「あーあ。今回も、景気よく素寒貧かぁ」 さほど落胆してはいない口調で、少年から脱したばかりと思しき青年が、ぼやきながら頭の後ろで手を組みながら歩いていた。 体にぴったりとした衣装は赤と桜の鮮やかな色味をしており、こげ茶の髪のひと房は真紅に染められている。防具を着けているところから、侍であろうと推測できるのだが、彼の纏っている軽やかな雰囲気からは、戦という血なまぐさいものは連想しにくい。「はぁ。なぁんか、面白ぇことにぶちあたんねぇかなぁ」 ぶらぶらと彼が歩いているのは、長曾我部軍の誇る海上要塞・富嶽の船倉だった。同盟中のここに、使いとしてやってきてそのまま、止め置かれている。「三成様、早く帰ってきてくんないかなぁ。ここは楽しいし飯も旨いけど、やっぱ三成様がいないと、しまんねぇっつうか、だらけちまって……」 ぶつぶつと言っている彼の名は、島左近。豊臣軍の左腕と呼ばれる石田三成を崇敬し、その片腕になりたいと望んでいる男だった。堅物が多いと評判の豊臣軍には珍しい陽気な彼を、豪放磊落という言葉がそのまま規律になっているかのような、おおらかな長曾我部軍の面々は受け入れ、親しくしている。その境遇は楽しくはあるのだが、やはり自分は三成の役に立ってこそだと考えつつ、左近が適当にぶらついていると、船倉の廊下の先に、大きな背中が見えた。「おっ」 細身でしなやかな左近の筋肉を、倍にしても不足しそうなほど、みっしりとした筋肉を身にまとう大男。荒くれ者の多い長曾我部軍の面々から「兄貴」と慕われている、長曾我部元親が前を歩いている。「やっぱ、すっげぇよなぁ」 左近は口笛を吹かんばかりに、素直な感歎を述べた。「三成様とおんなじ、色白の銀髪だってのに、こんなに違うんだもんなぁ」 三成は無駄なものを全て削ぎ落とし、速さを鍛えた体躯をしている。対して元親は重厚な肉質をしており、上着を肩にかけて胸筋をむき出し誇ってしかるべしな、隆々とした豪快な体つきだった。「あの胸筋、いっぺん触ってみたかったんだよなぁ」 そうだ、と思いついた左近は、いたずらっぽく目を光らせて、元親との間合いを計った。床の具合を確かめ、足の筋肉の準備をする。ペロリと唇を舐めた左近は、ぐっと重心を落として親指で床を蹴った。「はぁっ!」 左近の体が空気を切り裂き、風が生まれる。「うおっ?!」 一瞬にして間合いを詰めた左近の手が、見事に元親の盛り上がった胸筋を掴んだ。驚き仰け反った元親の背中に張り付き、左近は得意げに鼻を鳴らした。「驚いたっしょ、長曾我部さん」「なんでぇ、島かよ。いきなり抱きついてきて、どうした。かあちゃんが恋しい年でもねぇだろう」「いやぁ。なんか、長曾我部さんの胸筋って、触り心地よさそうだなぁと思って。ってか、こんな簡単に背後を取られて、大丈夫っスかぁ」 ニヤニヤとする左近をくっつけていても、元親は少しも重たそうなそぶりを見せない。「聞いたぜぇ。うちの連中と、連日サイコロ振っているそうじゃねぇか。おおかた負け越しで、憂さ晴らしをしてぇって所だろう」「へっへぇ。その通りっス」「ま。女を襲うよりゃあ、いいわなぁ。俺の筋肉は、揉みごたえがあるだろう」 左近はギュウッと元親の胸筋に指を沈めて、弾力を確かめる。「すんげぇ、気持ちいいっス。けっこう、柔らかいんスね」「ガチガチに硬く鍛える奴もいるみてぇだがな」「へぇー」 言いながら、左近は指を動かす。手のひらに吸いつくように、キメ細やかな肌を揉む左近は、元親の肩に頭を乗せた。「はぁー。すっげぇ、クセになりそう」「はっはっは。まあ、石田じゃあ、こうはいかねぇだろう」「三成様だったら、背後に迫っただけで、一刀両断っスよ」「違ぇねぇ」 ケラケラと笑いを発しながら、左近は元親の胸筋を味わう。するとだんだん、妙な心地になってきた。心拍数が上がり、腰の辺りがムズムズしだす。「長曾我部さんって、肌、きれいなんスねぇ」「ん? まあ、海の男にしちゃあ、珍しいとは言われるな」 美醜に無頓着な元親は、振り向きつつ気の無い返事をした。左近は元親の顔を、息がかかるほど近くで見る。「唇もピンクで艶やかだし、まつ毛も長いんスね」「なんでぇ。女を口説こうとしているみてぇな言い様だな」 元親が軽い笑い声を立てた。左近は笑いもせずに見つめながら指先を動かし、乳頭を見つけてなぞる。ピクリと元親が小さな反応を示した。「左近?」「よおっく見れば、すっげぇ美形っスよね」 左近の息が、熱を帯びる。「お、おい……左近」 元親が頬をひきつらせれば、左近はニヤリとして乳頭を指で挟んだ。「うえっ?!」「賽を操る指先の器用さ、味わっちゃいません?」「ちゃいませんって……もうしてんじゃねぇか」「へっへぇ」 左近は指先で元親の乳頭を転がし弾きながら、胸筋を揉んだ。「っ、おい……左近」 元親が外そうとすれば、左近は乳頭を強く絞る。「ぁうっ」 元親が顎を仰け反らせる。それに鼻息を荒くして、左近は元親の尻に腰を擦りつけた。尻の割れ目に、膨らんだ左近が当たる。「ちょ、硬いモンが当たって……おいっ」「やっべぇ。俺、新たな扉、開いちゃうかも」 冗談半分だったのが、だんだん本気になってくる。左近の指でもてあそばれる元親の乳頭はツンと尖り、喜びを示していた。「っは、ぁ……くっ、左近!」「うわぁっ」 元親が左近の腰を掴んで走り出す。左近はとっさに、元親の胸筋を強く握った。そのまま元親の船室に連れて行かれ、剥ぎ取られるように床に落とされる。「痛ぇっ」 冗談がすぎたかと、左近が恐る恐る目を上げると、元親が睨むように見下ろしながら、衣服を脱ぎ捨てた。「えっ」 まさか犯られる? と左近は頬をひきつらせる。元親は下帯まで脱ぎ捨てて、そびえる魔羅を左近の眼前にさらした。「うえっ……えっと、ちょ、長曾我部さん……まさか」 怯える左近に、元親はニヤリと片頬を持ち上げると、丁子油の入っている瓶を手に取った。「そっちも、デッカくしちまってんなら、かまわねぇだろう? 新たな扉、開いちまえよ」「えっ……いや、俺、開かれるのはちょっと」「そう、怯えるんじゃねぇよ。安心しな。開かれるのは、俺のほうだからよぉ」「へっ?」 左近が目を丸くする。元親は寝台にうつぶせに寝ると尻を突き出し、丁子油を自分の尻の谷に垂らした。空になった瓶を捨てて、両手で尻を開き指を埋め込む。「んっ、ぅう」 左近はさらに目を丸くした。目の前で、西海の鬼と呼ばれるほどの男が、自分の手で尻を開いている。その手つきは慣れているらしく迷いが無い。左近はおそるおそる立ち上がると、元親に近付いた。「は、ぁ……ぅ、左近……なぁ、お互い、出すモン出して、スッキリしようぜぇ」 凄みのある艶冶な笑みに、左近の股間が脈打った。「イイんスか」「イイもなにも。ソッチが俺に火をつけちまったんだから、落とし前をつけろよ」 誘うように細められた元親の目元が色っぽい。左近はゴクリと喉を鳴らして、背筋を伸ばした。「きっちり落とし前、つけさせてもらうっス!」 宣言すると、左近はあわただしく衣服を脱いだ。「十分、臨戦体勢が整ってるじゃねぇか」 左近の下肢を見た元親が、挑発的に唇を舐める。左近はいそいそと元親の足の間に入って、彼の尻を掴んだ。「あっ、待てよ、島。まだ、準備が足りねぇ」「ほぐせばいいんっスよね。まかせてください」 左近は心音を高鳴らせつつ、元親の秘孔に指を入れた。「うおっ、キュウキュウ締め付けてきて、あったけぇ」「はっ、ぁ……そこに入るように、しっかりとほぐせよ」「了解っス」 勇んで、左近は指を動かす。「なんか、よくわかんねぇけど、すっげぇ」「はっ、ぁ……んっ、もっとだ、島、ぁ」 おそるおそる探っていた左近は、指の動きを大胆に変えた。「はっ、ぁ、あ、ふぅ、お、ああ」 指を動かすたびに、面白いように元親が声を上げる。それが楽しくて、左近は指を増やして元親の内壁を掻き乱した。「んぁあっ、それぇ、あ、は、ぁああっ、ひっ」「ん?」 元親の悲鳴が一段、高くなった箇所がある。左近は先ほどの動きをなぞり、その箇所を確かめた。「ぁおおっ」「ここ、イイんスね」「っは、イイ、けど……そこばっか、あぁあ、そんっ、ひっ、そこばっかしたら、ぁ、ああっ」 元親が背をそらして嬌声を上げる。白い肌が薄桃に染まり、身をくねらせる様に左近の股間に血が巡った。「やっべ。すっげぇ、色っぽいっス」「はふっ、ぁ、ばかっ、左近、ぁ、ああ、そこばっか、そんなっ、あ、あぁああ――っ!」「おわっ」 左近の指に媚肉が絡んだかと思うと、元親がひときわ高く声を上げ、痙攣した。「は、ぁ……ああ、あ」「長曾我部さん……、もしかして、イッちゃったんスか?」「はぁ、あ……っ、だから、ソコばっかいじるなって……」 あえぐ元親の気だるい声に、左近は我慢がならなくなった。「もう、十分っスよね」 ガッシと元親の尻を掴んで、左近は自分を突き立てた。「えっ、あ……ぁおっ、お、ふぅうう」「くっ、うう、すげ……気持ちいいっス」 媚肉の熱と締め付けを、左近は本能のままに味わった。「ぁぐっ、ふぅうっ、はげしっ、ぁ、島ぁ、あ、あああっ」 若さのままに突きあげられる元親の淫靡な叫びに、左近はますます勇躍した。「ううっ、長曾我部さん」「ひふっ、ぁ、ああっ、はんっ、はふぅう、ぁ、あああ」 自分よりもひとまわり大きな体躯の元親にしがみつくように、左近は余裕もなく腰を打ちつけ高揚し、あっという間に絶頂に達した。「くっ、うう」「んはぁっ、あ、ああ」 元親の秘孔に興奮を注いだ左近は、ブルッと身を震わせて恍惚の吐息を漏らした。「すっげぇ」「は、ぁ……とんでもねぇな」 胸を喘がせる元親の声に、我に返った左近は慌てて自分を引き抜いた。「ああっ、すんません。俺、なんかすっげぇ気持ちがよくて、余裕無くって」「ああ。いい、いい。気にすんな。……ったく、誰かさんみてぇにガムシャラだな」 ん? と左近が首を傾げる。「誰かさんって――」「まあ、そんなことより、島よぉ」 起き上がった元親が、淫靡に濡れた瞳で唇を舐める。ドキリと左近の胸が弾んだ。「若ぇんだから、まだまだイケんだろ?」 元親が小首を傾げ、体を開く。扇情的な姿に、左近の下肢は瞬く間に復活した。「もちろんっス!」 返事をしながら、勢いよく元親に圧し掛かる。「おっぱい揉みながら、アンアン啼かせてやりますよ!」 左近は元親の胸筋を掴んで、得意げな顔をした。「ほぉう? 言ってくれるじゃねぇか。そんなら、たっぷりと啼かせてもらうとするぜ。前後上下、好きな体位でヤッてみな」「っしゃあ! 覚悟してくださいよ、長曾我部さん」 声を弾ませた左近は、思いつく限りの痴態を元親に求め、元親はそれに積極的に応えた。「はひっ、は、ぁあ、島ぁあ、ふっ、もう終わりかぁ?」「まだまだ。俺、体力には自信があるんスよ……根を上げる気はねぇっスから」 情事にはふさわしくない会話をしつつ、ふたりは文字通り、精根尽くまで絡み合った。 翌日、左近はすっきりと軽い心地で甲板にいた。 油断をすれば、昨夜の元親の痴態が脳裏に浮かんで頬がゆるむ。「いや、まじパねぇよなぁ」 肉感的な元親との情交は、刺激的で激しく、すばらしいものだった。「まさか、長曾我部さんがあんなふうに……」 股間が疼き、イカンイカンと首を振る。「こんな顔をしていたら、三成様に叱られちまう」 左近がひょいと甲板から陸上を覗くと、遠目に三成の姿が見えた。白髪の彼は遠くからでもよくわかる。「おっ。ウワサをすればなんとやら、って……」 三成は人目を憚るように周囲を見回している。「ん?」 三成がいるのはごつごつとした岩に囲まれた一角で、彼の姿は岩陰に見え隠れしていた。どうして単身、あんなところにいるのかと思っていると、人影がもうひとつ現れた。「えっ、あれ?」 そちらもやはり、人目を避けるようにしている。「三成様と、長曾我部さん?」 左近が見ていると、岩陰に隠れつつ、ふたりは顔を寄せ合った。遠すぎて、どんな表情をしているのかまではわからない。「あっ」 ようく目を凝らすと、ふたりが顔を重ねているのが見えた。そのまま体に腕を回し、岩場の影に隠れてしまう。「えっ、と……」 左近は目を擦って、あらためて目を凝らした。しかし、もうふたりの姿は見えない。「あれってば、接吻……だよな」 間違いなく、三成の腕は元親の背に回っていた。 ――ったく、誰かさんみてぇにガムシャラだな。 ふいに昨夜の元親の言葉を思い出し、戦慄する。「まさか、あれって、三成様の事じゃあ」 口元を手で覆った左近は、ハッと気付く。「てことは、俺ってば三成様と、穴兄弟? うわ、やっべぇ」 自分の体を抱き締めた左近は、ぴょんと軽く宙返りをした。「すっげぇ。なんか、すっげぇ、俺! ああ、でも、三成様には内緒にしとかないと、おっかなそーだよなぁ。どうか、バレませんように」 岩場に向かって祈るように手を擦り合せた左近は、ついでに「もっかい長曾我部さんとヤれますように」とも念を送った。2015/11/19