ゆるりとした酒が喉を滑り落ちていく。広がる香りの心地よさに、長曾我部元親は目を細めた。くつろいだ元親の前には、徳利が一つと杯が二つ。炙った魚が置いてある。元親の前には、たくましく育った徳川家康が干し魚をかじっていた。「助かったよ、元親。海上で、出会えてよかった」「ったく、無茶をしすぎたんじゃねぇのか」 はは、と家康が眉を下げて笑う。部屋には誰もいず、人の気配も遠い。「忠勝の不調に気付かないなんて、情けない」 目を伏せた家康に、元親は杯を突き出した。「がんばりすぎなんじゃねぇのか」 受け取りながら、家康が笑みを湛えたまま顔を曇らせた。「うん。――そうだな。忠勝は、がんばりすぎだ。だが、休めと言っても、聞いてくれないんだ」「そうじゃねぇよ」 ほら飲めと言いたげに、元親が家康の杯になみなみと酒を注ぐ。「家康が、だ」「ワシが?」 手酌で酒を注いだ元親が、それを一気に煽った。お前もと手のひらで促され、家康も飲み干し息をつく。「家康が無理をするから、忠勝も無理をするんだろ。だから、不具合が出て緊急着水しちまうんだ。富嶽が通りかからなかったら、オメェさんら漂流したまんまだったぜ」「っ……」 家康の指に力がこもり、杯にヒビが入る。「あっ、すまない」「かまわねぇよ。――俺が気にしてんのは、こうして俺と二人で酒を飲んでるっていうのに、気を張ったまんまでいられてるってぇ部分だ」 口元に笑みを漂わせたまま、元親の右目は剣呑な光を湛える。「そんな……ワシは別に」「気を張ってねぇなんざ、言わせねぇぜ、家康」 口をつぐみ目を彷徨わせる家康の、太く力強い腕を、それよりもたくましい元親の手が掴む。「あの、ちっさかったオメェさんが、こんなにたくましくなって」「それは、ワシも元親のようになりたかったからだ。皆と笑みをかわし絆を結び、導いている元親のように、強くなりたかったから」 ふうん、と目で元親が言えば、家康は寂しそうに目を細めた。それでも唇は、笑みの形のままである。「ワシは、元親に憧れていたんだ。知っているだろう」「ああ、知ってるぜ。家康が、どれほど臣下を、民を大切にし、守りてぇと思っているかをな」 元親の膝が進み、家康の眼前に体が迫る。「……元親は、大きいな。これでもかなり成長をした気でいたんだが、元親に比べればまだまだだ」 もりあがったたくましい元親の胸筋に吐息を漏らし、家康は自分の胸へ手を当てる。重厚でやわらかな筋肉は、飾りではなく実用の力強さを秘めている。健康的な肌色に、少し幼さを残した端正な顔立ち。完成されているようでありながら、危うさを残しているその姿は、たしかに忠臣・本田忠勝の影に隠れていたころの少年と比べれば、驚くほどの成長ぶりだ。けれど、肌は白く透けるようにキメ細やかでありながら、みっしりと詰まった弾けるような力強さを誇る元親と比べると、まだ少し足りない気もする。「何を、そんなにあせってんだ」 だが家康は、元親よりも若い。元親の年ほどになれば、経験がもたらす器の安定も備わるだろう。そのころになれば、自分をしのぐような男にもなりかねないと、元親は家康のことを買っていた。「あせってなんか、いないさ」「あせってんだろう。だから、忠勝の不調にも気付かねぇ」「それは」 顔をそむけ目を落としても、短く刈られている家康の髪は、表情を隠してはくれない。沈んだ横顔を、元親は射抜くように見る。「家康」 ぐ、と唇を噛んで、家康が声を漏らした。「もう、民は待てないんだ」「ん?」 元親が首を傾げれば、家康は弾かれたように顔を上げ、泣き出しそうに噛みつく勢いでまくしたてた。「民はもう長の戦で疲弊し切っている。元親だって知っているだろう? 親を失い行き場を無くした子どもたちの末路を! 戦禍で田畑を失い、食べるもの無く親や子どもを殺さねばならない人々を! 子を思い、自ら命を絶つ親を! 無残にも連れ去られ、家畜のよ――んぅっ」 元親が家康を腕の中に包み、悲痛に叫ぶ唇を、自身の唇で覆い尽くす。くしゃりと顔を歪ませた家康が、元親の腕の中で震えた。ゆっくりと唇を離し、元親が痛ましそうに家康に呟く。「だからって、オメェが自分を省みねぇのは、感心しねぇぜ? 家康」「元親、ワシは――」「自分を大切にできねぇで、本当に誰かを救えるとでも思ってんのか? 家康。さっき、俺が野郎どもと絆を結んでどうのって、言っていたよな。アイツら、俺が無茶をすると、自分たちも俺に負けねぇようにって、はりきるんだよ。無茶すんなっつっても、聞きやしねぇ。忠勝も、そうなんじゃねぇのか」 ぐ、と家康が言葉に詰まる。目じりをやわらげ、元親は家康の広くなった背を撫でた。「凝り固まりすぎて、ほぐし方がわかんねぇっつうんなら、俺が気負いを解いてやるよ」「元親――んっ」 再び、元親の唇が家康の口に触れる。抱きしめたまま横たわり、家康をあやすように口付けを繰り返せば、家康の腕が元親の背にまわった。「は、元親」 不安に揺れる家康の瞳に、元親は大丈夫だと言う代わりの口付けを与える。元親の大きな手が家康の髪を撫で、頬を滑り、首をわたって盛り上がった胸筋に触れた。脇から持ち上げるようにさすり、色づきを親指で潰す。「んっ、ん……」「家康」 家康の手のひらが元親の背を滑り、元親の胸筋に触れる。互いに胸の尖りをもてあそびながら舌を伸ばし絡ませ吸い、下肢を押し付け腰をゆらめかせる。「んっ、ふぁ、あっ、元親、ぁ、ん」「は、家康。もう硬くなってんぜ。若ぇな」 ぐ、と腰を押し付けて元親が揶揄すれば、家康の目じりが朱に染まった。「元親も、熱くなっているじゃないか」 すねたような家康に、にこっと野欲の欠片も無い笑みを元親が浮かべた。「そんなら、熱比べといくか」 ごそりと元親が自分の熱を取り出す。たくましく反りかえったそれに、家康が喉を鳴らした。「ほら」「あ、ああ」 興奮に上ずる声で応じた家康も、若々しく奮える牡を取り出した。「いっちょまえに、大きくなってんじゃねぇか」「そういう言い方は無いだろう」 羞恥を堪える家康に、へっへと笑った元親が、二つの牡を重ね持った。「余計な事は考えず、楽しめよ。家康」「元親――あ、っは、ぁ、んっ、んぁ」 先端を手のひらに包んで擦り合わせ、幹を握り扱く元親が唇を舐める。腰を揺らめかせる家康は、床に爪を立て、心地よさげに目を細める元親を見つめた。「どうでぇ、家康」 元親の呼気が熱い。「ぁ、んっ、元親、ぁ」 家康の瞳が潤む。元親の手の中で、二本の牡が先走りを溢れさせる。捏ねられ擦られるたびに空気と混じり、クチュクチュと音をさせる。「ふぁ、あっ、は、元親、ぁ、もう」「ったく。堪え性がねぇな……いいぜ、家康。一緒に気持ちよくなろうじゃねぇか」 元親の手淫が速度と強さを増して、家康の野欲を煽る。高められるままに背を反らし身もだえ、家康は声を上げた。「はっ、ぁ、元親っ、あっ、あ、でるっ、ぁ、あぁああああっ」「くっ」 ごり、とクビレを擦り合わせ蜜口を爪で掻けば、家康が腰を付き上げ欲を放つ。元親もそれに合わせ熱を放ち、ぶるっと震えて全てを吐き出し、余韻にわななく家康の唇に唇を押し付けた。「どうだ。少しは気分も解れただろ」 歯を見せて笑う元親は、人懐こい狼のようだ。クスリと鼻を鳴らした家康が、元親の二の腕を掴み首を伸ばし、ちょんと唇を押し付けた。「おっ?」「もっと、何も考えられないくらいに、熱くほぐしてくれ。元親」 ぱちくり、と目を丸くした元親が、すぐに「おう」と言いながら家康に口付けた。互いの腹にぶちまけた欲を集め濡らした指を、家康の尻にあてがう。膝を立てて足を開いた家康が、秘孔を探りやすいように腰を浮かせた。「ひぅっ、ぁ、あ――っ」 元親の長く節くれだった指が、家康の内部へ進む。大柄な元親は、日ごろカラクリをいじっているからか、その姿に見合わぬほど、指先は細やかな動きをする。その繊細な指使いで、家康の内壁を探りあやし、媚肉へと育てていく。「は、はぁ、ああう、んぁおおっ、元親、ぁあ」 腰を震わせる家康の下肢が、探られるたびに熱を取り戻し、天を仰ぐ。内壁を探る指が三本となるころには、ピンとそそり立ち透明な液を先からこぼしていた。「若ぇな」「ぁ、何を、言って」「ま。俺も負けてねぇけどよ」 フフンと鼻を鳴らした元親が、家康から指を抜き、猛る牡を秘孔に当てた。先端が触れただけでも、元親の熱の雄々しさが感じられて、家康が喉を鳴らす。「元親……」「そんな、物欲しそうな声で呼ぶんじゃねぇよ。たまんなくなるだろうが」 家康の淫蕩に濡れた瞳が、細くやわらいだ。「たまらなくさせたいんだ。どうすればいい?」 両手を伸ばし求める家康に、元親が虚をつかれ目を丸くして赤くなる。クックと家康が笑い、この野郎と元親がのしかかった。「ぞんぶんに啼かせてやっから、覚悟しろよ。家康」「ああ、存分に腹の底から何もかもを、さらけ出させてくれ。元親」 さわやかに言い放った家康に、元親が楽しげに舌を打つ。「言ってくれるぜ」「がっ、ぁひ、ぃ、ぃああお、おぉ」 元親の熱が家康の媚肉を抉り、押し広げる。その質量に家康は目を見開き口を開け、獣のように吼えた。「ふっ、家康。突っ込んだだけで、そのザマかよ」「っは、ぁあ、元親、ぁ、まだ、ぁ、まだだ、もっと、ぁ、は、乱してくれ、元親」「わあってるよ」 元親が両腕で家康の頭を包み、頬を寄せる。家康も元親の首に腕を回し、顔を擦り寄せた。ちゅっと軽く音を立てて唇を重ね、元親が荒波のように腰を打ちつける。「っ家康」「はひっ、はんっ、はんぁあっ、もとっ、ち、ぁ、はおぉううっ」 元親の熱が家康の心のひだをあやし、ほぐし開いて奥に隠されたものを引きずり出す。涙を流し咆哮しながら、家康は元親を求め、のたうち回る。「ひぁっ、はあぁ、っあ、ちか、ぁ、元親っ」「もっと、もっと狂え、家康」 うっすらと汗ばむ肌が互いの香りを際立たせ、心の底までをも絡み合わせる。獣と化した二人はあさましく互いを求めむさぼり、幾度となく果ててはまた、絡み合った。「はんっ、はんぁあっ、あはぁあううっ、も、ぁ、らめぁ、あ、元親ぁあっ」「これで、最後だっ、家康――っ」「っ、ぁおぉおおおっ!」 とろけ爛れた家康の奥底に元親の熱が到達し、家康は目をむいて吼えながら魂の開放を味わう。何もかもが白く塗りつぶされる心地よさに、魂が重圧から逃れ軽くなる。鼻腔に満ちた元親の香りが、無防備な家康の心を包み、癒した。「は、ぁ――元親」 淫蕩に濡れながらも清流のような笑みを浮かべる家康に、幼子のようにてらいのない笑みを浮かべた元親が瞳で問う。こつん、と互いの額を重ね口づけし、家康が少し甘えを含んだ声を出した。「元親。頼みがあるんだ」「言ってみろよ」「目的地まで、ワシと忠勝を連れていってくれないか。その間は、しっかりと休ませて貰いたい。――元親の言うように、ワシは少し、あせりすぎて余裕がなくなっていたようだ」 ふっと頬を緩めた元親が、家康の首にかぶりつく。「拾ったときから、そのつもりにしていたからよ。心配すんな」「そうか――すまない。ありがとう」 にやり、と元親がいたずらっぽい顔をした。「礼なら、態度で示して貰うぜ」 繋がったままの腰を元親が揺らせば、家康がこぼれそうなほどに目を見開いた。「っ、まさか――まだ、するつもりなのか、元親」「おうよ。陸に着くまで、まだまだ時間はたっぷりあるんだ。陸に着くころにゃ、歩けるようにはなるだろうぜ」 元親の笑みに呆れながら、家康が彼に腕を回す。「鬼の体力は、底無しだな」「へっへっへ。快楽地獄へ、ご案内ってな」 腹の底まで見せあった者同士にしか出来ない笑みを交わし、二人は文字通り精根尽きるまでじゃれあい、激しくたわむれた。2014/02/03