欲しい。 あれが、欲しくてたまらない。 伊達政宗は、畑の脇にあった岩に座して、欲しいものを眺めていた。それが政宗の視線に気付き、ふりむいて笑みをきらめかせる。 戦場では鬼と呼ばれるほどに知力と武勇に優れている男、片倉小十郎のおだやかな姿に、政宗の胸が甘く絞られた。 欲しい。 この男が。 いや。 片倉小十郎という存在が、欲しい。 小十郎が、柔和に微笑みながら近づいてくる。手ぬぐいで汗をぬぐいながら、無防備に。 その笑みは自分にしか向けられないものと、政宗は知っている。部下や里の者たちに向ける笑みとは、ほんのわずかに違っていることを、知っている。けれど政宗は、それだけでは物足りないと感じていた。 もっと。 どうしようもないほどに深く、欲しい。「野良仕事を眺めておられても、つまらぬでしょう」 かたわらに来た小十郎に、口の端を持ち上げながら首を振る。政宗の柔らかな黒髪が、その動きに少し遅れて習った。「つまんなくなんざ、ねぇよ」 小十郎の姿を見つめることを、つまらないと思うはずがない。 小十郎は答えず、目じりを下げて髪を包む手ぬぐいを外した。どんなときでも乱れなく、きっちりと撫で付けられた髪が、ほんのわずかに崩れている。それをかきあげて、さりげなく直す小十郎に、どくりと胸が鳴った。 眠るときに、あの髪がおろされている姿を見たのは、どれほど前のことだったろうか。 右目を失い、母に厭われ、周囲からも無言の嫌悪を向けられた幼い頃。小さな体で孤独と戦っていた梵天丸と呼ばれていた頃の自分を、小十郎がさりげなく抱きしめてくれた。あれは、どれほど前のことだっただろう。 小十郎の逞しく鍛え上げられた胸に顔を埋め、しっかりとした腕に抱きしめられて感じた安堵とぬくもりは、愛されているという実感だったのだと、今ならばわかる。「どうぞ」「ああ」 差し出された竹の湯のみを受け取り、口をつける。ちらりと、小十郎の腕に目を向けた。 自分が幼い頃、小十郎も今より若かった。たくましいと感じていた腕は、あの頃よりももっと鍛え抜かれているだろう。 ふと小十郎の喉仏に目が行って、着物の合わせ目から見える鎖骨と、ちらりと覗く胸のはじまりに喉が鳴った。 ここもきっと、あの頃よりもずっと、たくましく鍛え抜かれているはずだ。「政宗様?」 思うよりも見すぎていたのか、小十郎が聡いのか。怪訝な呼び声に、政宗は内心あわてながら、唇をゆがめた。「小十郎を見ていると、野良仕事も武芸の一部みてぇだな」「鍬や鋤を使うことは、なかなかの力仕事ですし、雑草を抜く作業も、足腰が鍛えられます」 ぽん、と膝を叩いた小十郎の、半袴から伸びた足のしなやかさに、政宗は唇を噛み締めた。 自分のまらが、固くなっている。「屋敷に戻る」 さりげなく立ち上がり、政宗は小十郎に背を向けた。「軍議までには、戻ります」「It is proper」 振り向きもせずに、政宗は返答をした。 小十郎がどうしても欲しいと、そう望み始めたのはいつだっただろうか。 気がつけば、どうしようもないほどに欲していた。小十郎に抱きしめられて眠る日々の中、いつしか頭がもやもやとして、股間がじんじんとするようになっていた。それがどういう現象なのか、はっきりと理解をしたのは元服を終えた後だった。 自分は、性的な意味でも小十郎を求めている。 そう自覚をした頃には、もう小十郎は政宗を抱きしめて眠ることをしなくなっていた。 他人を律し、それ以上に自分に厳しくある小十郎の精錬さに、鋭さはあれど性的な雰囲気などかけらもない。それなのに、厳しい指導の後にふっとやわらぐ瞳や、刃を振るう姿に官能を見てしまうのは、異常なことなのだろうか。 政宗は、ひとり夜中に悶々と悩む。布団の中で体を丸め、月明かりに白い肌を青白く輝かせながら、自分の右目と呼ばれる男のことを思う。「小十郎」 つぶやけば、胸と股間が切なく疼いた。 より深い絆を生むために、主従が肉体関係を持つことは、平安の頃より行われている、なんら不思議の無い行為だ。けれど小十郎は、自分のその求めに応じるだろうか。応じるとしても、どのようにしてそれを求めればいい。どうやって、彼を求めればいい。この思いを、どう示せばいい。「How should I…」 つぶやき、政宗は毎夜のごとく途方に暮れて、寝返りを打ち、浅い眠りへと落ち込んでいく。 そんな日々が続けば、顔色にも変化をきたすのは当然だった。「近頃、顔色が優れませんが」 遠慮がちに小十郎が言ったのは、夕餉の後に政務の書類をまとめ終え、眠る前に酒でも飲めば眠れるだろうと、仕度を頼んだ宵の口だった。「言いにくいことでしたら、人払いは済ませてありますので」 酒を持ってきた小十郎の、無駄に気の利くところが小憎らしい。共に酒を酌み交わせば言いづらいことも言い出せるだろうと判断し、普段ならば過ごすなと言い出しそうな量の酒を用意し、自分の盃も持っている。 自分にならば、政宗は何でも打ち明けるだろうとの自負が、おそらく本人は無自覚であろうそれが透けて見えて、政宗は心中で舌打ちをした。 おまえが欲しいから自分とねんごろになれと、酒が入ったとしても言えるはずがない。酒の勢いで言えると思えていたのなら、とっくにそうしている。 政宗は鼻から吐息を漏らし、不機嫌そのものな顔で盃を掴んだ。そこに、如才なく小十郎が酒を注ぐ。そうして、無言の酌み交わしが始まった。 ゆるゆると酒を舐める部屋は閉め切っており、外の様子は少しもわからない。けれど、窓から差し込む明かりの強さから、月が煌々としていることはわかった。 沈黙が、居心地が悪いくせに心地いい。奇妙な感覚に陥りつつも、今このときは、間違いなく小十郎は自分のものだと、自分のことだけを案じているのだと感じられた。「小十郎」「は」 盃の中の酒を揺らすか揺らさぬかの小さな声にも、小十郎はすばやく返答をする。「寝付けねぇんだ」 酒に映る自分の目を見つめながら、政宗は独り言なのだと自分に言い聞かせて、小十郎にむけているのではないと思い込もうとしながら、つぶやいた。「I miss those days」 そっと瞼をおろして、思い出を噛み締める。「寝付けねぇときは、よく小十郎が添い伏してくれたな」 いかにも懐かしげに、思い出を語るようにつぶやき、瞼を上げて酒を飲み干した。空になった盃を突き出せば、小十郎が酒を注ぐ。ゆっくりと顎を上げてみれば、小十郎も懐かしげな顔をしていた。「お懐かしゅうございますな」 しみじみと噛み締めるように、小十郎が呟く。そこには、ただの思い出としての気配しか感じられない。政宗のような劣情を、わずかでも滲ませてくれれば、誘う言葉も出てこようものを。 わかりきっていたはずなのに、政宗は落胆をする自分に呆れた。 小十郎が欲しい。 その思いが、酒の勢いに押されて強くなる。 そう。自分は酔っている。これは、酔いに任せた戯言だ。いつもよりも多く、酒を飲んでいる。だから、酔った上で昔を懐かしみ、こんなことを言ったとしても、おかしくは思われないだろう。「あの頃みてぇに、添い伏してくれよ。小十郎」 なるべく冗談めかして聞こえるように、酔いに任せた悪ふざけと捉えられるように、政宗は片頬だけを持ち上げる。 了承してくれ。 胸奥の願いを込めて小十郎を見れば、少し驚いたように開いた目を面映そうに細めてうつむき、小十郎は床に手を付いた。「なれば、この身を清めてまいります」 音も無く立ち上がった小十郎が襖の向こうに姿を消すのを、政宗は呆然として見送った。 いまだに、信じられない。 酔いのせいで見た幻だったのではないか。了承をしたふりをして去っただけではないのか。 ぐるぐると頭をめぐらせる政宗は、小十郎が去った後に残っていた酒を飲み干し、膳を片付けさせると眠る前に刀の手入れをしたいからと、丁子油を用意させた。小十郎が身を清めて寝所に現れ、共に眠ったとしても、そういう流れになることは無いだろうと思いつつ、それでも念のためと消えぬ期待を抱えながら、政宗は六本分の手入れに使うに十分すぎるほどの油を用意させ、それを臥所の脇に置いて、そわそわとしていた。 ひたひたと、廊下を歩く足音が聞こえ、政宗は慌てて横になる。待ち遠しくしていたなどと、思われたくは無い。 すらりと襖が開き、どくんと心臓が痛んだ。「政宗様」 そっと襖が閉められて、小十郎がそばによる。すっとかけ布が持ち上がり、政宗の背に小十郎の手が触れて、ゆっくりと横たわる気配を感じた。 ばくばくと、全身が心臓になってしまったかのように、鼓動が響く。「お懐かしゅうございますな」 小十郎の腕が、政宗の脇に触れて抱きしめられた。ごくり、と政宗は喉を鳴らして振り向く。「ああ。すげぇ、久しぶりだ」 成長をした自分には、あの頃よりも小十郎が大きく逞しく感じることは無いだろうと思っていたが、そうではなかった。顔を見ることが出来ず、幼い頃のように胸元に顔を寄せれば、日に焼けた小十郎の肌の匂いが鼻腔をくすぐる。ぶるりと下肢が震えて、政宗はひざを曲げて腰を下げた。「政宗様」 あやすように、包み込むように小十郎が腕を回してやわらかく抱きしめてくる。髪に小十郎の息が触れて、たまらなくなった。「小十郎」 顔を上げれば、目の前に小十郎の慈しむ瞳がある。首を伸ばし、唇を押し付けた。「政宗様――?」 何をされたのかわかっていないのか、酔った中での行動だと思っているのか、小十郎は不思議そうにするだけで咎める様子は無い。政宗はそのまま幾度も唇をついばみ、舌先で小十郎の唇をくすぐった。「政宗様」 困惑と諌める気配をない交ぜにした声に、政宗は腕を伸ばして小十郎の首に巻きつける。 欲しいと思っていたものが、今こうして目の前にある。誰に見咎められることも無い場所に、こうして抱きしめあえる場所に。 俺は、酔ってる。 それを免罪符にしようと、胸の裡で繰り返しながら政宗は小十郎の唇に甘え続けた。下肢が、どうしようもないほどに熱くたぎってしまっている。もう、後戻りなどできようはずもない。「は、ぁ――小十郎」 熱っぽくささやけば、小十郎の瞳が、艶やかにきらめいたように見えた。 ずくん、と政宗の中で何かが震えてはじけた。その衝動のままに、政宗は小十郎の上に圧し掛かり、彼が状況を認識し逃げ出す間を与えまいと、激しく彼の唇を貪った。「んぅっ、ふっ、ふむっ、は、んぅう」 息苦しさに涙を滲ませ首を振る小十郎の唇を、政宗は角度を変えて追いかける。逃さぬようにしっかりと肩を掴む政宗の腕を、小十郎が握り締めている。その手が震えていることに、目じりからこぼれた一筋の涙に、政宗の野欲はうずまき小十郎の全てを食い尽くしたいと、荒々しい望みを行動へ移行させた。「ふはっ、はぁ、はっ、政宗様っ、んぅ」 唇を開放され空気を貪る小十郎の、あえぐ呼び声がたまらない。べろりと鼻を舐めて目じりの涙を吸い、襦袢の胸元を荒々しく開くと、みっしりと盛り上がった胸筋を左右から寄せるように手のひらで包み、弾力のあるそれを揉みながら指の腹で蕾をこねた。「ああ、小十郎」 たくましい胸の間に顔をよせ、心臓の上に吸い付き所有の証をつければ、政宗の下肢がたぎった。「っ、は、政宗様、っん」 戸惑う小十郎に、拒絶の様子は無い。忠義に厚いこの男は、ただただ困惑するばかりで、状況を、政宗の心理状態を見定めようとしているのだろうか。 それならば、判断が固まるまでに全て奪い喰らいつくしてやる。「んぁ、あ、政宗様っ」 襦袢の裾をはだけさせれば、しらじらとした下帯が現れる。そこが膨らんでいることに、政宗は思わず口笛を吹いた。「おまえも、興奮してんじゃねぇか」「っ、こ、これは……あ、政宗様、何をっ」 カッと頬を赤らめて触れようとする政宗を止めようと、小十郎が腕を伸ばす。それを交わした政宗は、下帯を掴んで引き上げた。「んあっ」小十郎の尻に下帯が食い込み、蜜嚢が圧迫され、茂みが左右からこぼれて牡が姿を現す。むずと陰茎を掴んだ政宗は、そのまま顔を寄せてそれを含んだ。「ひっ、ぁ、政宗様っ、そんっ、そのようなっ、ぁ」 主にしゃぶられ目を白黒させる小十郎の姿は、普段の彼からは想像もつかないほどの狼狽振りで、愛らしいなと浮かんだ思いをそのまま口淫に乗せる。「ふっ、んぅ、ぁ、そんっ、ぁ、おやめくださっ」 小十郎の声が上ずり、震える。口内で扱いていれば、牡の味が滲み始めた。先走りをこぼし始めた小十郎を口から放し、ぶるんと震える怒張したそれを見下ろす。「ずいぶんとhot pantsじゃねぇか」 言葉の意味はわからなくとも、察したらしい。ぐっと言葉に詰まった小十郎が、目をそらした。「も、申しわけございません」「No,褒めてんだ」 蜜嚢を手のひらでもてあそび、陰茎を扱く。とろとろと先走りをあふれさせ、羞恥を堪えて震える小十郎は何を考えているのだろう。「声、聞きてぇ」 陰茎を扱きながら、片手で下帯の横から自分の陰茎を取り出し、小十郎のそれと重ねる。二つの牡を握り締めて擦れば、互いの熱がひとつになった。「はぁ、小十郎」「ふっ、ぁ、政宗様っ、んぅ」 腕を噛み声を抑える小十郎は官能的で、嗜虐を煽る。二つの牡を押しつぶすように強く激しく擦り合わせれば、互いの先走りが混ざり合い政宗の指を濡らして、追い詰める手をすべらかにした。「なぁ、小十郎。声、聞きてぇ」 熱っぽく乱れた声でささやけば、小十郎が首を振る。噛んでいる腕に、うっすらと血が滲んでいる。 そんなに、声を聞かせたくねぇのかよ。 苛立ちのまま、射精欲に従い政宗は手淫の速度を上げ、ぶるりと腰を振るわせた。「くっ」 すかさず、小十郎の蜜口を爪で掻く。「ひっ、は、ぁああああっ」 びゅるりと小十郎の欲蜜が飛び出し、彼の腹を濡らした。絶頂を迎えながら数度扱き、残滓も全て搾り出して小十郎の鼻先に唇を寄せる。「ふぅう、ふぅ、ふっ」 呼気を震わせ射精の余韻に震える小十郎の、噛み締められた腕を外させる。くっきりとついた歯型に舌を寄せれば、甘い鉄の味がした。「は、ぁ」「小十郎」 涙にぬれた瞳に、唇を寄せる。「ぁ、政宗様」 快楽に惚けた声で、呼ばれた。「申しわけございません」「なんで、謝る」 小十郎がわずかに目を伏せてそらした。「政宗様のお手を、汚してしまいました」「俺が、そうしたんだろうが」「申しわけございません」 ぎり、と政宗は奥歯を鳴らす。なぜ小十郎が謝罪をするのか。組み敷かれたまま政宗を跳ね除けぬのは、主従であることを意識してのことなのだろうか。もしそうなのだとしたら、謝罪はあくまでも臣下として、主の行為を受け止めていると、政宗のこの行為を個人同士のものだとは認識せず、遠まわしに咎め拒絶しているということになりはしないか。「Ok。それなら」 あくまでも、臣下として政宗の愛撫を受け入れるというのなら、この手で昇らされ果てたことを謝罪するというのであれば、とことんまで受け入れさせてやろうじゃねぇか。「政宗様?」 眼帯を外した政宗が、小十郎の足を広げる。「イッたことで謝るんなら、イケねぇようにすればいい」「えっ」 蜜嚢の裏に鍔を押し当て、根元からクビレまでを、蜜嚢ごときつく縛り上げる。「っ、な、何を!」「イケねぇようにしただけだ。これなら、汚したつって、謝る必要もねぇだろう」「何を、お考えになられているのですか」 慌てる小十郎の縛られた陰茎を握り締め、政宗は怒気を帯びた視線を切っ先に変え、小十郎に付きつけた。「おまえを抱くこと以外に、何があるってんだ」 びくりと震えた小十郎が、ひゅっと喉を鳴らす。枕元に用意をした丁子油を手にし、小十郎の体をひっくり返した。「政宗様、お戯れは……っひぃ」 蜜嚢と陰茎を握り締めて押し上げれば、小十郎の尻が浮く。その谷に、丁子油をたらした。「俺は、いつでも本気だぜ。You See?」「政宗様っ、まっ……」 尻を広げて窄まりを確認し、そこに瓶の口を当てて丁子油を流し込む。ぐっと歯を食いしばる小十郎の秘孔がひくつき、不器用に丁子油を飲んでいく。「はぁ、小十郎。ひくつくたびに、やらしい音がしてんぜ?」「んっ、ん」 丁子油が垂れて、小十郎の茂みを濡れ光らせる。全ての丁子油を小十郎の肌に流し終え、政宗は窄まりを指の腹で押した。「っ、う」 あくまでも、主の行為には耐えるって姿勢かよ。 身を硬くしている小十郎に舌を打ち、指を押し込んだ。「っ、ぁ、は、く、ぅうっ」「狭いな」 けれど、思ったほど頑なではなかった。やわらかくあたたかな内壁を探り、あやしていく。「んっ、ふ、んっ、んんっ」 布団を握り締めて堪える小十郎の口を、開かせたい。そう思いながら探る政宗の指先が、快楽点を探り当てた。「あぁっ!」 小十郎が顎をそらせて口を開く。ここか、と唇を舐めた政宗は、そこを中心に内壁をかき回した。「はぁっ、ぁ、政宗様、あ、なりませっ、ぁ、そこっ」 小十郎の尻が揺れる。縛られた蜜嚢と陰茎が膨らみ、ギチギチと眼帯の紐が食い込む。「気持ちがいいんだろう?」「ひっ、ぃい」 強めにえぐれば、小十郎の腰が跳ねた。そのまま指を増やし、小十郎を責め立てる。「はんっ、はぁあ、ぁ、くふぅうっ」「口を閉じる暇も無いぐれぇ、感じてるんだな。コッチもこんなに熱くさせて」 そっと陰茎をなでれば、政宗の手のひらに小十郎が股間を擦りつけた。無意識にそうしてしまうほど感じているのかと、政宗の嗜虐心が燃え上がる。「はは。すげぇな、小十郎。おまえがこんなに乱れるとは、誰も想像すら出来ないだろうぜ」 この俺以外に、見たものはいないはずだ。 愉悦が政宗の体を駆け巡り、下肢を痛いほどに怒張させた。「小十郎」 これ以上、堪えるのは無理だ。 尻を掴んで熱の先を秘孔に押し当てれば、小十郎が目を見開いて肩越しに政宗を見た。「ぁ、ま、さむね、さま」「しっかり、受け止めろよ」「あぎっ」 一気に、奥まで押し込む。苦しげな声を出した小十郎の尻を引き寄せ、ぴったりと隙間無く二つの体を重ね、その背に唇を寄せて吐息混じりに名を呼んだ。「は、ぁ、小十郎」「あ、あぁ」 ぶるぶると、小十郎が肌を震わせる。彼の陰茎を握り、萎えていないことを確認すると、政宗は抜き差しを始めた。「はぁ、すげぇ、あったけぇ」「はひっ、はっ、ぁお、ぉううっ」 手負いの獣のように吼える小十郎が、布団に顔を伏せ総身に力を入れる。無体な行為に、ただひたすら耐えようとする姿に、支配欲と後悔が綯い交ぜになって政宗を責めた。「はぎ、ぃ、ぁ、おおっ、ふ、ぁぐっ、ぅう」 苦しげに呻く小十郎の陰茎の先を手のひらでこね、ちぎれるほどにきつく締め付けてくる内壁を、ゆっくりと擦り続ける。すると、いつしか小十郎の息が苦しげなものから熱っぽいものへと変わり、からみつく肉壁の様子が変わった。頑ななそれが、喜び絡み求めるように、とろける。「小十郎」「ふ、ぁは、う」 小十郎の声から硬さが抜けて、政宗は彼の腰を両手で掴み、本能の促すまま小十郎に熱杭を打ち付けた。「んはっ、はんっ、はっ、はんぁあっ、ぁおおっ、ひっ、ひんっ、ぁはぁああっ」 あきらかに、今までの声とは違う高く甘い嬌声に、政宗の腰が早まる。うっすらと汗を掻くほど激しく小十郎の内壁をかき回し、突き上げ、彼を追い立てながら自分を追い詰めた。「っ、イクぜ、小十郎!」 ぐん、とひときわ強く深く打ち付けて、奥に放つ。「っ、は、ぁはぁああああっ」 小十郎が伸びをする猫のように背をそらして、政宗の陰茎を絞り上げ、欲液を飲み干した。「っ、は、ぁ」 残滓までも注ぎ終えた政宗は、小十郎から抜け出て彼の体を仰向けにさせた。縛られた陰茎が擬似射精に震え、眼帯を食い込ませている。ごくり、と政宗の喉が鳴った。「すげぇな」「はひっ、ぁ、は、ぁあ」 陰茎をなでれば、小十郎の腰が揺らめく。薄く開いた唇に、とろりとした瞳に、理性の姿は見受けられない。陰茎を手のひらであやしながら、政宗は小十郎の頬に、瞳に、唇に口付けた。「ああ、小十郎」「ぁ、は、政宗様、ぁ、あ」 生理的な涙をこぼす小十郎に、胸が切なく絞られる。「愛してる」 小十郎の目が、驚愕に見開かれた。「どうしようもなく、おまえが欲しいんだ」 強く抱きしめ耳元にささやけば、小十郎が呆然と呟いた。「政宗様」 抱きしめ、小十郎の頬に頬を当てていれば、ためらいがちに小十郎の手が政宗の背に触れて、撫でた。 それだけで、十分だった。「小十郎」「政宗様」 唇を重ねる。手を伸ばし陰茎の眼帯を取り外せば、小十郎が膝を立て足を広げた。唇を重ね舌を絡ませながら、政宗は再び小十郎の中へと沈む。「ぁはっ、は、ぁ、政宗様、ぁ、はぅ」「小十郎、ああ、すげぇ、あったけぇ」 唇を離さぬまま政宗は腰を打ちつけ、それに合わせるように小十郎の腰が踊る。「ぁ、んっ、はぁ、あああっ、ぁおおっ、ぉふ、はんっ、はぁあう」「くっ、すげぇ」 小十郎の乱れぶりに、からみつく肉壁に、若い政宗の性が射精へと導かれる。髪を振り乱し求める小十郎が、愛おしくてたまらない。「ああ、小十郎」「っ、ご存分にっ、政宗様、ぁあ、くはっ、ぁはううっ」 小十郎の足を折りたたむように抱えて、激しく腰を打ち立てる。濡れた音と肌がぶつかる音。小十郎の嬌声と荒い自分の息使いと高ぶる鼓動が溶け合い、全てがひとつになった瞬間、政宗がはじけた。「っ、くぅう」「ぁひっ、はぁああああっ」 すがるように、小十郎の内壁が政宗の陰茎を絞る。それと共に放った小十郎の陰茎を擦り、肉壁に牡を擦りつけ、最後の一滴までをも放ち終えれば、射精の余韻を含む息を重ね、唇をついばんだ。「ぁ、政宗様」「小十郎」 たしかに思いは重なり合ったと確信をし、二人は互いを強く抱きしめた。 眠る小十郎の無防備さに、政宗の頬が緩む。自分よりも年かさの、たくましく兵士らからも慕われ憧れられ、時には恐れられているこの男の、誰にも見せることの無い姿を、誰にも聞かせることの無い声を、手に入れた。誰に向けられることもない思いを、抱きしめた。「ん、ぅ」 小十郎の睫が震えて、ぼんやりと瞼が持ち上がる。「morning my beloved」 ちゅっと軽く額に口付ければ、小十郎は意識を覚醒させ、照れくさそうに微笑んだ。「おはようございます。政宗様」「ああ、おはよう」 日本語で言い直し返した政宗に、面映そうに小十郎の唇がほころんだ。それに、軽く口付ける。「いつから、気付いておいでだったのですか」「what?」「この小十郎が、あさましくも政宗様に懸想をしているということを、です」 視線をそらし、この男にしては珍しく歯切れ悪く小さな声で問うてきたことに、政宗は目を丸くした。「その、気付かれておいでだったので、お悩みになられ、寝不足になられていたのでしょう」「Ha!」 いとおしくて愛らしくて、政宗は小十郎の頭を強く抱きしめた。「知ったのは、昨夜だ」「え?」 丸く開いた瞳に、唇を寄せる。「おまえは、いつから知っていた?」「いえ、私は。よもや政宗様が、そのようにこの小十郎を見ているとは、つゆほども思わず……」「思わずに、おまえの気持ちを察した俺が、手を出したと思ったのか」 だからろくな抵抗もせずに受け止め、謝罪など口にしたのか。「とんでもねぇな」 そんな気配など、おくびにも出さずにそばに控えていた小十郎に、内心で舌を巻く。これほど近くにいたというのに、まったく気がつかなかった。「そういうことなら、もっと早くに手を出しておきゃあ良かったぜ」 悩んだ時間が無駄だったと、小十郎の髪に唇を寄せる。「これからは、遠慮しねぇで愛しつくしてやる。覚悟しとけよ、小十郎」 声を弾ませる政宗に、小十郎がきりりと眉を整えた。「くれぐれも、お立場をお忘れなきよう、振舞ってください」 言い終えた小十郎が、ふわりと表情を緩めた。「愛想つかされねぇように、気をつけておくぜ」 同じ笑みに彩られたふたつの唇が、ひとつになった。 2013/09/27