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ージョーと京ー
 とくにすることもなく、部屋で転がるだけにも飽きて、草薙京は出かけてみることにした。
 外は、罪なくらいのピーカンで、アスファルトの照り返しが厳しい。口内で軽く舌打ちをし、出かけるんじゃなかったという思いをよぎらせながらも、部屋に戻る気にはなれず、目的もなくただフラフラと歩いて行く。
 道行く人々の顔が、太陽の眩しさに一様にしかめ面になっているのを眺めつつ、自分も同じ顔をして歩いていた京は、ふと機嫌のよさそうな東洋人の姿を目にとめた。
 真っ黒に日焼けした素肌に薄手のパーカーを羽織り、ハーフのカーゴパンツを合わせている。細くしなやかな筋肉を晒している、海辺にいるような格好の彼の姿は、京にとっては見慣れたものだった。
 声をかけようかかけまいかと、一瞬迷う。暇つぶしにはなるだろうが、それほど親しいわけでもない。その迷いの間に、向こうが京に気づいたらしく、軽く片手をあげて笑顔を向けてきた。それに、眩しさにしかめた顔で、口元だけ笑みの形にし、京も片手をあげて返事をする。
「よお、一人か」
「そっちこそ」
 屈託の無い笑みを浮かべてくる相手に、返事を返す。
「八神も真吾もいねぇんだな」
「なんで、その名前が先に出てくるんだよ」
 しごく当然のように相手の口から出てきた名前に、苦笑する。
「なんかよ、常に一緒にいるような気がしてな。紅丸や大門とは違って――――」
 他意の無い口調に、京の苦笑は更に深くなった。
「そうしょっちゅう、追い掛け回されたくは無ぇし、向こうだって俺を追い掛け回すばっかじゃねぇだろ」
「ま、そりゃそうだ」
 カラカラと笑われ、本気だったのか揶揄だったのか判別しかねる。
「で――」
「あん?」
「ソッチはどうなんだよ。あの兄弟と、一緒じゃねぇのかムエタイチャンプ」
「あいつらの世話ばっかじゃ、飽きるんでな」
 おどけて肩をすくめて見せるムエタイチャンプ――ジョー・ヒガシに、ははっと軽く笑ってみせる。ある意味で世俗と浮いているボガード兄弟よりは、まだ彼の方が良識的であるように思える。もっとも、クセの強いものばかりが集まるキング・オブ・ファイターズの参加者から見て、の話ではあるが。
「どっか、出掛ける途中だったのか」
「いや――特にすることもねぇし、出歩いてみようかと思ってさ」
 ニイィッとジョーの唇がゆがむ。
「俺も、ちょうど退屈してたんだ。ちょっと、付き合えよ」
 否と言う間もなく歩き出す彼の姿に、京は少し笑って付いていった。

 暑さのせいか、人が集まる広い川原で温いビールを口にしながら流れに足をつけ、会話も無いまま二人は並んで座っている。
 上半身裸にハーフパンツ、サングラスといった格好の恰幅のいい男性がウイスキーを炭酸水で割りながら、周りの人たちに振舞って回っていた。すっかり出来上がっているらしい。カップを勧め、飲み干した相手の肩や背中を叩いて次の人へと渡り歩いている男は、すぐに二人のところへもやってきた。どうだと勧めてくるのに、京はやんわりと片手を上げて断りをいれ、男が少し残念そうにする。横から手を伸ばしたジョーがそれを飲み干し、機嫌の戻った男は力いっぱいジョーの背中を数度たたき、手を振って別の人へ声をかける。
「アンタ、あぁいうの、好きそうだな」
 京の言葉に笑顔を向けて、ジョーは勢いよく寝転がった。京も、まねをする。
「たまには、こういうのもいいんじゃねぇのか」
 横を見ると、まっすぐに空を見上げるジョーが居る。
「なんだかゴチャゴチャとうるさそうじゃねぇか」
 歯をむいて笑いながら、彼は京を見た。
「なんのことだよ」
「少しは楽しめってことだよ」
「はぁ?」
 思い切り怪訝な顔をしてみせると、勢いよく体を起こしたジョーが立ち上がる。
「飯食いにいこうぜ。スーパーチャンプな俺様が、奢ってやるよ」
「え、あ――ちょっ」
 またも返事を聞かず、濡れた足をそのまま靴に突っ込み歩き出す彼に、唖然としてから噴出した。
「わけわかんねぇ」
 けれど、悪くない――――。


2010/07/27



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