きらびやかな小袖を長曾我部元親の肩にかけた伊達政宗は、少し離れて腕を組みながめた。「悪くねぇな」 満足そうな政宗の様子に、胡坐をかいて好きにされている元親は、妙な顔をしていた。「こんなゴツイ男に女物を着せようなんざ、妙な事を思いつくなぁ、アンタ」 元親が昔、姫若子と呼ばれていたと知り、政宗はからかうつもりで彼を呼び、元親を下帯一枚にして着せ替えを楽しんでいた。「ナリはデカイが、肌は白いし肌理も細かい。顔も整っているからな。化粧をすりゃあ、もっと栄えるぜ」「いらねぇよ」 めんどうくさそうにしながらも、元親は政宗に促されるまま立ち上がり、着付けをされる。着物は大柄な元親に合わせて、仕立てられていた。よくもまぁと呆れる元親の胸を、政宗は軽く叩いた。「女のそれとは形が違うが、立派な乳も持ってんだ。少々、着崩せば色っぽくなるぜ」 ニヤリとする政宗を少し見下ろす格好で、元親は半眼となった。漆黒の髪に細いあご。白い肌に切れ長の瞳が、そこにある。「俺よりも、政宗の方がよっぽど似合うと思うぜ」 整った顔立ちに、右目を覆う鍔形の眼帯が凄みを与えている。細くしなやかな筋肉をまとう政宗の方が、むっちりとした偉丈夫である自分よりも見栄えがいいだろうと、元親は美麗な顔を見た。政宗はひょいと眉を上げて、眼帯に隠れていない元親の右目と視線を合わせる。「女の格好をした俺に、抱かれてぇのか?」「んなっ」 元親の肌が赤くなる。クックと喉を鳴らした政宗は、わななく元親の唇に顔を寄せた。「普段は何でもあけすけなくせに、こういうことになったら初心なLadyみてぇになっちまうアンタに、似合わないはずは無ぇだろう」「――なんでぇ、そりゃあ」 唇を尖らせた元親の目が、切なげに光る。求める唇に唇を寄せた政宗は、元親の白銀に輝く髪に指を絡ませた。「アンタに似合いのかんざしでも、探しに行くか」 それとも、と元親の耳朶に政宗の歯が当たった。「このまま、俺と……」「政宗殿ぉおっ!」 雰囲気を突き破るように、スパァアアン、と勢いよく襖が開かれた。「おわぁあああっ!」「Oh」 元親が大声をあげて飛びすさり、政宗が片手で顔をおおう。突然の訪問者は、くるくると丸い少年のような瞳を、さらに丸くして首を傾げた。「Ah、真田幸村」 政宗が訪問者を手招く。幸村は室内に進み、政宗に手のひらで指示されるまま襖を閉じた。「突然、何の用だ」「家康殿が共に茶を喫せぬかと申され、某、貴殿を呼びに参ったのでござるが」 ちらりと幸村が、部屋の隅で背を向け丸くなっている元親に目を向けた。「お客人がござったか。失礼致した」 ペコリと頭を下げた幸村は、いつもと様子が変わらない。接吻をしていた所を見られたわけではなさそうだ。「おい、元親。家康の茶の誘いだとよ。どうする」 丸くなっていた元親の背が、ピクリと震えた。そっと振り向いた元親に、幸村が目をぱちくりさせた。「なんと。大柄な女性(にょしょう)と思うたは、長曾我部殿でござったか」「アンタ、どんな目ン玉してんだよ」 あきれる政宗の呟きが聞こえていないのか、幸村はスタスタと元親の元に寄り、にっこりとした。「家康殿が、茶を共にと申されておられまする。元親殿もいかがでござろう」「……アンタ、俺がこんな格好してんのに、なんとも思わねぇのかよ」 羞恥から、拗ねたように唇を尖らせた元親をまじまじと見た幸村は、何の含みも無い笑みで言った。「元親殿は、肌が白くお顔立ちも整っておられるゆえ、よう似おうておられまする」「へぁっ?!」 予想外の返答に真っ赤になった元親が、妙な声を上げた。政宗が吹き出し、幸村は不思議そうに二人を見比べた。「いかがなされた」「いや、なんでも……ああ、そうだ」 政宗が悪童の顔になる。元親が嫌な予感を浮かべ、立ち上がった。「おい、政宗」「ここだけの話だ。男の約束、守れるな」 元親の声を遮り、政宗が真剣な顔で幸村をにらんだ。すぐに武人の鋭い顔となった幸村が、硬くうなずく。「おい、政宗。まさか、言うつもりじゃねぇだろうな」 元親が政宗の傍に寄り、政宗は大丈夫だと示すように、軽く元親の肩を叩いた。「実はな」 声を低めた政宗に、幸村が引きこまれる。元親は心配そうに二人を見た。「元親は、女なんだ」 たっぷりと引きつける間を取ってからの発言に、幸村も元親も虚を突かれた。「その反応も、無理はねぇ。元親は普段から、上半身をさらしているしな。どっからどう見ても、見た目は男だ。――が、心は女なんだ」 反応ができない二人に、政宗は真剣な面持ちのまま続ける。「コイツは、幼い頃に姫若子と呼ばれていた。今はこんなナリで槍を存分に扱うが、昔は虫も殺せぬほどだった。そんな自分はおかしいと悩み、姫若子と呼ばれねぇようにと自分を鍛えた。だが、根本の心は変われねぇ。男らしくあろうとすればするほど、心に無理が出る」 すらすらと説明をする政宗に、元親はあっけにとられた。「そこで、平穏になった世でなら、無理をする必要は無ぇんじゃねぇかと思ってな。こうして女物の着物を着せてやってたってわけだ」「なんと。それでは、元親殿が誰にも打ち明けられぬ悩みを相談なされておったところに、某が無作法にも入ってしまったということにござるか」「Ah――だがまぁ、アンタなら誰にも言わねぇだろう? やっぱ、こういうDelicateな事は、理解されるまでに時間もかかるし、批判も大きい。今までのImageも、デカイしな」 きりりと眉をそびやかせた幸村は、理解したと無言で示して元親に顔を向け、頭を下げた。「元親殿に、そのような悩みがあるとは思いもよらず、某、貴殿の鍛え抜かれた体躯に憧れ、そのようになりたいと思うており申した。しかし今、葛藤により作り上げられたその姿こそ、元親殿の悩みの深さと受け止めた」「え」「ご安心くだされ。某、誰にもこの事は申しませぬ。政宗殿と某の前では、心のままに女性として振る舞われよ」「ああ、いや。あのよぉ幸村。そんな、無理して冗談に付き合わなくっても」「ごまかそうとなされなくとも、良うござるぞ、元親殿」 ものすごくいい笑顔の幸村に、戸惑う元親が政宗を見る。政宗は人の悪い顔をしていた。「まあ、そういう事だ。幸村、これは家康も知らねぇ話だから、気をつけてくれよ」「なんと! 家康殿と元親殿は、旧知の間柄と聞いており申す。その家康殿も存知やらぬ事柄でござったか」 今度は申し分けなさそうに眉を下げた幸村の、ころころと変わる表情に演技は見えない。元親は目顔で「どうすんだよコレ」と政宗に訴えた。「そんなわけで、せっかく着付けたんだ。家康の茶の誘いは遠慮しとくぜ。――ああ、そうだ。俺らで茶会をすることにしようか。受け入れてくれる相手がいるってのは、いいもんだぜ元親」 ニヤリとする政宗に、それは良うござるなと幸村が拳を握る。思わぬ展開にどう対処していいのかわからない元親は、呆然と成り行きを眺めた。「それじゃあ、何か茶と茶請けを用意してくる。幸村は元親と、庭でも散歩しておいてくれ。この庭先なら、誰も来ねぇだろうからな。ひきこもっているだけじゃ、Complexは改善されねぇ。自分で否定していたモンを、自分で受け入れてやんなきゃなんねぇぜ、元親」 妙な説得力を持つ発言は、政宗もそういう時期を経験したからだろう。じゃあなと手を軽く振って部屋を出た政宗を見送る元親に、幸村が手を差し伸べる。「それでは、庭にて政宗殿をお待ちいたしましょうぞ」「お、おう」 どうしたものかと困惑しつつ、いつもどおりに足を大股に出した元親は、裾に阻まれ膝を崩した。「おわっ」 倒れかけた元親を、幸村が支える。「ああ、悪ぃ」「なれぬ装いでは、致し方ござらぬ」 にこりとした幸村が、そっと元親の身を起こして庭に誘う。妙にドギマギとしつつ、元親は裾に足を取られぬよう、小股で庭に進んだ。「こちらへ」 幸村が先に庭に下り、靴脱ぎ石に草履をそろえた。「すまねぇな」 裾幅が狭いので、段を降りるのも所作がなれない。そんな元親を気遣ってか、幸村が手を差し伸べ、元親はその手をつかみつつ草履を履いた。「なんか、妙な心地だぜ」「今まで、男らしくあろうとなされておいでだったのだ。心根のままになさるは、とまどいもござろう」「ああいや、あのよう。あれは政宗の嘘で、別に俺ぁそういうんじゃねぇから」「他言は致さぬゆえ、心配無用でござる。元親殿」「いや、だって。変だと思わねぇのかよ、アンタ」「元親殿は所作の端々が美しゅうござるゆえ、なるほどそのような理由でござったかと、腑に落ちてござれば、いささかも不思議ではありませぬ」 ぽかんとする元親に、幸村は何の含みも無い笑みで言いはなった。「政宗殿のお見立てでござろう? その着物、よう似合うておりまする」 元親の満面に血が上った。心臓がバクバクとし、何故か下肢がキュウッと切なく震える。「アンタは、その、そういう事が苦手だと思っていたんだがな」 元親が赤い顔を背けた。「そういう事とは?」「女の扱いっつうか、なんつうかよぉ」 納得したように、幸村は目を細めた。「某とて、男(おのこ)にござる。女性をどのように労わるかは、さまざまな方が鍛錬以外の場でお教えくださる。守るべき者として、立派に振る舞えてこそ、真の武人であると」 大真面目な幸村に、元親は感心と呆れを同時に浮かべた。「なれど、なかなかそのようにはできませぬ。こう言っては失礼かと存じまするが、元親殿ゆえ、できるのではないかと」 頬を掻く幸村に、元親の胸が甘く絞られた。これは何だと思うが、悪い気持ちではない。「元親殿は、心根のままに振る舞うため。某は、真の武人たる振る舞いを身につけるため、お互いに精進することができれば、ありがたく存ずる」「……おう」 さわやかな幸村の様子に、元親は否定をすることも忘れてうなずいた。 幸村は元親を女として扱い、元親はぎこちないながらも、普段とは違う所作を返した。それを、茶と茶菓を持って戻った政宗は、ほんの少しの悪戯心を笑みに含めてながめた。 のんびりとした時間を過ごし、幸村が辞してから、元親はホッと息を吐く。「ずいぶんと、楽しそうだったじゃねぇか。元親」「一番楽しんでいたのは、ソッチだろう? 政宗。ったく、とんでもねぇ相手を騙したもんだぜ」「否定をせずに、女扱いされてたじゃねぇか」「それぁ……」 ふ、と元親が床に目を落とす。目じりが朱に染まっていた。政宗は彼の頬に手を伸ばし、撫でた。「アイツに惚れたか」「なんで、そうなるんだよ」 あごにかかった政宗の手に促されるまま、元親は顔を上げる。切れ長の瞳に射竦められ、喉が鳴った。「ずっと、恥らう小娘みてぇな態度だったってぇ自覚はあるか?」「誰が小娘だ」「男を知らねぇ小娘みたいだったぜ?」「バカ言って……んっ」 政宗の唇が元親の声を塞ぐ。彼の舌先が元親の唇をくすぐり、促されるままに開いた元親の口腔に、政宗の舌が入った。「んっ、ふ、はんっ、んぅ」 丹念に口腔を探られる元親の手が、政宗の肩をつかんだ。膝を擦り合わせる元親に気付き、政宗が意地悪い光りを目に宿す。「いつもより、敏感じゃねぇか」「気のせいだ」「Don't lie」 政宗の手が元親の膝を割った。「あっ」「もう、濡れてんじゃねぇか」「ううっ」 しっとりとした元親の下帯は、ずいぶん前から先走りを滲ませていた事を示していた。「女みてぇだな」「うるせぇ……っ、あ」 政宗の指が下帯の中に入る。指先が陽根をなぞり、茂みを探った。「は、政宗……っ」「足りねぇってツラすんなよ」「ふっ、わかってんなら……っ、政宗」 元親が身をくねらせる。首筋に唇を当てた政宗は、襟元に手を差し入れ、逞しく盛り上がった胸筋を揉みしだいた。「女扱いされて、感じてたのか」「違っ、ん」「じゃあなんで、こんなに濡れてんだ」「はっ、知らねぇ、ぁん」「こっちも、こんなに尖らせてんじゃねぇか」「ひっ、ぁ、ばか、ぁあ」 尖りを指の腹で潰されて、元親が震える。「元親」 耳朶に触れた政宗の吐息があまりにも艶やかで、元親の腰が跳ねて疼いた。「は、ぁ、政宗っ……なぁ」 元親の瞳が潤んでいる。促す息を零す元親の口を吸い、政宗は彼の襟をくつろげた。「いつも、そんなふうに積極的ならいいんだがな」「うるせぇよ」 政宗の唇が元親の胸筋を這い、尖りを含む。チロチロと舌先で転がされ、元親は熱い息の塊を吐き出した。政宗の手は下肢を探り、元親の先走りをあふれさせる。「は、はぁ、あっ、政宗、んっ」「どうした?」「ううっ」 もどかしそうな元親に、政宗は意地悪く唇を歪めた。「こんなに濡らして。本当に女みてぇだ。どんどん先から溢れてやがる」「ぁ、も……なぁ、あっ、政宗」 腰を突き出し訴える元親に、政宗は気付かぬふうで愛撫を続けた。達せぬまま続けられる快楽に、元親が首を振る。「ふぁ、あっ、政宗ぇ、っ、う、もぉ、ぁ、ああ」「きちんとオネダリしてみな? pussy fiends」 元親が恨めしげに政宗をにらむ。余裕綽々の政宗は、意にも介さない。「どうした? 疼いて、仕方が無いんだろう」「ば、かやろっ、ぁ」「文句があるなら、やめるか」 元親が歯を剥き出して唸る。それに喜色を浮かべた政宗が、唇を押し付けた。「so cute」「ふっ、政宗」「Ah?」 恥ずかしそうに、元親が顔を背けて足を開く。「も、我慢ならねぇ」 下唇を噛む元親に目を丸くし、すぐにニヤリと目を細めた政宗が、低く唸った。「Ok kitty」 下帯が外され、元親の牡がぶるんと震えて先走りを撒き散らす。「おとなしくしろよ。しゃぶってやるから」「っ! なんでアンタはそう……っは」 政宗が牡にかぶりつく。わざととしか思えぬほど音を立て、元親の牡をしゃぶる政宗は、彼の先走りを使い奥の花を濡らした。「んはっ、ぁ、ああっ、は、はぁ、あう」 元親の足が快楽に泳ぐ。身をくねらせる元親の帯がゆるみ、盛り上がった胸筋があらわとなった。「ふっ、ふぁ、あ、政宗ぇ」「そんな声で呼ぶんじゃねぇよ。ほぐしてる最中だってのに、突っ込みたくなるだろう」「んはぁっ、も、いいからっ、ぁ」 潤んだ瞳で訴える元親に、政宗がからかう顔をした。「ずいぶんと、積極的だな」「んううっ」 牡を強く吸われ、元親が呻いた。緊張にふくらんだ元親の太ももを抱え、政宗が身を寄せる。「お望みどおり、くれてやるよ」 ずん、と重い衝撃が元親を襲う。「ひぎっ、ぁ、はぁおおおう」 内壁を抉り広げられ、元親の牡が弾けた。「ぁはぁああっ」「ふっ、……昇天するには、まだ早ぇぜ」「はひっ、はんっ、は、ぁあ、まさっ、ぁ、むねぇ」 痙攣する元親に余韻を味わう間も与えず、政宗は突きあげる。がむしゃらとも言える激しさに、元親は涙を流し政宗にしがみついた。「はひっ、ぁはぁあううっ、はひゅっ、ぁはうぉお」 全身で政宗の与えるものを受け止める彼の姿に、政宗の胸が熱くなる。「元親」「はんっ、は、はぁあっ、政宗っ、政宗ぇ!」 叫び求められるままに、政宗は元親に熱を注ぎ、彼の魂を染め上げた。 ぼんやりと身を横たえる元親は、着乱れた女物の着物を目に映す。少し離れたところで、政宗が片膝を立てて酒を舐めていた。 その横顔の、切先のような冴え冴えしさに、元親は胸を押さえる。自分の体に残る政宗の香りを感じ、胸が甘く絞られた。 視線に気付き、政宗が顔を向ける。「起きたか」「体、だりぃ」 ふっと政宗の口の端に、やわらかなものが浮かんだ。「ずいぶんと、乱れていたからな」「るせぇよ」 唇を尖らせた元親に、政宗が顔を寄せる。唇を重ね、肩に唇を押し付けた政宗に、元親は溜息をかけた。「なぁ」「ん?」「やっぱ、女がいいか」 元親は乱れた着物に目を向けた。鼻で笑った政宗が、元親の右目を唇で覆う。「そんな細けぇモンに、この俺が囚われるとでも思ってんのか」「政宗」「下らねぇ事を考えつけなくさせてやる」「っあ、ちょ……んっ」 衣擦れの音が、静かな夜にこだまする。2014/09/18