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独り相撲

 ゆるゆるとした日差しが、柔らかく雪から立ち上る寒気をなごませている。
 雪深い奥州の土地でこれだ。南の地方は、そろそろ梅がほころびはじめる頃だろう。
 そう考えた奥州を統べる独眼の竜、伊達政宗は、細い頬を不機嫌そうに強張らせた。
 春が嫌いというわけではない。北国の冬は人の命を簡単に奪ってしまう。それが明けるというのは、無意味に心が浮き立ってしまうものだ。
 だが、そのふわふわとやわらかくほぐれる心も、ある人物がいそいそと、あるいはそわそわと出かけていく姿を目にしては、半減どころか、滅してしまう。
 別に、出かけるなと言っているわけではない。その人物、片倉小十郎は政宗の腹心である。だが、彼の行動を逐一制御しようと考えてはいない。小十郎が自ら考え、行動をすることによって、今の政宗が出来、現在の奥州が生まれたと言っても過言ではない。政務に差し支えのない行動を、制限する必要は無い。
 それに彼の目的は、この奥州の農作物へ多大な影響を与えている。彼は全国に、勇将であり優れた軍師としての名だけではなく、野菜作りの名人としての名声も轟かせていた。好きが高じて、野良仕事を生業としている者に、教えるほどの腕前となっていた。それは冬の長い土地にとって、とても素晴らしいことだ。保存の出来る、滋味に富んだ食物が少しでも多くあれば、冬の間の飢餓に備えられる。
 わかっている。
 わかってはいるのだが、政宗は面白くなかった。
 政宗自身、小十郎の野菜を気に入っている。他の野菜よりも味が深く、調理をしなくとも十分に美味しい。そして小十郎は、政宗にこそ食べてもらいたいと、丹精を込めて野菜を育てている。
 ふん、と鼻息を荒く吐き出して、政宗は胡坐の上に肘を置き、手のひらの上に顎を置いた。どこからどう見ても不機嫌そのものな政宗の姿が、ふてぶてしいだけではないのは、彼の容姿が洗練されているからだ。
 つややかで柔らかな髪は、細く鋭い顎を包むように流れている。白い肌は絹のようで、切れ長の瞳は人の目を惹きつけてやまない、真剣の切先を思わせる。通った鼻梁に、少し意地の悪そうな薄い唇。細く長い首。その下の肉体は細身に見えるが、余分なものを削ぎ落とし鍛え抜かれた、しなやかな筋肉に覆われている。唯一、損ないを探すとすれば、それは幼少の頃に失った彼の右目を被う眼帯なのだが、それは損ないというよりも、彼の美貌に凄みを与える役割を果たしていた。
 申し分の無い美男子。
 それが、不機嫌を纏っていても、彼を不快な存在にしない理由だった。
 自分の美麗さを理解しているのかいないのか。政宗は大きく息を吐き、つまらなさそうに唇を尖らせる。
「ちったぁ、俺にもかまえってんだ」
 ぼそりと呟いたその声は、誰の元にも届かずに、ぽとりと床に落ちて滲んだ。

 毎年のことだとはわかっている。わかってはいるのだが、冬の間に独り占めしていたものが、自分の傍から離れて他のものにかまけるというのは、面白くない。年齢、性別、立場を超えて、それは共通のものではないだろうか。
 政宗は日々、自分を構う時間を減らし、野良仕事の準備に精を出す小十郎を、恨めしげに眺めていた。
 当の小十郎は気付いているのか、いないのか。
 しかし、それで政務を怠るわけではなく、文句のつけようもない仕事をするのだから、政宗としても何も言いようが無い。野菜に嫉妬している、というのも、子どもの頃ならいざ知らず、格好がよろしくない。
 つまるところ、これは独り相撲のようなものだと考えて、政宗は鬱々とした気持ちになった。
「No nonsense now」
 自分に向けて呟いてみても、思考が止まるわけではない。まったく女々しく情けないことだと瞼を下ろした政宗は、先ほど脳裏に浮かんだ言葉に目を開けた。
 独り相撲。
 それなら、本当に独り相撲をしてしまえばいい。
 ニヤリとした政宗は、浮かんだ計画に満足しながら準備にかかった。

 深夜。
 月光を頼りに、政宗は小十郎の部屋に忍び入った。
 気配を殺し、物音を立てぬようにしていたが、そこは歴戦の武将。小十郎は目を覚まし、体中で来訪者の気配を探っていた。
 侵入者が政宗と知った小十郎が目を丸くし、その唇が「政宗様」と動くのを、政宗は指先を押し当てて制する。
 いたずらっぽく目を細めた政宗の艶冶な姿に、小十郎の喉仏が上下した。
「お前は寝ていろ」
「――は?」
「勝手に用を済ませる」
 言いながら、政宗は小十郎の首に腕を回し、男らしく引き締まった頬や、切れ長の瞳、頬の傷跡、首筋に唇を押し当てる。
「政宗様」
 小十郎の声がやわらかくなり、太くたくましい腕が政宗の腰に回った。
「No!」
 ぴしゃりと言って、政宗は小十郎の腕を咎める。
「寝ていろ、と言ったはずだ」
「……は」
 よくわからない、という顔をして、小十郎は政宗から腕を離した。
「いいか、小十郎。お前は眠っている。俺は勝手に来て、勝手に用を済ませる。独り相撲ってわけだ。You see?」
 クスクスと楽しげな政宗に、小十郎が疑問を一杯に浮かべた顔で、承知しましたと横になった。それに満足げに唇を舐めて、政宗は小十郎の盛り上がった胸筋に手を這わせる。しっとりと手に馴染む肌に唇を寄せ、脇から腹へと指を滑らせ、乳頭を口に含んで指先でヘソをくすぐる。
「……ぅ」
 小十郎が小さく呻いた。
 それに機嫌を良くした政宗が、着物を落として帯を外す。薄明かりに浮かぶ政宗の白い肌と、ほんの少し立ち上がっている牡に、小十郎は息を呑んだ。彼の目に欲の炎が浮かぶのを見取り、政宗は唇を歪めて歯を見せ、焦らすように小十郎の帯を解き、下帯を剥いだ。うっそうと茂った草むらの中心に、太い幹がある。それに指を絡めてくすぐれば、小十郎の顔が歪んだ。
「政宗様」
「No」
 掠れた声で呼ばれ、腰の当たりを熱くさせた政宗は、その熱をそのまま声に滲ませて、小十郎の伸ばされた腕を拒んだ。迷った小十郎の指が落ち、夜具を掴む。
「そうだ。それでいい」
 優位に立つ者の余裕を浮かべ、政宗は手の中の熱に口付けた。
「んっ、は……ふ」
 ねっとりと緩慢に舌を這わせれば、小十郎が喉の奥を鳴らして、四肢に力を込める。彼の熱が十分に高まっていることを確認し、政宗は身を起こして小十郎の腰にまたがり、両手で小十郎の頬を包みこむと顔を重ねた。
 舌を伸ばし、唇をくすぐり口腔に差し入れる。
「ふっ……んっ、ぁ、No、小十郎」
 応えようとした小十郎を、蠱惑的な息でとがめた政宗は、たっぷりと小十郎の唇を味わい、彼の首に顔を埋めて尻を上げ、持参した丁子油を自らの尻の間に垂らした。
「は、ぁ」
 うっとりとした息を小十郎の耳朶に注げば、小十郎の総身に力がこもる。熱くなった彼の肌から、小十郎が自分を抱きたくてたまらなくなっているのが知れた。
 もっと、俺に意識を向ければいい。
「ぁ、は……ぅ、んんっ」
 小十郎の肩に顔を擦り寄せ、政宗は自らの指で秘孔を暴いた。いつもは彼に乱される場所を、その指を思い出しながら真似てみる。たっぷりと含ませた丁子油のおかげで、十分にぬめり熱くなった内壁は、自分の指を締め付けながら奥へと促す。政宗はしっとりと汗ばんだ小十郎の肌の香りを嗅ぎながら、指を増やした。
「は、ぁ、ふ……んっ、ふ、ぁ」
 自然と腰が揺れて、今よりも強い刺激を求めてしまう。コツンと互いの牡の先が当たったかと思うと、政宗の天地が逆転した。何が起こったのか理解する前に、不足を訴えていた場所が硬く熱いもので埋められて、政宗は顎を仰け反らせ、吼えた。
「んおっ、ぁ、ああ、は、ぁおう」
「ああ、政宗様」
 震える魂から絞り出たような小十郎の声に、政宗は状況を理解した。
「No……っあ、小十郎、No」
「申し訳ございません」
「んぁあっ、は、ぁあ、こじゅ、ぅふぁあ」
 獰猛な獣と化した小十郎に突き上げられ、政宗は彼にしがみつくことしかできなくなった。より深く繋がろうとする小十郎に、両足を抱え上げられ腰が浮く。肩から背の一部だけを床に着け、政宗は小十郎が貪るままに身悶え叫んだ。
「はっ、ぁあっ、こ、じゅうろ……っ、あ」
「政宗様……ああ、政宗様」
 呟きの合間の口吸いなのか、口付けの合間のささやきなのか。穿ちながら唇を求める小十郎に、政宗は応えた。
「んはっ、ぁ、ああ、小十郎……っあぁ」
 理性を振り捨て絡まりあい、熱を注がれ高く啼く。
 極まりの後の政宗は、しばらくぼんやりと意識を白ませ、小十郎の腕の中におさまっていた。
「……ぅ」
 政宗の瞳が焦点を結び、小十郎の充足した微笑みを映す。気恥ずかしさが湧き上がり、政宗は小十郎の分厚い胸に顔を押し当てた。
「独り相撲だと、言ったはずだ」
「はい」
「俺はまだ、よしとは言ってねぇ」
「申し訳ございません」
 小十郎の唇が、政宗の髪に触れる。
「あのようなお姿を目にするだけでなく、肌の熱や息をも感じていながら、この小十郎が堪えられるとお思いか」
 小十郎の指が髪に絡まるのが心地よく、政宗はうっとりと目を閉じた。
「待ても出来ねぇ駄犬かよ」
 皮肉な言葉は、じゃれあいの色をしていた。
「独り相撲をなされたいのであれば、硬く太い縄で縛りつけておかねばなりませんぞ」
「……Oh,I see」
 小十郎の指が、熱が、息が、政宗を安堵の床へ誘っている。それに抗うこともなく、政宗はあたたかな寝床へ意識を落としこんだ。
 嫉妬をしている暇があるなら、こうして行動をしたほうがいいなと思いながら。

2015/02/24



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