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京庵1
 体にまとわりつく湿気が重い。それを振り払おうとしても無駄なことを知っているので、京は不機嫌な顔をしてソファに体を横たえていた。部屋の主は、どこかに出かけているらしい。かってに手に入れた合鍵で侵入し、部屋中の窓を全開にして持ち込んだビールとつまみを堪能したあとが、現在の状況である。
「っあー、たりぃ」
 つぶやいてみても、なにも変わることはないとわかっていながら、つぶやいてしまう。クーラーをいれようか、とも思ったが何に対してかはわからない悔しさがおこり、起き上がるのも面倒でそのまま暇をもてあまし、瞼を閉じた。
 いつの間にか、眠ってしまっていたらしい。物音が聞こえて、京がけだるい頭を持ち上げる。妙に明るい。電気がついているのだと気づき、体を動かす。
「んぁ?」
 間の抜けた声を上げて、視界に入った足を見つける。それは少し体をずらせばぶつかることのできるくらい近くにあり、その先にはテーブルに散乱している京の一人酒宴の痕跡を片付けている手が見えた。
「おー……」
 寝ぼけていますと宣言しているような声を出して、重たい体を起こし、ソファの背に体を預ける。覚醒しきれていないからか、湿気のせいか、あるいはその両方か――――けだるい体をなんとかするために大きく伸びをしてみるが、せっせと片付けをしている男は見向きもしてこない。
「なぁ、何処行ってたんだよ、八神」
 声をかけると、空の缶ビールを掴んでいる手が、ぴくりと反応した。
「なぁ」
 冬の空のような視線が、京に向けられる。それはすぐに外れ、無言のままこの部屋の主――八神庵はキッチンへ残骸を運んで行った。
「神楽んところか? 気になってんだろ」
 流し台に、水が流れる音がする。
「――――喉、かわいた」
 だるさは、水分が不足しているからかもしれない。
「知らん」
「冷てぇな」
 久しぶりに聞く声に、ニヤリとする。ゆっくりと体を起こし、面倒くさそうな足取りで庵の傍へ寄った。
「久しぶりだってのに」
 壁に身をもたれ掛けさせて、挑発するように笑むと一瞥されただけで何も返されない。
「なぁ、喉、かわいた」
「勝手に飲め」
 背を向けて、律儀にも分別してごみを捨てている背中に手を伸ばす。そっと腰に指を這わせ、ゆっくりと抱きしめた。
「喉、かわいた」
 同じ言葉を繰り返し、全身で抱きしめる。抵抗する気配は、無い。
「こっち向けよ」
 促し、体を回すように押すと、素直にこちらを向いた。目の前に、色の白い涼しげな顔がある。
「なんか、ムカつく――」
 自分だけ暑がっているようで、理不尽な気がした。
「飲ませろよ――――八神」
 この顔が、熱にあえぐところを、見たいと思った。

 フローリングは湿気に蒸されて生ぬるい。それよりも、この獣の肌の方が冷たいのではないかと思える。
「ぁ、う――――」
 唇を奪い、無造作に服の裾から手を差し入れても抗議の声は上がらない。かといって、求めてくるわけでもない。かってにしろと言いたげな態度に、それならば勝手にしてやろうと思いながら衣服をはぎとり弄る。
「なぁ、何処、行ってたんだよ」
「ッ、―――ぁ、くンッ」
 キュリッと乳首をつまみ上げると、抑えきれなかった声が鼻から漏れる。クリクリと指先ですり潰しながら顔を覗き込むと、睨みつけられた。ニヤリとして、足の間に割って入れた膝で股間をグッと押した。
「ッ! ク――」
 膝に押し上げられているそれが張り詰めているのがわかる。膝で腹に押しつけるようにしてやると、庵の目が欲に濁った。その姿に、唇を舐める。
「ン、ぁふ――――ッ」
 両手で足を大きく開き、その中心に顔をうずめて根本を甘く噛んでみる。ビクンとこわばる反応に目を細め、犬が骨ガムを噛むように、角度を変えてソレを噛みしめる。
「ンッ――――ァ……ッ」
 必死に声を抑えて耐えているくせに、京の口内にあるものは強請るようにビクビクと跳ねて求めてくる。うっすらと汗ばんだ庵の肌。それにまとわりつく湿気。京の唾液。そして――あふれる雄の香。
 眉根を寄せて、必至に流されまいとしている意識とは裏腹に、庵の体は朱色に染まり、気が狂うほどの熱を求めている。
「八神、ほら……呼んでみろよ。俺の名前――――」
 ちゅっと袋を吸うようにキスをすると、声を上げずに口を開いてのけぞった。
「なぁ、八神……」
 うっとりとつぶやきながら、すでに臨界点にまで達している彼の雄と自分の雄を認識し、貫いて揺さぶりたい衝動を確認する。それでももっと長く、このぎりぎりの位置で踏みとどまろうとしている獣のすがたを見たいと、京は思った――――――――。

 自分と京の欲にまみれた獣は、フローリングに体を横たえたまま動かない。白い肌には、まだ朱が少し、残っている。
「なぁ、八神」
 返事は無いが、意識がこちらに向いているのがわかる。京も床に転がったまま、話しかけた。
「出るんだろ。チームメイト、誰にすんだよ」
 やはり、返事はない。
「なぁ、八神」
 足で突いてみるが、反応がない。しかし、こちらに意識は向けている。ずるずると這って、のしかかった。
「拗ねてんのかよ」
「――――重い」
 不機嫌な声がかえってきて、京は満足そうな顔で首筋に顔をうずめた。
「俺が誰と出ようと、貴様が誰と出ようと、関係ない。――――貴様を殺す。それだけだ」
 気だるい声でささやかれた言葉に、京は口付けを返した。

また、熱い夏が、やってくる――――。

END
2010/06/5



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