目覚めるとそこは、座敷牢だった。「う……」 身を起こそうとして、何かに阻まれる。見れば、手かせを嵌められていた。手かせは床と鎖で繋がっている。体の向きを変えることは可能だが、起き上がるには短すぎた。「ああ、そうか」 長曾我部元親は思い出した。戦に負け、囚われたのだ。――幾度も杯を酌み交わした友、徳川家康に。 座敷牢は暗く、閉ざされている。どれほどの時間が経過したのか。今は何時なのかがわからない。元親は、ひんやりとした床の感触に、自分が裸身であることを知った。下帯すらも身につけていない。「なんで俺ぁ、裸なんだ」 呟いてみるが、答えをくれそうな気配は、どこにも無かった。 じたばたしても何も変わらない。自分は戦に負けたのだと、元親はおとなしく横たわっていた。このまま飢えさせる気でいないかぎりは、誰かがやってくるだろう。その者に、どういう処遇になっているのかを聞けばいい。 元親がおとなしくしていると、人の気配が近付いてきた。座敷の襖が開かれ、現れた姿に目を丸くする。「家康」 彼が来るとは思わなかった。「しばらくは、誰もここには近付けないでくれ」 凛とした家康の声に、元親の胸はふさがった。天下人にふさわしい、堂々とした様子に言い知れぬ感慨が浮かぶ。彼と初めて出会った頃は、自分の腹のあたりまでしか上背の無い子どもだった。それが今は、自分に届かぬまでも、逞しい筋肉に身を包まれ、闊達な様子の青年になっている。「元親」 牢格子まで進んだ家康が、膝を着いた。元親は笑みを向ける。「とうとう、天下人だな」「ああ」「まさか、アンタに先を越されるとはなぁ」 元親の声に、悔しさは微塵も無かった。代わりに、親が子の成長を祝う響きがあった。 家康は、少しさみしそうに微笑んで服を脱ぎ、牢格子の中に身を滑らせた。「家康?」 どういうつもりなのだろう。家康は裸身で元親に近付き、彼の盛り上がった胸筋に手のひらを置いた。「ずっと、憧れていたんだ」「え」 家康の手が、元親の胸筋の形を確かめるように滑る。「ワシの、目標だった」「家康」「強く逞しく、大きなオマエが……。見た目だけじゃない。心もその身と同じように強くて、肌理細かく清らかな元親を、いつしか美しいと思うようになった」 家康の手の動きが、淫靡なものに変わる。「――家康?」「元親。オマエが三成に味方をするという報告を聞いた時、ワシは確信したんだ。……心底、惚れていると」「っ?!」 家康の指が、厚みのある元親の胸筋に沈む。弾力を確かめるように、家康はそれを揉んだ。「敗軍の将だからと言って、殺すつもりは無い。争いあった相手でも、絆を結ぶ事ができると、ワシは信じている。――元親とは、これ以上無いほどの、別つことのできぬ絆を結びたい」 家康が体を折り、元親の唇を自分のそれで塞いだ。元親がおどろきに目を開く。やわらかな感触が、夢ではないと告げている。「ああ、元親」 悩ましげで熱っぽい家康の息が、元親の唇をくすぐった。舌が、元親の口腔に伸びる。「んっ」 首を振り逃れようとした元親の頬を、家康は両手で掴んだ。「んっ、んんっ」 元親の逃げる舌を追い、舌先でくすぐり上あごを撫でる家康の目は、切なげに光っていた。「ふはっ」 口腔の蹂躙から解放された元親の目が、息苦しさに潤んでいる。光る目じりに唇を寄せた家康は、悲しげで薄暗い笑みを浮かべ、唇を元親の首に落としながら、再び盛り上がった彼の胸筋を掴んだ。「家康、おい」「おとなしく、ワシに抱かれてくれ。元親」 家康の唇が、元親の胸乳の谷を這った。家康が、元親の乳首を指紋で擦る。淡すぎる刺激に、元親の肌が震えた。「冗談だろう」「冗談に見えるのか?」 見えなかった。けれど他に、どういえば言いのかがわからない元親の動揺に気付き、家康は微笑み身を起こした。「冗談ではない証拠だ」 家康は元親の顔をまたいだ。目の前に示された家康の牡が、若さを主張するように屹立している。息を呑んだ元親に、家康は困ったような笑みを浮かべた。「元親に、興奮しているんだ」 嘘だ、という言葉は元親の喉から出てこなかった。家康が元親の鼻を摘み、息苦しさから開いた元親の唇に、陽根を押し込む。「うぐっ」「ああ。元親の口の中は、あたたかいな」 家康が、元親の喉を陽根で突く。「ぉぐっ、う、むぉ」 元親の舌が泳ぎ、家康の牡を撫でる。唾液が溢れ、喉に溜まった。それを飲み下すために動く咽頭が、家康の牡の先をくすぐり、飲むためにすぼめた頬が、家康の熱を吸う形になる。「んふっ、ふ、ふんぅうっ」 鼻を摘まれ涙をこぼし、元親は家康をしゃぶることを余儀なくされた。「ああ、元親。ワシが恨めしいのか? そんなに涙をこぼして。ワシを憎むなら、憎んでくれ。そのまま、ワシの魔羅を噛み切ってくれてもかまわない」 そんなこと、できるはずが無い。元親はただ、なされるがままに家康の本気を味わった。 牡臭い香りが口から鼻腔へ立ち昇る。自分の唾液とは違うものが、元親の喉を通る。「ふっ、ぁんぅうっ、うむぅ」 家康の腰の動きが早くなる。喉に溢れる牡液が増えた。彼の絶頂が近いことを知り、元親は混乱する。家康は本当に、自分に欲情をしているのだと、信じがたい現実が胸に迫った。「ああ、元親」「ごぶっ」 家康が弾け、元親の喉に欲の証が噴きつけられる。「げはっ、げほっ、は、はぁ、あ」 むせる元親の口から、自分の子種がこぼれ出るのを、家康はうっとりと眺めた。「ああ、元親。すごくキレイだ」 元親の口を拭った指を、そのまま彼の口内へ入れてかき回す。「うぐっ、うっ、ううっ」「こんなに胸が苦しくなるほど、誰かを愛おしいと思ったことは無いよ。元親」「ぉふっ、んううっ」 家康の指が、元親の口腔を無遠慮に掻き混ぜる。溢れる唾液が家康の指に絡んだ。口の端からこぼれるものを、もう片手で受けた家康は、ボロボロと生理的な涙をこぼす元親の右目ではなく、普段は眼帯で隠されている左目に唇を寄せた。「誰にも、渡さない」「は、家康」 家康の濡れた指が、元親の足をつかんで持ち上げた。「これは儀式だ、元親。ワシとオマエを繋ぐ、神聖な」「家康。何……おい、まさか」 高々と足を持ち上げられ、体を丸めるようにされた元親は、頬を引きつらせた。自分の陰茎が目の前にある。その奥で笑う家康が、揺れた指で元親の尻を割った。「繋がろう」「ッ! 家康、やめっ……う」 家康が舌を出し、元親は下肢にぬめりを感じた。見えるのは、自分の牡越しにある家康の顔の上半分。けれど感覚が視覚を補填し、彼の舌が自分の秘孔に押し込まれている図を、元親の脳に浮かばせた。「ひっ、家康、やめっ……っ」「こんなに魔羅と子袋をふくらませておいて、やめろは無いだろう? 元親」「っ、違う、ぁ、ああっ」 家康の指が、秘孔にひそんでいた快楽のツボを探り当てた。「違わないだろう? ほら。こうすると、我慢汁をこぼすじゃないか」「ぁひっ、や、ぁ、ああっ、ぅ、くぅう」 声を上げまいと、元親が歯を食いしばろうとする。それを察すると、家康は容赦なく秘孔をかき回した。「はぁあううっ、や、めぁ、やめぁ、ああっ」「我慢汁が垂れて、自分の顔にかかっているぞ。元親」「はんっ、は、ぁ、家康っ、ぁ、あ」 快楽を堪える元親の筋肉が、一回りふくらんでいる。熱を帯びた肌は、透けるような白から薄桃へと変じていた。「ふふ。愛らしいな、元親」「ひふぅっ」 家康が元親の蜜嚢を吸った。元親の陰茎が、まるで喜び勇む犬の尾のように震えた。「ふふ、元親」「はんっ、はっ、ぁ、あは、あ、いえ、やすぅうっ」 元親の声が溶けるまで、家康は丹念に、執拗に元親の秘孔をまさぐった。絶頂を迎えるに迎えられぬ妙技に、元親の思考がグズグズに溶けていく。「ぁはぁうう……や、すぅ、いえや、ぁ、はぁおぅう」「これなら、大丈夫か」 抱えていた足を床に下ろし広げ、家康はその間に腰を進めた。ひたりと元親の秘孔に陽根をあてがう。「ひとつになろう、元親」「ひ、ぎっ、ぁ、はぁあおぉおっ」「くっ」 押し込まれた陽根が、元親の快楽のツボを抉った。腰を付き上げ絶頂を迎えた元親の秘孔が、家康を絞る。それに飲まれぬよう息を詰め、家康は奥まで進む。「は、はぁぉ、ぉうう、は、はひゅっ、は」「ああ、元親。元親」「ひっ、ひんっ、ひぁ、はっ、はんぁあっ、ぃえやっ、ぁはぁおお」 夢中で腰を打ちつけてくる家康が、今にも泣きだしそうに見えて、元親の胸が絞られた。犯されているのは自分であるのに、家康を苛んでいる心地になる。「いぇやっ、ぁは、くっ、んぅうっ」 手を伸ばしたいのに、枷が邪魔をする。「ああ、元親。逃げないでくれ。ワシを、受け止めてくれ」 その動きを、家康は逃れようとしたのだと受け止めた。「ぁ、ちがっ、ぁ、家康っ、おふぅう」 繋がり互いの熱を感じているというのに、心がすれ違っている。そのもどかしさに、元親の意識は囚われた。快楽よりも激しく、家康を慰め抱きしめたいと感じている。「ああ、元親、元親……受け止めてくれ。ワシを、受け止めてくれ」「ひぉううっ、いぇやっ、ぁ、は、家康っ、ぁ、あぁあああ!」 隙間なく繋がった瞬間、家康が元親に思いのたけをぶちまけた。それを受け止めた元親の意識が白んだ瞬間、ああそうかと閃くものがあった。 絆で世の中を統べると誓い、天下人となった青年の、自身の絆に対する不器用さが、この上もなく切なく、いじらしく、愛おしかった。2014/09/11