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鎮魂ールミナリエー甲斐   城の屋根に座り、猿飛佐助は夕泥む景色を眺めている。赤と青の先に黒が滲み、星が姿を顕にしてゆく。
 雪に染まった里が、茜色に塗り替えられてゆくのを、瞳に映している。ほんのりと暗い景色に、命のある家には煙が上がるのを見つめて、独りごちる。
「今日も平和だったねぇ」
 呟く息が白い。それもまた、命のある証だと目を細めた。
 あちらこちらの家から、煙が上がり明かりが見える。命の営みが行われている。上田城も例外なく、居住区からは食事を作るための煙が、暖をとるための明かりが在った。
 ふいに、佐助の脳裏に白の上に散った赤が浮かんだ。僅かに雪を溶かす赤から、命の名残のように湯気がくゆるのを眺めていたのは何時の事だったろうか。何時の間に、それを当たり前に思いはじめたのだろう。
 浮かんだ疑問に、佐助は口の端を歪ませる。いちいち捉われてなどいられないほどに、それは雪に染まった景色の中で、佐助の日常と言ってもいいほどの情景だった。
 雪の上に赤がしたたる姿を、笑みを浮かべて眺めていた男が、佐助に向けた言葉を思い出す。
「忍なんだから、当然でしょ」
 答える相手の居ない声は、自分に向けたように響く。ゆっくりと手のひらを広げて眺める。初めて人を殺めてから、どれほどの命を手にしただろう。集めれば、里の雪を溶かしてしまえるだろうか。
 茜の里が、薄青に塗り替えられていく。空は深くなり、星が広がる。――――あれも、里の明かりのように命を示すものなのだろうか。それとも、失われたものの輝きなのだろうか。
 温かい香りが佐助の元にも漂ってくる。今夜の献立は何なのだろう。
 そんなことを思わせる香りの隙間から、佐助を呼ぶ声が届く。
 赤い鎧を身に纏う、命という言葉を体現しているかのような主――――真田幸村。戦場では、誰よりも深く死を纏う彼は、宵闇に染まる里のように輝きを失うことも褪せることもない。赤を浴びすぎ黒く変色した自分とは、住んでいる世界が違うからなのだろうか。
 佐助を呼ぶ声が続く。いつまで、自分はこの声を聞いていられるのだろう。重いものをやわらかく、無邪気に包む笑顔をいつまで、見ていられるのだろう。
 空は太陽を失い、月と星を得る。佐助は、自分の空にある太陽の元へ向かった。
 いつもの、風の笑みを浮かべて――――。


2009/11/17


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