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憂払

 気だるい吐息を漏らした男は、雨の気配を含んだ空気に、普段よりもクセが強くなった白銀の髪を乱暴にかき乱した。
 なぜか気持ちが落ち着かない。気の置けない相手と好きな酒を酌み交わしているのに、心のどこかがソワソワしていた。
「いつまでも、うっとおしい空だぜ」
 陸に上がった海の男は、シケのために航海に行けないうっぷんが溜まっているのだろうと考えた。自慢の船、富嶽はそうそう嵐に負けやしない。だが、大勢の男たちの命を預かっている以上、無茶な航海は避けたかった。
 降りそうで降らない、どんよりとした雲が昼だというのに夕暮れの様相を庭に落としている。
「どうにも、スッキリしねぇな」
「Therefore you came」
「あん?」
「だから、来たんだろうって言ったんだ。スッキリするために、な」
 低く流れた相手の声に、フンッと鼻を鳴らす。
「はじめから、日本語で言いやがれってんだ」
 悪態をついた男、長曾我部元親は、むんずと酒壺を掴んでそのまま煽った。喉を鳴らす元親の口の端から、ひとすじの酒が透けるような白い肌を滑り落ちる。
「ぷは……。アンタだって、鬱屈しているんじゃねぇのかい? なぁ、奥州の竜さんよぉ」
 不敵に唇をゆがめた元親に、奥州の竜、伊達政宗は秀麗な顔立ちに元親と同種の笑みをひらめかせた。
 こちらも元親に劣らない冴え冴えとした月光に似た肌をしている。切れ長の瞳は日本刀の鋭さを思わせた。細い顎を包む長さの、漆黒のつややかな髪。無駄のない引き締まった筋肉に覆われた肉体は、くつろいだ長着姿であっても、隙がない。
 整いすぎていると言っても過言ではない容姿の唯一のゆがみは、右目の眼帯だった。その奥に隠れている傷が、深い憂いに支えられた強さを滲ませ、彼の気配に凄みを与えていた。
 対する元親は、海の男とは思えぬ白磁に似た肌をしてはいるが、体躯は鬼と称されてしかるべき肉の厚みを持っていた。みっしりと盛り上がった胸筋は、長着姿であっても隠し切れないほどにたくましく、腹部の締まりが鍛え抜かれた腹筋を連想させる。
 常人よりも、ひと回りほど大きな体躯に圧倒されて見落としがちだが、顔立ちは人なつこい。彼の人好きのする性格そのままに、どこか丸みを帯びていた。甘さが出そうな彼の目鼻立ちを引き締めているのは、左目を覆う紫の眼帯だった。
 対照的でありながら似通ったものを有しているふたりは、庭に面した座敷で会話を弾ませるわけでもなく、半刻ほど前からゆるゆると杯を重ねている。
 はじめはポツポツと会話もあったが、いつしか話のタネもなくなり、庭や空に視線を投げつつ、ただ酒をあおるだけとなっていた。
「海に出てぇなぁ」
 ぽつりとつぶやいた元親に、政宗は「クッ」と喉を鳴らした。
「なんでぇ」
「海に出さえすれば、鬱屈が消えるとでも思ってんのか?」
「消えるに決まってんだろう? 海の男が、ずっと陸に閉じ込められてちゃあ、クサクサするに決まってんじゃねぇか」
「You understand nothing ――わかってねぇな」
「あぁ?」
 杯を置いた政宗が、ツ……と元親に膝を寄せた。秀麗な顔が元親の鼻先に近づく。
「な、なんだよ」
「くすぶってんなら、発散させてやる」
「は?」
「小十郎」
 政宗が鋭く呼べば、部屋の隅に待機していた、失われた右目と称される腹心の片倉小十郎が音もなく元親の背後に滑りより、両の肘を掴むとひねり上げた。
「なっ、何しやがるんでぇっ」
「溜まっているモンを、吐き出させてやる」
 低められた政宗の声に、元親の産毛が逆立った。竜の瞳が剣呑な野欲をたたえて、きらめいている。一瞬の動揺の間に、元親は帯を取られ、後ろ手に縛られた。
「なっ……おい、政宗」
「鬼が、うろたえるなよ」
 クッ、クッと喉の奥で笑われて、元親は下唇を噛んだ。偉丈夫の元親だが、政宗の力量は知っている。背後にいる小十郎も、知将と呼ばれる部類だが、猛者としても全国に名を知られていた。そんなふたりに囲まれて、下手に暴れれば互いに軽いケガでは済まない。
 やれやれと吐息を漏らした元親に、政宗は「good choice」
 艶めいた異国語の響きに、元親の心臓が跳ねた。背後から伸びてきた腕に、長着を開かれる。あらわになった胸筋の谷に、政宗の細く長い指が這った。
「そのまま、おとなしくしていろよ?」
 指は胸筋の外周をなぞり、わき腹へ移動した。小十郎の手が伸びて、元親の胸の突起をつまんで転がす。
「っ、あ……アンタも参加するのかよ」
 元親の問いに、小十郎は答えなかった。黙々と乳輪をくすぐり、先端を指の腹でこね回す。
「……っ、ん」
 身じろいだ元親の胡坐の上に、政宗の指が落ちた。長着の裾が払われて、下帯が姿を現す。その奥に隠れているモノを無造作に取り出されても、元親は抗わなかった。
「good Kitten」
 笑みを含んだ政宗が、なんと言ったのか元親にはわからない。だが、言葉の響きで理解した肌が、ほんのりと赤く染まる。
「ふ……ぁ、政宗」
 あらわにされた肉欲は、胸への刺激に反応して頭をわずかに持ち上げた。まだ柔らかさを残しているそれが、固く雄々しく育っていくさまを、政宗は楽しそうに見つめている。
「んっ、ぁ……はぁ……あっ」
 触れられず、視姦されるばかりの箇所が淡いかゆみに似た快感に震えている。もどかしさに襲われて、元親は尻の座りが悪くなった。
「んっ、ふ……っ」
 乳首をひねられ、顎を反らした。ビクンと陰茎が大きく震える。切っ先にあたる割れ目から、ジワリと汁がにじみ出て、政宗の指がそれをなぞった。
「は、ぁ……ああ、あ……あっ、政宗」
 クルクルと指の腹で撫でられて、元親の腰が揺れた。先端の刺激が根元に走り、尻の穴まで疼かせる。胸に与えられる刺激とヘソのあたりで混ざり合い、粟立つ肌を持て余した元親は、床に倒れたくなった。だが、背中にある小十郎の体が許してくれない。座したまま、元親は小刻みに震えていた。
「ふ、ぁ……っ、ん、んんっ」
 淡々と与えられる乳首の刺激と、ささやかな肉欲への愛撫とに苛まれ、元親は天を仰いで目を閉じた。口を開いて、妖艶な吐息をこぼして甘美な拷問に耐える。
「は、ふ……ぁ、あ、あ……は、ぅ、く、ううん」
 あふれる液はとめどなく、政宗の指に塗り広げられる。すっかり勃ち上がった短槍は、艶やかに濡れそぼった。
「んぁ、あ……は、もぉ……政宗」
「おねだりか? 鬼と呼ばれる男が、この程度で音を上げるなんざ、情けねぇ」
 耳元でささやかれ、元親の脳髄が酩酊したように揺れた。胸を喘がせ、縛られた腕を動かす。
「戒めを解こうってのか?」
「んっ、外しやがれ」
「まさか、自分で扱くつもりか? まあ、鬼の淫らなshowを楽しみながら、酒を飲むのも悪くない」
「なんでもいいから、外せって」
「Fum……小十郎」
「は」
 言葉少なに従った小十郎の手で、腕を縛る帯が解かれる。息をついた元親は、愉快そうな政宗の視線をにらみつけた。
「俺がすんのをながめる気でいるんなら、あいにくだったな。する気はねぇぜ」
「なら、立派に育ったそいつを、どうするつもりだ?」
「厠を借りる」
 立ち上がろうとした元親の肩が、背後から抑え込まれる。
「なんだよ。ここでしろってのか」
「自分でするより他人にされた方が、極楽に行けるだろう?」
 誘惑に、元親は鼻息で答えた。おとなしく力を抜いた元親の肩から滑り落ちた小十郎の手が、乳首に戻る。すっかり熟れた突起は、爪で弾かれただけでも腰に響くほどの快楽を生み出した。
「はっ、ぁ……んっ」
「おとなしく、されるがままになっていりゃあいい。you get really comfortable」
「んっ、ふ……」
 口の中に指を入れられ、まさぐられる元親は頭の後ろで腕を組んだ。満足そうに政宗の頬が持ち上がる。
「ふ……ぅ、んっ、んう……う……ぅう」
 快楽に緊張した筋肉が盛り上がり、胸筋が膨らんだ。張り詰めた筋肉の上を、政宗の視線が淫らに撫でる。ゾクゾクと背骨を震わせる元親の陰茎は、破裂寸前にまで昂っていた。
「っ、あ……もう、充分だろぉ」
「弱音か?」
「見てわかんねぇのかよ」
 フンと鼻先で笑った政宗に陰茎の先端をはじかれて、元親はうめいた。ビュッと汁が空中に走ったが、絶頂とはいいがたい中途半端な開放に、もどかしさが募った。
「はぁ……なぁ、政宗」
 息を乱した元親の肩越しに、政宗と小十郎は視線で会話する。意を汲んだ小十郎の手が乳首を離れ、元親はあおむけに寝かされた。
「お?」
 ごろりと転がされた元親の足首が掴まれる。頭上に脚を引き上げられ、尻を浮かせる格好になった元親は、目を白黒させて政宗を見た。
「まるで赤ん坊だな」
「あんたが命じて、させてんだろ……うっ」
 陰嚢を手のひらで包まれた元親の言葉が詰まる。パンパンに詰まった袋を甘やかすように弄ばれて、元親の陰茎はダラダラと淫らな液をあふれさせた。
「はぁ、あ……ぁ、ふ……う」
 たっぷりと垂れた液が、腹筋の溝にたまる。政宗の指がそれを救って、ヒクついている秘孔に塗った。すぼまりはキュウッと指に吸いついて、けなげに震える。
「ぅは……ぁ、あ……ぅ、はぁ……あっ、ぁ」
 まつ毛を震わせる元親の上に小十郎がかぶさった。足首を抑えながら、陰茎の裏を舐める小十郎の目が、政宗に問うている。うなずいた政宗は秘孔に指を沈めると、蠕動する肉をほぐし開いた。
「ふはっ、ぁ、ああ……は、ぁあうっ、く……ぁあうっ」
 内壁を刺激され、裏筋を舌でくすぐられて、元親はうめいた。手のひらで床を叩き、体を揺らして総身に広がる快感に炙られる。舌の動きは緩慢で、その唇がもう少し大きく開いて、陰茎を呑み込んでくれればいいと望む。内側をまさぐる指は、あと少しというところで欲しい場所から離れてしまう。
「んぁあっ、ふ……ぁあ、もっと、ぁ、あ、指、横……あっ、違……んぁ、ひっ、も、ぁ、イク……イキてぇ……っ、ぁ、ああ」
 なまめかしく巨体がのたうつ。可憐にも見える淫らな舞に、奥州の竜とその右目は淡々と花を添えるべく愛撫を重ねた。
「はふっ、ぁ、あはぁあ……もぉ、あ、限界……っ、我慢ならねぇ……っ、政宗……っ、んぁ、なぁ……あっ、焦らすなよぉ……は、ぁあう」
「No まだだ……まだ、足りねぇ……」
「んっ、もぉ、充分……っ、は、やく……っ、ぁ、ひぅう……」
「甘ぇな……なぁ、元親。アンタが感じている鬱屈は、シケで陸に足止めを食らっているからじゃねぇ。――支配される心地よさを、求めているからだ」
「はぁ? 何言って……ふぁっ、あ、んっ、片倉、ぁ……は、そこ、あっ、あっ」
「イイだろう? イケない心地よさ……自分ではどうしようもない感覚……主導権を奪われた快感ってのは」
「はひっ、ふ、ぁあう……んっ、ぅう……も、ぁ、イキてぇ……っ」
「I know 元親……アンタの立派な槍は、これ以上ないほど好戦的になっていやがる。いやらしい液をたっぷり漏らして、ギンギンにたぎってやがる」
「わかってんなら……あっ、ぁ……はひっ、ぁ、はぅう」
「もっともっと、煽ってやんな。小十郎……たっぷり、ねっとりとな」
「お任せください、政宗様」
「ひふぅっ、ぁ、そこぉ、んぁああ、は、ぁあ」
 根元から先端までを舌先でなぞられて、鼻にかかった声で喉を震わせた元親の内側を、政宗の指がまさぐる。悦楽に追い立てられながら開放を与えられない、甘美な拷問に元親の意識がむしばまれる。
「はひっ、は……ぁ、ああ……ぁ、は、ぁう……う、ふ……あ、ぁあ」
 トロリと淫らに濁った瞳に、濃縮された悦楽が生んだ涙が浮かんだ。
「そのまま溶けて、何もかもを手放せばいい……そうなったら、解放してやる」
「は、ぁ、ぁ……ま、さむねぇ……あっ、ぁ、ああ」
「もっとだ……もっと……快楽以外、わからなくなったら、気を失うまで与えてやる……小十郎と、俺とで、な」
 政宗の流し目を受けた小十郎の唇が、元親の陰茎の先を吸った。
「んはぁっ! ぁ、ああ……いい……いい、あっ、ぁあ」
「あられもない声を上げて、本能に呑まれろ、元親。アンタの気負いを、理性と一緒に双竜が食らいつくしてやる」
「んひぃ、あっ、ぁふ……く、ぁあんっ、あ、は、ひゅぅう」
「言葉を忘れた獣……いや、快楽を求める鬼になれよ、元親……いや、そうならせてやる……意識が戻ったとき、さぞやスッキリしているだろうぜ」
「ふひぁあっ、あ、あぁ……あっ、ぁ」
 目を白黒させながら、空虚な絶頂を味わう元親の奥を政宗の指が、震えて汁をこぼしながらも、溜まった子種を吐き出せない陰茎を小十郎の舌が責め立てる。自分の先走りで腹を濡らし続ける鬼は、梅雨空に似た鬱屈の中に生み出された快楽の沼に落とされ、ズブズブと沈んでいった。
 そしてそれが晴れるころ、まぶしいほどにさわやかな灼熱の太陽が満ちるだろう。――心地よい気だるさを、体の芯に残しながら。
2019/07/24



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