イ草の香りも新しい、畳の置かれた座敷の中で、松永久秀は気だるげに身を横たえていた。 壮年の疲れを纏ったようなその姿は、濃密な酒の芳香にも似た何かを放っている。常にきっちりと結い上げられていた髪は無造作に肩に流れてはいるが、威厳をかもす顎髭には、かみそりが当てられ整えられていた。 まるで優雅な休日の態ではあるが、彼の居る座敷には牢格子が嵌められており、足には枷が嵌められ、部屋の柱と繋がっている。 人の来る気配を感じ、久秀はうっすらと笑みを浮かべた。現れたのは、はじけるような若さを身に纏った、徳川家康だった。短く刈り込んだ髪はさわやかに、隆々とした筋肉は健康そのものを示している。けれど真夏の日のような家康の、強い意思を示す眉は、ひそめられていた。「松永殿」 ずかずかと家康が牢格子に近付き、久秀はうっすらと口の端を持ち上げた。「これは、これは。天下人が自ら罪人である私に会いに来るとは。どういった趣向かね。徳川家康」「近頃、食事を摂らぬと聞いた。どこか、具合でも悪いのかと思うて見舞いに来たんだ」 ゆったりと身を起こした久秀が、艶然と微笑む。「ずいぶんとやさしいことだな、徳川よ。なに、ここに囚われていては、身を動かす必要も無いのでね。腹が空かないだけのこと」 久秀の様子を疑うように、家康は目をすがめた。クックと久秀が喉を鳴らす。「天下人となったのであれば、私なぞを相手にしている暇など、無いのではないかね。卿は、私を気にかけるより他に、やることがあるだろう」 家康はそれに答えず、牢格子の鍵を開けて中に入った。「鍵を開けてしまっても、良いのかね」「枷の縄の長さでは、格子まで手が届かないだろう」 ふむ、と久秀は足枷に手を置いた。「確かに、そうだな」 久秀は面白そうに、近付いてくる家康を眺める。「少しは、食べたほうがいい」 家康が懐から竹の包みを取り出した。中には、木の実を練りこんだ団子が入っていた。「毒など、入ってはいない」 さあ、と団子と共に茶を入れた竹筒を差し出す家康に、久秀は観察するような目を向けた。「なるほど。絆を第一と考える卿は、この私とも絆を結ぼうと考えているのか。酔狂な事だ」「酔狂なんかじゃないさ。松永殿。貴殿はかつて、あの魔王と友であったと聞いている。ならば、某とも絆を繋ぐ事が出来るはずだ」「罪人にも、へりくだるかね」 家康が‘ワシ’ではなく‘某’と言った事を揶揄し、久秀は家康の差し出す団子に手を伸ばした。家康の唇が安堵したようにほころぶ。それに目を細め、久秀は家康の腕を掴み引き寄せた。「なっ、んんっ」 驚く家康の視線を捕らえ、唇を押し付ける。驚きに開いた家康の口腔に舌を入れる事など容易い。久秀は有り余る家康の若さを吸い取るように、舌を差し込み口内を貪った。「んっ、んんっ、ん」 四肢の逞しさでは、久秀も家康に負けてはいない。牢に囚われてから若干の衰えはあるが、着物の上からでもわかるほどの、ほどよい脂肪を乗せた筋肉は健在である。まして相手はひるんでいる。抵抗される前に腕をひねり、抑え込んでしまえば容易いことだった。「んっ、んんっ、ん、ふ、んううっ」 驚きに見開かれた家康の目に、久秀が映っている。それを面白がりながら、久秀は熟練の技を持って家康の口腔をねぶった。家康の瞳が潤み、肌が熱を帯びてきたのを感じて、唇を離す。「ぷはっ、は、はぁ、松永殿、何を」「絆を繋ぎたいのであれば、身を繋げば手っ取り早いだろう」 カッと家康の満面に血が上る。それが怒りではなく羞恥であることに、久秀は暗い悦びを浮かべた。「何を言っているんだ、貴殿は」「わからぬほど、子どもではないと思っているのだがね」 家康から離れ、久秀はしどけなく身を横たえ襟をくつろげた。「この身を、抱いてみないか」「なっ」「冗談で言っているわけではないぞ、徳川。触れ合えば、言葉を交わすよりも、深い対話が出来ると思っていてね。もっとも、卿が私相手に勃たぬというのであれば、仕方が無いが」 久秀が見せつけるように足を開き、膝を立てた。熟された妖艶の気配が座敷に放たれる。若い家康はそれに飲まれ、硬直した。「徳川よ。私に、人のぬくもりと言うものを与えてくれないか」 久秀が手を伸ばして誘えば、家康は術にかかったように、ゆらりとその手を取った。微笑む久秀は優雅に家康を引き寄せ、鼻先に息を吹きかける。「捉えられたときの傷は、もう癒えているのだが……痕が消えなくてね。時折、疼いて困っているのだ。舐めて、癒してはもらえないかね」 帯を解いた久秀が、盛り上がった胸筋に家康の手を当てる。そこには塞がりはしたが、うっすらと残る刀傷の痕跡があった。「戦乱の世というものに浸かり育った私に、卿の言う絆というものを、実感させてくれるのだろう」 久秀の声が家康の耳に注がれる。呪のように紡がれる声に、淫靡な空気に、家康は酔わされた。惚けた顔で久秀の胸に置かれた自分の手に力を込める。しっとりとした久秀の皮膚の下にある筋肉が、家康の指を沈ませ包み、反抗するように押し返してくる。その弾力の心地よさに、家康は両手で久秀の胸乳を掴み、揉みしだいた。「松永殿」「あまり、乱暴にはしないでくれたまえ。卿ほどに若くは無いのだから」 久秀が舌を覗かせ、自らの唇を舐めた。家康の意識に、先ほどの口交の心地よさが蘇る。吸い込まれるように顔を寄せてきた家康を、久秀はおおらかな笑みを持って迎え入れた。「んっ、んふ、ん」 胸乳を揉まれ口を吸われ、久秀が鼻から息を漏らす。どこか余裕のあるその姿は、幼子を戯れさせている親のようであった。まだ若い家康は、久秀の熟れた淫靡に惑わされ、野欲の酔いに意識を浸す。「っは、松永殿」「徳川、もっと、人のぬくもりを私に与えてくれ」 久秀が家康の髪を撫でる。指を絡められるほどの長さも無い髪に、首を伸ばして唇を押し付けた。久秀の喉が家康の目に迫る。家康は舌を伸ばし、久秀の鎖骨と戯れた。「は、そうだ……もっと、人の熱というものを教えてくれ。友と呼んでいた男を失い、誰との繋がりも失ってしまった私を、哀れと思うのならば、な」「松永殿。某が、貴殿の新たな絆となろう」 たやすいものだ、と心中で久秀がつぶやく。若いということは、無知で愚かだ。理想という名の幻想にくらみ、自ら視界を霧中に向ける。だからこそ、操り育てる甲斐もあるというものか。「徳川」「松永殿」 家康の唇が久秀の胸筋を滑り、尖りを捉える。口に含み舌で転がし吸い上げる児戯に興じる家康を、久秀は薄く滲みはじめた快楽と、好きに操る心地よさを交えた目で見つめた。 実直そうな外見のままに、家康は久秀の胸を丁寧に愛撫した。久秀の体の奥で野欲の炎が立ち上る。「は、ぁ、徳川、ぁ」 久秀の声に熱が混じったことに気付き、家康はますます久秀の肌を丹念に、指と舌で解し乱した。「ふぁ、あ、あ」 久秀の下肢が膨らむ。足を開いた久秀に気付き、家康は舌を滑らせ久秀のヘソをくすぐり、下帯に手をかけた。「松永殿」 家康の声が上ずっている。久秀の下帯を取った家康は、頭をもたげた陰茎に視覚から刺激され、自らの牡の熱を高めた。ぶるりと胴震いした若い家康の反応を察した久秀が、手を伸ばし家康の肩を掴んで身を起こす。「私よりも、卿のほうが苦しいのではないかね」「うっ」 久秀の指が家康の股間を撫でた。触れて確かめる必要もないほどに、家康は若さのままに欲を滾らせている。「若い、な」 羞恥に赤らんだ家康の耳に唇を寄せ、耳朶を噛みながら久秀が告げる。「これほど熱く逞しいものならば、この上もない人の情というものを、感じられそうだ」「っあ」 久秀の指があっという間に家康の牡を剥き身にした。指を絡めて擦れば、家康が心地よさげに目を細める。「これならば、いくら絞っても枯れる事はなさそうだ」「え……松永殿、何、っ!」 体を折った久秀が、家康の陰茎を口内に招く。含んだ牡を確かめるように、久秀は舌を絡め歯を立てた。「松永殿、そんっ」「咥えられるのは初めてかね。よい心地だろう」「う、ううっ」「なに、遠慮をすることはない。たっぷりと快楽を味わってくれたまえ。私は、卿の精気を味わわせてもらう」 怒張した家康の牡を、久秀は丹念な舌技で味わう。えもいわれぬ心地よさに、家康は鼻を膨らませ、上がりそうになる声を抑えた。その様子を楽しげに見上げつつ、久秀は家康を虜にしていく。「んっ、ふ、はぁ、良い味だ。もっと、飲ませてくれるだろう」「松永殿、これ以上は」 苦しげに制止を示す家康だが、その手は久秀を退けようとはせず床に着いている。期待と罪悪を折り混ぜた家康の官能に、久秀はほくそ笑んだ。「遠慮をすることは無い。誘ったのは、私だ」「ああっ」 久秀が家康の陰茎を強く吸引しながら頭を振った。強い刺激に若い性が抗えるはずも無く、あっけなく久秀の口内で弾ける。放たれたものを受け止めた久秀に、絶頂の余韻で息を荒らげつつ、家康は申しわけなさそうな顔を向けた。 ず、と筒奥のものまで吸い上げた久秀が、優美な動きで頭を上げる。魅せられた家康の目の前で、久秀は口を開き、口内に受け止めた家康の欲を手のひらに落とした。「っ!」 家康が目を見開く。驚きと共に野欲を揺さ振られる若者に、久秀は艶治に目を細めた。「潤滑油が無いだろう。この、たっぷりと卿が放ったものを、それの変わりに使おうと思ってね」「じゅ、んかつ、ゆ」 家康の声が乾いている。「そう。男は、女と違って自然と濡れはしないだろう。濡らさねばならないことくらいは、知っているのではないかね」 ククと喉を鳴らし、久秀は家康に見せつけるように足を開き、濡らした指を秘孔に添えた。「しっかりと濡らし解さねば、とても卿のイチモツを飲み込める気がしないのでね……っう」「あ」 久秀の指が自らの秘孔に埋まる。飲み込まれていく指に、家康の視線が固定された。少し腰を浮かし、久秀は家康に見えるように指を緩慢に抜き差しする。「は、ぁ。こうして、指で解して濡らし、繋がる準備をしなければ……ぁ、卿の熱を、受ける事ができないから、な」 久秀の言葉が聞こえてなどいないかのように、家康は久秀の秘孔に飲まれる指を凝視している。子どもが始めての玩具に興味を示すような、何もかもを忘れ去ってしまったような家康の様子に、久秀は漆黒の笑みを胸に満たした。「は、徳川」 切なげに久秀が呼んでみせれば、家康はそろそろと顔を近づけ久秀の膝を割り、秘孔に舌を伸ばした。「んっ、ふ」 久秀が指を抜けば、家康の舌が秘孔に入る。久秀の足を肩に乗せた家康は、彼の尻を上向かせ唾液を注ぎ、舌を押し込む。たっぷりと濡らして口を離し、おそるおそる指を押し込んだ家康を、久秀は子を褒めるような眼差しで見た。「は、ぁ、そうだ、ぁ、もっと、解して、は、ぁあ」「松永殿」「んっ、ふ、うう」 ぱくりと家康が久秀の蜜嚢に食いつく。唇で蜜嚢を食まれ、指で秘孔を探られる久秀の陰茎の先から、欲の証がこぼれ出た。それに促されたのか、家康の指が早くなる。「ふはっ、ぁ、あぁ、は、そんっ、ぁ、広げ、っああ」 指を増やし丹念に家康が秘孔を広げる。「まだまだ。しっかりと広げておかねば。松永殿に痛い思いをさせるわけには、いかないからな」「ぁふっ、は、ぁあ」 久秀の体が家康の丹念さに翻弄される。ぶるぶると震える久秀の陰茎から垂れる蜜が、久秀の腹を濡らした。「ぁ、は、ぁあ、ふ、ん、ぁあ」「松永殿」 久秀の爪が床を掻く。それに気付いた家康は、秘孔から指を抜き久秀の手を取り、甲に唇を寄せた。「繋がっても、かまわないだろうか」「は、そのために、卿は私を解していたのだろう」 家康が少し困ったように微笑み、久秀の足の間に腰を進めた。家康は久秀の手を自分の肩に乗せる。久秀はその手を滑らせ、家康の首に回した。「私に、卿の絆とやらを与えてくれたまえ。徳川」「ああ、松永殿。繋がろう、某と」 ぐ、と家康が腰を進めた。「が、ぁ、あ」 穿たれたものの質量と熱に、久秀が仰け反り呻く。慎重に家康が腰を進め、久秀は小刻みに震えつつ彼を迎え入れた。「ぁ、はひっ、ぁ、は、あ、ああ、あ」 喘ぐ久秀を慰めるように、家康は唇を久秀の顔中に押し付ける。やがて全てを埋め終えた家康が、太い息を漏らした。圧迫に体を震わせながら、久秀は家康に微笑み唇を寄せる。「は、なるほど……これが、卿の熱か、は、ぁ、ずいぶんと猛々しい、な」「苦しいのならば、このまましばらく待っていようか」「ふ、余計な気遣いは、ぁ、無用」「あっ」 久秀が腰を揺すれば、家康が心地よさげな声を漏らした。「若さのままに、私を貪ればいい。さあ、徳川。卿の熱を、絆を、私に刻んでくれたまえ」「っ、松永殿」「ぁはあぁあっ」 家康が猛る欲のままに久秀を揺さ振り、久秀は総身を躍らせそれに答える。絡み促す久秀の肉欲に、家康は苦痛に耐えるような恍惚を浮かべ、それしか知らぬように久秀を求め続けた。「ぁ、く、松永殿っ、は、ぁ」「ああっ、は、熱いっ、ぁ、ああ、溶けそうだ、ぁ」「某も、もう」「好きに弾けたまえ、ぁ、私の中で、ぞんぶんにっ」 家康が爆ぜ、久秀が受け止める。喘ぐ胸が収まりきらぬうちに、久秀は腰を揺らし、媚肉を絡めて家康を誘惑した。 くもの糸に囚われたように、家康は久秀から離れる事が出来ず、ひたすらに求め続ける。 絆とは、なんとも便利で愚かしい、しがらみの糸だな。 汗を掻き獣のように自分を求める、若く輝かしい男の心に、久秀は細く強い、きらめく恍惚の糸を絡ませた。2014/06/02