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染まらぬもの

 ぼんやりと、柴田勝家は闇の中に浮いていた。
 その闇は一色ではなく、濃淡のある黒で形成されている。黒に濃淡があると言うのも不思議だが、そうとしか言いようが無かった。
「ああ」
 そっと息を吐いた勝家の薄い唇が、何かを求めるように震える。そこに、しっとりとした闇が触れた。
 勝家を包む闇は質量を持っていた。それは好きに形を変え、勝家の肌をとりまいていた。上下左右もわからぬ空間に、勝家は抜けるように白い肌を晒して、浮いていた。漆黒の、綺麗に切りそろえられた勝家の髪は、濃淡のある闇に混じることなく、はっきりと絹糸のような存在を示している。それを、闇がさらりとなでた。
「――」
 勝家の唇が動く。何事かを紡いだようだが、それは音にはならなかった。けれど闇には伝わったようで、勝家を慰めるように、彼の肌をなでた。
「っは、あ」
 たまらぬ声が、勝家の唇から漏れる。勝家は、この闇に包まれることが嫌いではなかった。心地よく、何もかもを忘れさせてくれるのだ。
「早く」
 早く、と勝家は望む。何もかもを忘れさせてくれ。人ではないものにさせてくれ。過去も明日も消えうせるほどのものを、与えてくれ。
 ぞろり、と闇が動いた。勝家の願いを受けて、実行しようと闇がうねる。勝家の肌に蛇のような闇がぬらぬらと這い、闇に染まらぬ淡く輝く白い肌を愛撫した。
「あ、ぁ」
 小さな息が勝家の唇から漏れる。
 もっと、もっとと音に出さずに勝家は願った。
 何もかも、忘れさせてくれ。何もかもを、無くしたい。進む事も戻る事も出来ぬ自分を、安寧の闇に沈めてくれ。
 闇が勝家の肌を滑る。足指の隙間をくすぐり、くるぶしを包み這いあがり、太ももを飲み込んだ。
「ぁ、は、はぁあ、あ」
 あたたかく、ぬるつく闇が勝家の肌を覆う。
「ふ、ぁ、あは、は、ぁあ」
 勝家の形を確かめるように、闇は勝家の足を包んでは離れ、腰から腹にかけて這い、首に絡んで胸乳を滑り、尖りを見つけて戯れた。
「ふっ、ぅん」
 勝家の肌に浮かぶ血の色に似たその箇所を、闇は好んでいるらしい。絡んで絞ったり、先端を羽根のやわらかさでくすぐったり、弾いて遊んだりしはじめる。
「ぁ、はっ、はぁ、あ、ああ」
 勝家の肌に血の色がめぐり、唇が大きく開いた。そこに闇は沈み、白い歯に擦りつき、蠢く舌と踊ろうと口内で蠢く。
「ふっ、ふう、ぅ、うふ、は」
 勝家の四肢に血の巡りと共に力が篭る。闇に反応を示す勝家の下肢に熱が走った。むくりと起き上がった牡に闇が絡む。
「んふっ!」
 ビクンと勝家が痙攣した。闇が陰茎の先端から勝家の内部に進入したからだ。
「んふっ、ふぉあっ、あ、はん、むふうっ」
 あふれる声を、闇が塞いで邪魔をする。勝家の蜜筒に沈んだ闇は波打ち、悦びを示すように膨らんだ。
「んふぅううっ!」
 目を見開き、塞がれた喉で精一杯、勝家が叫ぶ。彼の陰茎は十分に熱を溜めて存在を主張し、闇の愛撫を受け入れていた。
「んはっ、は、はぁああっ、ぁ、はひっ」
 勝家の口から闇が離れる。口内に隠されていた勝家の舌が、何かを求めるように伸ばされた。
「ぁ、はぁあ、ぁ、もっと」
 もっと、狂わせて欲しい。何もかもがわからなくなるほどに。
 勝家の願いを聞き、闇は勇躍した。勝家の口内で踊り、タップリと彼の唾液で濡れた闇が、勝家の尻の谷を這い、可憐な窄まりに踊りこんだ。
「ぁはぁああああっ!」
 高く勝家が叫ぶ。彼の四肢がこわばり、手足の指が握りこまれた。闇は悦び勇んで勝家の熱く蠢く秘孔で遊ぶ。
「ぁはっ、はぁあっ、は、はふぁあ」
 ビクンビクンと勝家が跳ねる。肌が泡立ち粒子となって、体がはじけてしまいそうな心地に、勝家はうっすらと微笑んだ。
「あ、ぁああっ」
 心地いい。
 脳裏にひらめく勝家の声が聞こえたのか、闇は勝家の体を余すところ無く堪能した。
「はひっ、ひっ、ひぁ、ああっ」
 秘孔の闇も、蜜筒の闇も、勝家の熱に包まれ悦び舞い踊る。放てぬままに湧きあがり続ける勝家の欲蜜を、闇はジュウジュウと吸い上げた。
「ひはぁああっ」
 喉の奥から甲高い声を発し、勝家が仰け反る。射精を行っていないというのに、絶頂が続いているようだ。欲蜜を吸った闇は、その蜜を流して勝家の秘孔まで運び、そこに放つ。
「はふぁああっ、ぁ、はぁおぅう」
 自らの欲液で濡れる勝家の秘孔を、闇は好んでいるらしい。濡れれば濡れるほど闇はふくらみ、勝家を圧迫した。
「んはぁあっ、ぁ、はぁあ」
 内側からとろけてしまいそうで、勝家は鼻にかかった甘え声を出した。それに呼応するように、胸乳に絡む闇が赤子のように尖りを吸う。
「ふひっ、ひ、ぁ、はぁあ」
 勝家の目に涙が浮かび、目じりから流れて髪を濡らした。勝家の白い肌は薄桃に染まり、闇はその色を欲するように、勝家に激しく絡む。
「はひっ、は、はぁおお」
 勝家の意識がグズグズに溶けていく。闇の与える快楽以外の何も感じなくなる。
「ぁあ、も、もっと、もっと」
 うわごとのようにつぶやく勝家の願いを、闇は叶えた。
「は、はんっ、ぁ、あはぁあ」
 勝家の目は焦点を失い、淫蕩に濁りきった。終わらぬ快楽に勝家の唇は恍惚の笑みを浮かべ、舌を覗かせヨダレを垂らす。
「ぁ、はぁあ、き、もちぃ」
 もっと、もっと。
「わ、すれさせ――」
 何もかもを、忘れさせて欲しい。
「人ならざるものに」
 闇の中に溶け込んでしまいたい。
 あの人のように――!
「んはぁ、あっ、はぁあああ」
 勝家の望むままに闇は蠢き、勝家の何もかもを快楽で支配する。勝家は闇の心地を余すところなく追い求め、魂をゆだねて叫び続けた。
「ひぁあおっ、ぉふ、ぁはぁああっ」
 もっと、もっと。
 まだ、足りない。
 この体も意識も何もかもが粒子となり、消え失せてしまうまで。闇の中に溶け込んでしまうまで。
 もっと、もっと。
 もっと、もっと。
「んはっ、は、はぁあっ、ぁ、あはぁああああっ!」
 励む闇が勝家の意識を粒子に変える。けれどそれは、勝家の望む闇に溶けるものではなく、白く輝く光の粒であった。
 小刻みに痙攣する勝家に寄り添うように、闇は彼をやさしく包む。やがて勝家の痙攣がおさまり、ぐったりと弛緩したのを見計らって、闇は勝家をしっかりと形のある、ひんやりとしたものの上に置いた。
 するすると闇が滑り消え失せれば、そこは八角形の板間になにやらの文様が描かれた、窓一つ無い密室だった。
 しばらく横たわっていた勝家は、指を動かし四肢の具合を確かめて起き上がる。手のひらを眺め、自分がなんら変わる事無く、人として存在している事に絶望の声を上げた。
「ああ」
 手のひらで顔を覆う。しゃらりと勝家の髪が、鈴のように軽やかな音を立てた。
「私はまた、闇に拒まれたのか」
 しらじらと輝く勝家の肢体が、陽の指さぬ御堂の中に浮かび上がっていた。

2014/05/21



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