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戯れ

 す、と筆を持ち上げ最後の文字を記し終えた柴田勝家が、くろぐろとした墨の流れる紙を見下ろし、立ち上がった。
「片倉氏」
 声をかければ、小十郎が目を通していた書類から顔を上げる。
「おう、終わったか」
 こくりと勝家が頷くのに、小十郎は笑みを向けた。
「ご苦労だったな。墨が乾いたら、片付けておく。オメェはもう休んでいいぞ」
「では、先に失礼する」
「ああ」
 滑るように執務室を出た勝家が襖を閉めて、小十郎は手の中の書類に目を戻した。そうしてしばらく過ごし、勝家の記したものの墨が乾いたのを確認して畳み、文箱におさめる。その他の物も片付け、全ての作業を追えた小十郎は灯明を消し、主の私室へ向かった。
「政宗様」
 声をかけても返事は無い。だが、気配はする。小十郎は襖を開け、一人でゆるゆると杯を傾けている主、伊達政宗の傍へ寄った。
「遅かったじゃねぇか」
「墨が乾くのを待っておりましたので」
 ふうんと政宗が光のある左目で小十郎を見る。
「よく働いているそうじゃねぇか」
 それが勝家の事であることは、明白だった。
「乱筆の者や、形態を整えぬままに書類を上げてくる者もおりますので。そういうものを全て内容にそって分類しながら記帳をする、という仕事に向いているようです」
「めっけもんだな」
「ええ」
 薄く小十郎が唇に笑みを乗せ、政宗が唇を尖らせ杯を置いた。
「小十郎」
「は」
 政宗が腰を浮かせ、小十郎の横に膝を着く。
「ずいぶんと、可愛がっているみてぇじゃねぇか」
「それは、政宗様とて同じ事。ずいぶんと目をかけておられる」
「妬けるか?」
 政宗が小十郎の膝に手を乗せ、顔を寄せた。小十郎はほんのりと微笑むだけで答えない。
「妬けるって言えよ」
「お酒を、過ごされたようですな」
 しなだれかかる政宗に小十郎が言えば、つまらなさそうに鼻を鳴らした政宗が、小十郎の鼻にかみついた。
「酔ってねぇよ」
「酔われているように、見受けられますが」
 政宗の両腕が小十郎の首に絡んだ。
「なら、酔わせているのは小十郎。オマエだ」
 政宗の唇が薄く開き、誘うように息が漏れる。
「小十郎」
「はしたないことを」
「誰のせいだ」
「わかりかねます」
 クスクスと喉を鳴らしながら、二人の唇が重なった。
「臥所に参られますか」
「運べよ」
「承知」
 小十郎が政宗を抱きかかえ、唇を重ねながら運び、布団に横たえる。
「小十郎。Give us a kiss」
 熱っぽく政宗がささやき、小十郎の唇がそれを拾う。幾度も唇を重ねる間に、互いの着物をくつろげて足を絡めた。
「は、ぁ、小十郎」
「いつまでも甘えたでいらっしゃる」
「ぁ、昔は甘えたりなんざ、しなかったと思うんだがな」
 政宗が小十郎の耳をつねった。
「まさか、勝家にもこんなふうに夜の手ほどきをして、甘やかそうなんて、思ってねぇだろうな」
「政宗様こそ、ずいぶんと可愛がっておいでのようですが。この小十郎から鞍替えなされるおつもりでは?」
 たわむれを紡ぎながら、互いの髪を指に絡め肌に唇を押し付けて、手のひらで形を探り熱を高める。
「は、ぁ、小十郎」
 小十郎の唇が政宗の鎖骨を滑り、しなやかに鍛えられた胸筋の尖りに触れた。
「いつから、このように硬くなされていたのですか」
「ぁ、んっ、知らねぇよ、は、小十郎、もっと」
 政宗の求めに応じるように、小十郎は舌を絡めて吸い、軽く歯を立てた。
「あっ、は、小十郎、ぁ、もっと、熱くなりてぇ」
「強請らずとも、熱くして差し上げます」
「はんっ、ぁ、あぁ」
 小十郎の手のひらが政宗の腹を滑り、下肢に触れた。内腿を撫で上げられ、その流れで下帯の上から刺激されて、政宗の腰が浮く。
「邪魔なモン、脱がせてくれよ」
 妖艶に光る政宗の左目が、小十郎を酔わせる。やわらかく目を細めた小十郎は、政宗の唇に舌を押し込みながら、彼の下帯を解き自分の下帯も外した。
「んっ、んぅ、は、んっ、こじゅ、ぁ」
 二つの舌が生き物のように蠢き、絡む。互いの呼気を混ぜ合わせるような口付けに、肌も意識も熱を帯びた。
「ぁ、はっ、こじゅ、んぅ」
 政宗の唇を貪りながら、小十郎は彼の陰茎を掴み、ゆるゆると手のひらで捏ねた。硬さと熱を増すそこが濡れるころには、政宗は胸を喘がせ涙を滲ませ、もどかしく腰を揺らめかせていた。
「んっ、小十郎、は、ぁ」
 政宗が手を伸ばし、小十郎の陰茎を掴んでニヤリとする。
「すっげぇ、熱い、な」
「政宗様こそ」
「なぁ、しゃぶりてぇ」
 政宗が小十郎の耳に舌を伸ばし、強請った。
「いいだろ? 食わせろよ」
 嘆息した小十郎が、政宗の頬に口付け身を起こす。唇を舐めた政宗が、足を開き座った小十郎の胸に唇を寄せた。
「I will make you feel good」
 淫靡な笑みを浮かべた唇を開き、政宗が小十郎の陰茎を含んだ。
「んっ、ふ、んちゅ、は、熱い、な」
「は、政宗様」
 楽しげに小十郎を味わう政宗の髪を、小十郎が撫でる。心地よさそうに目を細めた政宗は、しばらく陰茎をしゃぶってから、顔を上げた。
「すっげぇ」
 怒張した小十郎の陰茎を指ではじき、唇を舐めて小十郎の胸に甘える。
「なぁ、小十郎」
 その先の言葉を発さなくとも、小十郎の耳にはしっかりと政宗の望みが聞こえていた。
「ええ」
 唇を重ね、小十郎は手を伸ばして仕掛け枕の中から潤滑油を取り出す。政宗が小十郎の頭を抱え込み、幾度も口付けを強請る。それに答えつつ、小十郎は潤滑油で指を濡らし、政宗の尻を開いた。
「ふっ」
 政宗の切れ長の目を縁取るまつげが震える。そこに口付け、小十郎は政宗の狭くやわらかな内側へと指を沈めた。
「は、ぁ、あ、はぁ、あっ、ぅんっ」
 あふれる嬌声を全て拾うように、小十郎は唇を重ね続ける。政宗も自分の熱を小十郎に移すように、唇を押し付けた。
「ふ、んは、ぁ、もぉ、こじゅ、ぁ、もう、いい」
 たまらないと、政宗が全身を小十郎にすりつけ、彼の耳朶を噛んだ。
「Let's be connected」
 いたずらっぽくささやいた政宗が、小十郎の腰をまたぐ。
「いいだろう?」
 小十郎の頬を両手で包み額を重ねる政宗の腰を、小十郎のたくましい腕が抱きしめた。
「政宗様が欲しくて、気が狂いそうです」
「Me too」
 政宗が腰を落とし、小十郎がのけぞる彼の首に唇を寄せる。
「ぁは、ぁ、は、んっ、ぁ、もっと、奥、ぁ」
「政宗様」
 ゆっくりと腰を沈める政宗を、小十郎の腕が支えた。
「ぁ、もっと、ぁ、はぁ」
 わななきながら小十郎を飲み込む政宗が、ぴったりと自分の尻と小十郎のふとももが重なったことを確認し、息を吐いた。
「ぜんぶ、入ったな」
「ええ。全て、政宗様の中に」
 ふふんと得意げに政宗が鼻を鳴らし、小十郎の髪を楽しげに掻き乱す。
「俺の右目が、俺の中にあるのは当然だ」
 子どものように微笑んで、政宗が小十郎に首にしがみついた。
「もっと、オマエで俺を満たせよ。小十郎」
「ええ」
「オマエも、俺に満たされろ」
 政宗の唇が小十郎の顎に甘え、小十郎は彼の背を撫でて政宗の鼻先に口付けた。
「俺の全ては、常に政宗様に満たされております」
「じゃあ、足りてるから必要ないってことか?」
 わざと膨れてみせる主に、小十郎は困ったように眉を下げた。
「貴方様を欲さないことなど、ありえません」
「なら、満たされてねぇってことだろう? たっぷりと俺に酔って、何もかもを俺に埋め尽くされてろよ」
「これ以上となると、何も手に着かなくなりますが」
「かまわねぇよ。右目に手は無ぇんだから。俺の中で俺と繋がりつづけていりゃあいい」
「まったく、貴方というお人は」
 慈しむような呆れを零した小十郎の唇を、政宗は人差し指で咎めるようにつついた。
「勝家ばっか構うから、俺が拗ねるんだろう?」
「拗ねてらしたのですか?」
「Yes だから、朝まで慰めろ」
「仰せのままに」
 戯れながら熱を絡め、しっとりと心を通わせ夜に舞う。竜の宴はひっそりと、月下に開かれ、暁闇の頃に終わりを告げた。

2014/04/27



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