スプリングのきしむ音が、部屋に響く。それに、女の甘ったるい声が混じる。「あっ、ァ……アッ」断続的な声の間隔が短く、鋭くなってゆく。やがて「アァ――――」 悲鳴が聞こえ、甘ったるい声も、スプリングのきしむ音も消える。女の甘さが四散していく部屋には、ただ、荒い獣の息遣いだけが、響く。 「ねぇ。キョウってさ、どんな女? アンタ、たまにそう呼ぶとき、すっごい激しいよねぇ」 気だるげな女の声が、帰り支度をしていた八神庵の背中にかかる。「貴様には、関係の無いことだ」 振り向きもせず、庵が言う。身支度を整え、出て行こうとした背中に、再び声がかかった。「そのキョウって子とは、ヤッてないんでしょ」 ぴたり、と庵の動きが止まる。勝ち誇ったような笑みを浮かべ、女が言う。「なんか、ヤりたくてもヤれないってカンジ、するんだけど。もしかして、触れたことも無かったりして」 クスクスと、ベッドの上で未だ半裸な女が笑う。剣呑な庵の瞳がそれを止めた。「余計なことを、口走るな」 庵の大きな手が女の顔を掴み、壁に押し付ける。指の間から見える女の瞳は、庵の視線を真っ向から受け止めて睨み返し、ベッドを蹴って庵の腹めがけ、足を伸ばす。「フン」 小ばかにしたように鼻で笑い、繰り出された蹴りを簡単に受け流して女を放す。女も負けじと、小ばかにしたような笑みを浮かべた。「何よ。図星さされたからって逆ギレ?」 顔を逸らし背を向ける庵の一瞬見えた表情に、女は意外そうな、呆けたような顔をする。「…………もしかして、触れ方がわからないの?」「下らん」 女の疑問に鋭い声を突き立てて、質問が追ってくるのを止めた。そのまま無言で立ち去る庵。その姿を見つめ、たっぷりと、庵の余韻が消えるまでドアを見つめていた女が、ポツリとつぶやいた。「どんな顔して名前呼んでるか、わかってんの? アンタ」