井戸端で顔を拭っている片倉小十郎の背中を、梵天丸は眺めていた。視線に気付いた小十郎が顔を上げ、ギロリと梵天丸を睨みつける。「何を見てやがんだ」 普通の子どもならば、くるりと背を向け逃げ出すであろう形相を、梵天丸は睨み返した。 小十郎の顔が腫れている。家中の者と殴りあいをしたと、梵天丸は聞いた。侍女の話では、その原因は梵天丸だという。病で右目を失った梵天丸を嘲った者に、小十郎が食ってかかったのだと。 口を開き、梵天丸は皮肉な笑みを浮かべた。「ざまぁねぇな」 小十郎の目が細められる。「所詮は、鳥居の奥で磨いてきた武芸ってこった」 小十郎の力量を、梵天丸は知っていた。嘲る事など出来ない腕だと、自身の稽古の時に思い知らされている。「生意気な口をきくんなら、俺に一度でも勝ってから言うんだな」「Ha!」 鼻先で笑い飛ばした梵天丸は、くるりと小十郎に背を向けた。「ついてこい。八つ時だ」「あ?」「毒を盛られて悶える俺が、見られるかもしれねぇぜ」 小十郎が奥歯を噛んだのが、聞こえるはずもないのに気配で梵天丸に伝わった。 毒を盛られることに、梵天丸は慣れていた。戦国の世にあり、右目が使えないということはすなわち、死角が広くなるという事だ。そんな者に時期当主など務まらぬと、小十郎が殴った男は言ったらしい。使えぬならば稚児として、各将の士気をあげるために愛でるという方法もあるだろうが、あの顔では魔羅も萎えるわ。病の前の姿ならば、いくらでもお相手願いたいところであったがな。 そんな会話を聞いて、小十郎は相手に掴みかかり拳を振るったのだと、梵天丸付きの侍女が、オロオロしながら報告をしに来た。そして同時に、容赦なく殴りつける姿に、胸がスッとしましたとも言っていた。 今日の八つ時の団子は、その侍女が用意をする。梵天丸を可愛がり、病で右目を失ってからはいっそう梵天丸を大切に扱うようになった。 だが、人はいつ、どう心変わりをするかわからない。 居室に戻る梵天丸の後に、小十郎がついてくる。言葉遣いこそ主を主とも思わぬ粗野なものだが、彼は昔より梵天丸を時期当主と扱っていた者らよりも、よほど信頼が置けると、梵天丸は子ども特有の直感で判じていた。 居室に入れば、ほどなくして侍女が茶と団子を運んできた。小十郎の姿があることにおやと眉を上げ、けれど何も言わずに盆を置き、去って行く。梵天丸が団子に手を伸ばすより先に、小十郎が団子を掴み半分に割り、臭いを嗅いで片方を口に入れた。確かめるように租借し、嚥下し、しばらく何もおこらないことを確認してから、残ったものを梵天丸に差し出す。「なんだ」「俺が毒を盛ったと疑われちゃあ、迷惑なんでな」 だから毒味をしたのだという。さりげなく自分の命を使う小十郎に、梵天丸の胸が痛んだ。この男の全てが欲しいと、この身に繋げ置きたいと切に思う。 小十郎は茶にも手を伸ばし、口をつけて顔をしかめた。殴りあいの時に口内が切れていたのだろう。顔をしかめつつも茶を口内で転がし、飲み下して確認してから梵天丸に湯飲みを差し出した。 梵天丸が受け取り、口をつける。「いい面じゃねぇか」 茶を啜りながら梵天丸が言えば、小十郎が鼻を鳴らした。 盆に湯飲みを置き、横にずらした梵天丸は膝を前に滑らせた。「片倉」「なんだ」 じっと小十郎を見上げた梵天丸は、まだ幼い手を伸ばし大人びた仕草で小十郎の頬をなでた。「……小十郎」 そっと呼んだ梵天丸に、ハッと小十郎が目を開く。梵天丸の声音に、瞳に、蠱惑的な何かが潜んでいる。「俺を、抱けるか?」 ごくりと喉を鳴らし、小十郎が鼻で笑った。「何を言ってやがる。母御の乳でも、恋しくなったのか」「そっちじゃねぇよ」 梵天丸が小十郎の膝に腰を進めた。「こうなっちまう前は、妙な視線やさそいをかけられることもあった」 梵天丸が布の巻かれた右目に手を添える。「こうなっちまってからは、誰も彼もが俺に背を向けちまった」 自嘲に口の端をゆがめ、梵天丸は小十郎の唇に息を吹きかける。「アンタだって、どうなるかわからねぇ」「俺はもともと、オメェなんぞに興味は無ぇよ」「喧嘩の理由ぐれぇ、知ってんだ」 梵天丸が小十郎の唇をなでた。少し切れて、血が滲んでいる。「俺をとやかく言った奴に、殴りかかったんだろう」「それは」「なぁ、小十郎。俺を、抱けるか?」 子どもとは思えぬほどの妖艶さを漂わせ、梵天丸は小首を傾げた。「それとも、こんな醜い顔じゃ、立ったモンも萎えちまうか」「っ!」 目を伏せつぶやいた梵天丸の唇を、小十郎が塞ぐ。腰を抱き頭を手のひらで抱えて顔を押し付け、梵天丸の小さな唇を奪った。「んっ、んんっ、ふ」 梵天丸の口内に小十郎の舌が差し込まれる。形の良い小さな歯が小十郎の舌に愛撫され、舌が浮く。浮いたソレを小十郎は吸い、軽く歯を立て舌を絡めた。「んふっ、う、んむぅ」 梵天丸の舌に、鉄の味のする甘いものが触れる。それが小十郎の血の味だと気付き、梵天丸の下肢がキリリと痛んだ。「ふぁ、んっ、んふぅうっ」 水中に沈められたように息苦しく、喘ぐ梵天丸の目じりからは涙が溢れる。それでも小十郎は梵天丸の口腔をなぶるのを止めない。「ふ、んふぅうっ、んっ、ふ」 梵天丸の体が小刻みに震えだす。膝に乗った梵天丸の下肢に、何か硬いものが当たった。「ふはっ、はぁ、は、は」 やっと口吸いから解放された梵天丸は、荒く胸をあえがせながら、力の入らぬ四肢を震わせ、濡れた瞳で小十郎を見た。そっと梵天丸を横たえた小十郎が、梵天丸の右目を覆う布を取る。「あっ」「隠すんじゃねぇ!」 とっさに手を伸ばした梵天丸を怒鳴りつけ、小十郎は着物を脱いだ。下帯を外し、隆々と猛る牡をさらす。「何を見りゃあ、起ったモンが萎えるって?」 梵天丸は光のある左目を見開き、雄々しくそそりたつ小十郎の陰茎を見た。自分の右目は彼の眼前にさらされている。それなのに小十郎の陰茎は天を突くように、そりかえっている。「小十郎」 起き上がった梵天丸は手を伸ばし、小十郎の陰茎に触れた。「熱い」「下らねぇことを、気にするんじゃねぇ」 梵天丸の手の中で、小十郎の陰茎はまぎれもなく脈打ち、力強く反応を示している。手の中のそれが愛おしくてならず、梵天丸は口を開き顔を寄せた。「っ、おい」 慌てる小十郎に遮られぬよう、梵天丸は急いで食いついた。全てを飲み込もうとするのだが、梵天丸の口には大きすぎ、全てを飲む前に喉につかえた。「うぐっ、んぅ」「梵天丸、おい。やめねぇか」 降る小十郎の声が掠れている。胸が甘く絞られ、梵天丸は夢中で小十郎の陰茎を吸った。「っ、く」「んっ、んんっ、は、ぁむ」 口の中に入りきらぬものは手で扱き、口内にあるものは舌を絡め吸い上げる。無心に母の乳を求める赤子のように、梵天丸は小十郎の陰茎を吸った。「っ、梵天丸、もう」 小十郎の息が乱れている。口内の熱は高まり、妙な味をさせている。梵天丸の下肢が悦びに疼き、彼は太ももを擦り合わせた。「これ以上は不味い。梵天丸」 小十郎の大きな手のひらが梵天丸の頭を包む。邪魔をされてなるものかと、梵天丸は小十郎の根元をしっかり握り締めた。「うっ、この……」「ああっ」 腕をひねられ、梵天丸は小十郎の熱から引き離された。「何を」「黙ってろ!」 再び、小十郎の唇が梵天丸の口を塞ぐ。「んぅっ、んぁ、はっ、んんっ」 小十郎の手が梵天丸の着物をまさぐり帯を解き、幼い牡を掴んだ。「っ、んんっ、んぅう」 口腔を舐られながら牡を扱かれ、梵天丸が身悶える。「は、こんなに硬くしちまいやがって」「ぁ、は、こじゅ、ろお」 ぼろぼろと涙をこぼしながら、梵天丸は小十郎にしがみついた。「くそっ」 悪態を吐いた小十郎は梵天丸の首に顔を埋め、梵天丸の牡に指を絡める。「ぁ、ああっ、ぁ、こ、じゅ、は、ぁあ」「イッちまえ」 低く掠れた声に耳朶を愛撫され、梵天丸の腰が跳ねた。「っ、あぁあああ!」 放った梵天丸を見下ろし、小十郎は苦しげに眉根を寄せる。唇を噛み、何かを振り切るように梵天丸から離れた。「こ、じゅうろ――?」 梵天丸の目に、雄々しいままの小十郎の陰茎が映る。「お前は、それ、どうすんだよ」「ガキはそんなこと、気にしなくていい」「俺で、そうなっちまったんだろ。――違うのかよ。俺じゃ、イクところまでは出来ねぇってのか」 気だるい体を起こし、梵天丸は小十郎を見あげる。匂い起つような淫靡さに、小十郎は手を伸ばした。「ッ、オメェは!」「うぐっ」 梵天丸の口に、小十郎の陰茎が押し込まれる。「んぐっ、んっ、ぁぐっ、お」「そんなに俺の子種が飲みてぇんなら、いくらでも飲ませてやる」「ぁはっ、んぐぅうっ、んぶっ」 梵天丸の頭を両手で包み、がつがつと小十郎は陰茎で幼い口腔を掻き回す。息苦しさに涙を流しつつ、梵天丸は両手を伸ばして小十郎の腰を掴み、必死に舌を動かし吸おうと試みた。それに気付いた小十郎の顔が険しく歪む。「くっ」「ごぶっ、がっ、げはっ、げほっ」 口内で弾けた小十郎の欲が喉に吹き込み、梵天丸が咳き込んだ。唇から小十郎の欲と梵天丸の唾液のまじったものが溢れる。床に手を付き咳き込む梵天丸の顎に手をかけ上向かせ、小十郎は唇を寄せた。顎を伝う液を舌で掬い、梵天丸の口内へ戻す。「んっ、ん」 少々苦労しながら梵天丸は飲み下し、ぼんやりと焦点の合わぬ瞳で小十郎を見た。「ガキのくせに、妙な誘いをするんじゃねぇよ。次は、この程度じゃ済まねぇぞ」 小十郎の瞳も、淫蕩に濡れていた。小十郎の忠告を挑戦と受け取り、梵天丸は不敵に笑う。「そっちの忍耐力が劣っていたからだろう? 俺の誘いを断れるように、修行したらどうだ」「ッ! テメェ」 はは、と軽い笑い声を立てた梵天丸を、小十郎が胸奥に抱きしめる。「こんなこと、他の誰にもするんじゃねぇぞ」 小十郎の背に腕を回し、梵天丸が答えた。「お前以外に、するわけねぇだろうが。バカヤロウ」 互いの想いが肌を抜け、相手の心に沁み込んでいく。2014/05/22