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たわむれ

 ふあ、と大口を開けてあくびをした長曾我部元親は、ぼりぼりと腹の辺りを掻きながら廊下を進んでいた。髪はぼさぼさのままだが、左目を覆う眼帯はきっちりと締められている。薄ものの着物の上からでもわかる隆々とした胸筋が、腹を掻くために突っ込んだ腕のために、開いた合わせ目から零れ落ちそうになっていた。大股な歩幅が裾をまくり、ひきしまったふくらはぎと、太い腿をチラリチラリと見せている。
 ふぁあ、と再びあくびをした元親は目的地へ到着し、用を済ませ、寝なおすために与えられた客間に戻る途中で、スラリと開いた襖から伸びた手に捕らえられた。
「うえっ?!」
 完全に無防備であった元親は、ふいをつかれ引かれるまま部屋の中に転がり込んだ。
「ううっ」
 なんとか受身は取りつつも、無様な格好で床に腰をつけた元親は、唇を尖らせ不機嫌そのままに、自分の腕を引いた男を見上げた。
「何すんだよ」
 ニヤリと隻眼をゆがませ、元親を引き入れた男、伊達政宗が見下ろす。
「そんな格好で、俺の私室の前を通るほうが悪い」
「は?」
「stimulated by watching of you」
 腰をかがめた政宗に、元親は鼻の頭にしわを寄せた。
「南蛮語は、わかんねぇっつってんだろ」
「俺の態度で察してみせな」
「へ?」
 政宗の手が元親の帯にかかる。はっとした元親は慌てて政宗の腕を掴んだ。
「なんか、なんとなく理解した」
「そうか」
 元親の足の間に身を入れた政宗が顔を寄せ、元親は政宗の頬に大きな手のひらを当てて阻止した。
「察したから、する必要はねぇだろう」
「察したら止めるとは、一言も言っていないと思うんだがな」
「俺は、眠てぇんだよ」
「安眠できるように、手伝ってやるよ」
「いい、いらねぇ」
「元親」
 ぞわ、と元親の産毛が逆立つ。
「なぁ、元親」
 いいだろう、と言外に続く政宗の艶めいた声音に、元親は白い肌に朱を差した。
「ううっ……」
「I will make you feel good」
 低くささやかれる声は、その魅惑の力を十分に知った上で使われているとしか思えない。政宗の端正な顔立ちに浮かぶ艶冶な微笑みに、元親は喉を鳴らした。
「元親」
「さ、さっさと終わらせろよ」
 真っ赤になって、ぷいと顔を背けた元親の頬に、クスクスと笑みを漏らす政宗の唇が押し当てられた。
「don't bet on it」
「あ、っ」
 元親のたくましい胸筋に、政宗の細く長い指が触れる。たっぷりと鍛え抜かれた胸筋を掴み、両脇から持ち上げ谷を深くし、舌を這わせる。
「やっぱ、でけぇな」
「んっ、くすぐってぇ」
 揉む政宗の指が、弾力のある胸筋に沈み、押し返される。それを楽しみながら、政宗は元親の唇に唇を重ねた。
「んっ、ふ、んんっ」
 政宗から与えられるものが、心地よいものだと元親は知っている。逃れられないのならばと口を開き、元親は政宗の舌を招いた。
「ふっ、んふ、う、ふぅう」
 政宗の舌が元親の口腔を舐り、舌を求める。それに元親が応えれば、政宗は目を細めて元親の舌を吸った。
「んふぅっ」
 ビクンと元親が震え、甘い叫びを発する。口内の刺激が体幹を走り、下肢に到達して牡を震わせた。
「ふ、んふぅ、うんっ」
 元親の反応が、政宗の腹に伝わる。とろりと淫蕩に瞳をとろかせた美鬼の唇から、悪戯を好む竜は唇を離して耳に熱っぽく息を吹きかけた。
「っ、あ」
 それだけでも反応をしてしまう元親に、政宗の股間が疼く。
「鬼は本当に、欲に素直だな」
「っ、うるせぇ。さっさと終わらせて寝てぇだけ、ぁは」
 キュ、と政宗の指が元親の乳首を摘んだ。片方は指の腹で転がし、片方は指紋で撫でるほど微細に触れる。かと思えば今度は逆の刺激を与え、元親のそこが硬く尖っていくのを楽しんだ。
「ふっ、ん、ふ、ぁ、んぅ」
 もどかしそうに元親が睫を震わせ、手の甲を口元に寄せる。もじもじと動く腿の間にあるものが、熱くなっていることは明白だった。
「どうした、元親」
「ふっ、ん、んんっ」
 それなのに政宗は、わざと元親に問う。
「気持ちがいいんなら、素直に言えよ。A human being, openness are the first」
「ぁ、だから、南蛮語はわかんねぇって、っは」
 胸乳をもてあそぶ政宗に翻弄され、元親の牡は気を散らす事が出来なくなるほど熱された。胸の先は痺れるように疼き、体中に甘くねっとりとしたものを広げていく。それがもどかしさとなり、元親の野欲を焙った。
「は、ぁ、政宗、ぁ、も、乳ばっか触ってねぇで、んっ」
「触ってねぇで――? 何だ。言ってみな」
「ううっ」
 わかっているくせに、と恨みがましい目を向けても、政宗はしれっとしている。
「んっ、かぁちゃんのオッパイを欲しがる餓鬼かよ、テメェは」
 カチンときて憎まれ口を叩いた元親に、政宗は凄みのある笑みを浮かべた。
「I see. I understood it well」
 悪い予感に、元親の頬が引きつる。
「ま、政宗?」
「アンタがそう言うんなら、そうしてやろうじゃねぇか」
「うえ、ちょ、おいっ、あぁ」
 政宗の顔が元親の胸乳に触れる。舌先で熟れきった尖りをくすぐられ、唇で甘く捏ねられ歯を立てられて、元親が悶えた。
「はっ、ぁ、政宗、ぁ、は、は、ぁあ」
 舌技と指技を駆使し、元親の胸乳と戯れる政宗の腹に、熱くなった元親の下肢が押し当てられた。腰をくねらせる元親の求めているものなど、政宗はとうに気付いている。それなのに政宗は胸乳から離れようとはせず、元親を苛んだ。
「ひっ、ぁ、政宗ぁ、あ、もぉ、はっ、や、やめぁ」
 胸乳の刺激ばかりで、下肢が寂しいと訴えている。切ないほどに刺激を求める下肢を政宗に擦りつけ、元親は求めた。
「も、ぁ、悪かった、から、ぁあ、は、もぉ、早く」
「Ah? 何が、早くなんだ。ああ、そうか」
 政宗が顔を上げ、元親はホッとした。漆黒のやわらかな髪をかきあげる政宗の仕草に、元親の胸が高鳴る。それを勝者の笑みで見下ろして、政宗は裸身となった。無駄なものを削ぎ落とした、しなやかな肢体が現れる。鋭利な刃物を思わせる政宗の体躯に、なまなましくそそり立つ欲を見て、元親は惚けたように息を吐いた。
「そんな、ヤラシー顔してんじゃねぇよ。たまんねぇ」
 政宗の手が元親の頬に添えられる。ゆっくりと降りてくる政宗の唇を、元親は静かに受け止めた。これでやっと、欲しい場所に欲しい刺激が与えられる。そう思った元親の胸乳を、政宗はわしづかんだ。
「ん?」
「たっぷりと、アンタのでけぇ乳を堪能させて貰うぜ」
「は? ちょっとまて! 俺は、ぁう」
 キリキリと尖りを捻られ言葉を遮られた元親が、悔しげに政宗を睨む。余裕の笑みで受け止めた政宗は、元親の胸乳を脇から寄せて胸筋の谷を深くし、自身の牡を挟んだ。
「なぁ、しゃぶれよ、元親」
「冗談じゃねぇ。んなこと出来っ、あはぅ、ぁ、わかった、ぁ、する、からぁ、あっ、やめっ、ひ」
 乳首を質に取られた元親は、渋々と首を持ち上げ舌を伸ばし、政宗の牡先を舐めた。ぐにぐにと政宗が元親の胸筋を揉んで、自らの牡を擦りつける。
「ほら、もっと」
「んっ、は、無茶言うな、ぁ、はぁあっ、わかった、わかったからっ、ぁ、やめ」
 政宗に言われるまま、彼の牡先を舐めている間に、元親の思考の芯がぼうっとなった。強くもなく弱くも無い刺激を尖りに与えられ続け、鼻先には牡の匂いを突きつけられて、何もかもが淫蕩に包まれ沈んでいく。
「は、ぁ、政宗ぇ」
 瞳を潤ませる元親に、政宗が首を傾げた。
「もぉ、我慢出来ねぇ」
 泣き出しそうな元親は、海の荒くれ者を束ねる西海の鬼ではなく、年端も行かぬ子どものようだ。
「何が、我慢できねぇんだ」
 やわらかく問うた政宗に、元親はムッと唇を引き結び、恨みがましい目を向けてから、素直になった。
「もぉ、チ○ポたまんねぇ」
「だから」
「弄ってくれよぉ」
 声を震わせる元親の鼻先に唇を押し当て、わかったと告げた政宗は彼から降りた。
「なら、俺がしやすいように足を広げて見せな。しゃぶってやるよ」
 全身を赤く染めた元親が、膝を折り足を開く。下帯を開けば、待ってましたとばかりに牡が飛び出した。隆々とそびえ勃つ陰茎に口笛を吹き、政宗は楽しそうに手を伸ばした。
「ずいぶんと、ゴキゲンじゃねぇか」
「はっ、ぁ、もっと、ぁ」
「わかってるよ」
「ふ、ぅうんっ」
 ぬらりと政宗が元親の牡に舌を這わせる。蜜嚢を揉み、先端をしゃぶり軽く歯を立てれば、元親の腰が踊った。
「気持ちいいか」
 コクコクと元親が首を縦に振る。
「ちゃんと言わねぇと、止めるぞ」
「ぁ、きもちい、ぁら、もっとぉ」
 涙をこぼして求める元親を褒めるように、政宗は彼の内腿に接吻をし、再び牡の愛撫に戻った。
「は、はぁ、ぁ、まさ、ぁ、むねぇ、あ、もっと、ぉ」
「気持ちがいいか」
「はっ、ぁ、きもちぃ、ぁ、もっとぉ、あ、イク、ぁあ」
「まだ、早ぇよ」
「ひぅっ」
 絶頂を迎えかけた元親の陰茎を政宗が強く握る。
「ぁ、なんで、ぇ」
 ぐすっと鼻を鳴らした元親をゴロリと転がしうつむかせ、政宗は立ち上がった。
「どこ行くんだよぉ」
「コレが、入用だろう?」
 棚から丁子油を取り出して見せた政宗に、元親は体をこわばらせた。
「う、ううっ」
「好きだろう? 突っ込まれてかきまわされんの」
「っ、べ、べつに好きじゃねぇよ」
 ぷいと顔を背けた元親に、ほう、と政宗が眉を上げる。
「なら、止めるか」
「そんだけ滾らせといて、止められんのかよ」
 元親が頬を膨らませ政宗の陰茎を顎で示せば、政宗はこれみよがしな溜息をついた。
「一人で処理をするしかねぇな。アンタも寝たかったみてぇだし、この辺で終わりにするか」
 終わりにされたら、たまったものではない。もてあますほどの野欲を体中に満たされて、おとなしく自慰だけで済まして寝られるわけが無い。政宗の策略だと知りつつも、元親は屈するしかなかった。
「――しろよ」
「何を?」
 ニヤニヤとする政宗が欲している言葉は知っている。悔しいが、それを言うしかあるまいと、元親は腹をくくった。
「ケツ、使えっつってんだよ」
「使って欲しいのは、ソッチだろ? もっとそそる言い方してくれよ、元親」
 ぐう、と唸った元親を、政宗が勝ち誇った笑みで見下ろす。
「春画ぐれぇ、見たことあんだろ? アレみてぇに誘ってみろよ」
「〜〜の、変態っ!」
 牙を剥いてみても威力など無いことは知っている。それどころか政宗をより楽しませてしまうと知っていながら、元親は吼えずにいられなかった。
「ほら、どうする?」
 こうなりゃヤケだと、元親は身を起こし仰向けになって足を開き、片手を胸乳に、片手を太ももに当てて政宗を見上げた。
「もう、疼いてたまんねぇから、グチャグチャにしてくれよぉ」
 ぽろ、と政宗の手から丁子油の筒が落ちる。呆けた政宗の顔に、元親のイタズラ心が頭をもたげた。
「なぁ、政宗……早く、オメェのチ○ポで気持ちよくなりてぇんだよ」
 いつも政宗にしてやられてばかりなので、ここぞとばかりに元親は身をくねらせた。呆然とする政宗に胸のすく思いで、元親は調子に乗った。
「我慢できねぇんだよ。なぁ、政宗」
 大きく足を開き陰茎を握って示しながら、胸乳も握って訴えれば、政宗の呆け顔が獰猛な獣のそれに変わった。ギクリと元親が身をこわばらせる。
「OK、元親。アンタの望みはよくわかった。――I take you to heaven」
 調子に乗りすぎたと気付いたが、もう遅い。元親は迫る政宗に恐怖と、それと同等の期待を浮かべた。
「たっぷりと、可愛がってやる」
「ふぁ」
 足を持ち上げられた元親の背が床から浮く。天井に向いた元親の尻に、政宗は丁子油を垂らして秘孔を濡らした。
「ふっ、ぁ、政宗」
「自分のチ○ポでも、眺めてな」
 体を折られた元親の視界に、自分の陰茎と野欲に光る政宗の独眼が映る。官能に震えた胸と呼応し、元親の牡が震えた。
「ぁ、政宗」
「最高の気分を、味わわせてやる」
 元親の体を肩で支えた政宗が、元親の秘孔に指を押し込んだ。
「ひんっ、ぁ、はぁあ」
 探られる元親の牡が跳ねる。揺れる蜜嚢に政宗は舌を伸ばした。
「はっ、はんっ、はぁうふぅうう」
 政宗の細く長い指が、繊細な動きで元親の秘孔を媚肉に変えていく。拒んでいた肉壁が政宗の指を歓迎し、縋り求め奥へと誘う。
「とんでもねぇ淫乱だな」
「ぁはっ、やめ、ぁ、中、そんぁ、あ」
「素直になれっつってんだろ」
「ひっ」
 強く抉られ、元親が悲鳴を上げた。震える陰茎が元親の胸に先走りをまきちらし、その匂いに元親の奥が切なく疼いた。
「ぁ、政宗」
「Ah?」
「も、早く、くれよぉ」
 元親の伸ばされた手に唇で応え、政宗は彼の足を下ろして覆いかぶさった。
「そうやって、素直になってりゃ可愛いのにな」
「バカな事を言ってねぇで、早く」
 元親が政宗を掻き抱き、望まれるまま政宗は元親に沈んだ。
「はっ、ぁ、はぁあ、ぁふっ、う」
 圧迫感に元親が仰け反る。反った彼の喉に舌を這わせ、顎を登り唇に到達し、あやすような口付けをしながら、政宗は腰を進めた。
「ふっ、ふぅ、んっ、は、はふ」
 元親が身をくねらせて、政宗を求める。
「落ち着けよ」
「ひんっ」
 キュ、と胸の尖りをひねられて、元親が啼いた。
「は、ぁ、ひとりで、余裕ぶってんなよ、ぁ、も、すげぇ熱いクセに」
 元親の大きな手のひらが、政宗の後頭部を掴み引き寄せた。噛みつくような接吻をしてくる元親に、政宗が苦笑する。
「なら、遠慮なく食わせて貰うぜ」
「最初から、遠慮なんかしていなかったろうがよ、ぁう、ソッチが誘ったんだろうが」
 とぼけるように笑んだ政宗が、元親の目に口付ける。それを合図に、二人の身は激しく絡まりのたうった。
「はっ、はぁ、あっ、ぁ、政宗、ぁ」
「元親、は、すげぇな。キュウキュウに締め付けて。そんなに、コレが欲しかったのかよ」
「んっ、ふぅうっ、ぁ、も、御託はいいから、もっと、ぁあ」
 汗ばむ肌が擦れ、互いの匂いが膨らみ野欲を煽る。本能に促されるまま、鬼は竜を受け止め、竜は鬼に絡まり踊る。
「は、はぁ、も、ぁあ、もぉ、イクッ、あぁ」
「イカせてやるよ」
 熱く乱れた息で告げた政宗が、元親の媚肉を抉った。
「っ、ひ、あはぁあああ」
 腰を突き上げ報つ元親の秘孔が締まり、政宗の欲を求める。望まれるままに放った政宗は、荒く喘いでいる元親の胸に唇を寄せ、瞼に、頬に、唇にと順番に口付けた。
「は、ぁ」
 気だるげに息を吐き、元親が政宗の髪に触れる。
「すっげぇ」
「満足か?」
「したがったのは、そっちだろうが。俺ぁ、戻って寝るつもりだったんだからよ」
 ぼやく元親の唇に、政宗が唇を押し当てる。
「眠れそうか」
 ささやく政宗の瞳が、悪戯に光っている。仕方ねぇなと心中でつぶやいて、元親は政宗を抱き締めた。
「中途半端に目が覚めちまった。安眠できるように、してくれんだろ?」
「Leave it to me」
「だから、南蛮語はわかんね――んっ、は、って言ってんだろ」
 クスリと息を漏らす政宗の唇が、元親のそれに戯れる。ゆるゆると再開した宴は、やがて灼熱の狂乱へと姿を変えた。
2014/06/13



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