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庵&京

　庵がソファに座っている。眠っているように目を閉じて、じっとしている。俺のことを無視しているように。
俺は庵の部屋で、勝手にしている。テレビを見たり、ゲームをしたり、雑誌を見たり。
　俺が何をしていても、声をかけてくることもないし、何かをしてくることも無い。ただずっと、そこに座って黙って居るだけ。
　眠っているわけじゃない。俺が何かをしていることに、意識が向いているのがわかる。
　いちいち俺の気配を探ってくる。そんなに気になるなら声をかけてこればいいものを、とも思っていた事がある。意識だけを向けられることが鬱陶しいと思っていたこともある。
　今は、それが心地いい。
　そういえば、ネコはそんな行動をするって聞いたことがある。
　こっちのことを全く気にしていないような素振りで、ふと見ると様子を見られていたり
　まさに、そんな感じだ。
　人のことを一切気にしていません、という顔をして、そのくせ俺が何をしているのか誰よりも気にしている。
　外に居るときは、鬱陶しいくらいに追いかけてくるくせに、俺がその懐に入ると、途端にそんな行動を取り出す。
　手の届く範囲に俺が居ないと不安なんじゃないか、なんて思ってしまったことがあるくらいに。
　俺が手の届く範囲に居たら、誰にも邪魔されずに空間を共有できる状態にあればいいんじゃないか。
　ネコを飼っている奴の話を聞いていて、コイツん家の中に俺が居るときと行動があまりにも似ていたから、笑ってしまった。
　今も、俺が何をするのか様子を伺っている。無視しているフリをして、神経を俺に向けている。
そっとドアノブをまわしてみると、薄く目を開けて俺の行動を視界に入れた。安心しろよ。便所に行くだけ。帰るんじゃねぇよ。
　俺が帰るわけじゃないと確認した庵は、また何事も無かったかのように目を閉じる。
　やっべぇ、すげえ笑える。
　なんなんだろうな、コイツは。
　トイレで用を足しながら、笑けてきて仕方が無い。なんでこんなに解かり易い奴を、不思議な奴だと思っていたんだろう。
こんなに単純な奴なんて、他には居ないだろうに。
　単純すぎて、勝手に複雑に見ていただけなんだろうな。
　便所から出ると、また薄く目を開けて俺の姿を確認する庵。
　そんなに気にしなくても、今日はずっと一緒に居てやるよ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　END
2009/07/19

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