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鼻先の人参

 薄い唇から、甘やかな吐息がこぼれる。そこに節くれだった長い指先が触れて、唇からわずかに覗く白い歯が爪を噛んだ。その指が顎に流れ首を落ち、みっしりと盛り上がった胸筋の谷を滑ると、見事に割れた腹筋の筋をたどり縦長のヘソに到着する。
 は、と彼の唇から熱い息が漏れた。ヘソで迷うように円を描いてから、指はそこからさらに下り、下帯に触れてふくらみを撫でた。
「政宗様」
 着物を肩から落とし、引き締まった足を広げ、気だるげに壁にもたれる男の名は、片倉小十郎。奥州の軍師である彼は、知略・武勇ともに日ノ本全土に響き渡るほどの、勇将である。その彼が、羞恥を含んだ淫靡な目を細め、呆けたような顔をして着物を乱し、自らの下肢を強調するように下帯の上から二本の長い指ではさんで見せている。もう片手は鍛え抜かれた胸筋に添えられ、色濃く尖る箇所を、なでていた。
「政宗様」
 羞恥に頬を染めながら、小十郎が呼ぶのは奥州を統べる竜、伊達政宗である。小十郎が唯一無二の存在と認め、自らの命を省みぬほどに大切に思う相手であった。
「政宗様」
 小十郎の下肢に触れる指が、妖しく動く。下帯の奥に眠る震えるものはまだ、膨らみきってはいないらしい。膝を折り大きく足を広げて見せる小十郎は、渇いた唇を舐めてから言葉を続けた。
「筆を持つ手が、止まっております」
 ぴしり、と厳しい声音で言われ、文机を小十郎に向けて政務を行っていた政宗は、唇を尖らせた。
「そんな姿を見て、マトモに政務が出来るわけがねぇだろうが」
「貴方様が、私がこのように、その、すれば政務を行うと駄々を捏ねられたのではありませんか」
 羞恥をごまかすために牙を剥く小十郎は、戦場で鬼と称されるそれとは違っていた。足をきっちりと閉じて襟をただし、着物を整えた小十郎が、ごほんと咳払いをする。
「政務をなされないのであれば、下がらせていただきます」
 折り目正しく頭を下げた小十郎に、政宗が慌てた。
「No! Wait Wait!!」
 手のひらを突き出して小十郎を止め、政宗はがりがりと筆の尻でこめかみを掻いた。
「まさか、本気でするとは思わなかったんだよ」
「私をたばかり、政務から逃れようとなされた、と。そういうことですか」
 小十郎の目が細められ、政宗はニヤリと口の端を持ち上げた。
「良いモンが見れた」
「ならば、さっさと政務を片付けてください」
「しようにも、体の一部に全部の血が上っちまって、頭が働かないんだよ」
 目じりに艶を乗せた政宗に、小十郎は大きな息の塊を吐き出した。
「だから、な? 小十郎」
「なりません」
「このままじゃ、頭が働かなくてcoolな判断が出来ない」
 政宗が小十郎ににじり寄り、小首を傾げて上目づかいに強請る。
「な、小十郎」
 膝に伸びてきた政宗の手を、小十郎はペシリと叩いた。
「なりません」
「Don't be so stingy」
「政宗様」
 ぎろりと睨まれ、政宗がビクッと震える。それに、またも小十郎は大きな息を吐いた。
「政務が終われば、存分にお相手差し上げますから」
「え?」
「ですから」
 小十郎が目じりを赤くし、顔をそらした。
「終われば、かまわないと申し上げているのです」
 ぱあ、と政宗の顔が輝く。
「なら、俺の好きなように、ぞんっぶんにさせてくれるんだな!」
「えっ」
「OK 小十郎! そこで、さっきみたいに俺を誘うような格好をして待ってろ。I became motivated」
 文机の前に戻り筆を手にした政宗が、ほらほら早くと小十郎を促し、小十郎は先ほどもたれていた壁に戻る。
「もっと、provocative mannerで俺を鼓舞しろよ、小十郎。急いで政務を終わらせて、襲いかかりたくなるぐらいにな」
 ぽい、と政宗が何かを投げる。それを受け取った小十郎が、ぎょっとした。
「自分でほぐして、俺が政務を終えるのを待ってろ」
 政宗はどうやら、本気らしい。楽しげに目を光らせて書面に向かう彼の姿に、小十郎は先ほどの格好をした時よりも強く、腹を決めて帯を解いた。
「あ、小十郎」
 下帯も外そうとした彼に、政宗が声を掛ける。
「下帯は、つけたまま、だ。Got it?」
 きゅっと唇を引き結んで
「承知いたしました」
 小十郎が腰を下ろし足を開いた。政宗の投げてきたハマグリの軟膏入れを開け、潤滑の軟膏を指にからめる。それを下帯の隙間から差しこみ、気合を入れて自分の秘孔に押し込んだ。
「くっ」
「おいおい、小十郎。切腹みてぇな気合の入れ方すんなよ」
 ピッと筆先で小十郎を指して文句を言う政宗を、小十郎がギロリと睨みつける。
「文句がおありでしたら、書類を片付けてからにしていただきたい」
 肩をすくめて息を吐いた政宗が、筆先を書面に戻した。
「く、は」
 自らの秘孔を自分でいじくる日がくるなど、小十郎は想像すらした事が無かった。こうして主に仕事をさせるために、猥らな姿を見せることになる日がこようとは、思っても見なかった。けれどそうなってしまったからには、山積の書類を終わらせるために必要であるのならば
「この小十郎、全力で政宗様を駆り立ててごらんにいれます」
「色っぽさの、欠片もねぇな」
 政宗が、楽しそうに呆れた。
「ふ、く」
 ゆるゆると秘孔に押し込んだ指を動かす。緊張のせいか、政宗に触れられているときのような感覚は、まったく無い。妙な違和感があるだけだ。軟膏の量が足りないのかと、小十郎は指を抜き、軟膏を掬って押し込んだ。
「は、ぁ、う」
「そんなんじゃ、そそられねぇぜ?」
 そう言いながら、政宗は自分の下肢が熱く震えるのを感じている。あの小十郎が、自分で秘孔をいじっている。その事実だけで、尻を掴んで押し開き、がむしゃらに突き上げたくなるほど興奮する。けれどどうせなら、もっとすごい姿を見てみたい。
「開いてる手でも軟膏を掬って、自分の胸をいじってみろよ」
「ぁ、私に声を掛ける暇がおありでしたら、政務を」
「Oops it was so」
 政宗が書面に顔を向けたので、小十郎は言われた事を、半信半疑で実行してみる。ちっとも心地よくなど無いまま秘孔の指を動かしつつ、もう片方の指に軟膏を付けて胸乳の尖りの周囲をクルクルと撫でてみた。
「っ、ふ、ぅ」
 やはり、あまり何も変わらないなと思いつつ、それでも政宗がチラチラとこちらを見ながら筆を進めているので、行為を続ける。どうして政宗の指であれば、あれほど乱れるのだろうと、小十郎は自分の指では何ともならない不思議の理由を考えた。
 もしこれが、政宗の指であれば――。
「っ!」
 思った瞬間ぞくん、と腰に甘い疼きが走った。その小十郎の変化に、政宗が気付く。
「どうした、小十郎」
「は。いいえ」
 今のはなんだと思いながら、小十郎は再び政宗の指でされる時を思い出し、指を動かしてみた。
「っは、ぁ」
 胸乳が甘痒くうずき、媚肉が収縮する。じわりと牡に熱の蜜が通い、膨らんだ。
「もっと、いやらしい感じにしてみせろよ、小十郎。でなきゃ、仕事が進まねぇ」
「そう言われましても、どのようにすれば良いのかわかりかねます」
 眉間にしわを寄せた小十郎に、ふむと政宗が考えた。
「なら、俺の言う通りにしてみろよ。もっと足を開いて、指が入ってるところを俺に見せ付けるように、いじってみろ」
「なっ」
「俺を鼓舞してくれんだろ?」
 ふふんと鼻を鳴らした政宗に、小十郎は頬を引きつらせながら従う。足を大きく開き、政宗に尻まで見えるように横になった。
「いい眺めだ。指、もう一本くらい増やせるんじゃないか」
 言われたとおりに指を増やしてみれば、すんなりと秘孔は指を飲み込んだ。政宗の牡を飲み込めるのだから、指の二本くらいは入って当然なのだろうが、小十郎は驚く。
「ほら、休んでねぇで、指を動かして広げろよ。俺が入るぐらいにな。乳首ももっと、いじって見せろ」
「私に指示を出さず、書類を」
「I know」
 政宗が再び政務に取りかかったのを確認し、小十郎は慎重に秘孔の指を動かしながら、胸乳をいじる。
「ぁ、は」
 じんじんと、触れていない陰茎が熱くうずく。それに促されるように、小十郎は媚肉を広げ胸乳の尖りを摘んでころがした。
「ふっ、ぁ」
 触れていないほうの乳首も硬くなる。そちらにも刺激が欲しいと思うが、手は二本しかないのでどうしようもない。
「んっ、ふ」
 うずく陰茎がもどかしく、小十郎の腰がうねった。
「いいぜ。たまんねぇ、小十郎」
「ぁ、は、政宗様」
「今すぐにでも、ぶち込んでかき回してぇ」
 政宗の言葉に、きゅうん、と小十郎の媚肉が締まる。その拍子に、小十郎の指が自身の快楽点を押した。
「ひっ!」
「おっ」
 嬌声を上げ腰を浮かせた小十郎に、政宗が意地の悪い笑みを浮かべる。
「いいねいいね、最高だ。小十郎、そのままソコを中心に、いじってみせろ」
 腰から背骨を突き抜けた快楽を、再び自分で生み出すことに小十郎がためらう。ふうと息を吐いた政宗が、小十郎を手招いた。
「俺の横に、少し尻を浮かせて座ってろ」
 疑念を浮かべながら従った小十郎の尻に、政宗の左手が伸びて秘孔に指を押し込んだ。
「ひっ、ぁ、政宗様」
「右手を俺の肩に回してろ。左手で、書面を抑えて政務を手伝え」
「は?」
「ほら」
「ぁはっ、ぁ、ふぅ」
 促しながら、小十郎の媚肉を政宗が探る。抗議をする前に政宗の愛撫で言葉を遮られ、小十郎は仕方なく従った。小十郎の秘孔を広げながら、政宗は書類に目を通し、筆を走らせる。
「次だ」
「はい、っは、ぁ、くぅ」
 小十郎が次の書面を広げ、政宗がそれに目を通し決裁を下す。
「次」
「はっ、んぁ、あっ、は」
 政宗が首を伸ばし小十郎の胸乳を吸って、秘孔を乱す。小十郎の足に力がこもり、尻にえくぼが浮かんだ。胸の尖りに歯を立てられ、媚肉をまさぐられて、小十郎の牡先から欲液が滲み下帯を濡らした。
「ほら。早くしねぇと、終わらないだろう」
「んぅうっ、は、ぁ、はい」
 快楽にわななきながら、震える指で小十郎が次の書類を用意する。政宗は小十郎を乱しながら、時折胸乳に舌を伸ばし、政務を次々に終わらせていった。
「これで、最後だな」
「は、ぁあっ、ふ、政宗様、ぁ」
 最後の決裁を終えた政宗が、筆を置いて小十郎の腰を抱き胸乳にかじりついた。
「もう、限界だ」
 そのまま小十郎を押し倒し、彼の足を持ち上げる。
「ずいぶんと、グッショリ濡らしちまってるじゃねぇか」
 小十郎の下帯が濡れて、凝りきった彼の牡の形を浮かび上がらせている。唇を舐めた政宗の目が、獲物を捕らえた獣のように光った。
「たまんねぇ」
「ぁ、政宗様。もう、お早く」
 足を広げて求める小十郎の目が、淫蕩に濡れている。ゴクリと喉を鳴らした政宗が、乱暴に着物を脱いで下帯を剥いだ。そそりたつ政宗の若い陰茎に、小十郎が快楽に上ずった息を吐く。
「そんな、物欲しそうな顔をすんじゃねぇよ」
 小十郎の下帯を奪いながら政宗が言えば
「物欲しそう、ではなく、欲しいのです。政宗様」
 野欲をさらけだす小十郎に、政宗が圧し掛かり乱暴に貫いた。
「ひぎっ、は、ぁあっ」
 小十郎の体も意識も、政宗の熱に穿たれ満たされる。
「クソッ。もっと、色々してやろうと思ったんだけどな」
 政宗が、獰猛な笑みを浮かべた唇を、小十郎に押し付ける。
「これ以上待たされては、この小十郎が堪えられません」
 え、と政宗が眉を上げる。
「こうして繋がるのは、久しぶりですので」
 穏やかに、ほんのりと小十郎がはにかみ、政宗の胸が熱くなった。
「っ、の!」
「ひぎっ、ぁ、は」
 ギリと歯を食いしばった政宗が、小十郎の胸の尖りを摘んで捻る。刺激に締まった媚肉を、がむしゃらに掻き乱した。
「っ、小十郎」
「は、ぁ、ぁふっ、ひっ、ひぃいっ、ん、むぅ」
 ガツガツと、容赦なく掻き乱す政宗が小十郎の呼気を奪うように唇を重ね、口腔を貪る。分厚い小十郎の胸板をわしづかみ、容赦なく攻め立てた。
「はんっ、はんぁあっ、あひっ、ひはぁおおぉおっ」
 獣の遠吠えのような声を上げ、小十郎が身もだえ髪を降り乱す。汗ばむ彼の肌から小十郎の香りが立ち昇り、陰茎から零れ落ちる蜜液の香りと混ざり野欲を煽る。
「ふっ、小十郎、ダラダラ子種あふれさせて、そんなに気持ちがいいのかよ」
「ぁひっ、はっ、はぁおぉっ、ま、さむ、さまっ、ぁあ、政宗様っ、あぁ」
 涙をこぼしながら、小十郎が政宗にしがみつく。自らも腰を振り立て求める彼の姿に、政宗の欲が頂点に達した。
「イクぜ、小十郎」
「はっ、はひっ、ひ、はぁあぉおおおっ」
 ぐぅんと抉られ奥に放たれ、小十郎が仰け反り叫ぶ。政宗の熱が小十郎に引火し、彼もまた腰を高く突き出し欲蜜を吹き上げ政宗の腹を濡らした。
「は、ぁ。小十郎」
 野性味あふれる恍惚の笑みを浮かべた政宗が、呆ける小十郎の唇を求める。
「まだ、気をやるのは早いぜ」
 小十郎の足を抱え、政宗が腰を揺する。
「っは、政宗様……ご容赦を」
 けだるそうな小十郎の瞳に、政宗の唇がじゃれつく。
「俺の好きなように、存分にさせてくれるんだろう。こんなもんで、治まると思っていたんなら、甘すぎるぜ? 小十郎。もっと、見た事ねぇような媚態を晒してくれよ」
「んぁ、あっ、政宗様」
「Go together until you die」
 甘く剣呑な息が、小十郎の耳に注がれる。

 翌日、小十郎の姿を見かけたものは、誰一人としていなかった。

2014/01/18



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