徳川が世を一つに掌握した日ノ本。けれど彼ひとりの、いや、徳川譜代の大名らのみでは、日ノ本全土を治めるには足りず、各土地の特性を知りうる家康の治政に賛同をしている者らが、表向きは徳川の配下として、内実は家康の友として、治政を施し家康のもとへ定期的に報告を行っていた。 細かな書状のやり取りだけでは、機微を知ることは出来ない。なので、江戸城に三月に一度は主だった大名たちが姿を現し、旧交を深め、今後の世作りのことを話す場を設けることにしていた。 「小十郎、小十郎」 屋敷中に声を響き渡らせながら、奥州の若き竜。男勝りの美姫、伊達政宗が廊下を足早に進む。目当ての男、腹心の片倉小十郎は、旅につれて行く馬を庭に並べ、足の具合を確かめていた。 「小十郎!」 姿を見つけた政宗は、声を弾ませる。しゃがんでいた小十郎は振り向きながら立ち上がり、主の姿を見て目を剥いた。 「まっ、政宗様。その御召し物は」 「HA! 驚愕するぐれぇ、cuteってことか」 満足げに腰に手を当て仁王立ちになった政宗は、うんうんと頷きながら口の端を持ち上げた。 「足を、そのように出されては、はしたのうございます」 「俺の美脚を隠すなんざ、罪だとは思わねぇのか、小十郎。江戸行きなんだから、少々派手にするぐれぇが丁度いいだろう。平安の時代より前から、奥州の隆盛ぶりは変わらねぇって、この俺が体現してやるほうが、家康も安心するだろうぜ」 小十郎の反応が望むものであったので、政宗は残りの旅支度を整えるため、きびすを返して部屋へと戻る。 「お止めしても、御召し換えをなさる気は無さそうですな」 これ見よがしな小十郎のため息に、前に進みながら肩越しに政宗は振り向いた。 「It's no wonder」 ニヤリとして去りゆく政宗の背は、うきうきと弾んでいた。 門前に並んだ馬に水を与えていた猿飛佐助は、主の真田幸村が面映ゆそうに愛おしそうに、自身の乗る馬の首を撫でている姿に、意地の悪い笑みを浮かべた。 「旦那」 どうしたと目顔で示す幸村を、佐助が覗き込むようにしてからかう。 「三か月ぶりの逢瀬が、そんなに嬉しいんだ?」 「なっ」 途端に、幸村の顔といわず首と言わず、全身が真っ赤に染まった。 「何を申す! 俺は、甲斐の治政がどのようであるのかを、お館様の代わりに徳川殿に申しあげ、諸国の状態を知り、今後の事を話しあうために行くのだぞ。政宗殿との逢瀬を主題にしてなど、おらぬっ」 「あれれ? 俺様、竜の旦那との逢瀬だなんて、一言も言っていないと思うんだけど」 「うぐっ」 わざとらしく惚けてみせる、腹心であり兄弟のような忍に、幸村は言葉を詰まらせ頬を膨らませて、顔をそむけた。悪童の笑みを浮かべたままの佐助が、あきれたように鼻から息を吐く。 「旦那ってば、そうやってすぐ顔に出すからダメなんだって、いっつも言ってるだろ。単純って言うか、なんていうか。ま、そこが旦那の魅力でもあるんだけどさ。そんなんじゃ、いつまでも竜の旦那の尻に敷かれたまんまだぜ」 「尻になど、敷かれておらぬっ」 「じゃあ、お尻掴んで乗せてんの?」 ふふんと鼻を鳴らした忍の言葉に、幸村の頭から湯気が出た。 「のっ、のせっ、のっ、のっ……」 目を回し、餌をねだる鯉のように口を動かす幸村に、意味深な流し目をくれて、佐助は馬の首を軽く叩いた。 「さあってと。そろそろ江戸に向けて、出立しますかね」 江戸城内には、主だった大名たちが宿泊するために作られた屋敷が並んでいた。その中の奥州屋敷に、伊達政宗と片倉小十郎の姿があった。政宗はうろうろと部屋の中を歩き回り、様子見に出した者が戻ってくるのを、今か今かと待っている。 「政宗様。落ち着かれて、茶など喫しておられては、いかがですか」 「俺は、落ち着いてるぜ小十郎」 「部屋の中を、捕らえられた獣のようにうろつかれておられるのは、落ち着いているようには見せませんが」 「うるせぇよ」 「真田が、本日中に到着するとは限りませんぞ」 「別に、アイツを待っているわけじゃあ――」 「違うのですか」 「――違わねぇ」 誤魔化しかけて、小十郎は自分の失った右目であったと、隠し事など出来ぬと思い直した。 すとんと腰を落とし胡坐をかいた政宗は、膝の上に肘をつき、手のひらに顎を乗せて唇を尖らせる。 「文で、今日かならず到着するって、約束をしたんだよ」 政宗の筆まめは、家中の者ならば誰でも知っている。そして小十郎は、幸村の筆下手を知っていた。 「もしや、先日の懐紙程度の大きさの文は、その約束の返書だったのですか」 こくりと政宗が頷く。主に届く文は、妙なものが仕込まれていないかを小十郎が検分する。奥州を発つ三日ほど前に届いた、幸村からの文。何の色気も素っ気も無い、懐紙に殴り書きをしたような手紙には、ただ一言「承知」とだけ書かれていた。花押と差し出し人名が無ければ、反故紙と間違えそうなその文の内容は、本日の到着を約束したものだったのか。 「アイツは、約束はキッチリ守るからな」 幸村の律儀すぎる融通の利かなさは、小十郎も熟知している。まれにみる生真面目さを持つ彼は、槍が降ろうが鉄砲を射掛けられようが、自慢の二槍で跳ね返し、約束どおりに必ず姿を現すだろう。 ふわり、と小十郎の唇が柔らかくなった。 「ならば、うろつかずとも良いのではありませんか。真田は必ず、参るのですから」 「刻限を決めてなかった」 ぶすっと、政宗が頬を膨らませる。大人びた顔で奥州の民を率いてきた彼女は、気の置けぬ自分の前だと幼くなり、恋し愛される仲の幸村の事となると年頃の乙女となった。 「刻限まで決めるのは、酷と言うものでしょう」 「わかっているさ。だから、刻限までは文に望んじゃいなかった。けどよ、小十郎。深夜になって来られてみろ。会うのは翌日だ。俺は、到着してからずっとアイツを待って、待ちくたびれて眠らなきゃならねぇ。それは――」 言いさした政宗は、自分の言葉の矛盾に気づいたらしい。口をつぐんで俯いてしまった主の、恋する少女らしい姿に小十郎の胸が熱くなった。 「もし、真田が夜遅く到着し、政宗様への目通りを望むのならば、この小十郎が責任を持って、政宗様が眠られていようと取り次がせていただきます」 疑うように、そっと目を持ち上げた政宗に力強く微笑み、小十郎は約束をしますと頷いた。 「そうか」 安堵したような喜びに、政宗の顔がほころぶ。 「今か今かと待ち続け、神経を疲れさせることもありますまい。政宗様、何か他の事を行い、気を紛らわせて待たれてはいかがですか」 「他の事」 ううん、と考えた政宗が、ぽんと手を打ち立ち上がる。 「道場に行くぜ、小十郎」 「は?」 「アイツの事を待ち遠しく思う暇が無くなるぐれぇ、熱くなるほかは無ぇからな」 政宗と互角にやりあえるのは、幸村が来た時にすぐにでも切り替えが出来そうな相手は、小十郎しかいない。 「承知いたしました」 目じりを下げた小十郎が立ち上がり、二人は道場へと足を向けた。 激しく木刀が打ち合わされる音が、道場内からあふれ出ている。 「Ya!」 「ふんっ」 気合の息を発し、止まることなく打ち合いを続ける道場の周囲には、雷鳴のごとくほとばしる気合が震え、武勇を携えた者の心を打ち奮わせる気迫が漂っていた。 そんな庭に足を踏み入れた男は、胸をたぎらせ剣呑な笑みを浮かべ、道場に顔を覗かせた。 「イヤァアアァアアッハァアアアアア!」 「ふぅううんっ!」 甲高く鋭い竜の爪と咆哮が小十郎に迫り、振り上げた木刀で受け止める。腕を軋ませながら剣戟を受け止めた木刀を滑らせ、小十郎が突きを繰り出せば、くるりと回転した政宗が小十郎の肩を蹴って真後ろに飛び、間合いを広げた。 ひらりと、半袴よりもなお短い袴の裾がひるがえり、政宗の尻から太ももにかけての、なだらかな丘陵があらわになった。 熟れきる前の青い果実に、小十郎が思わず目を伏せる。その隙を逃さず、政宗は低く飛んで小十郎の懐に入り込み、彼の喉元に切っ先を向けた。 「俺の、勝ちだな小十郎」 ニヤリとした政宗に、やれやれと小十郎が息を吐く。 「その袴は、やはり短すぎるかと」 「うるせぇよ。こんぐれぇしねぇと、あの朴念仁は俺を女とも思いやがらねェ」 ちらりと政宗が道場を覗く顔に目を向けながら、木刀を収める。小十郎も目を向けて、ぎらぎらと目を輝かせている真田幸村に微笑みかけた。 「アンタが到着したら知らせろと、街道に人をやっていたんだがな」 木刀を肩に乗せた政宗の、野性の獣のような笑みに、幸村も同じ笑みを持って応える。 「某の足の方が、速うござった。一刻も早く、政宗殿とお会いしたかったゆえに」 どきり、と政宗の心臓が高鳴る。凛々しく雄々しい笑みを浮かべた幸村に、恥じらいと喜びを浮かべた女の顔になった主を目の端に受け止め、小十郎は足音を忍ばせて道場を出て、周辺の人払いを命じた。 「久しぶりだな。真田幸村」 「お久しゅうござる。政宗殿」 道場に上がった幸村の、野性味あふれる笑みに胸を高まらせながら足を踏み出した政宗は、はっと気づき足を止め、後ずさった。 「政宗殿?」 「ああ、いや。なんだ。ちょいとheatupしすぎちまって、汗をかいちまったからな。久しぶりの逢瀬だってのに」 せっかく、幸村と会うために仕立てた着物であるのに、汗で汚れ激しい動きにより、乱れが生じてしまっている。西洋の意匠を盛り込んだ、愛らしくも凛々しい着物は幸村に見せたいがためであったのに。 そんな政宗の心中など、色事にはとんと目端の利かない幸村が意に介するはずも無く、ずんずんと前に進んで屈託のない笑みを彼女に向けた。 「某とて、道中の埃を落としもせずに、参りもうした。政宗殿よりも、ずっと汗臭いかと存じまする。それに」 「うわっ」 顔を近づけ、くんと政宗の首筋を嗅いだ幸村が子どものような顔をした。 「政宗殿は、良い香りがいたしまする」 だから気にすることはないと笑う幸村に、他意はない。他意が無いのが、なんだか悔しかった。 「痛ッ! ま、政宗殿」 思い切り後頭部を殴りつければ、幸村が目を白黒させる。久しぶりの幸村の汗の香りにめまいを覚えたことにも苛立ち、政宗はさらに足払いまでをも喰らわせた。 「わっ」 ずだん、と見事に尻もちをついた幸村の腰をまたぎ、睨み付ける。不機嫌極まりない政宗の姿に、幸村は混乱した。 「な、何を怒っておられるのでござる」 「うるせぇ! この唐変木が」 そのまま幸村の腹の上に座り腕を組めば、あらわになった太ももが幸村の眼前にさらされる。短い袴が座ったことで裾が上がり、あやうい箇所まで見えそうで、幸村は慌てて政宗の袴の裾を掴んで彼女の足を隠そうとした。 「まっ、まままま政宗殿っ」 「真田幸村ぁ!」 噛みつくように呼ばれ顔を寄せられ、幸村が動きを止める。目の奥を睨み付けられた幸村は、ごくりと喉を鳴らした。 「政宗殿」 うわごとのようにつぶやいた幸村は、まっすぐに政宗を見つめ返す。しばらくそうして見つめ合った後で、幸村はほうっとため息をつき目を細めた。 「What up?」 「美しゅうござるなぁ」 心の底からの感歎に、政宗の左目がこぼれんばかりに見開かれた。 「なっ、何を突然――」 「政宗殿は、御美しゅうござる」 世辞の類など言えるような器用さを、幸村は持ち合わせていない。おろつき頬に朱を差す政宗に、幸村は胸の奥からの吐息を音にした。 「まこと、御美しゅうござる」 「っ! と、当然だ」 透けるような白い肌。烏の羽のような、黒々と切れ長の目を縁取る豊かな睫毛。艶やかな黒髪に浮かび上がる輪郭は、甘やかさを怜悧に変えて見せていた。整いすぎた容姿にある、失われた右目を覆う眼帯が、彼女の美しさに凄味を与えている。多くの者が彼女の美しさに息をのみ、憧憬と畏怖を浮かべる。長年共に在る小十郎でさえ、はっと目を奪われる瞬間があるほどの美貌の持ち主である政宗にとって、美しいという賛美は耳慣れた、あいさつ程度の言葉だった。 けれど、幸村からの言葉は違う。深く深く、泣きたくなるほどの切なく熱いものを、政宗の胸へ楔のように沈めて行く。 「政宗殿」 慈しみを満面に浮かべる幸村に、面映ゆさを隠すため拗ねた顔をした政宗は、胸元に手を伸ばし、蝶の形に結んだ飾り布を解いた。 「幸村」 それを自分の袴の裾を握る幸村の手首に絡め、きつく結ぶ。 「政宗殿? 何を――」 「アンタにかかりゃあ、着飾るなんて愚行にしかならねぇってことを、忘れていたぜ」 この男は、人の本質のみを瞳に映すのだから。 「せっかく仕立てたんだがな」 吐息を漏らした政宗が、全身に艶をにじませた。 「政宗殿。その……その衣は某の為に、某に見せるために仕立てられたのでござるか」 「もう、どうでもいい」 唇を舐めた政宗が、背後に手を伸ばし幸村の内腿を撫でる。指を滑らせ男の印の上で指先を揺らめかせた。 「っ、ま、政宗殿」 「暴れるんじゃねぇぜ? おとなしくしてりゃあ、気持ちよくしてやるからさ」 後ろ手で幸村の帯を解いた政宗が、彼の袴を下ろしながら幸村の足の間に身を滑らせ、下帯を横にずらして柔らかなままの陰茎を取り出した。 「久しぶりだ」 「政宗殿っ」 「狼狽えるんじゃねぇよ。浮気をしてねェか、確認してやる」 「う、浮気など――っう」 頬を引きつらせ、幸村が羞恥を反動にして身を起こす。彼が立ち上がり逃れてしまう前に、政宗は小さく薄い唇で陰茎を掴んだ。 「んふっ、んむ……んっ、はぁ」 片手で茂みを探り、もう片手で袋を揉みながら先端の括れまで口に含んで、舌と上あごで揉む。すぐに若い牡は硬くなり膨らんで、先走りをこぼし始めた。 「んっ、んじゅっ、はぁ。久しぶりの、アンタの味だ」 「はっ、はしたのうござるぞ」 「アンタが、俺をはしたなくさせてんだろう」 「えっ」 瞬く幸村から目を逸らし、小さく政宗が呟く。 「アンタが欲しくて、たまんねぇんだよ」 「――政宗殿」 照れくささを振り払うように、政宗は幸村の牡にかぶりついた。喉の奥まで飲み込んで、顔を上下させながら口をすぼめ、吸い上げる。薄い政宗の頬が猛る幸村の牡にゆがみ、喉の入り口まで飲み込むたびに彼女の目じりに涙が滲んだ。 「んふぅ、んぶっ、んじゅっ、はっ、ぁふんっ、ん」 必死に求めてくる政宗の口淫に、いじらしさに、幸村の胸が股間が熱くなる。 「は、ぁ。政宗殿っ」 「んぐっ、んっ、ぶふっ」 ぐっと政宗の頭を押さえつけ、喉の入り口に亀頭を押し付けた幸村が精を放てば、直接喉に注がれた政宗は咳込みえづき、口の端から、鼻から幸村の精液をこぼした。 「はぁ。政宗殿」 「うえっ、げほっ、はっ、はぁ、は」 うっとりと名を呼んだ幸村が、政宗の顎を持ち上げる。自分の精液で汚れた美しく愛しい人が涙をにじませる姿に、胸が甘く苦しく絞り上げられた。 「政宗殿」 つぶやく幸村の声が、艶めいていて熱い。背骨に甘くどろりとしたものが走り、政宗はぞくりと身を震わせた。 「その着物は、某と会うために仕立てられたのでござるな」 確認をするような口調に、政宗は唇を尖らせる。 「悪ぃかよ」 「西洋の姫君は、そのような釦の付いた衣を纏うと、耳にしたことがござる。政宗殿は、西洋の姫君と並ばれても、ひときわ美しくあらせられるのでしょうなぁ」 「うっ」 とろけるような幸村の気色に、政宗の満面が朱に染まった。ころりと寝かされ覆いかぶさられ、政宗の心音が高まり速まる。 「幸村」 惚けたように名を呼べば、不器用に唇を重ねられた。いつまでたっても上手くならない彼に微笑み、政宗は両手を幸村の首に絡めて唇を寄せた。 「んっ、ふ」 舌をからめ、口内を貪り合う。手首を縛られた幸村の腕は、政宗の頭を包み込むような形で、自分の体が彼女をつぶさぬように、支えていた。 「んっ、はぁ」 うっとりと、互いの存在を、想いを確かめ合うような口づけを繰り返した二人は、互いの唇が艶めきザクロのように赤く染まってからやっと、唇を離した。 「政宗殿」 縛られた手首を政宗に見せれば、彼女がそれを解く。解かれた幸村は、政宗の細い手首をひとつかみにし、反対に彼女の手首を縛り上げた。 「幸村?」 「欲しているのは、政宗殿だけではござらぬ。某とて、幾度、貴殿を夢に思い求めたかしれませぬ」 「で。夢に見て自分の手で慰めてたってワケか」 ニヤリと政宗が片頬だけで笑えば、幸村は底冷えのするような瞳で彼女を射抜いた。 「っ――ゆ、きむら?」 ごくりと政宗の喉が鳴る。 「全て、政宗殿に受け止めていただくため、堪えており申した。お会いできなかった月日の間にため込んだ想い。その全てを、その身に味わっていただく所存」 「三か月分を、ってことか」 ぞわりと政宗の肌身がわなないた。 「某が欲しゅうて、たまらなかったのでござろう?」 温厚さのかけらすらも見えぬ幸村の声音に、政宗の腰が疼いた。恐怖に似た喜びに、政宗の頬がひきつれながら緩む。 「ああ。たまんねぇ。アンタが欲しくて、疼いて仕方がねぇんだよ――真田幸村」 うわずり掠れる声に、幸村の唇が被さった。 「某が浮気などしておらぬことを、その身に味わっていただきまする」 「ああっ」 言い終る前に政宗の胸元を掴んだ幸村が、乱暴に彼女の肌を覆う布を引き破る。飛び散った釦が床に落ちるより早く、小ぶりで形の良い胸の間に顔をうずめた幸村は、所有の印を刻んだ。 「んっ、う」 「白い肌に、某の所有の花弁を散らすゆえ、お覚悟めされよ」 「上等だ。アンタの全てを、身の内に食らい尽くしてやる」 刃を交える折と同じ笑みを交わし、幸村は政宗の唇に噛みついた。 「んっ、ぁ」 乳房をすくい上げるように両手で包み、揉みながら指の腹で頂の実を捏ねる。すぐにそこは硬さを持ち震えはじめて、幸村は舌を添えて口内に引き入れ、吸い付いた。 「は、ぁん」 政宗は、小さく身を震わせて縛られた腕で幸村の頭を包み込む。赤子のように乳房を揉みながら吸う幸村の髪に唇を寄せ、吸われるたびに愛おしさをあふれさせた。 「んっ、ふぁ、あっ、幸村」 政宗の胸に溢れる自分への愛おしみを求めるように、幸村は執拗に舌を絡めて吸い続ける。もう片方の乳房を絞るように揉み込んで、乳首を指の腹で捏ねながら、柔らかな感触を楽しんでいた。 「はぁ。政宗殿の胸は、甘うござる」 「ばっ、か――何も、ぁ、出てねェだろうが」 「政宗殿の想いが、溢れておりまする」 カッと赤くなった政宗の耳に、うれしげに幸村が唇を寄せた。 「政宗殿」 軽く歯を立てながら名を呼べば、くすぐったそうに政宗が肩をすぼめた。みじろぐ腰を抱きしめた幸村が、硬さと熱を取り戻した牡を、短袴の隙間に潜り込ませる。 「あっ」 濡れはじめた蜜壺の入り口を、牡の先が撫でた。 「ゆっ、幸村?」 まさかこのままする気かと、政宗が頬を引きつらせる。そんな政宗に、にっこりと邪気のかけらも無く幸村は言った。 「せっかく、某の為に仕立ててくださった着物を、脱がしてしまうは惜しゅうござる」 「ぁは――っ」 蜜壺の入り口を、滾る牡の先が優しくなぞる。陰核を探り当てた幸村は鈴口を突起に押し当て、ぐりぐりと擦り始めた。 「ひぁっ、あっ、ばっ、ぁあっ、ばかっ、あ、そんっ」 「はぁ、政宗殿っ――ふっ、ふぁ」 快楽を最大限に引き出す箇所を押しつぶされ、政宗がのた打ち回る。その腰を抱きしめ押さえつけ、幸村はうっとりと心地よさそうに腰を揺らめかせた。 「んぁあっ、は、ぁあうっ、そこっ、ぁ、そこァア」 「はぁ、政宗殿っ、ああ、ぬるぬるしたものが、溢れて参りましたな」 「ひぅんっ、ば、かぁああっ」 幸せそうに、犬が飼い主にじゃれつくように、幸村が政宗の首に顔を摺り寄せる。愛らしい仕草とは裏腹に、幸村の腰づかいは激しくなっていく。鈴口のくぼみに、亀頭の括れにこねまわされて、差しこまれぬ政宗の奥からは愛液が溢れ出し、幸村の牡を、茂みをテラテラと濡らし絡んだ。 「はぁっ、ぁ、はひぅんっ、ぁ、幸村ぁ、幸村あぁ」 縛られた腕で幸村の頭にしがみつき、頬を摺り寄せる。甘く細い声で求める政宗に目を細め、幸村は息を荒げながら陰茎で蜜壺の入り口を擦り、亀頭で陰核を捏ね潰した。 「あはぁふっ、ぁうんっ、ゆ、きぃあぁあっ」 「政宗殿っ、政宗殿ぉ」 鼻から洩れる啜り泣きを重ねながら、足を絡め腰を擦りあわせる。幸村の先走りと政宗の愛液が混ざり合い、濡れた音が溢れた。 「ぁはっ、は、ぁあううんっ」 「はぁ、政宗殿っ」 激しさを増した幸村の腰づかいに、濡れた牡が滑る。 「あっ」 ずるんと滑った陰茎は、本来の納まる場所では無く、その後ろ――秘孔に突き立つ。 「ひっ、ぁが――」 「くふぅっ」 その勢いは止まらず、秘孔の奥まで陰茎が進んだ。 「ぁ、はぁあうっ、ちがっ、ぁ、ゆきっ、ぁ、ちがっ、そっちじゃねっ、ぇあぁ」 「ぁ、は、くぅうっ、せまっ、ぁござっ」 眉根を寄せた幸村は、それでも腰を止めることなく政宗の太ももを掴み、深く秘孔を抉り打つ。濡れてほころぶ政宗の淫花は、花弁を幸村の下腹と茂みに擦られ打たれ、奥の切なさを埋めてほしいとひくついた。 「ひふぅっ、ゆきぃっ、幸村ぁあっ」 「ぁはっ、ぁ、政宗殿っ、某、もうっ、くぅ、ううっ」 「っ、ぁはぁうううっ」 ど、と幸村が秘孔の奥ではじけ飛ぶ。注がれる熱の奔流に目を白黒させながら、満たされぬ切なさと快楽を交互に感じつつ、政宗は細い顎をのけぞらせて受け止めた。 「はぁっ、はぁ――政宗殿ぉ」 深く繋がったまま、しがみつき全身で甘えてくる幸村を、潤み涙をこぼす目で睨み付け、思い切り頭を肘で打ち付けた。 「痛っ。何をなされるのか!」 「そりゃあ、こっちの台詞だ! 違うっつってんのに、抜かねぇからだろうが」 牙をむきながらも羞恥を浮かべる政宗に、幸村の胸が熱くなる。 「久しぶりだってのに。その、ちゃんと、繋がりたかったのによ」 ぷっと頬を膨らませて顔をそらした政宗の、柔らかく滑らかな頬に、幸村は唇を押し付けた。 「たっぷりと繋がり、政宗殿がもう受け止められぬと仰られるまで、某は睦みあう所存にござる」 「Say what? ――うっ」 ずるりと、幸村の陰茎が政宗の秘孔から抜き出て、蜜壺の入り口にひたりと当った。 「某は、お覚悟めされよと申したはず」 低くささやかれた言葉に、政宗の胸が恐怖と狂喜に包まれた。 「上等」 唇を舐めた政宗が幸村の首に腕を絡ませ足を広げれば、幸村は政宗の脳天までをも貫く勢いで、腰を打ち付けた。 「うっ――くはっ、は、ぁああううっ」 そこから容赦なく、戦場を駆け廻り紅蓮の鬼と称されるほどの強さを持って、政宗の蜜壺を掻きまわし乳房を掴み、食い散らす。 「はっ、はぁ、政宗殿――ヒダが絡み付いてっ……意識を、奪われそうにござるっ」 「ひっ、ひぃいっ、ぁ、そんっ、はげしっ、ぁ、息っ、できね、からぁ、あはぁうぅ」 政宗の淫らな花弁が幸村の熱杭を求め、それに応えるように幸村が蜜壺の中で踊る。 「くひぃんんっ、ぁ、はぁううっ、ゆっ、きぃい」 「くっ、ううっ」 どぷ、と幸村が放ち、政宗が受け止める。ぶるると震えて残滓までをも注ぎ終え、ふっと息を漏らしたかと思えば、幸村は再び緩やかに腰を動かし始め牡の硬さを取り戻し、政宗の乳房を掴みむしゃぶりつきながら、再び激しく突き上げ始めた。 「はぁああうっ、ゆ、きぁああううっ、はひっ、はぁあううっ」 「ああっ、政宗殿っ、はっ、んふぅうっ」 かき回される蜜壺からは、とめどなく愛液があふれ出て、奥に飲まされた幸村の子種と絡み、あふれ出て二人の下肢をしとどに濡らした。 「ぁはっ、はぁううっ、ひっ、ひぃんっ、も、らめぁ、ゆきぃっ、こわれりゅっ、ぁはぁううう」 「ふっ、く。まだまだ、この幸村が涸れるまで、おつきあい願いまするぞっ」 「ひゃぁああんっ、むりぃっ、ぁ、はぁっ、おかひくにゃりゅぅううっ」 どく、と幸村が命を放ち、政宗が細い腰をのけぞらせ、飲み干した。 「ひふっ、は、はぁ、あ」 荒く上下する政宗の胸を手の平で包み撫で、口づけた幸村が腰を引く。幸村の抜け出る感覚に名残惜しさを感じながら、やっと終わりかと政宗は安堵の息を吐いた。 「ふ、ぅ。とんでもねぇな。っ、アンタの体力は」 汗と涙でぬれた顔で、淫蕩にうわずりながらも生意気に唇を持ち上げた政宗に、幸村は嬉しげに目を細めた。 「まだまだ。これからにござる」 「Ha? おわっ」 くるん、と腰を掴まれ回されて、うつぶせにされたかと思えば膝に乗せられた。 「ゆ、き……むら?」 まさか、とひきつった政宗の頬に、幸村が頬を摺り寄せる。 「会えなかった分、全てを、受け止めて頂きまするぞ。政宗殿」 「っ! ちょ、No、Wait! Wait、Wait――はひぃいっ」 座位で背後から貫かれ、乳房を掴まれ揉みしだかれて、政宗は天に咆えた。 「ふっ、ぁ、はぁ。もっと、政宗殿を某で満たしとうござる」 「ぁひっ、も、きゅうけぇっ、ぁ、らめぁっ、そんっ、はっ、したらっ、ぁはぁあっ」 突き上げながら胸を捏ね、空いた手で陰核を抓み転がせば、政宗はだらしなく笑みのような形に唇を歪ませ、瞳を快楽に濁らせた。 「もっと、もっと狂うてくだされ――っ、某に、狂うてくだされ。獣のように、睦みあいましょうぞ」 「ひぃあはぅううっ、ひっ、きもちぃっ、らめぁ、よすぎてっ、ぁ、きもちいぁあっ、ゆきぃいっ、ゆきむりゃぁはおおっ、いくぅ、いっちまぁうううんっ」 突き上げられ捏ねられるうちに、政宗の理性が崩壊し欲に従う獣となった。 「はぁあうっ、もとぉ、ぁはぁあ、いいっ、いいぁはぁうううう」 「ぁはっ、はぁ、政宗殿ぉっ、すご、ぁ、きもちぃっ、ぁ、よぉござるっ」 どちらも甘い声を上げ、身を擦りあわせて淫蕩に酔う。嬌態に目を細め、愛おしさを募らせながら乱れ狂う獣は、永劫このままなのではないかと思うほどに激しく、ひとつになっていた。 「ぃひぃいんっ、ぁあ、もっとぉ、ゆきむりゃぁあ、もっとぉお」 「くふぅうっ、政宗殿っ、ぁあ、政宗殿ぉおっ」 幸村が吼えるように政宗を呼びながら放ち 「ぁひぃあぁあああぁああっ」 天に届くかと思うほどの叫びをあげて政宗が熱を受け止め、互いの視線を絡め唇を寄せ合いながら、二人はゆっくりと意識を手放し倒れ込んだ。 諸大名が集う広間で、徳川家康が形式上、上座に座り他の者らの顔を眺める。席が二つ空いていることに目を止めた家康に、恋と祭りの好きな前田慶次が意味深な笑みを浮かべた。 「疲れきって、動けないんだってさ」 「ったく。若ぇよな」 慶次の言葉を受けた西海の美丈鬼、長曾我部元親が微笑ましくつぶやけば 「限度をわきまえぬとは。愚鈍な者らよ」 冴え凍る君と称されるほどに冷徹な毛利元就が、息を漏らした。それらの言葉に、家康が深く頷く。 「それだけ、世の中が平穏になったという事だ。あの二人が、誰にはばかることも無く、想いをぶつけ寄り添えるほどの世に、絆を結べる世に、なったということだ。これからも、もっと多く、そのような絆が紡がれる世にするために。力を貸してくれ、みんな」 さわやかな請いに、座の者らの唇がほころんだ。 2013/06/10