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無沙汰

 毛利元就は、機嫌が悪かった。端麗な眉をひそめ、いらだたしげに中空をにらみすえている。小柄で細身。鋭い顎に絹のような髪を添わせる神経質そうな彼が、全身からピリピリとした空気を放っているときは、そっとしておくに限ると、毛利軍の面々はわかっている。声をかけられるまでは、なにもせずにいようと、誰もが見て見ぬふりをしていた。けれど元就の耳に入らぬところで、原因はなんだろうかという話をしていた。
 その中で上がる不機嫌の原因と思われるものは、異口同音だった。ちかごろ、西海の鬼と呼ばれる偉丈夫、長曾我部元親の訪れがない。暇さえあれば、一国一城の主とは思えぬ気軽さで、土産片手に顔を出してきた。それが、ぱたりと途絶えている。うっとおしそうにしていながらも、元就が元親の訪れを楽しみにしていることは、誰の目にもあきらかだった。不機嫌の理由は、おそらくそれだろう。
 気になるのであれば、元親を訪ねるか招くかすればいいのだが、そんなことをする元就ではない。なので待つ身の苛立ちを、纏い続けているのだろう。
 そんな彼等の予想は、当たっていた。
(なにをしておるのだ。長曾我部め)
 元就は胸中で吐き捨てるように呟いて、はるか遠い海の向こうをにらみつけた。

 それから数ヵ月後、無沙汰の影もなく、昨日も訪れたといわんばかりの気楽さで、ヒョイと元親が顔を出した。白銀の髪に、血の色が透けるような白い肌。人よりもふたつぶんほど抜きん出た長身の彼は、鬼の異名にふさわしい隆々とした体躯をしている。それが人なつこい、童子のような笑顔を浮かべて
「毛利ぃ、いるかぁ」
 と、のんきな声を上げたものだから、元親の不機嫌がいつ爆発するのかと、恐々としていた面々は胸を撫で下ろし、当の元就はコメカミに苛立ちのヒビを走らせた。
(長曾我部め。我を不快にした罪、贖わせてくれよう)
 元就はそっと、南蛮渡来の薬を取り出し、手近な者に命じて元親に出す菓子の用意を急がせた。
 元就がたくらみごとをしているとは、つゆほども思わずに、元親は勝手知ったる足取りで、元就の居室である離れへ向かった。
「よお、毛利」
 声をかけながら障子を開けた元親に、元就は切れ長の目をさらに細めた。手入れの行き届いた刃物の切先のように鋭い視線を、元親はさらりと受け流す。
「あいかわらず、ひきこもってんのかよ。たまには外に出ちゃあどうでぇ」
 ニコニコとしながら、元親が元就の前にどっかと座る。
「上天気だぜ。そのへん、ブラブラしに行かねぇか」
「貴様の無駄にうるさい声が聞こえたゆえな、茶菓を用意させておる。その者の労力を無にすることもあるまい」
 元親は意外そうに目を丸くした。
「俺を歓迎しようってのか」
 うれしげな元親に、元就は鼻を鳴らした。
「いちいち手土産を城内の者等に配り歩かれては、返礼のひとつもせねば気が済まぬという者も、おるゆえな」
「そうかい、そうかい。毛利が、俺をもてなしてくれるとはなぁ」
 ふんふんと顎を撫でながら、満面を悦びに崩す元親に、元就は顔をしかめた。
(勝手に、勘違いをしておればよい)
 いちいち訂正をする必要もない。機嫌よくさせておいて、仕込み茶菓をぞんぶんに食らわせてやろう。
 元就は気のない様子で、元親の訪れが途絶えていたのは、奥州に出かけていたからだという話を聞いた。ずいぶんと楽しそうな元親の口ぶりに、腹立たしさが湧き上がる。むろん、元親がどこに行っていたのかは、諸国に斥候を放っているので知っていた。だが、居場所を知っているのと、本人の口からずいぶんと楽しく過ごしていたと聞くのとは違う。元就は早く仕込み茶菓を運んで来いと、心中で部下に命じた。
 ほどなくして、できたての蒸し饅頭と茶が運ばれてきた。山盛りにされた饅頭に、元親が鼻をうごめかす。
「なんか、花みてぇな匂いがするな」
「異国の酒を使った、酒饅頭ゆえな」
「へえ」
 いただきます、と元親が饅頭をわしづかむ。運んできた者は、複雑な顔をして一礼し、ピッタリと障子を閉めて去っていった。
「ふうん? ……なんか、変わった味だけど、うめぇな」
「そうか。遠慮せず、食すがよい」
「毛利は、食わねぇのか」
 元親の疑問に、妙に思われては困ると、元就もひとつ食べた。
 ほんのりと体の奥が熱くなる。
(ひとつでこれであれば、効果は上々となろう)
 元就は、ほくそ笑んだ。
「けっこう、強ぇ酒なのか。なんか、熱くなってきたな」
 ガブガブと茶を飲む元親に
「異国の酒ゆえ、体が慣れておらぬのやもしれぬな」
 元就はサラリと答えた。
「そうか」
 そういうものかもしれないと、元親は深く考えず、急須を掴む。
「茶が足りぬか」
「ん。なんか、すげぇ喉が渇く」
「飲み干して、かまわぬ」
 むしろ飲み干せと、元就は元親の白い肌が、桃色に染まるのを眺めた。茶にも薬を仕込ませている。食べれば食べるほど、飲めば飲むほど飢えて渇く。そういう触れ込みの通り、元親は次々に饅頭と茶を喉に通した。
「は、ぁ……」
 食べ終えた元親が、腹の上に手を置いて吐息を漏らす。その目は潤み、上気した肌はなまめかしい薄赤に染まっていた。
「毛利、あのよ」
「なんだ」
「ん……いや、ちょっと、酔っ払っちまったみてぇでよ。便所、借りてくるぜ」
 よいしょと立ち上がった元親に、元就はスイと近付き、誇るように晒されている彼の胸筋に手を伸ばした。
「それは本当に、酒酔いか?」
 指先で乳頭の色づきをなぞれば、元親がビクリと震えて膝を折った。
「っあ」
 鼻にかかった声を上げた元親が、薄く開いた唇から浅い呼気を漏らす。
「どうした、長曾我部」
 膝を着いた元親を、元就は薄い笑みを浮かべて見下ろした。
「……毛利ぃ」
 胸を押さえてあえぐ元親が、困惑を示す。彼の顎に指を添え、喉をくすぐりながら顔を近付ければ、元親はうっとりと目を細めた。
「もの欲しそうな顔をして、どうした」
 クスクスと元就が元親の鼻先に息をかければ、小刻みに震えた元親が悔しそうに顔をゆがめる。
「一服、盛りやがったな」
「なんのことか、わからぬな」
 歯を食いしばりにらんでくる元親に、元就は高揚した。
「どうした」
 しばらく元就を睨んでいた元親だが、観念したらしい。目じりを赤くして目をそらし、ボソリと言った。
「体が、疼いてしかたねぇ」
「だから、なんだ」
「……わかってんだろ」
「わからぬな」
「鬼畜かよ」
「鬼は、貴様だろう」
 ううっと唸った元親が、元就の腰にしがみついた。
「どこもかしこも、たまんねぇ。……だから、抱いてくれ」
 苦しげに求められ、元就の嗜虐心がくすぐられる。
「ならば、不要なものを取り去り、準備をせぬか」
「え」
「抱いて欲しいのならば、我が手間を省くよう、行動せよと言うておる」
 元就は冷ややかに、自分よりもふたまわりは大きな体躯の情人を見下ろした。元親はしばらく元就を見あげ、彼が本気であると知ると、渋々と着物を脱ぎはじめた。元就は、ゆったりと腰を下ろしてそれを眺める。
「脱いだぞ」
 羞恥からか、ぶっきらぼうに唇を尖らせる元親の体には、下帯だけが巻きついていた。
「なあ、毛利」
 床に手を着き、這ってきた元親が元就の首筋に顔を擦り寄せる。
「触れてほしいか」
「……してくれよ」
 甘えた掠れ声で、元親が唇を求める。大型犬にじゃれつかれているような格好で、元就は口を吸い、盛り上がった胸筋の尖りを指先でからかった。
「んっ、ふ……ぅ、う……」
 元親が舌を伸ばし、催促する。元就は応えながら彼の口腔を舐り、乳頭を弾いた。
「ふはっ……毛利ぃ」
「なんだ」
「わかってんだろ」
 腰を揺らめかせる元親が、元就に圧し掛かる。
「もっと、いつもみてぇにしてくれよ」
 言いながら、両手で自らの盛り上がった胸筋を揉んだ。
「なあ」
 指の間から乳頭を覗かせて迫る元親に、元就は口辺を楽しげにゆがませた。
「弄って欲しいか」
「ん……弄って、吸って欲しい」
「望むのであれば、まずは自らが相手に与えるべきではないのか」
 頬を膨らませた元親が、文句を飲み込み元就の着物に手をかけた。丁寧に布を剥がせば、しなやかな肢体が現れる。元親は薄い元就の胸に顔を擦りつけ、乳頭に舌を伸ばした。
「っ、は、毛利ぃ」
 腰を揺らめかせて甘える元親が、元就の下帯を解いて股間に顔を埋める。
「んっ、ん……毛利、はぁ……なぁ、毛利ぃ」
「なんだ」
「なんだじゃねぇよ……っあ」
 股間にじゃれつく元親の髪を、元就の細く長い指が撫でる。それだけで元親は、心地よさげに目を細めた。
「毛利ぃ」
 催促に、元就はやれやれと嘆息した。
「長曾我部。顔を上げよ」
 命じれば、トロリとした目で元親が顔を上げる。元就は口を吸い、両手で彼の乳頭を刺激した。
「ふっ……んっ、はぁ、毛利ぃ、ぁ、あ」
 うっとりと嬌声を漏らす元親が、元就の頭をつかんで胸に押し付ける。
「毛利ぃ、なぁ、もっと……そんな、ハンパなやり方じゃなくてよぉ」
 身をくねらせる元親に、元就はめんどうくさそうに鼻を鳴らした。
「欲しいのならば、それなりの態度をせよと、先ほども言うたはずぞ」
「してんだろぉ」
 なあなあと身をよじる元親の乳頭を、元就は思いきりつねった。
「ぃひぃいっ!」
 甲高い声を上げて、元親がのけぞる。
「してほしくば、仰向けになるがよい」
 従った元親の上に、元就は馬乗りになり、両手で乳頭を転がした。
「ぁはっ、は、ぁ、ああ……毛利ぃ、ぁ、ああ」
「心地良さそうな声だな。長曾我部」
「ふっ、ぁ……きもちぃ、なぁ、もっとぉ」
「もっと、なんだ」
「乳首ぃ、もっと弄ってくれよぉ」
「奥州では、誰にもされなんだのか」
「ふぇ?」
「これほど淫乱な体をしておりながら、無沙汰で済むはずがなかろう」
 元就にとっては、ただの嫌がらせの発言だったのだが、元親はそう取らなかった。にやぁ、と唇を広げて元就の後頭部をつかみ、唇を寄せる。
「なんだよ。嫉妬して、媚薬を盛ったのかよ」
「なにを言っている」
「は……そんな小細工しねぇでも、素直に来りゃあいいだろう」
「だから、なにを」
 言いかけた元就は、元親が完全に一人合点していると気づいた。こうなれば、もうどんな弁明も聞く耳を持たない。それならば彼の思うように、都合よく考えさせているほうが得策だ。
「素直に、とはどのようなことだ」
「ったく。普段からひねくれてっから、こういう方法になるんだろ」
 しかたねぇなぁと喜色満面で呟かれ、元就はムッとした。元就を乗せたまま、元親は難なく起き上がり、勝手にそこらのものを漁って丁子油を見つけ出した。
「ほら、毛利。これで、俺の体の隅々まで調べろよ。口で浮気をしてねぇって言うよりも、信用できるだろ」
 それに、と元親は照れくさそうに頬を搔いた。
「薬のせいもあるけどよぉ……俺だって久しぶりで、すげぇシてぇし」
 にやけそうになるのを必死で堪え、体中を真っ赤にする元親に、元就はポカンとした。彼の勘違いに乗った結果は、思う以上だった。元就は丁子油を手に、艶然と微笑んだ。
「ならば、その邪魔な布を取り去り、自ら足を広げて我に見せよ」
「うえっ?! そんな恥ずかしいこと、できるかよ」
「ほう? ならば、先ほどの言葉はウソだったか。長曾我部よ……調べよと言うのであれば、調べやすくするは道理であろう」
 グッと息を呑んだ元親が、ええいとヤケクソで下帯を脱ぐ。臍につきそうなほどに反りかえった陰茎が現れた。
「これでいいかよっ」
 大の字に寝転がった元親に、元就は落胆に首を振った。
「なんだよ。これでいいだろ」
「調べる箇所が、見えぬだろう」
 元就が足先で元親の膝をつつけば、元親がわなわなと唇を震わせた。
「どうした。長曾我部」
「ぐっ、う、うう……くそっ」
 顔を真っ赤にして、元親が自分の膝を抱えて体を丸める。
「これで満足かよ」
「はじめから、そうしておれば良かったのだ」
 元就は元親の尻の前に座して、もう少し尻を上げろと命じる。元親は歯を食いしばって従った。
「いまさら、羞恥をすることでもあるまい」
「うるせぇ。何度やっても、恥ずかしいもんは恥ずかしいんだよ」
「鬼には必要のなきことよ」
 元就は丁子油を元親の尻に垂らした。ビクンと尻が震える。それを宥めるように両手で包み、秘孔に指を押し入れた。
「ひっ、ぅう」
 刺激に、元親の陰茎が震える。元就は目を細め、もどかしいほど緩慢に秘孔を探った。
「はっ、ぁ、あ……毛利ぃ、なぁ、毛利」
「なんだ。うるさい」
「ううっ、そんな、じっくりしねぇで……さっさと広げて、ぶち込めよぉ」
「品性の欠片もない物言いをするのであれば、はじめからそのように振る舞えばよかったではないか」
 元就は指にすがる元親の媚肉を楽しんだ。蠕動するそこは、刺激を求めて元就の指を奥へと望む。乱雑に搔き回されたいのだろうとわかってはいたが、そうする気はなかった。
「ぁ、ああ、毛利ぃ……意地悪すんなよぉ」
「調べよと言うたは、貴様であろう」
「そ……ぅだけど、よぉ……っは、こんな、ぁ」
 ブルブルと元親の陰茎が震えている。元就は爪の先で先端から根元までをなぞった。
「んはぁああっ」
 うっとりと元親が背をそらす。そのまま根元を、猫の喉をあやすようにくすぐれば、元親が喉を鳴らした。
「獣そのものよな」
「はふっ、はんぅう、ぁ、毛利ぃい……は、はぁあ」
 舌を覗かせ、だらしなく身を揺らす元親に、元就の陰茎も痛むほどに張りつめる。繋がる箇所は十分に解れてはいないが、いままでの苛立ちをぶつけるには丁度いい責め苦だと、元就は指を抜いて自身を秘孔にあてがった。
「は……毛利ぃ」
 元親が元就の背に腕を回す。それに促され、元就は身を沈めた。
「ぁがっ、ぁ、あは、あ……ああっ、く、ぅう」
 元親が苦しげにうめき、元就は狭さに顔をしかめた。根元まで差し込むと、秘孔は逃さぬと言うように元就をガッチリ咥え込む。
「は、ぁあ、あ……は、はふ……んぅう」
 元親が腰を揺らす。元就は目の前にある彼の胸乳に唇を寄せ、尖りを吸いながらユルユルと突いた。
「はっ、はんっ、ぁ、毛利ぃ、ぁ、はぁあ」
 恍惚の声で元親が求める。元親は腰を突き上げ、張りつめた陰茎を元就の腹でしごいた。元就はそれを助けるように、体を押し付け熱を穿つ。
「んっ、はぁ、毛利……足りねぇ、く……ぜんっぜん、足りねぇっ!」
「なっ」
 元親が吼えて、体を回した。上下が逆になると、元親は腕を突っ張り激しく体を揺すった。
「ぁはっ、ぁ、ああっ、ふ、んぅうっ、く、ぁあ、きもちぃ、ぁ、毛利ぃ」
「くっ、長曾我部……勝手をするでない」
「んんっ、薬を盛った、アンタが悪いんだろぉ……はっ、ぁ、ああ、いいっ」
 勇躍する元親の肌から、汗がしたたり元就にかかる。元就は自分の上で乱れ狂う鬼の胸乳に手を伸ばし、いじくりながら彼を眺めた。
「ぁはっ、はぁあ、いいっ、あ、毛利ぃ、いいぁあ、はっ、ぁ、あぁあ、あっ、ふぁ、あぁあああぁあ……ッ!」
 ブルッと震えて、元親が極まる。締まった媚肉に促され、元就も弾けた。
「はふっ、ふぅう……毛利ぃ」
 くたりと力を抜いた元親が、元就に抱きついて甘える。元就は迷惑そうな顔をしつつも、彼の髪を指で梳いた。
「はぁ……毛利ぃ、もっかい。今度は、ちゃんとアンタが上で突いてくれよ? そん次は、後ろから……な」
 元就の耳朶に、元親の甘え声が絡む。
「獣か、貴様は」
「なんだよぉ。久しぶりな上に、媚薬なんざ飲ませたアンタが悪いんだろ? とことん、付き合ってもらうぜ」
 頬に唇を寄せてくる元親に、元就はここ数ヶ月の苛立ちを拭われた。
「知性も理性も持ち合わせぬ鬼め……我が熱で退じてくれようぞ」
「ぅん……毛利ぃ」
 こっそりと床下で様子を探っていた元就配下の者は、これで張りつめていた城内の空気が元に戻ると、ほっと胸を撫で下ろした。
2015/09/18



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