス」
 しゅん、と頭を下げる真吾に、紅丸が言う。
「まぁ、彼女も何か思うところがあったんだろ。申し訳ないと思っても、素直にそれを受けとめるのも、相手を慰めることになったりするもんだ」
 なぁ、と缶チュ―ハイを口に運びながら目線を向けてくる紅丸から視線をはずす。
「だから、たまには相手の好意が多少迷惑だったり暑苦しかったりしたとしても、容認するっていうのも、大切なんじゃないか」
「――――神楽さんは、別に暑苦しくなんて無いっスよ?」
「ん、こっちの話。な、八神」
「知らん」
 そう言いながらも、庵は時折箸を動かす。うるさいと追い出す気配の無いことに、紅丸は意外そうな顔をしながらも何処か納得をしている自分に心の中で頷く。
――――八神庵とは、そういう人間だ。と…………。
「さて――――あんまり長居も出来ないだろうから、用件を先に言う」
「用が済んだら、さっさと帰れ」
「あぁ。じゃあ用件は後にしようか。なぁ、真吾」
「ひどいですよ、八神さん。用がなくても、こうやって一緒に過ごすのも、楽しいじゃないっスか!」
「――――フン」
「あ、否定しないんだ」
 にやりと笑う紅丸にギロリと鋭い目を向けると、おどけたように肩をすくめられた。
「下らん。――――で、用件は、何だ」
 二本目の缶ビールを開けて、庵が問う。それに、にこにこと真吾が答えた。
「八神さんも、大会に参加するだろうなぁと思って様子を見に来たんス」
 思い切り怪訝な顔をする庵に、上機嫌に言葉を重ねる。
「ほら、八神さんって、けっこう無茶するじゃないっスか。それで、俺、退院したし、紅丸さんに八神さんのことが気になるって言ったら、一緒に様子を見に行こうって話になったんスよ。もしかしたら、俺のことを気に病んでるかもしれないから、退院したことを報告もしたかったってのもありますし」
「誰が、なにを気にする、だと」
「だから、俺のことっス。八神さんって、結構気にするタイプかなぁって。一緒にチーム組ませてもらって、思ったより怖くなかったですし、草薙さんがオモシロいってよく言ってたのも納得できて――って、八神さん?」
 メキョ――と庵の手の中でビールの缶が悲鳴を上げる。噴出し、ぼたぼたと流れるビールに真吾が慌てて立ち上がった。
「わぁ、ちょっと――なにしてるんスかぁ。えっと、タオルタオル。――八神さぁん、タオル、どこですかぁ」
 部屋をウロウロしだす真吾と、眉間にこれ以上ないほどの皺を刻んでいる庵の姿に、紅丸は口を押さえて肩を震わせる。
「――――なにが、おかしい」
 地獄の底から出てくるような声に、耐えていた笑いを爆発させて、紅丸が庵の肩を叩く。
「あぁもう――ほんっと……………っくっくっく」
「ちょ、紅丸さん――笑ってないで、タオル探すの手伝ってくださいよっていうか、タオルどこにあるんスかぁ八神さん。――――あ、あった。もう、八神さんって、草薙さんが言うように、意外と手がかかるんスねぇ」
 悪気の欠片など全く無い、どこか楽しそうな真吾の言葉に、ブルブルと震える庵の肩を軽く叩き、ニヤリとした紅丸が言った。
「愛されてんなぁ? 八神」
「殺すッ!」
「冗談っ――――やるなら、大会まで待とうぜ? 京も出るし」
 ぴくりと庵の目が動く。ニヤリとした紅丸が、立ち上がった。
「俺は、京と出る。そっちが誰と出るかは知らないけど、あんまり無茶はするもんじゃないぜ? アンタは京のことしか考えていないんだろうけど、千鶴ちゃんをはじめ、結構心配している人がいるってこと、頭の隅にでも、覚えておいてくれよ」
「えっ――紅丸さん、帰っちゃうんですか」
「真吾も、帰るぞ。ほら――」
「え、ちょ、ちょっと――――――あぁもう。すみません八神さん、片付け途中で。あとは、自分でちゃんと片付けてくださいね。――――無茶はしないでくださいよ」
 軽くウインクをしてみせて去る紅丸と、ビールを拭いたタオルを庵の手に押し付け紅丸のあとを慌てておいかける真吾の背中を見送り、庵はそっと嘆息する。
「じゃあな、八神」
 閉じられたドアの向うで真吾の声が聞こえる。それを鍵を閉める音で締め出して、リビングに戻った。目の前に広げられた食べかけのものたちを眺め、手を伸ばしてつまみ、口の中に放り込む。
「――――下らん」
 つぶやく唇に、ほんのわずかな笑みを乗せて……………………

無理やりのリク強奪すみません、ありがとうございます! お題ちゃんとクリアできているかどうか……。全力で愛していても、なんか素直じゃなさそうな方々ばっかなのでKOF……こんなことになりました! 気に入っていただけると、幸いですドキドキドキドキ
2010/07/11



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