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鎮魂ールミナリエー四国   夜、長曾我部元親は酒の入った瓢箪を腰に付けひっそりと岩場に出かけた。誰もいない海は穏やかにさざめきながら、星の光を浮かべている。波が優しく岩を撫で去るのに目を細め、元親は座した。澄んだ空気に浮かぶ月は遠い。骨の芯まで包むような寒さに、彼は命を吹き込むような息を吐いた。
「いい海だ」
 腰の瓢箪を手に取り音をたてて栓を抜く。ゆっくりと海に酒を注ぎ、月に向かって瓢箪を掲げてから口をつけた。
「っはぁ――――うめぇだろ」
 空になった杯に注ぐように、瓢箪の口を海に向ける。
「たまには、こうやってテメェらと呑むのも悪かねぇな」
 呟く元親の唇に、笑みが浮かんでいた。
 旧友と酒を酌み交わしているような態で、元親は海に酒を注ぎ、自分も口にする。ゆったりと、しみじみと何かをかみしめるような姿を、星を湛えた海が見つめている。
 そよりそよりと降る風に、儚いものが交じるのに気付き、元親は手のひらを天にかざした。ひらりと舞い散る雪が、元親の熱に溶ける。それを握りしめ、元親は柔らかく笑んだ。
「――――安心しろよ。この俺が、守ってやっからよ」
 海に落ちる雪に、元親は目を向ける。
 決して積もることのない場所に露と消える無数の存在。
 海は、分け隔てなく全てを包み、受け入れる。
 人も魚も虫たちも全て――――生のあるなしに関わらず、何もかもを抱き止め深く深く眠らせる。
 そこには、元親の知る者も貝殻を枕に眠っていた。残酷なほど平等に、生前の何もかもを拭い去って――――――――。
 瓢箪を傾けて最後の一滴を海に注ぎ、元親は立ち上がる。深い海の奥に目を向けて、淋しそうな瞳で微笑んだ。
「まぁ、ゆっくりと休んどいてくれ」
 波が、変わらぬ音色を繰り返す。
 雪が、元親の髪に心に降り積もる。
 染まることの無い海に、元親は背を向けた。それを追うように波は寄せ、ためらうように引いていく―――――――。


2009/12/03


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