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たわむれ

 どすどすと廊下を歩く重い足音が聞こえて、毛利元就は秀麗な眉をひそめた。こんな足音を立てて近づいてくる人間は、ひとりしかいない。
「よお、毛利ぃ」
 元就が思い浮かべた人物が、気やすい調子で障子を開けた。
 元就は眉間にしわをよせたまま、繊細な面をゆっくりと相手へ向ける。
 隆々とした偉丈夫が、人なつっこい少年のような笑顔を浮かべて、元就の傍へ来て座った。並ぶと成人男性である元就が子どもに見えるほど、大きくたくましい体躯をしている彼の名前は長曾我部元親。元就とは瀬戸内海を挟んで幾度も刃を交えた、敵対勢力の総領だった男だ。
 だった、というのは天下が統一され、争う必要がなくなったからで、それからふたりは協力して西日本の海上護衛や、海を通しての流通などに当たっていた。
「海賊退治は、無事に終わったぜ」
 元親が訪れた要件は、それだった。ちかごろ外つ国の治安が悪いらしく、あぶれた者たちが海に逃れて徒党を組み、海賊働きをしている。それが漁民や商船を襲うので、元親が軍勢を率いて退治してきたのだ。
 元親はにこにこと元就の反応を待っている。
 まるで犬だなと元就は思った。主人にほめられたくて、実績を報告しにくる犬。――もっとも、元就は元親の飼い主でもなんでもないが。
「そうであろうな」
 元就は平坦に言った。元親がむっとする。
「なんでぇ、愛想がねぇなぁ」
「我に愛想があるとでも思うていたのか」
「いや。……ねぇな」
「ならば、問題はない」
 用は済んだとばかりに、元就は元親から顔をそらして文机に向かった。書きかけの文がそこにある。筆を取ろうとした元就の背中に、元親のすねた声がかかった。
「あんたが内政に忙しいっていうから、俺が全部けちらしてきたのによぉ」
 元就は筆に伸ばした手を止めて、振り返った。
「ねぎらい……、いや、報酬が目当てか」
 元就は西海の鬼とあだ名される元親の、海の男とは思えぬほど白く、きめ細かいなめらかな肌を視線で撫でる。たくましく盛り上がった胸筋のしっとりとした手触りを思い出し、力強い肉体に隠された繊細な彼の美しさを確かめる元就の視線に、元親の頬がふわりと赤くなった。
「なんでぇ、その目は」
 元就は膝をすべらせ、元親の太ももに手を乗せた。ぎくりと元親が身を硬くする。
「我に褒美として、抱かれにきたのか」
「なっ、なに言ってんだよ。俺ぁ別に……、仕事が終わったって教えてやろうと思っただけで」
「ならば、せぬのか」
 すくい上げるように元就が見れば、元親は顔中を真っ赤にした。
 いつまでも初心なことよと、元就は彼の反応に心中をくすぐられた。
 荒くれものの屈強な海の男たちから“兄貴”と慕われている男が、元就の前では従順な犬のように愛でられたがる。
 それは男の本能ともいうべき支配欲を刺激した。
 元就は豊かで長い元親のまつげが緊張に震えるのをながめる。
「し、しねぇとは言ってねぇけどよぉ」
 むくれているように照れる元親に、あるかなしかの微笑を口の端に乗せてみせ、元就は立ち上がった。
「ならば、こちらにくるがよい」
 元就が襖をあけて奥の部屋へ入ると、元親もついてきた。最奥の部屋の襖を開けると、背後で元親が「うぇっ」とちいさくうなる。
「なんだよ。……準備していたんじゃねぇかよ」
 もじもじとする元親が襖を閉める音を聞きながら、元就は褥の奥へ立ち、帯を解いて着物を落とした。白くしなやかな、細身だが無駄のない筋肉をまとう体を元親の目にさらす。さらりとしたこげ茶の髪を揺らして振り向けば、元親は襖の傍で突っ立っていた。
「なにをしている」
「いや……、うん」
 おずおずと近づいた元親の足先が褥に触れる。元就は彼の顎に指を当て、首を撫でて肩に触れた。軽く肩を押すと、すとんと元親が膝をつく。肩に乗せた手を顎に戻して上向かせると、豪放な顔つきが野花のような様子に変わった。白い肌と白銀の髪を際立たせる、左目をおおう薄紫の眼帯に唇を当て、元就は元親の反応を見た。大きく澄んだ元親の右目がうっとりと細められる。元就は唇をそちらへ移し、長いまつげに舌先で触れた。ふっと淡い息が元親の唇から漏れる。それを追って唇を重ねれば、熱くやわらかな呼気が元就の口内に触れた。
「んっ、ふ……」
 元親の片腕が元就の首にかかり、もう片手が腰を包む。抱き寄せられるように身を寄せた元就は、元親の口内に舌を差し込みあたたかな口腔を味わった。
「ふっ……、ぁむ、ぅ」
 赤子が母の乳を求めるように、元親が元就の舌を吸う。好きにさせながら、元就は盛り上がった彼の胸筋を掴み、その弾力を確かめながら色づきを指の腹でなぞった。
「ふはっ、は……、んぅ」
 元親の白い肌が、ゆっくりと桃色に変わっていく。桜の蕾に似た色に染まる肌に目を細め、元就は元親の唇から舌を離し、身を沈めて両手で包んだ胸筋に顔を寄せた。
「んぁ、あっ、毛利ぃ」
 硬く色づく尖りを吸えば、元親が甘い声を出す。元就は唇で尖りを挟み、舌先で乳頭のシワを伸ばすようにくすぐった。
「は、はふ……、んっ、あ」
 もどかしそうに元親の肌が震える。粟立つ肌に手のひらを滑らせて、元就は乳房のような元親の胸を愛撫しながら衣を脱がした。
「あっ、ぁ……、毛利、ぁ、あ」
 元親が両腕で元就を抱きしめる。ふたまわりも大きな相手に抱きすくめられながら、元就はたわむれるほどに硬く凝る胸乳を刺激し、下帯に手をかけた。布越しに触れてもわかるほど、元親の牡は隆々とそびえている。
「窮屈か」
 薄氷のようにほほえみながら元就が目を上げれば、元親が耳まで赤くしてうなずいた。
「普段のとおりに、はっきりと言わぬのか」
「い、言えるわけねぇだろう」
「生娘でもあるまい。……我が味を覚えるほどに、抱かれておろう」
「ううっ」
 羞恥にうめく元親に満足し、目を細めた元就は布越しに彼の牡の先をつついた。びくびくと脈打ち震える先端が、わずかに濡れている。
「まだ、それほど触れてはおらぬはずだが?」
 指の腹で弧を描くように撫でれば、じわじわと湿りが広がる。元親の胸が浅く荒く上下して、興奮の緊張を元就に伝えた。
「久方ぶりで、待ち遠しいか」
「う、るせぇ」
「そのような口を利くか」
 爪を鈴口に当てて押せば、元親がうなった。そのままぐりぐりと手首をひねれば、元親の息が乱れる。
「このような刺激も心地よいか。我に嗜虐されたいと見える」
「そんっ、違……、あぁ、あ」
 違うと言いながら、元就が爪で鈴口をひっかけば、元親は背を丸めて元就を胸に抱きこんだ。元就は下帯を外して、じかに元親の牡を握った。
「はふっ、ぁ、あ」
 ゆるゆると手を上下させれば、元親が喉をくすぐられる猫のように目を細める。舌を伸ばして元親の唇をなめ、元就は細く長い指を器用に動かし元親の牡を撫でさすった。
「ぁ、は……、毛利ぃ、ぁ、ああ」
「ずいぶんと蜜をこぼして……、我が手のないときは、誰ぞにさせたりせなんだか」
「そういう毛利は、……ぁ、どうなんだよ」
「質問に質問で返すでないわ」
「ひっ、いい」
 鈴口を爪でえぐれば、元親が高い悲鳴を上げた。
「布越しでは、刺激が弱かったか。……ぞんぶんに、味わわせてやろう」
「ひぁ、毛利ぁ、あっ、ああ……、それぇ、あっ、あ」
 容赦なく蜜口を広げるように爪を立てて手首をねじれば、元親の腰が振れる。抱きすくめられた格好の元就は、荒れた海上にいるように揺れた。
「そう身もだえるな」
「んんっ、そうさせておいて……、なに、言って……、あっ、ああっ」
 あふれる蜜を指に絡めて牡をこすれば、元親が喉をそらした。そのまま体重を彼にかけて、元就は元親ごと褥に倒れる。おとなしく横になった元親の腕に包まれたまま、元就は彼の胸乳を唇でもてあそび、陰茎に指を絡めてたわむれた。
「んはっ、ぁ、ああ、毛利ぃ、あっ、あ」
 なにを訴えているのか。あえぎの中に名を混ぜる元親の震える唇やまつげを見ながら、元就は己も熱く凝っていくのを感じた。元親の脚が床を泳ぐ。開いた隙に脚の間に体を入れた元就は、元親の腕をたたいた。
「我が欲しいのならば、枕元の小瓶を渡すがいい」
 元親が胸を喘がせながら顔を上げる。枕元には自然に濡れぬ男の穴を広げるための、潤滑油となる丁子油の小瓶があった。
「準備万端かよ」
 ぼそりとこぼした元親に、元就は唇をゆがめた。
「貴様が報告にくることは、想定済みよ」
「そんで、こうなることも予想してたってことか」
「不服か?」
「まさか」
 ほらよ、とさきほどまでの可愛らしい反応をぬぐった、いつもどおりの様子で元親が元就に小瓶を渡す。
「膝を立て、脚を広げていよ」
 命ずれば、元親がまた恥じらった。
「小瓶を渡すは平気でも、身をさらすのにはとまどうか」
「うるせぇ」
「ならばうつぶせになり、尻を突き出せ。さすれば見えぬから、まだマシであろう」
「もうすこし、情緒ってもんを含んだ言い方をしろよな」
「海賊風情に情緒など不要ぞ」
 ぶつぶつと文句を言いつつも、元親はうつぶせて尻を上げた。ひきしまった尻のえくぼに触れてから、元就は尻の谷に小瓶をかたむける。とろりと落ちた丁子油が谷を滑り、蜜嚢へと垂れた。
「んっ」
 元親がちいさくうめく。元就は蜜嚢を掴んで垂れた油を指に絡め、尻の谷をなぞった。
「はふっ、ぅん」
 ぶるると元親の背が揺れる。元就は指を動かし谷にひそむ秘孔をさぐった。すぼまったそこが緊張に収縮している。あやすように指を動かせば、元親の尻が揺れた。
「は、ぁ……」
「心地よいか」
「聞くなよ……、んあ」
 ふむ、と鼻から息を漏らして、元就は指を沈めた。
「ひあっ、あ、あん、ぅ、うう」
 秘孔の口は拒むようにかたくなだが、いったん入ればあたたかな媚肉が歓迎をする。元就は絞めてくる媚肉をふりほどくように指を動かし、油を塗りこめながら空いている手で元親の蜜嚢を揉んだ。元親の牡の先から淫らな液があふれて落ちる。
「は、ぁあ、毛利……、ぁ、ああっ、んっ」
 元親の腰が落ち、尻が突き出される。もっととねだるような姿勢に、元就はほくそ笑んで指を増やした。
「はふぅ、あっ、ああんっ、んぁ、あっ、毛利ぃ、あっ、ああ」
 媚肉にまぎれた快楽点をかすめれば、元親が甘えた猫のように啼く。それを心地よく聞きつつ、元就は指を動かし自分を埋める準備をつづけた。
「はうっ、う……、んぅ、あっ、毛利ぃ、あっ、ああ」
 元親の陰茎からこぼれる蜜が量を増す。
「がまんならぬか」
「ふっ、ぁ、もう、欲しい」
「素直なことよ」
 さんざんに焦らして遊ぶも一興と思っていたが、久しぶりの交合に元就の牡もキリキリと痛むほど凝ってしまった。
 焦らすは、いったん精を放ってからでもよい。
 急ぎの要件はなにもない。元親がくると予測して、ほとんどを片づけていた。ゆえに時間はたっぷりとある。
「ならば、与えてやろう」
 元就は元親の尻を掴んで腰を寄せた。牡の先で秘孔の口をつつけば、ひくひくと求めるように健気に動く。
「ふ、ぅ……、毛利ぃ」
 求める声に応えて、元就は己で深く元親を開いた。
「ぁがっ、あふ、ぅう……、うっ」
 苦し気に元親がうなる。指よりも太く熱いものの侵入に驚いた媚肉が、きつく元就を絞めつけた。
「ぁふっ、んぅあ、あっ、ああ」
 もっていかれまいと元就が動けば、元親が淫靡な声を放って身をくねらせる。はじめは息の詰まった声が、元就が熱で内壁をこするごとに奔放なものへと変化した。
「んはぁあっ、あっ、毛利ぃ、あっ、ああっ」
 弧を描くように腰を動かし打ちつければ、元親がよろこびの声をあげて体をゆする。揺さぶりながらうながされ、元就は息を乱して肌のぶつかる音がするほど突き上げた。
「ふぁあっ、毛利ぃ、あっ、ああ」
 広い背中に汗がにじみ、潮の香と元親の匂いがまざって元就の鼻孔に触れる。それがますます性を刺激し、欲を高めて元就は勇躍した。
「はんっ、はっ、はんぁあっ、あっ、毛利ぃ、あぁ、も、ぉりぃい」
 声の調子で絶頂が近いと知れた。元就を包む媚肉の蠢動もねっとりとしたものになっている。元就は望みをかなえてやることにした。なにより、自分も精を放ちたい。
「んはっ、はふ、ぅう、ぁあ、も、ああ、いいっ、毛利ぃ、あっ、ああ」
 絶頂を追いかける元親の声を聞きながら、元就もおなじものを追いかけた。そして――。
「ふっ」
 短い息とともに欲を注ぎつつ内壁をえぐると、元親がのけぞった。
「ぁはぁあああっ」
 独特の香りが広がり、元就を包む媚肉が悲鳴のようにすがりつく。それに残滓を搾り取らせて元親の陰茎をしごけば、充足した息が聞こえた。
「は、ぁ――」
 恍惚の息とともに弛緩した元親から抜け出て、元就は息をついた。すると元親の腕が腰に絡み、彼の顔が膝に乗った。
「毛利ぃ」
 甘ったるい声に顔を向ければ、首を伸ばした元親に口を吸われる。
「へへっ」
 心底しあわせそうな顔に、あきれながらも心の中をほっこりとさせ、元就は口吸いを返した。
「満足か」
「んー? 毛利は」
「貴様が不足というのなら、付き合ってやらぬでもない」
「なんだそれ。素直じゃねぇな」
 よいしょ、と身を起こした元親の胸に包まれて、元就は目を閉じた。耳に彼の心音が響くのが心地いい。
「なら、ちょっとだけ休憩して、もっかいしようぜ」
「かまわぬ」
 もとよりそのつもりだと胸中でつぶやいて、元就は余韻の心地よさに細く長い息を吐いた。
2016/06/04



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