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温石

 風呂に入り一日の疲れを洗い流し、体をあたためた片倉小十郎は、自室の襖の前で足を止めた。部屋の中に、人の気配がある。このような時間帯に、小十郎の部屋に入り自分を待っている人物は、一人しか思い当たらない。眉間に小さなしわを寄せ、小十郎は襖を開けた。
「政宗様」
 夜具が、こんもりと盛り上がっている。返事は無い。吐息を漏らし、小十郎は襖を閉めた。
「何を、なされているのですか」
 夜具の綿入れをめくれば、いたずらっぽい艶のある微笑を浮かべた主、伊達政宗がいた。
「俺は、今、温石なんだよ」
「は?」
「だから、お・ん・じゃ・く」
 温石とは、現代で言う湯たんぽのようなものである。熱した石は、なかなか冷めない。手ごろな丸い石を熱し、夜具の中に入れて寒い冬の夜に暖を取るものだ。
「あったまってんぜ。冷える前に、早く入れよ」
 ほらほらと楽しそうに促す主を、小十郎は無言で見下ろす。小言を言おうか、いたずらに乗ろうか逡巡する小十郎の襟首を掴み、政宗が引き寄せた。
「俺も冷えるだろ。さっさと入れ。風邪を引いたらどうすんだ」
 吐息でやれやれとこぼしながら、小十郎は横になる事にした。
「まったく。何を考えておられるのですか」
「I do not need the scolding」
 横になった小十郎のたくましく広い胸に、政宗が身を寄せる。幼子を包むように腕を回した小十郎に、ふふっと政宗が鼻を鳴らした。見上げる目が、きらりと光る。
「人間同士の方が、あったかいだろう」
「お互いに、温石の役をする、ということですか」
 渋面の小十郎に、くすくすと政宗が擦り寄った。
「すげぇ、寒い」
 声音に艶が乗っている。
「政宗様」
「あっためてくれよ」
 妖艶に紡がれたささやきに、小十郎は唇を引き結んだ。
「体の奥から、熱くなりてぇ」
「政宗様」
「どうせ、雪の間は閉ざされて、戦も無ぇし一揆を起こす奴もいねぇんだ。明け方まで温めあっても、問題はねぇだろう?」
 畑の世話も無いしな、と政宗が首を伸ばし、小十郎の耳に息を注ぐ。
「なぁ」
 小十郎、と音になるかならないかの声で呼ばれ、小十郎は主の額に唇を押し付けた。
「寂しくて、一人寝のできぬ年頃ではないでしょう」
 小十郎の口の端に、共犯者の笑みが浮かんでいる。そこに唇で甘えながら、政宗は小十郎の胸の合わせに手を差しこみ、鍛え抜かれた肌を撫でた。
「大人の所作で、慰めてくれよ」
「まったく。仕方の無いお方だ」
 小十郎の唇が、政宗の左のまぶたに触れる。頬を滑り唇を包んだ小十郎は、政宗の右目を覆う眼帯を外した。現れた古傷が、政宗の端正な美貌に凄みを与える。
「小十郎」
 哀れに縋る幼子のように、政宗が呼んだ。何の心配も要らないと、小十郎は自分の付けた彼の傷跡に唇を寄せる。
「っ、は」
 顔中を唇で撫でながら、小十郎は政宗の帯を解き素肌に手のひらを這わせる。野良仕事と刀を握ることで出来た豆がつぶれかたまり、ごつごつとした硬い手のひらが、なめらかな政宗の白い肌を滑る。
「小十郎」
 甘く声を奮わせる政宗の両腕が小十郎の頭を包み、唇を求める。貪るように呼気を求め、舌を伸ばしからめて、身をすり寄せる。
「政宗様」
「っ、は、ぁ、小十郎」
 夜気に包まれる政宗の肌が、赤みを増す。じわじわと体の芯から熱を呼び起こそうと、小十郎は角度を変え唇を重ねたまま、両手で政宗の肌をまさぐった。
「んっ、ぁ」
 小十郎の唇が滑り、政宗の喉仏を吸う。そのまま舌が首の筋をなぞり、鎖骨に触れ、余計な物を削ぎ落とした、鍛え抜かれた政宗の胸筋にある尖りを捉えた。
「ふっ、んぅ」
 きゅうっと吸えば、政宗が鼻にかかった声を漏らす。小十郎の舌にからめ吸われた色づきが、硬く凝り甘く疼く。その疼きが滲み広がり、政宗の下肢に熱を与えた。
「はっ、ぁ、こじゅ、んっ、ぁ」
 政宗の足が泳ぎ、開いた内腿を小十郎が撫でた。足の間にある牡が、ゆるゆると硬さを持つ。下帯の隙間から指を入れた小十郎が、政宗の下生えをくすぐり牡を取り出した。
「んっ、ふ」
 政宗が、手の甲を唇に押し当てる。小十郎の手のひらが政宗の牡の先端を包み、こねた。もどかしそうに腰を揺らす政宗の胸乳から唇を離し、彼が口に当てている手に顔を寄せ、指を甘く噛む。
「ふっ」
 ぶるり、と政宗が胴震いする。うっとりと目をとろかせた政宗が、小十郎の唇を求めた。応えながら、小十郎は政宗の牡を愛撫し熱を高める。
「んっ、こじゅ、ぁ、は、もっと」
「はしたないことを、申されますな」
「こんなことに、はしたねぇも、はしたなくねぇも、無いだろう――Do not say bad taste」
 政宗の手が伸びて、小十郎の下肢を掴んだ。
「ずいぶんと、熱くしてんじゃねぇか」
 ニヤリと政宗が唇を歪める。
「政宗様に触れて、この小十郎が鎮まったままでいられると、お思いか」
 熱っぽい小十郎の呼気に、政宗の胸が震えた。
「っは、なら、つまんねぇ事を言って冷静ぶっていねぇで、本能に従えよ」
 快楽に上ずる政宗の誘いに、小十郎の目の奥に野欲がひらめく。ぞくり、と政宗の腰が疼いた。
「承知」
 短く答えた小十郎が、するりと政宗の肌をおりて手のひらに包んでいた、政宗の下肢にかぶりついた。
「んはっ、は、ぁあっ」
 口内に引き入れ、舌を絡め軽く歯を立て、唇をすぼめて扱く。
「ぁはっ、こじゅ、んぅ」
 小十郎の髪に指を絡め、政宗が身悶える。頭を上下させ政宗を性急に追い立てる小十郎に従い、あっけなく彼の口内で政宗が爆ぜた。
「っは、ぁあぁああっ」
 どく、と放たれた政宗の蜜を筒奥のものまで吸い上げた小十郎が顔を上げる。
「は、ぁ。小十郎――俺も……」
 気だるく前髪をかきあげた政宗が、小十郎の牡を今度は自分が慰めると言い切る前に、小十郎は口を開き受け止めた政宗の蜜を、手のひらに落とした。目を丸くする政宗の足を抱え上げ、濡らした指を尻の谷にある秘孔に押し付ける。
「少々、乱暴になりますが、ご容赦を」
「こじゅ――っは、あぅ」
 政宗の言いかけた言葉が、あえぎに変わる。彼の蜜で塗らした指で、小十郎は繋がる箇所をほぐした。
「ふっ、ぁ、こじゅ、なんっ、あ」
「いかがなさいました。政宗様」
 肩まで足を持ち上げられ、大きく開かれた政宗の下肢は何もかもを、小十郎に晒している。開かれる秘孔も、下肢の茂みも、放ったばかりであるのに、再び頭をもたげる牡も。何もかもが、小十郎の目に映されている。羞恥に似た悦びに意識をとろかせながら、政宗は腕を伸ばし小十郎を求めた。
「ふっ、ぁ、今日、なんか、ぁ、早ぇ、はっ、ぁあ」
 常ならば、もっとゆっくりと、政宗の形を隅々まで確かめるように、この男は自分を愛撫しとろかせて、体を繋ぐ。こんなに性急に、繋がる箇所に触れてほぐすなど――政宗の蜜を潤滑剤とするなど、珍しい。
 政宗の問いを察した小十郎が、彼の鼻先に唇を寄せて濡れた瞳を覗きこんだ。
「お嫌ですか」
「いやじゃっ、ぁ、無ぇ、けど」
 どうして、と問いを乗せた瞳に、小十郎が口付けながら答えた。
「体の芯まで、冷え切っております。この小十郎をあたためる温石なのでしょう?」
 この男には珍しく、いたずらっぽい光をきらめかせた答えに、政宗の胸の奥がくすぐられた。
「Ha――んぁ、あっ、そうだ……っ、あ、俺は、温石っ、だから……ぁ、思うぞんぶん、ふっ、あたたまれよ」
「そうさせていただきます」
 政宗の額に唇を寄せ、小十郎が彼の足の間に身を滑らせる。触れた熱がたくましく凝りきっていることに、政宗はごくりと喉を鳴らした。
「なんて顔を、なされておられるのですか」
 ほう、と小十郎が熱っぽい呟きを、政宗の唇に注ぐ。やわらかく押しつぶされた唇を歪め、政宗は小十郎の腰に足をからめた。
「It is both――早く、俺の中で熱くなれよ」
「爛れるほど熱く、とろかして差しあげましょう」
 くすくすと笑みをからめ、小十郎は政宗に沈み、政宗は彼を受け入れる。怒張した小十郎がゆるゆると政宗を広げ、政宗の秘孔はもどかしそうに蠢き、熱を求めた。
「っは、こじゅっ、ぁ、もっと、奥に」
「そのように締め付けられては、なかなか奥に進めません」
「あっ、なら、こじ開けろっ!」
 ふっと包むような息を漏らした小十郎が、政宗の腰を掴んで引き寄せた。
「っが、ぁはぁおおおおっ」
 体中を反らし、圧迫感から逃れようと政宗が吼える。ぴったりと下肢を重ねて隙間なく繋がったことを確認するように、軽く二・三度揺すってから、小十郎は政宗の媚肉をえぐった。
「ぁひっ、はっ、ぁ、こじゅっ、ふはぁあ」
「くっ、政宗様」
 小十郎にしがみつき、声を上げる政宗の媚肉が、穿つ小十郎の熱を絞る。蠕動する熱い肉壁をとろかせようと、小十郎は腰を打ちつけ政宗を乱した。互いの肌がうっすらと汗ばみ、戦場で駆け巡る折のように、心拍数が上がる。
「はひっ、は、ぁあっこじゅ、ぁあ、奥にっ、ぁ、もっと、熱く、あぁ、全部っ、よこせ!」
「ああ、政宗様――共に」
「ふぁ、んっ、はっ、ぁ、こじゅっ、小十郎っ!」
 政宗も腰を振りたて、小十郎を媚肉で包み扱く。からむ二人の魂が熱に溶け、まざりあった瞬間に意識が白んで弾けた。
「くっ」
「っ、はぁあああ」
 小十郎の熱が政宗に注がれ、政宗の欲が小十郎の腹を濡らす。震え、互いに全てを吐き出し終えて息をつき、射精後の気だるさを乗せた唇を重ねた。
「ふっ……すげぇ、熱い」
「私もです」
 汗ではりついた互いの髪をかきあげて、顔中に唇を押し付けあう。
「最高の温石だろ?」
「ええ。これ以上に、私の身も心もあたためられるものは、ございません」
 小十郎の答えに、満足そうに政宗が口の端を持ち上げた。
「今度は、オマエが温石だ。小十郎。もっと……あたたまるどころじゃないぐらいに、溶かせてくれよ。小十郎」
「奥州の雪をすべて溶かすほどに、熱くさせてさしあげます」
「上等だ」
 剣呑な野欲をひらめかせた政宗の唇を、小十郎の唇が包んだ。

2014/01/22



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