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若=MIの2P庵(18歳の頃の庵と仮定して若呼ばわりしています)


「12月12日」
 玄関を開けると、草薙京が居た。寒そうに肩をすくめ、フェイクファーのフードをかぶった姿で。
 俺の顔を見ると、フードを外してニヤリとした。
「よお」
 言うと、当然のように上がり込んでくる。ジャケットを脱ぎながらキッチンに進み、勝手に物色してコーヒーを作りながらも戸棚を開けて何かを探している。
「ブランデー…………なんて、ねぇよなぁ」
 ぶつくさ言いながら、二人分のコーヒーを沸かして当然のように差し出してきたソレを、俺は受け取る。なんとなく、今日はコイツが来るような気がしていた。
 コーヒーに口をつけて、幸せそうな顔をする京を眺めながら俺も口にする。コイツのコーヒーは、いつも濃い。
「っはぁ〜、寒かった」
 カップを両手で包み、ソファに移動する京を眺める。本当に、いつもまるで自分の家にいるように振る舞う。それが当然のような京に、俺も当然のような気がしてくる。
「なぁ」
 コト、とカップがテーブルと重なる音がする。
「今日、俺誕生日なんだけど」
 意味ありげな視線を寄越してくる京に、自分の体が緊張するのがわかる。喉が鳴る。それを押さえ込み、俺は深く息を吐いた。
「それが、どうした」
 ソファの背後に居る俺に体を向けてソファの背に顎を乗せ、目を細めた京が言う。
「つれねぇの。おめでとう、とかなんか、ねぇの?」
 だだっ子のような声音のクセに、艶めいた笑みを浮かべる京に、背を向けて言う。
「知らん」
「今、知っただろ」
 背中に視線が絡む。鼓動が早くなる。脳裏に、しっとりと汗を滲ませた草薙京の姿が浮かび、それを打ち消したくてコーヒーを煽った。熱さに意識が一瞬、京から離れる。そのままキッチンに移動して、カップを置いた。
「つめてぇの。せっかく俺が誕生日を一緒に過ごす相手に選んだってのに」
「――――望んだ覚えは、無い」
 ちぇっと言いながら、京が立ち上がる。ゆっくりと近づいてくる。悪戯をする前のような、獲物を見つけた獣のような顔で――――。
「なぁ」
 手を伸ばせば、ギリギリ指先が届くか届かないかの位置で立ち止まり、両腕を交差して自分の腰を抱きながら、僅かに首を傾けて甘えるような声を出した。
「俺に、触れたくねぇ?」
 ずくん、と体の奥が鳴る。野生の獣のような顔をしたまま、甘えた声を出すコイツは――――淋しいんじゃないかと、時々思う。出会うはずのない時間軸の草薙京。本来なら、同じ歳で――――まだ出会ってもいない草薙京。それが――――いずれこの手で屠る相手が――――数年後の姿で婉然とした笑みを唇に浮かべている。
 コイツと同じ時間軸の俺が、どうなのかは知らない。こうしてコイツが居るということは、止めを刺せていないということか――――止めを刺したから、時間軸を無視してコイツがここに居るのか――――――――。
「イオリ」
 唇が、名前の順に動く。それの柔らかさを思い出す。その下の顎の――――首の――――胸の―――肌の感覚を、思い出す。
「スゲー、エロい顔、してんぜ?」
 クスクス笑いながら伸ばしてくる手は、俺に触れない。触りたいだろう、と無言で伝えてくる。触れて欲しいと聞こえて、顔の前に差し出された指を噛んだ。
「っ、てぇ」
 咎めるような声で、満足そうに笑う京を見ながら、俺はゆっくりと指を口内に引き入れガムのように噛む。京の指が動き、歯をなぞり舌をつつく。唾液が絡まり溢れるのをそのままに戯れていると、空いている京の手がトンと俺の心臓のあたりを突いた。噛むのを止めると、指先で胸をなぞりながら誘うように唇を舐める。コイツは、自分から誘うクセに俺が動くのを待つ。このまま俺が動かなければどうなるのか――――そんなことを思いながら、俺は京に手を伸ばして唇を重ねていた。
「んっ、ふ…………」
丹念に唇を重ねてから、薄く空いた唇から覗く舌を口内に引き寄せ、俺も京の口内に舌を差し入れる。頭を抱え込むように腕を回され、腰に腕を回して体全てを重ねた。
「ぁ、ふ――――ぅン」
 息が、甘くなる。上着をズボンから引き出して、両手でまさぐりながら不要なものを剥ぎ取っていく。もどかしそうに京も俺を脱がしにかかり、最後は引きちぎる勢いで全てを捨てて歯を立てた。
「ぁハッ――――ン、ぅ…………」
 上気した肌に、強く朱を散らし脳の芯まで痺れるほど京の香りにむせながら、目の前のものを貪り、猛る。
「ぁ、ァ…………ふァ、くふっ――――オリッ、イオリ」
 切ない響きで名を呼ばれ、眩暈を覚える。酷く渇いて、それを埋めるために更に深く京を食らう。
これ以上無いほどに深く潜り、内臓全てに触れるように掻き回す。
「ァ、ア――――リ、イオ……リ、ぃッ!」
 苦しげに眉根を寄せながら笑う京が、唇に噛み付いてくる。
「っ、ア――――は、スゲ…………エロい顔ッ、して――――」
 どっちがだ――――言い掛け、代わりに首に噛み付いた。
「ンッ、痛………………ぅ」
 身を捩る京の中で、俺が捩れる。さらりとした髪が、汗で顔に張り付いている。細かく体を痙攣させ、濡れた瞳で見てくるくせに、時折、自分が獲物なのではないかと思うような目をする京に、俺は全てを吐き出した――――。

 ソファでぐったりとしている京に、コーヒーを渡してやる。
「ん〜」
 寝ぼけているような声で、もそりと起きた京が受け取り口をつけるのを見て、隣に腰掛ける。
「あ〜、ふぅ―――――――」
 どこぞのオッサンが、仕事の後の一杯を口にした時のような声を出す京を横目で見ながら、俺もコーヒーを飲む。首を左右に折って肩を回し、伸びをするコイツは猫科の動物なんじゃないかと思った。
「あーあ、ったく。こっちは年寄りなんだから、手加減しろよなぁ」
 ニヤリとする京から顔を背けると、肩に肩を合わせて顔を覗き込まれた。
「そんなに、俺が良かった?」
 ふふん、と得意気に否定など有り得ないという顔をされる。
「知らん」
「照れるなよ」
「誰が」
「かあいーなぁ」
 ニヤニヤしながらまとわりつく京を振り払う気もなく、俺は好きにさせ――――不快では無い自分を見つけた。
 時間軸の違う草薙京が、息の触れる距離で笑う。楽しそうに、鋭さを含む――どこか寂しそうな――瞳で。首を動かし、瞳に唇を寄せてつぶやく。
「――――キョウ」
「うん?」
 笑みに、僅かに嬉しそうな色を滲ませたコイツは――――コイツを手に入れる為に、俺は何も持たなくなる予感を――――――――持てなくなる予感を感じていた。
「キョウ」
「ん」
 柔らかく細めた目に、もう一度唇を寄せる。これ以上無いくらい、俺にとっての稀有な存在。触れているのに――――熱を感じ、匂いを覚えるのに――――遠い。頬に手を伸ばして首筋をなぞり、薄く唇を開けた京にキスをした。
「キサマが、産まれた日は――――キサマが俺に屠られると決まった日だ」
「――――うん」
「それを――――」
 京が唇に触れて、言葉が塞がれる。
「理屈も理由も、どうでもいいだろう」
 ため息のような声に、俺は自分が笑った事を知った。草薙も八神も――――何もかもが、どうでもいい。ただ、この男が――――コイツが草薙京であるということだけが――――――――――。
「んっ、ン」
 浅いクセに熱を呼び起こすキスをしながら、俺はコイツを手に入れるためだけに生きる存在になるような気がしていた。

――――――――同じ時間軸の草薙京に遭うまで、あと二年。


2009/12/10



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