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庵&京4
 八神庵は、戸惑っていた。対峙している人間に――――である。
 黒髪に白いバンダナ。学ラン姿の年よりは幼い顔つきの男、草薙京。
 庵にとっては、本物であれば何の問題も無いはずだった。それなのに、戸惑っている。
「何、ボーッとしてんだよ」
 呆れた顔で言われ、鼻で笑ってみせても内心の動揺は治まらない。いきなり、出会った頃の草薙京と対峙することになるなどと、想像すらしていなかった。
 始めは、再びクローンでも現れたのだろうかと思ったが、庵の中で何かが本物だと言う。近寄れば、なるほど確かに本物で――――出会ってすぐくらいの時の、彼であった。
「――――気が削がれた」
「ハァ? あ、おいちょっと待てよ」
 ふう、と息を吐き背中を向ける庵に京が駆け寄ってくる。煩わしそうな目を向けると、ムッとされた。――――あの頃の格好をしているだけ、では無い。何もかもが幼い――――共に刻を流れてきた京よりも。
「いっつもテメェが煩いから、こっちから出向いてやったってのに何だよ」
「頼んだ覚えなど、無い」
「確かに頼まれては無ぇけどよ――――つか、お前が頼みごとするっつーのが想像つかねぇ」
 プッと吹き出す頬が、丸い。手を伸ばして触れてみる。
「? 何――――」
 同じ草薙京なのに、本物であるというのに自分は何に戸惑っているのだろう。草薙京であれば、本物であれば何の問題も無いというのに――――
「庵――――?」
 ぶつかる視線、深海のような瞳。それらにゆっくりと近づいて―――――――――庵は目を覚ました。
「あ、起きた」
 覚醒しきれていない頭で、自分の居る場所を確認する。目の前にはテレビゲーム をしながら、何やら口を動かしている京――――本物の、違和感の無い京がコントローラーを置いて近づいてきた。
「ソファーで眠っちまうなんて、珍しいな」
 目の前の京の頬は、あの京よりも少しシャープで――――纏う気配も、あれよりも鋭い。
「何、俺が格好良すぎて見惚れた?」
「ほざけ」
 鼻で笑う。笑いの先に居るのは、京だろうか自分だろうか――――。
「お?」
 手を伸ばし、頬に触れる。瞼に触れて、髪に触れた。草薙京――――自覚している以上に、この存在に捕われているらしい。そう望んだのは自分で、それ以上のものが自分を支配して――――。
「庵――――」
 名を囁かれる。深海の瞳が、更に深い色で自分を映す。
「貴様は、俺だけを見ていればいい」
「ハァ? 何それプロポーズかよ」
 プッと吹き出す京に、口付ける。
 同時に、京も口付けてくる。
 世界が二人を置き去りにして、二人だけの時間軸が回りだす。
 愛でも恋でもなくて、憎しみでも恨みでもなくて、ただ――――欲しい。
 その衝動だけが――――――――


                  END
2009/08/26



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