白い肌。白い髪。それだけ見れば薄幸のなよやかでかよわい存在のように思えるが、彼は人よりも体格がよかった。 みっしりと盛り上がった胸筋。細身の女の胴ほどもある、たくましい太腿。太い首と、エクボがうかぶ引き締まった尻と波打つ腹筋。色があると言えるのは、左目を覆う紫の眼帯くらいか。見事に純白な偉丈夫の名は、長曾我部元親。西海の鬼と呼ばれる武将だった。 それがなぜか、漆黒の闇の中に浮かんでいる。本人も、なぜ自分がここにいるのか理解していなかった。(いったい、ここはどこなんでぇ) ただ静謐な闇が広がっているのみである。(ええと……昨日は節分で、野郎どもと鬼追う式を見学に行って、神主に誘われて酒宴になって、そろそろ日付が変わるって言われて、そんで……そっから) 記憶が飛んでいる。節分の翌日、すなわち立春になったと意識をし、ふっと目の前に何かがよぎった気がしたところまでは覚えているが、その後にどうなったのかがわからない。一糸まとわぬ姿でいるのも、不可解だった。(まさか、鬼追い式を見たからって、俺まで追われたなんて冗談はねぇよなぁ) 鬼と呼ばれる自分が、神主に下げ渡された神酒を呑んだから祓われたなんて、ありえない妄想を浮かべた自分に苦笑した。(これは、夢の中ってぇとこだろう) ほかに思いつけない。真っ暗な中に押し込められている、というだけであれば、神主は元親に敵意を持っている何者かの息のかかっている者で、酒に薬が混ぜられて、眠っている間に納戸にでも閉じ込められたと考えられるが、床の感覚がないのだから夢だと判断するしかなかった。(奇妙な夢を見るもんだ……お?) 突然に、ざわざわと無数の気配が近づいてきた。それは生暖かく、どこか春の日差しを思わせるものだった。(なんだ、なんだ?) いったい何が来るのかと目をこらしても、暗闇の中に溶けている何者かは、輪郭すらも見いだせなかった。すぐそばに気配を感じるのに、姿が見えないというのは不気味なものだ。眉をひそめた元親の耳元に、あたたかな風が触れた。「うおっ!」 元親の声を合図に、無数の気配が元親の肌に触れた。やわらかく、すべすべとして、あたたかい。春風に似ているが、綿のような触感がある。「なんでぇ、何者だ!」 呼びかけても返事はない。さらさらと肌のあちこちを撫でまわされて、くすぐったくてたまらない。「くっ、うふ……っ、やめろ……なんだよ……やめっ、ぁ」 這いまわっていた気配の一部が陰茎と乳首に絡み、元親はちいさな声を上げた。キュッと締めあげられて、低くうめく。「んっ、ぅ……なん、でぇ……っは、あ」クビレを絞られ、先端を柔らかく擦られると、欲の根元が甘く疼いた。かすかに息を乱した元親の反応に気をよくしたのか、肌に触れる気配たちは、一斉に淫靡な動きに変化した。「ふは、ぁ、あ……あんっ、な、ぁ……ん、だよ……これ、ぇ」 振り払おうと腕や足を動かすが、気配はわずかも離れなかった。それどころか、動けば動くほどしっかりと絡みついてくる。「んぁっ!」 陰茎の根元を強く締めつけられて、元親は声を上げた。トロリと先端から先走りがこぼれ出る。すると、綿のようにやわらかく、さらさらしていた気配が、ぬめぬめとしたものに変化した。「うぇっ? なんだよ、気持ち悪ぃ……っ、ん」 ぬめった気配たちが肌をはいずり、元親は不快感に首を振った。隆々とした肉体と快活な笑顔の印象に隠された、繊細で美麗な顔がわずかに歪む。それは不快とは違ったものを含んでいた。「っ、あ……何、く、ぅあ」 たわむれられる乳首がジンジンと痺れて、ぷっくりと大きく膨らむ。陰茎は怒張して、蜜嚢はたっぷりと欲液を湧かせて膨らんだ。(なんで、俺ぁ……興奮してんだ) 自分の反応に困惑しながら、元親は気配から逃れようともがいた。だが、気配は執拗に元親にまとわりついてくる。「くそっ、離れろ……離しやが……ぉぐっ」 口の中に、気配が入った。子どもの腕ほどの太さのそれは、元親の口の大きさにぴったりと合っていた。うねうねと動く気配に口内を乱される元親の意識に、奇妙な甘さを植えつけられる。「ぉふ……うっ、く……ぉううっ」 体中が、ぬめぬめとした気配の粘膜に覆われて、元親は泡立つ肌に目を細めた。ねっとりとした官能が肌の底に沁み込んでいく。(なんなんだよ……これっ、くそ……ぉ) 不自由な感覚が、じわじわと不安を引き寄せる。逃れられない自分に毒づきながら、元親は見えない気配に苛まれた。「んっ、ぉぐ……お、ふぅうっ」 コロコロと愛撫をされる乳首の存在を、これほど意識したことはない。陰茎と同等の性感帯と化した乳首への刺激は、蜜嚢をよりふくらませた。「ぉふっ、う……んぅうっ、く、ぉう」 口の中に入っていた気配がはずれ、元親は大きく息をついた。飲み切れなかった唾液が口の端からこぼれているが、ぬぐいたくとも気配に腕を取られていて、動かせなかった。自分の体が別の何かに支配されている。(これは、夢だ) いくらそう思っても、感覚は消えない。元親の体はたっぷりと気配のぬめりに濡らされて、発情をした獣のように興奮していた。「ふ、はぁ……あっ、ぁ」 乳首を吸われれば、甘い声が出た。自分のものとは思えぬ音に驚愕しながら、喉の奥からあふれる嬌声を止められない。陰茎がビクビクと脈打って、淡く絡む気配の刺激に不満を示す。(く、そ……扱きてぇ) 強く擦れば、あっという間に絶頂を迎えられる。それほどに凝っている箇所を、気配は焦らし続けていた。先走りをこぼしながら腰を震わせる元親の思考が、性欲に支配されていく。「は、ぁ、ああ……あ、あっ、ふ、ぅうっ」 乳首の刺激を陰茎にも与えてほしい。コリコリとやわらかく食むように吸われる乳首の快感を、陰茎でも味わいたい。「ぁ、ああ……く、そ……っ」 淫欲に流されそうになる意識を、元親は必死で引き止めた。白い肌は桃色に染まり、甘い蜜をしたたらせる陰茎は切なく震えている。その先端をツンツンと軽く押されて、元親の胸に期待が生まれた。 乳首みたいにパクリと食いつかれるのではと、元親は訪れる快感を予想して息をつめた。だが、気配の動きは違った。「ひぎっ、ぁ、なん……そっ、ナカ、ぁ……ぁ、ああっ」 ズルズルと、細い気配が鈴口から蜜嚢を目指して進んでいく。擦られる内側に、射精に似た恍惚が産まれた。「ぁはっ、は、ぁおお……ふ、ううっ、く、ぁあ」 目を白黒させて、元親はブルブル震えた。ズルズルと尿道で気配がうごめくごとに、絶頂のきらめきが意識に弾ける。何度も連続でイかされている感覚に、元親は腰を揺らして本物を欲しがった。「ふはっ、ぁ、ああっ、あああ、イッ、イかせろよぉ……くそっ、ぁ、ああっ、お、ぅうっ」 たっぷりと欲液は溜まっているのに、射精できない。しかし絶頂の快感だけは与えられる。心地よい地獄の責め苦に、元親は身もだえた。「はぁううっ、なぁ、イかせろ……そっから出て、乳首みてぇに吸えよぉ……なぁ……あっ、ああ!」 叫べば、気配が止まった。ずるりと尿道から抜けて、今度は陰茎全体が包まれる。「ふ、はぁあ」 うっとりとした息を吐いて、元親は求めていた愛撫に集中した。乳首の気配も陰茎の気配と合わせてチュクチュクと波打ちながら刺激してくる。双方の刺激が心地よく、元親は蜜嚢に溜まっていた欲を解放した。「んはっ、は、あ、ぁああ!」 噴き出したものを、気配が吸い上げる。筒内に残るものまで吸引されて、元親は快楽に弛緩した。すると気配のひとつが動いて、尻の谷を這いまわり、秘孔を見つけてスルリと入り込んだ。「ぉふっ……やっ、なん……尻……待っ……ぁううっ」 ゴプッと生暖かい液体が注がれる。元親は何故か、それが自分の精液だと理解した。自分の精液を注がれて、秘孔に塗り広げられる。「は、ぁう……やめっ、ぁ、ああっ、ちょ、待て……っ、そんっ、やめ……尻は……あっ、ああっ」 グニグニとうごめく気配に内壁を濡らされて、広げられる。気配はだんだんと太さを増して、元親の奥を目指した。「ひっ、そんっ、奥……ぅああっ!」 突き当りかと思った箇所をブチ抜かれ、元親は悲鳴を上げた。その声が気に入ったのか、気配は執拗に元親の突き当りを突き上げてこじ開ける。「ぁひぃ……っ、くは、あっ、ああ、やめっ、あ、あああっ」 うれしそうに乳首に絡む気配が動き、陰茎をしゃぶる気配も勇躍した。「んぁあっ、ちょ……イッたばっかで、そんっ、され……ひ、ぃいっ、やめ……あっ、も、ぁあ、は、ぁああっ」 乳首の快感と陰茎の快感が融合し、秘孔の刺激を追いかけて、慣れない肉壁を媚肉へと変えていく。奥を拓く秘孔の気配に、細かな気配が加わって、入り口付近や中ほども、違う動きで擦られれば、指先までもが性感の痺れに包まれた。「んひぃいいっ、は、ぁああうう、やめっ、あ、ぁああ……や、ぁああっ、いい……き、きもちぃ……っ、が、ぁふぅうっ」 全身が性感帯となった元親に、無数の気配がたわむれかかる。劣情に満たされた元親の意識から、理性が消えた。「はふぅうっ、ぁ、ああっ、いいっ、乳首……あっ、もっと、ぁ、ひ、尻、ぁ、そんっ、動い……っ、いいっ、ああ、ブチ抜かれるの、いいっ、ぁあ……っ、イクッ、あ、イクッ、止まらねぇ、あっ、イキッぱなしで……あっ、お、おかしくなっちま、ぁああっ」 とろけて濁ったほほえみで、歓喜の声を上げる元親は気配に犯され続けた。不思議なことに、欲液は枯れることなく生み出され、尽きることのない絶頂が与えられ――。 まぶしい光にまぶたを刺激され、元親は身を起こした。ぱさりと額から手拭いが落ちる。枕元には、水の入った桶が置かれていた。 ぼんやりとして見渡せば、そこは神殿の奥にある一室だった。(そうだ、俺ぁ神酒を振る舞われて、それで) いつの間にか寝入ってしまったのかと思った元親の目に、榊葉が止まった。なんとなく気を引かれて近づいて、手を伸ばせば指先に甘い痺れが広がった。(なんだ?) 首をかしげた元親の背に、声がかかる。「お目覚めになられましたか」 振り向けば、神主が笑みを浮かべて立っていた。手には水桶と手拭いがある。「日が変わる瞬間に、急にふっと倒れられましたので、こちらの部屋に運び入れたのです」「ああ、そうか……そいつは、迷惑をかけちまったな」 いいえと首を振った神主が、元親の傍に膝をついた。「丑三つ時に様子を見に来ますと、ひどくうめいて肌を桃色に染めておられましたので、神事の焚火に当てられたのかと。火に炙られて、肌の水気が抜けたところに酒気が入り、具合が悪くなられたのかもしれませんね」 なるほどなぁとうなずいた元親は、榊葉を指さした。「これは? 神事に使ったモンだよな」「ええ。邪気にあてられたのであれば危険だと思い、ここに置かせていただきました。まあ、お守りのようなものですね」 ふうんと鼻を鳴らした元親の耳に、神主の声が触れる。「鬼に浚われたわけではなく、よかったです。今日は立春ですよ。と言っても、まだまだ寒い日は続きますが……命の営みが、ゆっくりと育っていく時期ですね。いい季節がやってきますよ」 春、という単語に、元親の腰が甘く疼いた。「いかがなさいましたか?」「いや、なんでもねぇ」 自分の腹を抑えた元親は、自分の尻がヒクリと反応したことに首をかしげ、榊葉を見つめた。(まさか、な) 邪鬼を払われ、春気を注がれた、なんてことは妄想が強すぎると、元親は苦笑した。 2019/02/04