片倉小十郎は寸分の隙もなく、きっちりと髪を後ろになでつけて、けわしい顔を人目にさらしていた。 彼の行く先は、主・伊達政宗の私室。 誰もが、政宗の失われた右目と呼ばれる腹心である小十郎が、政宗に小言を言いに行くのだと思った。 小十郎は自分がけわしい顔をしているとは気づかずに、自分の心に繰り返し語りかけつつ、政宗のもとへ向かっている。(政宗様に、惚れた女が現れたって、おかしくはねぇ。むしろ、いいことじゃねぇか。家名を存続させていかなきゃ、ならねぇんだからな) 小十郎の眉の間に、深いシワが刻まれる。小十郎の耳奥に、政宗が簪を購ったという話がこだましている。「政宗様」 部屋の前で、そっと声をかけると「Ah」と短く返事があった。襖を滑らせ、一礼をして室内に入る。隙間なく襖を閉めて、折り目正しい姿勢で、政宗に膝を向けた。「そんなところに座ってねぇで、もっとこっちに来いよ。小十郎」「は」 短く答えた小十郎は、にじりよった。「? どうした」 政宗が隻眼をすがめる。小十郎の位置が、いつもよりも遠かったからだ。「いえ。なにも」「Fun……?」 政宗が首をかしげる。さらりと、頬をかくすほどに長い黒髪が、透けるように白い肌を滑り、流れた。なめらかな首が伸び、薄く形のよい唇が愉快そうにゆがむ。「まあ、いい」 機嫌のよい声に、小十郎の胃の腑がキュウッと締まった。文字通り、身も心も政宗に捧げ、仕えてきた。そんな言葉が生ぬるく感じるほど、全身全霊をもって支えてきた。そのうちの、身で仕えることが失われる瞬間に、小十郎は覚悟を決める。(政宗様が簪をお買いになられたということは、そういうことだ) 政宗よりも年上の、体躯のいい強面の男より、女の肌のほうがずっと抱き心地も具合もいいだろう。喜ばなければならない。 小十郎の傷痕の残る頬がこわばる。精悍な小十郎の眉が厳しくつりあがり、唇が硬く結ばれた。「怖い顔だな」 近づかぬ小十郎に、政宗が中腰で足を滑らせ、近づく。「小十郎」 政宗の細く長い指が、小十郎の頬の傷痕に触れた。やわらかく撫でられ、アゴをくすぐられて上向かされる。「小十郎」 政宗の左目が、小十郎を包むように輝いている。ゾクリと小十郎の心臓が震えた。「――は」 胸の震えを吐き出すように、短い息を放った小十郎の唇に、政宗が艶めいた微笑を浮かべる。小十郎の肌は震え、ほんのりと熱を帯びた。「小十郎」 ささやきとともに、唇を重ねられる。あらがえるはずもなく、小十郎は政宗の舌を招いた。小十郎の体の奥に眠る淫靡な竜を、政宗の舌がソロソロと目覚めさせる。頬裏をなでられ、舌を絡めて吸われれば、下肢に血が走った。「は、ぁ……」「Oh sexually」 うっとりとした政宗の息に、小十郎の思考が揺さ振られる。つくづくこの身は、彼の愛撫に慣れ親しんでいるのだなと、小十郎は苦笑した。「どうした?」「……いえ」 まっすぐに政宗の目を見て、小十郎は答えた。いつかは、この身を求められなくなる。その考えを、小十郎は持っていた。それが予想よりも早く、やってきただけのこと。いや、早くなどないのかもしれない。この身が性愛の対象になるほうが、妙なのだ。「政宗様」 ならば残り短い情愛を、あますところなく受け止めようと、小十郎は政宗の唇を求めた。意外そうにまばたきをしつつ、政宗は満足げに唇をゆがめて、小十郎の口腔をむさぼった。「ふ、は……んっ、ん」 体の奥から熱くなる。下肢がうずいて、小十郎は膝を開いた。政宗の手がそこに伸びる。布越しになでられ、小十郎はさらに膝を開いた。「もう、こんなに硬くしてんのか」 口づけの合間に、ささやかれる。「政宗様」 吐息で答えた小十郎の耳に、政宗の唇が移動した。 耳朶を甘く噛まれて、小十郎は身震いをした。政宗の手が帯にかかり、肩から着物を落とされる。素肌の小十郎の肩に政宗の唇が触れ、それが滑って胸乳に止まった。「ぁ……ああ」 鍛え抜かれた胸筋に、ぷつりと浮いた胸の尖りに甘えられ、小十郎の心に愛おしさが湧き上がる。女のそれのように、やわらかくもないそこに、政宗は指を這わせて舌をからませ、歯を立てる。「ぁ、ああ、あ」「もう、こんなに硬くなっているぜ」「ひっ、ぁ、政宗様」 男もそこで感じるなど、政宗に教えられるまで知らなかった。胸乳を愛されれば下肢が滾り、脈打つ。小十郎は政宗の髪に指をからませ、唇を寄せた。刀や鍬を振るう指は、大きくて硬い。女の細くやわらかな指が、この髪にからむのかと思うと、心臓が硬くなり、痛んだ。「小十郎?」 疑問の目を浮かべられる。心臓に近い場所に耳があるから、心の変化が聞こえてしまったのだろうか。(まさかな) 小十郎は微笑し、首を振った。 それで政宗が納得をするはずはない。案の定、政宗は疑問に満ちた目をしながら、小十郎の肌を愛した。わき腹をなで、ヘソに舌を伸ばし、袴に手をかける政宗を、小十郎は甘い息をもらしながら眺めた。「こんなにデカくして……」 クックと喉を鳴らした政宗に、下帯の上から陰茎に噛みつかれる。「うっ、は……ぁ、んっ、ん」 下帯の隙間から指が入り、猫の首をくすぐるように蜜嚢をあやされる。政宗の唾液と自分の先走りで下帯が濡れ、布が怒張した陰茎に張りつくのを感じながら、小十郎は膝をくずして足を広げた。「は、ぁ……政宗様、ぁ、あ」 直接に触れて欲しい。しかし、政宗はこうして小十郎を焦らすのを楽しみとしている。小十郎は拳を握り、射精欲に震える陰茎の訴えを、必死に押さえた。「小十郎……、いい顔だ」「ぁ、政宗様」 顔を上げた政宗が、軽く小十郎の唇をついばむ。小十郎が政宗の首に腕をかけると、口づけが深くなった。「は、んっ……んぅっ、う、ふ」 胸の尖りも陰茎も、淫靡な痺れに震えている。政宗の指が胸乳にかかり、胸の尖りをひっかいた。「ぁはっ……あ、ああ、政宗様、ぁ、ああ」 両方の尖りをつまみこねられ、小十郎は仰け反った。下帯に押さえ込まれた陰茎が、痛いほどに疼いている。「は、ぁ、ああ、政宗様、ああ……」 涙が滲む。政宗の唇が、小十郎の目じりに触れた。浮かんだ涙を舐めとられ、小十郎の胸が甘く絞られる。「政宗様」 政宗が目じりをゆるめ、下帯に手をかける。「キツそうだ」「ぁ……」 力任せに下帯を引き剥がされ、解放のときを喜ぶように、小十郎の陰茎が飛び出した。「Ha! 最高だな」 政宗の指が陰茎の先端に触れる。裂け目を指紋でなでられて、小十郎の背骨に官能が走りぬけた。「イッちまいそうに、ギンギンだな。……どうされたい? 小十郎」「ぁ……政宗様の、お好きになさってください」 うわずる声を懸命に抑えて、小十郎は言った。「どうぞ、ごぞんぶんに、この小十郎を味わっ……んぅっ」 鈴口に爪を立てられ、小十郎は嬌声を上げた。先走りがあふれ、政宗の指を濡らす。「Of course. I intend to do so it」 低くかすれた声で、政宗が答える。その音の響きに、小十郎は身震いした。「似合いそうなものを、買っておいた」「……え?」 小十郎の鼻先に唇を当てて、政宗が離れる。濡れぬ箇所を濡らすための丁子油とともに、政宗は紙に包まれたなにかを持ってきた。「受け取ってくれるな?」「政宗様が、お与えくださるものならば、この小十郎、なんでもうれしゅうございます」「Quite so」 政宗が包みを開き、現れたものに小十郎は目を丸くした。「か……ん、ざし?」 それは、銀の簪だった。政宗が簪を揺らすと、シャラシャラと雨の雫を模した飾りが、涼やかな音を立てる。「それを、俺に――?」「他に、誰がいる」 小十郎は困惑した。簪など、女に贈る以外に思いつかない。だから政宗に女ができたのだと思った。それが、まさか自分に贈られるものだったとは――。「……は」 小十郎は呆れと安堵に、笑みを漏らした。「どうした?」「いえ……」 覚悟の硬さが安堵にほぐれる。「簪など贈られても、髪は結えるほど長くはございませんが」「誰が、髪に挿すと言った?」 政宗がニヤリとする。すると、どこにどうするのか。小十郎の疑問を、政宗はすぐに解いた。 政宗の指が小十郎の陰茎を掴み、鈴口に簪があてがわれる。「ぁ……ふっ、ぅ、うう」 慎重に埋め込まれ、小十郎はうめいた。筒内が擦られ、えもいわれぬ感覚が体に広がる。「は、ぁあ、あ」「ほら、思ったとおりだ。よく似合う」「ふ……」 小十郎は、自分の陰茎に簪がピタリと埋まっているのを見た。ちいさな小十郎の震えを、簪の飾りが大げさに表現し、先端をくすぐる。かすかな刺激と筒内の圧迫に、小十郎の胸筋は興奮にふくらんだ。「どうだ、小十郎」「あ、りがとうござ……います」 政宗が簪の飾りを指ではじく。「あっ」「具合を、聞いてんだ」 ゆるゆると簪を上下され、小十郎は鼻をひくつかせた。「はっ、ぁ、あ……こすれて……っ、あ、しゃ、射精をしている時のような、ぁ、感覚が……っ、して」「だろうな。ここを通るモンは普通、ふたつしかねぇ……。なあ、小十郎。……イッてる時みてぇな感覚で、なんだ? 言えよ」 簪で筒内をやさしく乱され、蜜嚢をやわやわと揉まれて、小十郎は声のうわずりも震えも、おさえられぬままに答えた。「き、気持ちが……いい……っあ」「俺に突っ込まれるのと、どっちがイイ?」「ま、政宗様と比べられるものなど……っ、ございませ……んぅうっ」「欲しいか?」「は、はい……政宗様が……小十郎は、政宗様のみが、ぁあ、欲しゅうございます」 政宗が唇を舐める。剣呑に光った瞳に、小十郎は喉を鳴らした。「いいぜ。たっぷりと、味わわせてやる」「んぁっ、は、ぁああ」 丁子油で尻を濡らされ、指を呑まされる。いつもよりも性急な指の動きに、小十郎は床に転がり自ら足を抱えて、政宗のしやすいようにした。「ずいぶんと、積極的じゃねぇか」「んぁあっ、あ、政宗様……っは、ぁ、ああ」 うごめく政宗の指を、小十郎の媚肉が締める。それをかわすように、政宗の指は激しく動いた。「ふぁ、あっ、あ、政宗様、あぁ……もう、ぁ、あ」 高められた小十郎は、政宗を求めた。ズキズキと陰茎が痛むほどに興奮している。「政宗様……」「You are very sexy」 政宗の指が抜ける。小十郎の媚肉が、惜しむように動いた。すぐに政宗の陰茎が押し当てられ、小十郎は喜びに震えた。「政宗様」「そんな声で、呼ぶんじゃねぇよ」 うっとりと政宗がささやく。小十郎は政宗の背に腕を回した。「ぁ、は……ぁうっ、ふ……うぅ」 猛る政宗に貫かれ、小十郎はうめいた。シャラシャラと簪が涼やかな音を立てる。「いつもより、締めつけてきやがる」 根元まで埋まった政宗の息が荒い。小十郎はほほえみ、政宗の唇を求めた。「んっ、ふ……政宗様、ぁあ、どうぞ、ご存分に小十郎を……」「存分に、してほしいのはソッチだろう? 小十郎」 とがめるように鼻を噛まれ、小十郎は言い直した。「政宗様……ああ、小十郎を、どうぞ、このまま……っ、政宗様で乱してください」「もっと、素直に言えよ。行儀のいい言葉なんか、必要ないだろう?」 小十郎の喉が興奮にひきつる。体の奥が熱い。そこを、政宗の熱でさらに溶かしてほしい。 小十郎は、震える唇を開いた。「……グチャグチャに……っ、政宗様、小十郎をグチャグチャに犯して……ください」「まあ、いいだろう」 ほかに、どう表現すれば、政宗は満足をしたのだろう。それを考える余裕は、小十郎に与えられなかった。「んぁあっ、は、ああぁああ」 政宗が勇躍する。望む場所に望む刺激を与えられ、小十郎は髪が乱れるほどに首を振り、もだえ、政宗に頭を擦り寄せながら声を上げた。「ぁはっ、は、ぁああっ、まっ、まさむっ、ぁ、ああ」 怒張した陰茎が簪を締めつける。それと呼応するように、媚肉も政宗にしがみついた。突き上げられるたびに湧き上がる欲蜜が、簪の隙間から漏れ落ちる。しかしほとんどは外に出られず、小十郎の体内へ快感となって逆流した。「ぁはあああっ、まさっ、ぁ、はぁあああっ」 揺さ振りに合わせて、小十郎が声を放つ。それに簪の鈴やかな音色が交じった。「んぁ、あっ、は、まさむ……ぅううんっ、ぁ、もぉ、ぁ、政宗様ぁ」「もう? なんだ。小十郎」「は、ぁあ、あっ、で、でますっ、ぁ、小十郎の、ぁ、ああ」「塞がってるんだ。……出せないぜ?」 下唇を噛み、首を振って、小十郎は身をくねらせた。「くふ、ぅうっ、んっ、んぅうっ、ぁ、あは、あ、あくぅううっ」 限界を迎えた小十郎が腰を突き上げる。小刻みに震える小十郎の陰茎から、欲蜜は吹き出さなかった。わずかに簪の隙間からこぼれただけで、筒内に止められる。「ふ、ふぅうっ、ぅ、あ」 肌を震わせ涙を流す小十郎の陰茎を、政宗が指先でなぞった。「はふ、ぅうううん」 鼻にかかった声で啼いた小十郎の四肢に力がこもり、筋肉がふくらむ。緊張したふとももを撫でられ、小十郎は腰を揺らした。「もっと、もっと乱れろ。……誰も見ることのできないお前を、さらけ出せ」 呪詛のような切ない声に、小十郎はほほえむ。「ま、さむ……さま、ぁあ……ごぞんぶんに……」 それを自分も望んでいると、小十郎は全身で示した。政宗のすべてで深い部分まで暴かれ、瞳の光にさらされたい。その快感を覚えてしまった小十郎は、政宗のどのような望みも拒めなくなっていた。 否。 もとから、拒みようはなかったのだろう。 出会った瞬間から、きっと――。 政宗が若さのままに小十郎を突き上げる。乱され、もだえながら、小十郎は政宗を抱き締めた。 シャラシャラと簪が鳴っている。 思考を放棄し欲の獣と貸した小十郎の耳に、それはふたりの永久の想いを、祝福する鈴の音に聞こえた。 2016/03/01