笑顔で軽卒とやりとりをしている青年の姿を、長曾我部元親は眉間にシワを寄せて眺めていた。「どうしたんスか、兄貴」 通りかかった男が元親に声をかける。 兄貴と呼ばれて振り向いたが、元親は彼の兄ではない。兄貴というのは、あだ名のようなものだった。隆々とした筋骨を纏い、人よりも頭ひとつふたつ分は抜きん出るほど長身の元親は、四国を束ねる領主であり、西海を跋扈していた海賊どもを腕っぷしでまとめ上げ、鬼という異名を取るほどの偉丈夫だ。そんな彼を慕うものたちが、年齢問わず元親を“兄貴”と呼んで、支持をしていた。「ん? いや、なぁんか家康の元気が、無ぇような気がしてな」 元親の目元に陰りが差す。すると、声をかけた男がゴクリと喉を鳴らした。 豪放磊落な性格と体躯に隠れているが、彼は海の男とは思えぬ、透き通るような白くなめらかな肌をしていた。色素が薄く、銀にも見える白髪の髪に、長い睫。整った鼻梁は繊細で、憂いを纏うとはかなげな色香が漂う。彼の左目を被う紫の眼帯が、元親の白い肌をよりいっそう、妖艶なものに見せた。「そ、そうっスか。俺には、いつもとおなじに見えますがねぇ」 男の動揺には気づかず、元親は家康と呼んだ青年に目を向ける。 徳川家康は、元親と比べれば小ぶりになるが、常人と比べると人一倍たくましい体躯をしている。凛々しい顔つきに、短く刈り込んだ黒髪。意思の強そうな眉をしているが、微笑むとすこし困っているような表情になるのが、母性本能をくすぐるという、清々しい若者だ。肌は健康的に焼けていて、まさにいまが青春の謳歌時という様相をしていた。「やっぱ、なんか様子が妙だよなぁ」 元親は顎をさすりつつ、身分問わず平等な笑みを浮かべて、あれこれと対応している家康を眺め続けた。 その夜。 元親は家康の寝所を訪ねた。「起きてるか」 声をかければ、すらりと襖が開いた。「元親。どうしたんだ、こんな時間に」「おう、ちょっとな」 邪魔するぜ、と元親が足を踏み入れると、家康はそっと襖を閉じる。元親は勝手知ったる様子で、どっかと腰を下ろした。その前に、家康が胡坐をかく。「なあ、家康」 ん? と家康が首を傾げる。その顔を、元親は前にのめって、しげしげと眺めた。「最近、元気が無ぇんじゃねぇか」「えっ」「昼間、なんか様子がおかしい気がしてよぉ」 他の連中に聞いても、いつも通りとしか言われなかったと元親が言えば、家康が苦笑する。「元親には、かなわないな」 膝元に視線を落とした家康は、色々と考えてしまって、寝つけないのだと告白した。「そいつぁ、いけねぇな」 睡眠は、生き物にとって大切な行為だ。不足をすれば体調に異常をきたす。若さと頑健さで少々の間は保つだろうが、長く続けば疲弊する。「酒でも、かっくらって寝ちまえよ」 付き合うぜ、と元親が言えば、それはできないと家康は返した。「酒の匂いをまとっていると、信用を失くすだろう」「ん? ああ、まあ……そういやぁ、そうか」 いかにも好青年という風体の家康が、酒の匂いを漂わせるというのは、心象が良くない。ならばどうするかと考えた元親は、何かの折に耳にした言葉を吐いた。「なあ、家康。おっぱい、揉むか」「……は?」「いや、だから……揉むかっつたんだよ」 なんだか気恥ずかしくなって、元親はわずかに目をそらしつつ、隆々と盛り上がった胸筋を両手で掴んでみせた。 薄い月光にしらしらと浮かぶ元親の目じりが、赤い。そこはかとなく漂う色香に、家康は思わず背筋を伸ばした。「いや、やっぱ、いらねぇよな。なんか、気が塞いでいる時とか、おっぱい揉むと落ち着ける、なんて言っている奴がいたからよぉ。それで言ってみたんだが……まあ、男の乳じゃあ――」「いいのか?」「へ?」「だから、その……揉んでも、いいのか? 元親のおっぱい」 家康が身を乗り出して、元親の顔を覗きこむ。元親はキョトンとまたたき、一拍遅れてから返事をした。「お、おう。もちろんだ」「ああ、ありがとう、元親」 花がほころぶような笑みを浮かべた家康に、自分が言ったこととはいえ、元親は戸惑った。そんなに喜ばれるとは、思ってもみなかった。だがまあ、これで家康の気持ちが落ち着くというのであれば、安いものだと元親は胸筋を突き出す。「好きなだけ、揉んでいいぜ」「わかった。ぞんぶんに、揉ませてもらおう」 家康の手が元親の胸筋を掴む。鍛え抜かれた白い肌に、褐色の指が沈んだ。「張りがあって、やわらかいな」「ヤワな鍛え方、してねぇからな」「スベスベして、気持ちがいい」「おう、そうかい。そいつぁ良かった」 家康がうれしそうなので、元親も笑顔になる。家康はグニグニと胸筋に指を沈めて遊ぶと、脇からすくい上げるように揉みしだいた。(こんなんで、機嫌が良くなるなんてなぁ) 家康は楽しそうに、元親の胸をまさぐっている。赤子の頃の記憶が、潜在的に残っていて、乳を揉むことで落ち着くという心理作用が働くのだろうか。「どうでぇ、家康。気分は」「すごく楽しい。元親は?」「俺か? 俺は別に、なんともねぇよ」 元親は腕の置き場に困り、後ろ手で床に手を着いた。斜めになった元親の上に、家康がかぶさるように身を乗り出す。「っ……」 家康の指が乳頭をかすめ、元親は喉に空気をひっかけた。家康は手のひらでまんべんなく、胸筋を撫でまわしている。指の節が乳頭を擦るたび、妙な心地が湧き上がった。「……っ、う」 甘い痺れを感じて、元親は家康に声をかけた。「なあ、家康。そろそろ眠ったほうがいいんじゃねぇか」「え……ああ、そうだな」 口元に笑みは残っているが、あきらかにシュンとした家康に、元親の庇護欲が刺激される。「添い寝してやっからよぉ」 ほらほらと元親が家康の肩を叩いて促せば、家康は力無く頷いて従った。 元親が先に横になり、家康を促す。家康は元親の胸乳の前に顔を寄せて、上目遣いに問うてきた。「元親。……その、もっと揉んでもかまわないか」「え? あ、ああ……思う存分、触っていいぜ」「ありがとう」 正味の礼に、元親は微笑んだ。家康の手が胸乳をまさぐる。胸の芯を揉み込むような仕草に、元親は淡い官能を覚えて壁に目を向けた。自分から言い出したことで、もう止めろとは言いづらい。家康はいずれ眠りに着くだろう。それまでは、何か考え事でもして、意識を逃がしておけばいい。「ふふ……」 家康の笑みが肌にかかる。元親は軽く息を詰めた。胸の先が痺れたような心地になる。家康の指が、乳頭を弾くように掠めた。そのたび、下肢に快楽が走ってしまう。(なんか、別の事……なんか、考えろ) 元親は意識をせぬよう、思考を巡らせようとするが、家康の指がプックリと膨らんでしまった場所にひっかかるたび、意識が乱される。足の間がムズムズとしてきて、元親は丹田に力を込めた。「家康」「ん?」「いや、その……そろそろ……飽きたんじゃねぇか」「飽きる? どうしてだ」「どうしてって、そりゃあ、なんだ……ずうっとおんなじ事をしてりゃあ、飽きるだろう」「おなじじゃないぞ、元親」 ほら、と家康が指の動きを変えた。下から上へと揉み込むように動く手指の股に、乳頭が引っかかる。指の間に挟まれて、思わず声を上げそうになった元親は、喉を締めて歯を食いしばった。「ほんとうに、手ざわりがいいな」「んっ、ぅ……」 乳頭の疼きは、もはや無視できないほどに高まっていた。元親は必死に唇を結んで堪える。「ああ、元親」 うっとりと家康がつぶやき、身を寄せてきた。家康の体が下肢を掠めて、元親は胴震いする。(やべぇ) 気持ちがいい。自分で思うよりも、足の間の短槍は育っていたらしい。ジワリと先が湿ったのを感じる。「元親」「ぅ……んっ」 決壊した元親の牡は、家康の指が乳頭を刺激するたび先走りを滲ませる。腰の辺りが落ち着かなくて、元親はモゾモゾと足を動かした。「どうしたんだ、元親」「ん? ああ、いや……なんでもねぇ」「そうか」 言って、家康が胸筋の谷に顔を埋めた。「フカフカしていて、いい心地だ」「そいつぁ……っ、良かった」 自分の胸を枕がわりにして眠るのなら、もうすぐ責め苦は終わるだろう。元親はあとすこしのガマンだと、自分に言い聞かせた。だが、家康はちっとも眠る様子を見せず、元親の乳を揉み続けている。(やべぇ……マジで、やべぇ) 元親はうっすらと汗をかいた。下帯が濡れて、牡の先端にまとわりついている。ピッタリとしたその心地が、微妙な刺激を生み出して元親を悩ませていた。「ぅ……んんっ」「どうしたんだ、元親」 胸の谷に顔を伏せたまま、家康が見上げてくる。「なんでもねぇ」「そうか」 家康はふたたび、胸の谷に顔を埋めた。かかる息がくすぐったく、それすらも淫靡な刺激に変わってしまう。元親は家康が早く眠りについてくれるように、祈った。 元親の願いむなしく、家康はちっとも眠る気配を見せず、乳揉みに飽きる様子も無かった。元親の下帯はグッショリと濡れそぼり、陰茎はギンギンにたぎってしまっている。「ん、ぅう……」 一撃を下肢に食らえば、達してしまいそうだ。そう思った矢先、家康が身じろぎをして、下肢が擦れた。「っは、ぁあ……っ!」 ビクンと震えて、元親は下帯をさらに濡らした。絶頂の恍惚に、ホウッと息を吐いてからハッとする。頬をひきつらせつつ顎を引けば、家康がキョトンと元親を見ていた。「あ、いやぁ、その、なんだ」 ごまかしようなど無かった。ソコを見られなくとも、匂いでバレている。冷や汗をかく元親に、家康はニッコリとした。「ワシと、おあいこだな」「へっ?」 起き上がった家康が着物を脱ぎ、下帯を解いた。ブルンと元気に、天を向いた陰茎が現れる。「ワシはイッてはいないが、元親の乳を揉んでいたら、こうなってしまった」 はにかむ家康を、元親は呆然と見た。「元親」 淫靡な気配を滲ませて、家康が圧し掛かる。「うえっ、あ……家康、ちょ」 家康は元親の着物の裾をくつろげ、下肢に顔を寄せた。「下帯がグショグショだな」「うっ」 元親は羞恥のあまり、白い肌を薄桃に染めた。「イッたというのに、下帯が盛り上がっている。溜まっているんだな」「へっ?! 家康、ちょ……おいっ、何……ぁあ」 グイと下帯をずらされたかと思うと、家康はためらいなく元親の陰茎にかぶりついた。ジュウジュウと吸われて、元親の四肢が強張る。「っあ、家康……っ、は、何を、し……っ」「なにって……元親の魔羅をしゃぶっているんだ」「しゃっ……!」 臆面も無く言ってのけた家康は、先端を舌先でくすぐりながら根元を扱き、蜜嚢を揉んだ。あまりの心地よさに、元親は膝を開いて快楽を招く。「はっ、はぁ、あ……っあ、ふぁあ」 達して間も無いというのに、二度目が来そうだ。元親は家康の髪に指を沈めた。それを催促と受け取ったらしい家康が、口淫を激しくする。「はひっ、ぁ、も、ぁ、家康っ、でるっ、ぁ、でるから……顔っ、ぁあ」 このままでは、彼の口内に放ってしまう。そう言っているのに、家康は口を離すどころか、ますます食らいついてきた。「はっ、はぁあ、でるっ、ぁ、もぉ、でるぅ、でるっ、でっ……あぁああああっ!」 腰を突き出し、元親は二度目の絶頂を迎えた。それを助けるように、家康が強く吸い上げる。「はふぅうん」 あまりの心地よさに、元親は犬が甘えるような声を出して、うっとりと弛緩した。「元親」 家康の手が元親の頬に触れる。顔が重なり、舌を差し込まれ、広がった味に元親は恍惚の余韻から冷めた。「いっ、家康……悪い」「何を謝っているんだ」「いや、だってよぉ……その」 口の中に出してしまって悪かった、とは言えない。元親がモゴモゴしていると、家康は元親の鼻先に口づけて離れた。「家康?」 半身を起して呼べば、家康は小さな壺を手に戻ってきた。「なんでぇ、そりゃあ」「ワシが元親の子種を飲んだように、元親にもワシの子種を飲んでもらおうと思ったんだ」「のっ……飲んだのか」 元親の満面が朱に染まる。家康はニッコリと肯首し、元親の腰を掴んでひっくり返した。「うえっ? ……ひっ、あ」 うつぶせにされたと思うと、股間を握られる。思わず尻を突き出すように持ち上げれば、家康の手が尻にかかった。「元親には、こちらでワシを飲んでもらおう」「飲んでもらおうって……まさか、ちょ……家や……っあ」 トロリと尻の谷に冷たいものが垂らされる。「丁子油だ」「ぁ、なんで、そんなモン……っ」「濡らさなければ、ほぐれないし痛いだろう」 武器を持たぬ家康に、刃物の手入れに使う丁子油は必要無いだろう、という意味で言ったのだが、家康は違う解釈で返答をした。彼の言葉に、元親は頬をひきつらせる。「ほぐすって……」「ここに、ワシを入れるんだ」「ぁひっ」 秘孔に指を突っ込まれ、元親は妙な声を上げた。家康の指がグニグニと内壁をかき混ぜる。「ぁ、あっ、なんっ……こ、んな……あぁあ」「何って……元親から誘ってくれたんだろう?」「誘うって」「おっぱいを揉んでいいということは、そういうことじゃないのか」 情事の誘いだと、家康は受け取ったらしい。「ふっ、違……」「違う? じゃあ、何だったんだ」「元気が無ぇから、なぐさめようと……っあ」「それなら、ワシをココに受け入れてもらえるのが、一番のなぐさめだ」「んぁっ、ばか、ぁ、そんな広げ……っは、ぁあ」 家康の指が元親の秘孔を探り、タップリと丁子油を塗りつけてふやかせる。二度も絶頂を迎えたのに、元親の陰茎は元気を取り戻し、先走りをにじませた。「はは。すごい体力だな、元親は。さすがだ」「はふっ、ぁ、ああ」 パクリと蜜嚢を食べられて、元親は背をそらした。唇で蜜嚢を揉まれながら秘孔を広げられ、元親は涙目になりながら声を上げた。「ぁあ、家康ぅ、家康っ、も、もぉ、やめてくれ……こんなつもりじゃ……」「気持ちよくないのか? 元親」 グリンと内部で指が回った。「ひぅっ……あ、気持ちいい……っ、けど」「なら、いいじゃないか。お互い、気持ちよくなって、スッキリとした眠りに着こう」 指が抜けて、元親はホッとした。が、腰を掴まれ硬いものを尻に擦りつけられて、緊張する。「元親、いくぞ」「っ、マジでか、家康……だめっ、ぁ、あぐっ、ぅお、おふぅう」 ズブズブと家康が沈んでくる。指とは比べ物にならない質量と硬さに、元親はうめいた。「ぁ、あはっ、は、ぁあおぅう」 キュンと尻が締まり、エクボを浮かべる。「ああ、元親。すごく、気持ちがいいよ」「はふぅ、ぁ、いえや、すぅう」 元親の背にくっついた家康の手が、胸乳を掴んだ。揉まれながら小刻みに突きあげられる。「ぉふっ、ぁ、はぁあう、ふっ、ぁあう」「ああ、元親……すごい、キュウキュウ締め付けてくる」「んっ、んふぅう……ぃえやすぅう」 揺さ振られるたび、元親の陰茎が揺れて先走りを巻き散らす。滾った牡は、昇り詰めたいと主張していた。「はっ、はぁあ、はぅおおぉうん」 本能に促された元親は、体をゆすった。家康がその律動に合わせて腰を振り、元親の乳頭を摘む。「んはぁあっ」 胸乳に走った快感に、元親の肉壁が締まった。家康の陰茎を強く絞れば、擦れる刺激が強くなる。「ああ、元親……すごく、いいな」「んはっ、ぁはんっ、はんっ、ぁ、家康ぅ……っ、は、はぁおおうっ、おふぅう」 刺激が足りない。元親の頭の中で、その言葉が点滅していた。けれどそれを言うわけにはいかないと、必死に堪えていたのだが、ガマンにも限度がある。元親の陰茎は、これ以上はもう無理だと本能に訴え、理性を破壊した。「っは、ぁあ、家康ぅ、ぁ、ああ」「ん? どうした、元親」 うなじにかかる家康の呼気が熱く、荒い。それが元親を促した。「もっとぉ、ぁ、もっと……イキてぇから、ぁ、は、もっとぉお」 刺激が足りない。陰茎を弾けさせるほどの快楽が欲しい。「わかった。ワシも、もう限界だ」 家康が身を起こし、元親の腰をしっかりと掴んで、縦横無尽に勇躍した。「ぁひっ、あはぁあおうっ、おおう、おふぅううっ、ぁ、が、ぁおおうっ、おほぅう」 あまりの突きの激しさに、元親は獣の遠吠えのような声を発した。肉壁が爛れそうなほど、熱く激しく刺激され、体の隅々にまで快楽が行き渡る。「あっ、あはぁおおぅっ、おんぅうっ、おふぅ、は、ぁおおう」 元親がねだるように体をゆすれば、家康はさらに激しく攻め立てた。口を大きく開き、遠吠えを続ける元親の目が淫蕩に濁る。「元親……イクぞ……っく、ぅう」 苦しげに呻いた家康が、元親の内部に子種を注いだ。熱の波を受けた元親は目を見開き、背をそらしてひときわ高い声を上げる。「ぁ、あはぁああああ――っ!」 声と共に子種を吐いてブルリと震え、弛緩する。淫蕩の余韻に肌を震わせる元親から家康が抜け出た。「んぁっ」 小さく呻いた元親の唇に、家康の唇が重なる。「元親」 うっとりと微笑む家康が、元親を抱きしめる。満ち足りた家康の様子に、元親の胸がホッコリとした。「元親」 ギュウッとしがみつかれ、元親は気だるさを押して家康に腕を回した。相手の体温が心地いい。多好感を覚えた元親は、そのまま眠りに引きこまれた。「兄貴ぃ。今日の家康さん、なんだか機嫌がよくないっスか」「そうかぁ? いつも通りの家康だろ」 そうかなぁ、と首を傾げる男のいう事は正しいと、元親は胸中でつぶやく。深く静かな眠りを得た家康は、さわやかな顔で目覚め、照れくさそうに「おはよう」と言った。とんでもなく慮外の出来事に見舞われたが、当初の目的は達成された。結果良好というところだろうと、元親は何かが挟まっているような心地のする尻に、力を込める。そうしていないと、なんだか落ち着かないのだ。(まあ、俺も気持ち良かったしな……うん。まあ、いいか) 満ち足りた家康の笑顔に、元親の心も和んだ。双方ともに心地よさと安眠を得られたのだから、文句のありようが無い。(けど、まさか俺が掘られる側になるとはなぁ) 家康は、もとからそういう対象として、自分を見ていたのだろうか。それとも、元親のあの発言があってから、そういう意識を向けたのか。(なんにせよ、軽々しく言っちゃあいけねぇ言葉だってぇのは、よくわかった) 誰かが落ち込んでいても、冗談半分に言ったりはしないでおこうと、上機嫌な家康を眺めつつ、元親はあたたかみのある苦笑を浮かべた。2015/08/29