欲しい。 あれが、欲しくてたまらない。 伊達政宗は、畑の脇にあった岩に座して、欲しいものを眺めていた。それが政宗の視線に気付き、ふりむいて笑みをきらめかせる。 戦場では鬼と呼ばれるほどに知力と武勇に優れている男、片倉小十郎のおだやかな姿に、政宗の胸が甘く絞られた。 欲しい。 この男が。 いや。 片倉小十郎という存在が、欲しい。 小十郎が、柔和に微笑みながら近づいてくる。手ぬぐいで汗をぬぐいながら、無防備に。 その笑みは自分にしか向けられないものと、政宗は知っている。部下や里の者たちに向ける笑みとは、ほんのわずかに違っていることを、知っている。けれど政宗は、それだけでは物足りないと感じていた。 もっと。 どうしようもないほどに深く、欲しい。 「野良仕事を眺めておられても、つまらぬでしょう」 かたわらに来た小十郎に、口の端を持ち上げながら首を振る。政宗の柔らかな黒髪が、その動きに少し遅れて習った。 「つまんなくなんざ、ねぇよ」 小十郎の姿を見つめることを、つまらないと思うはずがない。 小十郎は答えず、目じりを下げて髪を包む手ぬぐいを外した。どんなときでも乱れなく、きっちりと撫で付けられた髪が、ほんのわずかに崩れている。それをかきあげて、さりげなく直す小十郎に、どくりと胸が鳴った。 眠るときに、あの髪がおろされている姿を見たのは、どれほど前のことだったろうか。 右目を失い、母に厭われ、周囲からも無言の嫌悪を向けられた幼い頃。小さな体で孤独と戦っていた梵天丸と呼ばれていた頃の自分を、小十郎がさりげなく抱きしめてくれた。あれは、どれほど前のことだっただろう。 小十郎の逞しく鍛え上げられた胸に顔を埋め、しっかりとした腕に抱きしめられて感じた安堵とぬくもりは、愛されているという実感だったのだと、今ならばわかる。 「どうぞ」 「ああ」 差し出された竹の湯のみを受け取り、口をつける。ちらりと、小十郎の腕に目を向けた。 自分が幼い頃、小十郎も今より若かった。たくましいと感じていた腕は、あの頃よりももっと鍛え抜かれているだろう。 ふと小十郎の喉仏に目が行って、着物の合わせ目から見える鎖骨と、ちらりと覗く胸のはじまりに喉が鳴った。 ここもきっと、あの頃よりもずっと、たくましく鍛え抜かれているはずだ。 「政宗様?」 思うよりも見すぎていたのか、小十郎が聡いのか。怪訝な呼び声に、政宗は内心あわてながら、唇をゆがめた。 「小十郎を見ていると、野良仕事も武芸の一部みてぇだな」 「鍬や鋤を使うことは、なかなかの力仕事ですし、雑草を抜く作業も、足腰が鍛えられます」 ぽん、と膝を叩いた小十郎の、半袴から伸びた足のしなやかさに、政宗は唇を噛み締めた。 自分のまらが、固くなっている。 「屋敷に戻る」 さりげなく立ち上がり、政宗は小十郎に背を向けた。 「軍議までには、戻ります」 「It is proper」 振り向きもせずに、政宗は返答をした。 小十郎がどうしても欲しいと、そう望み始めたのはいつだっただろうか。 気がつけば、どうしようもないほどに欲していた。小十郎に抱きしめられて眠る日々の中、いつしか頭がもやもやとして、股間がじんじんとするようになっていた。それがどういう現象なのか、はっきりと理解をしたのは元服を終えた後だった。 自分は、性的な意味でも小十郎を求めている。 そう自覚をした頃には、もう小十郎は政宗を抱きしめて眠ることをしなくなっていた。 他人を律し、それ以上に自分に厳しくある小十郎の精錬さに、鋭さはあれど性的な雰囲気などかけらもない。それなのに、厳しい指導の後にふっとやわらぐ瞳や、刃を振るう姿に官能を見てしまうのは、異常なことなのだろうか。 政宗は、ひとり夜中に悶々と悩む。布団の中で体を丸め、月明かりに白い肌を青白く輝かせながら、自分の右目と呼ばれる男のことを思う。 「小十郎」 つぶやけば、胸と股間が切なく疼いた。 より深い絆を生むために、主従が肉体関係を持つことは、平安の頃より行われている、なんら不思議の無い行為だ。けれど小十郎は、自分のその求めに応じるだろうか。応じるとしても、どのようにしてそれを求めればいい。どうやって、彼を求めればいい。この思いを、どう示せばいい。 「How should I…」 つぶやき、政宗は毎夜のごとく途方に暮れて、寝返りを打ち、浅い眠りへと落ち込んでいく。 そんな日々が続けば、顔色にも変化をきたすのは当然だった。 「近頃、顔色が優れませんが」 遠慮がちに小十郎が言ったのは、夕餉の後に政務の書類をまとめ終え、眠る前に酒でも飲めば眠れるだろうと、仕度を頼んだ宵の口だった。 「言いにくいことでしたら、人払いは済ませてありますので」 酒を持ってきた小十郎の、無駄に気の利くところが小憎らしい。共に酒を酌み交わせば言いづらいことも言い出せるだろうと判断し、普段ならば過ごすなと言い出しそうな量の酒を用意し、自分の盃も持っている。 自分にならば、政宗は何でも打ち明けるだろうとの自負が、おそらく本人は無自覚であろうそれが透けて見えて、政宗は心中で舌打ちをした。 おまえが欲しいから自分とねんごろになれと、酒が入ったとしても言えるはずがない。酒の勢いで言えると思えていたのなら、とっくにそうしている。 政宗は鼻から吐息を漏らし、不機嫌そのものな顔で盃を掴んだ。そこに、如才なく小十郎が酒を注ぐ。そうして、無言の酌み交わしが始まった。 ゆるゆると酒を舐める部屋は閉め切っており、外の様子は少しもわからない。けれど、窓から差し込む明かりの強さから、月が煌々としていることはわかった。 沈黙が、居心地が悪いくせに心地いい。奇妙な感覚に陥りつつも、今このときは、間違いなく小十郎は自分のものだと、自分のことだけを案じているのだと感じられた。 「小十郎」 「は」 盃の中の酒を揺らすか揺らさぬかの小さな声にも、小十郎はすばやく返答をする。 「寝付けねぇんだ」 酒に映る自分の目を見つめながら、政宗は独り言なのだと自分に言い聞かせて、小十郎にむけているのではないと思い込もうとしながら、つぶやいた。 「I miss those days」 そっと瞼をおろして、思い出を噛み締める。 「寝付けねぇときは、よく小十郎が添い伏してくれたな」 いかにも懐かしげに、思い出を語るようにつぶやき、瞼を上げて酒を飲み干した。空になった盃を突き出せば、小十郎が酒を注ぐ。ゆっくりと顎を上げてみれば、小十郎も懐かしげな顔をしていた。 「お懐かしゅうございますな」 しみじみと噛み締めるように、小十郎が呟く。そこには、ただの思い出としての気配しか感じられない。政宗のような劣情を、わずかでも滲ませてくれれば、誘う言葉も出てこようものを。 わかりきっていたはずなのに、政宗は落胆をする自分に呆れた。 小十郎が欲しい。 その思いが、酒の勢いに押されて強くなる。 そう。自分は酔っている。これは、酔いに任せた戯言だ。いつもよりも多く、酒を飲んでいる。だから、酔った上で昔を懐かしみ、こんなことを言ったとしても、おかしくは思われないだろう。 「あの頃みてぇに、添い伏してくれよ。小十郎」 なるべく冗談めかして聞こえるように、酔いに任せた悪ふざけと捉えられるように、政宗は片頬だけを持ち上げる。 了承してくれ。 胸奥の願いを込めて小十郎を見れば、少し驚いたように開いた目を面映そうに細めてうつむき、小十郎は床に手を付いた。 「なれば、この身を清めてまいります」 音も無く立ち上がった小十郎が襖の向こうに姿を消すのを、政宗は呆然として見送った。 いまだに、信じられない。 酔いのせいで見た幻だったのではないか。了承をしたふりをして去っただけではないのか。 ぐるぐると頭をめぐらせる政宗は、小十郎が去った後に残っていた酒を飲み干し、膳を片付けさせると眠る前に刀の手入れをしたいからと、丁子油を用意させた。小十郎が身を清めて寝所に現れ、共に眠ったとしても、そういう流れになることは無いだろうと思いつつ、それでも念のためと消えぬ期待を抱えながら、政宗は六本分の手入れに使うに十分すぎるほどの油を用意させ、それを臥所の脇に置いて、そわそわとしていた。 ひたひたと、廊下を歩く足音が聞こえ、政宗は慌てて横になる。待ち遠しくしていたなどと、思われたくは無い。 すらりと襖が開き、どくんと心臓が痛んだ。 「政宗様」 そっと襖が閉められて、小十郎がそばによる。すっとかけ布が持ち上がり、政宗の背に小十郎の手が触れて、ゆっくりと横たわる気配を感じた。 ばくばくと、全身が心臓になってしまったかのように、鼓動が響く。 「お懐かしゅうございますな」 小十郎の腕が、政宗の脇に触れて抱きしめられた。ごくり、と政宗は喉を鳴らして振り向く。 「ああ。すげぇ、久しぶりだ」 成長をした自分には、あの頃よりも小十郎が大きく逞しく感じることは無いだろうと思っていたが、そうではなかった。顔を見ることが出来ず、幼い頃のように胸元に顔を寄せれば、日に焼けた小十郎の肌の匂いが鼻腔をくすぐる。ぶるりと下肢が震えて、政宗はひざを曲げて腰を下げた。 「政宗様」 あやすように、包み込むように小十郎が腕を回してやわらかく抱きしめてくる。髪に小十郎の息が触れて、たまらなくなった。 「小十郎」 顔を上げれば、目の前に小十郎の慈しむ瞳がある。首を伸ばし、唇を押し付けた。 「政宗様――?」 何をされたのかわかっていないのか、酔った中での行動だと思っているのか、小十郎は不思議そうにするだけで咎める様子は無い。政宗はそのまま幾度も唇をついばみ、舌先で小十郎の唇をくすぐった。 「政宗様」 困惑と諌める気配をない交ぜにした声に、政宗は腕を伸ばして小十郎の首に巻きつける。 欲しいと思っていたものが、今こうして目の前にある。誰に見咎められることも無い場所に、こうして抱きしめあえる場所に。 俺は、酔ってる。 それを免罪符にしようと、胸の裡で繰り返しながら政宗は小十郎の唇に甘え続けた。下肢が、どうしようもないほどに熱くたぎってしまっている。もう、後戻りなどできようはずもない。 「は、ぁ――小十郎」 熱っぽくささやけば、小十郎の瞳が鋭く光ったように見えた。 「んっ、んんっ」 次の瞬間、激しく口内を貪られ、政宗は目を見開いた。苦しげに眉を寄せた小十郎が、目の前にいる。 「ふっ、んぅうっ、うっ」 小十郎の舌が口腔をかき乱し、呼気すらも乱されて、息苦しさに政宗の目じりに涙が滲んだ。 「んふぅっ、ふっ、んんっ」 首に回した手で、小十郎の襦袢を握り締める。角度を変えながら政宗の唇を覆い尽くす小十郎の口が離れるころには、政宗の息は上がりきり、胸は激しく上下していた。 「ふはっ、はぁ、は、はぁ」 やっと息がつけると空気を求める政宗の首筋に、小十郎が噛み付いた。 「痛っ」 「政宗様」 ひそめられた低い吐息に、背骨が甘く痺れる。 「ああ、政宗様」 「っ、は、こじゅ、ろ」 耳朶を食まれ、耳奥をぞろりと舌で愛撫され、政宗は腰を揺らし足を開いた。 凝りきった牡が疼き、下帯がきゅうくつになっている。その動きに気付いた小十郎の利き手が、ふくらんだ下帯を手のひらで包み込んだ。 「っは、ぁ」 「もう、こんなになされておられるのですか」 「うっ」 羞恥に頬を染めて口をつぐんだ政宗に、小十郎が微笑み額に口付ける。やわやわと下帯の上から揉まれた牡が、うれしげに震えて先端を湿らせた。 「心地よいのですね」 「ぁ、んぅ」 小十郎の声が、脳を愛撫する。体の奥から沸き起こる声が漏れぬよう、政宗は奥歯を噛み締めた。 これは、夢なのだろうか。小十郎が口吸いをして、まらを手のひらで包み擦っている。 「ぁ、はっ、んう、ふ」 「声を抑えずとも、人払いは出来ております」 小十郎の手が下帯の中にもぐりこみ、政宗の茂みをまさぐった。 「ふぁ、はっ、ぁ、あう」 袋ごと根元を握られ揉みしだかれて、政宗の腰が跳ねる。自慰をしたことはあるが、これほどに感じたことなど一度も無い。 「そう。そのまま、声を放ってください。この小十郎をしかと感じているのだと、この小十郎のなすことに心地よくなられているのだと、示してください」 「んぅっ」 切ない囁きが直接口の中に注ぎ込まれる。口付けを受け止める政宗の脳の芯が、甘いむず痒さに包まれた。 「政宗様」 「ふ、ぁ、こじゅ、ぁ、んぅ」 小十郎の唇が顎を滑り喉をなでて、政宗の胸乳へ到達する。白い肌にある赤い蕾に、小十郎が吸い付いた。 「んぁ、はっ、は、ぁあ」 ちゅくちゅくと吸われ、政宗の背が小さく反る。陰茎を扱かれ胸乳を吸われ、わき腹をまさぐられ太ももをなでられて、政宗の意識は夢と現のはざまにたゆたった。 心地いい。 小十郎が、これを与えてくれている。 「ぁ、ああ、こじゅ、ろ……小十郎」 「政宗様、政宗様」 小十郎の舌も指も、繊細に動いて政宗の肌を桃色に染めていく。凝りきった牡の先から蜜があふれて止まらない。それを勢いよく噴き出したくて、政宗は腰を揺らした。 「ああ。イキたいのですね」 カッと体中が熱くなった。何かを言おうとした政宗を制するように、胸にあった小十郎の唇が滑りヘソをくすぐり、下肢に到達する。 「こっ、小十郎」 うろたえる政宗の目に、小十郎が政宗の陰茎を口腔で扱く姿が映っていた。 「ふ、んっ、ん」 「ぁ、ああっ、ぁ、は、ぁあぁ」 股間で、小十郎の頭が揺らめいている。小十郎の頭が上下するたびに、えもいわれぬ快楽が募っていく。羞恥と驚きをない交ぜにした政宗は混乱し、後ろに撫で付けられていない小十郎の自然体な髪に手を伸ばし、それを掴んだ。 「はっ、ぁ、こじゅ、ぁ、あぁ」 どうしようもなく射精へと追い詰められていく。けれどこのままでは、小十郎の口の中に放ってしまう。 小十郎に、飲ませちまう。 そう意識した瞬間、政宗の牡が破裂した。 「っ、はぁあぁあああっ」 小十郎の頭を押さえつけ、背を大きく仰け反らせて腰を震わせ、政宗が果てる。 「ぐっ、んっ、ぅう」 むせそうになるのを堪え、小十郎は口内に吹き込んだ政宗の子種を慎重に嚥下し、残滓を吸い上げた。 「んはっ、は、はぁ、あ」 絶頂後の気だるさに包まれながら、おそるおそる小十郎を見る。手の甲で口元をぬぐう小十郎に、政宗の目がこぼれそうなほど見開かれた。 「こ、小十郎」 なんですか、と小十郎の瞳が返事をした。 「その、の、飲んだのか」 にこりとした小十郎が、唇を押し付けてきた。牡特有の匂いが鼻に触れた。 「っ! なんで、飲むんだよ」 「政宗様の一部であるからです」 「what?」 それがなぜ、飲む理由になるのかがわからない。 「あなた様のあらゆるもの全てを、この小十郎の身に刻み、深くつながりたいと望んでおりました」 これは、夢なのだろうか。 小十郎のおだやかな笑みに、呆然と見入る政宗の手が握られる。その手が導かれた先の熱さに、政宗は身を強張らせた。 「政宗様を欲し、このようになってしまう私を、嫌悪なさいますか」 手が導かれた先は小十郎の下肢で。つまり、手に触れている熱いものは小十郎の陰茎で。それが、こんなに熱くなっているということは、つまり。 「小十郎」 熱っぽい息とともに名を呼び、導かれた手を開いて小十郎の牡を掴む。それはたくましく脈打っていて、少し擦れば小十郎が小さく呻いた。 「はは。すげぇ」 「ぅ、政宗様」 かすれた声で呼ばれ、放ったばかりの政宗の陰茎が震え、頭をもたげた。 「なんだよ。自分で触らせておいて、やめろとか言うんじゃねぇだろうな」 小十郎が自分に欲情をしている。これほど熱く太くさせるほどに、求めてくれている。 政宗の心が弾み、喜悦が全身を包み込んだ。 「いえ、その」 「なんだよ」 小十郎が目をそらし、言いにくそうにする。そんな姿は珍しく、政宗はニヤリとした。 「遠慮しねぇで、言ってみな」 「それでは」 こほんとひとつ咳払いをして、小十郎は射抜くほど真っ直ぐに、政宗の瞳を捕らえた。ぞくり、と政宗の魂が震える。 小十郎が、欲しい。 「政宗様と、ひとつになりたく存じます」 「Oh……」 腹の底から、息が漏れた。それはまさしく、今、自分が強く願ったことだった。 「このようなあさましきこと、望むべきではないと重々承知をしております。ですが」 「Stop! 誰も、咎めてなんざいねぇだろ」 期待に、政宗の声が上ずった。手を伸ばし、枕元に用意をした丁子油を握り締め、小十郎の鼻先に突き出した。 「男は女みてぇに濡れねぇから、これを使うんだろう?」 「政宗様」 安堵したような、呆れたような小十郎に、いたずらっぽく唇を突き出す。 「あさましいなんて、言うなよ? Neither am I」 ふっと小十郎の口元が緩む。それに唇を押し付ければ、小十郎が丁子油を受け取った。 「お覚悟めされよ」 「誘った時点で、覚悟は決めてんだよ」 ふふんと鼻を鳴らした政宗に口付けをして、小十郎が手のひらに丁子油を流す。男同士がどこを使うかは、知識として知っている。けれど今から小十郎がそこに触れると思えば、知らず体が強張った。 「政宗様のお体にご負担なきよう、させていただきます」 「御託はいいから、さっさとしろよ」 でなければ、せっかくの覚悟が消えてしまいそうだ。 「それでは」 「うわっ」 小十郎が政宗の片足を持ち上げ、丁子油で濡らした指で、尻の間を撫でた。そこにある窄まりに触れて、入り口をあやすように撫でたかと思えば、ゆっくりと節くれだった長い指を押し込んでいく。 「んっ、ふ」 「苦しいですか?」 「いや、だいじょ、ぉぶ」 異物感に、喉の奥にせりあがってくるものがある。それを堪えていれば、根元まで指を飲み込んだことがわかった。 「政宗様」 「ん。平気、だ」 政宗のその言葉が嘘ではないと確認するように、小十郎は政宗の表情を伺いながら、指を動かした。 「ぅ、は、んぅ」 指が出入りするたびに、濡れた音が聞こえる。それがどうにも恥ずかしくて、政宗は腕で顔を隠した。 「あんま、見るな、ぁ、ふ」 「無体を、いたしたくありませんので」 「無体って、ぁあっ!」 目の前で火花が散るような、強い刺激が背骨を駆け上がった。 「ここですね」 「あ、何っ、ひっ、ぁ、あああっ」 小十郎の指が内壁を探り、先ほど政宗が強く反応をした箇所を確かめると、そこを重点的に責め始めた。断続的に与えられる快楽に、小さな絶頂を繰り返し行っているような感覚に、政宗は子どもがいやいやをするように首を振った。 「はんっ、はぁ、あっ、ひぅ、そこっ、あっ、あ」 いつのまにか小十郎の指が増え、注がれる丁子油の量も増えていることに、政宗は気付かない。それほどに強く激しく政宗を高ぶらせながら、小十郎は互いがひとつになる場所を、ほぐしていた。 「ひうっ、ぁ、あはぁあうっ、ふっ、ぁ、こじゅぅうっ」 身悶える政宗の陰茎が跳ね、先走りを拭きこぼしている。瞳を潤ませ嬌声を上げる政宗の姿に、小十郎の理性が限界を迎えた。 「政宗様。失礼致します」 「あっ」 腰を掴まれくるりとうつぶせにされ、尻を持ち上げられた。 「ぁ、こじゅっ、ひぎっ、ぁ、がぁあ」 何を、と言い掛けた言葉は、体の真ん中から引き裂かれるような圧迫感に、かき消された。 「ああ、政宗様」 「ひぐっ、ぁ、は、ぁあうっ、は、ぁあ」 体内にある空気が押し出される。それを吐き出す政宗の陰茎を握り、先端をあやしながら小十郎は腰を進めた。 「っ、あ、はぁ、政宗様」 「っ、は、はぁ、あっ、あ、あ」 身を震わせ、涙を流す政宗のうなじに小十郎が唇を押し付ける。ぎこちなく振り向いた政宗の目には、懺悔のように映った。 「こ、じゅうろ」 この圧迫は、小十郎だ。内部だけでなく、尻にぴったりと肌が触れているのは、余すところ無く小十郎と繋がっているということだ。 政宗は胸が詰まるほどの圧迫も、愛おしく感じた。 「小十郎」 「政宗様」 唇が重なる。 「っ、は、いいぜ、動いても」 「しかし」 苦しげな政宗に、小十郎がためらう。 「覚悟しろっつたのは、おまえだろ。いいから、好きに動け。どんだけ俺を欲しがってんのか、態度で示して見せろよ」 挑発的な政宗の笑みに、小十郎が肩の力を抜くように息を吐いた。 「では、ぞんぶんに感じていただきましょう。どれほど、この小十郎が政宗様を欲しているのかを」 「If that isn't the very thing I long for」 ぐっと強く腰を掴まれたかと思えば、熱杭が内壁を擦り始めた。ず、ず、とそれが動くたびに、意識せずに政宗の肉筒は小十郎の熱に絡み、その形をまざまざと意識へ伝える。 「はんっ、は、ぁぎっ、ひ、ぃううっ」 「ああ、政宗様」 息苦しい。けれど、この熱さが、太さが、乱れた小十郎の呼気が全て、自分を求めるが故だと思えば、何もかもが愛おしい歓喜へと変わる。 「ぁはぅうっ、こ、じゅろっ、ぁ、こじゅぅう」 「政宗様っ、ぁ、まさむ、さまっ」 苦しげに、小十郎の声が途切れだした。内壁が丁子油とは別のもので濡れていく。小十郎の先走りで、濡れていく。 「ああ、こじゅっ、ぁ、はぁあっ」 小十郎の絶頂が近いことを本能的に誘った政宗は、背中越しに手を伸ばした。 「ああっ、おまえのぜんぶっ、よこしやがれっ」 「っ、政宗様!」 ぐん、とひときわ深くえぐられた瞬間、政宗の意識が白くはじけた。 「っ、ぁ、はぁああぁあああっ!」 絶頂を迎えた政宗の内壁が、小十郎もと促すようにきつく絞まった。 「くっ、ぅう」 ど、と小十郎の欲液が政宗に注がれる。その熱を受け止めながら、政宗は幸福の白い闇に向けて意識を手放した。 目が覚めれば、体が気だるく下肢が重く、尻に何かが挟まっているような感覚があった。 「ん、ぅ」 ぼんやりとした頭で、昨日は何か無茶なことでもしたかと考える。寝返りを打ち、目の前に小十郎の微笑があって、政宗は驚きで意識を目覚めさせた。同時に、昨夜の出来事がありありと思い出される。 「おはようございます。政宗様」 とろけるような微笑は、今までの小十郎とは明らかに違う。照れくさくなり、政宗は目をそらして小さく「おう」と呟き、小十郎の胸に額を寄せた。ふわりと軽く、政宗の髪に小十郎の唇が触れる。 「俺がおまえを欲しがってるって、いつから知ってた」 憮然とした声は、面映さをごまかすためだ。それに気付かぬ小十郎ではない。胸の裡深くに政宗を抱きしめ、小十郎は彼の髪に頬を摺り寄せた。 「昨夜です」 驚き、政宗が顔を上げる。 「近頃、寝付けなかったのは、この小十郎を想うてくださってのことだったのですね」 小十郎の幸福にとろけるような気色に、政宗はこれが夢ではないのだと、喜びのあまり泣き出しそうになって、あわてて顔を伏せ小十郎の胸に額を摺り寄せた。 「悪いかよ」 「夢のようです」 ほうっと、小十郎が息をつく。 「夢であったのではと、今でも信じられぬくらいです」 「夢にしてたまるかよ」 政宗が、小十郎の背に腕を回した。 「どんだけ俺がガマンしてきたと思ってんだ」 「ガマンをしてきた度合いであれば、この小十郎も負けてはいないと思いますが……痛っ」 かぶりと、政宗が小十郎の鎖骨に噛み付く。 「夢じゃねぇって思えるように、これから幾度でも繋がりあえばいい。ぜってぇ、放さねぇからな。覚悟しておけよ」 「それは、こちらの台詞です。政宗様」 顔を上げるように促され、ためらいがちに顎を持ち上げれば額に口付けられた。 「あなたを、誰にも渡しはしない」 全身からあふれる小十郎の思いに、政宗の魂が包まれる。 「小十郎」 「政宗様」 誓いの口付けが、交わされた。 2013/09/27