ふらりと城下の外れに足を向けた伊達政宗は、土手に座っている農夫に声をかけた。「小十郎は、ここだと思ったんだが」「片倉様なら、用水路の具合を確かめるために、川に向かわれました」 政宗はここ奥州の主なのだが、腹心の片倉小十郎が農民に気安い態度を取り、共に野良仕事に精を出しているので折りに触れて彼らに気軽に声をかける。なので農夫は恐縮しすぎることなく、政宗に親しみを込めた様子で返答をした。政宗は眼帯で覆われていない左目を柔らかく細め、軽い口調で「Thank You」と南蛮語で礼を呟き、農夫の示した場所へと向かった。 田畑の用水はこの先の川から引いている。用水路ぞいに政宗が歩いていると、川と用水路の分岐地点に目的の人物がいた。野良着を着て頭に手ぬぐいを被っている姿は、とても奥州を統べる竜の失われた右目、と称される軍師には思えないが、遠目からでもわかるたくましい背中や盛り上がったふくらはぎなどは、並の農夫ではないと知れる。 人の気配を感じたのか、小十郎がかがめていた体を伸ばし、振り向いた。眩しそうに目を細め、笑みを浮かべる相手に、政宗の頬もゆるむ。男らしく引き締まった頬の左に、鋭い刀傷の跡が見られるが、普段の小十郎がまとう雰囲気は柔和で、実直さは伺えるが剣呑さは感じられない。そこが里の娘たちに人気のあるゆえんだろうと、伊達軍の者達は言っているが、政宗にとっては日常の状態なのでよくわからない。けれどその笑みが魅力的であることは、十分に納得している。「何をしていたんだ」「設置してある網の目が詰まっていないかを、確認しておりました」 ふうんと小十郎の横に立った政宗が水の流れを覗く。キラキラと陽光をちりばめた水面の奥に、網が設置されているのが見えた。「あまり覗き込まれては、危のうございます」「ガキじゃあるまいし、そんなヘマをするかよ」 心配性な腹心を振り向きつつ、そんな小言も心地よいと感じている自分を、政宗は自然に受け止めていた。そう思うほど近くに並び、二人は共に時間という道を歩んできていた。「川は色々なものが流れてきますので、時折こうして確認をしておかねば。網が破れ用水路が詰まってしまっては、農作物への深刻な影響が出兼ねませんからな」「お前は本当、野菜が好きだな」 呆れとからかいを交えて政宗が肩をすくめれば、小十郎は目じりをとろかせた。「体の基本は食事。食材に気を使うのも大切かと。いずれは政宗様の血肉となるものに、妥協など出来ようはずもありません」 気負うことも無く、さらりと返された政宗の頬が熱くなる。「俺と会う前から、野良仕事に精を出していたくせに」 ごまかすために唇を少し尖らせ咎めてみたが、小十郎は難なく政宗の照れからくる不機嫌を受け流した。「目的というものは、概要は変わらずとも人と出会い立場が変わっていく中で、細部が変化していくものです」 ふん、と鼻を鳴らした政宗は、不敵な笑みを浮かべた。「なら、そんなお前を労ってやんなきゃな。褒美、何が欲しい」 胸を張って上司らしく問えば、小十郎が笑みを湛えたまま、わずかに首を傾げた。「政宗様が健やかでおられるのであれば、何も」「何もってことは無いだろう。言ってみろよ」「政宗様が好き嫌いなさらず、あと、夜更けての深酒をご自重召されることぐらい、でしょうか」 小十郎の笑みは変わらないはずなのに、それが大人ぶった余裕を持ったものに見えた政宗は、おもしろくない気持ちを彼へのからかいに変化させた。「そんなに俺が気にかかるなら、一日、俺を好きなように扱っていいぜ? 何でも言うことを聞いてやる。俺の体が気になるんなら、好きなようにすればいい」 つまらぬことをと言われる想像をしながら放った言葉は、小十郎の意外な反応を引き出した。「小十郎?」 片頬をひきつらせて満面を赤くした小十郎が、さっと顔を背ける。怒ったように眉をそびやかし、軽々しく口にしていい言葉ではありませんと叱る姿は迫力に欠け、耳が赤くなっていた。 何だ、この反応はと疑問に思いつつ政宗が顔を覗こうとすると、小十郎は反対側に首を曲げた。それを追いかけると顔をそらされる。小十郎が目を背けるのも赤くなるのも珍しいと、政宗は面白がって小十郎の視線を捉えるべく、ニヤニヤしながら彼の顔の正面を追いかけた。「なんで、顔をそらすんだ? 小十郎。Turn your face this way」「……」 無言のまま顔をそらしつづける小十郎を追いかけていた政宗の足が、湿った草にとられる。あっと思った瞬間には視界が下方に流れ、気付いた小十郎の腕が伸びてくるのが見えた。「お、わっ」「政宗様っ!」 あわや川に転落、という寸前で小十郎の腕に背を支えられ、彼の腰にしがみつく形で止まった政宗は、ほっと胸を撫で下ろした。と同時に、頬に硬いものが当たっていると気付く。これは何だと思う前に小十郎に抱き上げられ、体を離された。「足元にお気をつけ下さい」「Ah Sorry」 半ば呆然としながら答えた政宗は、まったくと嘆息した小十郎が背を向けて歩き去っていくのを、不思議な面持ちでしばらく眺め、彼を探していた理由を思い出し、あわてて小十郎の後を追った。 文机に頬杖をつきながら、政宗はぼんやりと小十郎とのやりとりを思い出していた。自分を好きに扱えばいいと言った後の反応。そして彼の腰にしがみついたとき、頬に当たった硬い感触。あれは間違いなく、小十郎のアレだと思うと、顔の筋肉が妙な具合になってしまう。「そういう意味に考えた……って、ことだよな」 ぼそりと呟いた政宗の胸が、ムズムズとする。不快感ではないソレに、政宗は憮然とした顔で向き合った。 不快ではなかった。では、何なのか。小十郎がよからぬ想像をしたであろうという推測は、頬に当たった感触が正解であると裏付けている。「小十郎は、俺を」 ごくりと喉が鳴った。性の対象になりうる自分を認識した政宗は、足の間に痺れのような疼きを覚えた。唇を噛み、自分は小十郎の性欲対象範疇内に存在していると脳内で呟けば、尻の辺りが妙な心地になった。「俺は……」 自分の体の反応を確かめながら、政宗は吟味する。小十郎に組み敷かれ、好きにされると仮想してみた政宗は、自分の心身に広がったものに追いたてられるように立ち上がった。「……何が要るんだ?」 ぼそりと呟いた政宗は、顎に手を当て眉間にしわを寄せたかと思うと、急ぎ足でどこかへ向かった。 空が夕茜を過ぎて紫と藍に沈み始めた頃、風呂敷包みを片手に、政宗は小十郎の私室へ向かった。強張る心臓に平常心と唱えながら目的の襖の前に立った政宗は、咳払いをひとつしてから声をかけた。「小十郎」「……どうぞ」 静かな声に緊張をしつつ襖を開ければ、くつろいだ格好の小十郎がいた。長着姿の彼を見るのは久しぶりで、それが妙に色っぽく感じられるのは手に提げている風呂敷の中身のせいか。 政宗はいつもどおりの笑みを心がけつつ足を踏み入れ、隙間無く襖を閉めた。「どうしたのですか」 薄藍に沈んでいる部屋の中に、茜の灯明がチロチロと揺れている。政宗はなるべく豪気に見えるよう小十郎の前に座し、風呂敷包みを二人の間に置いた。「これは?」「開けてみろ」 疑問符を頭に浮かべながら風呂敷を広げた小十郎が、さらに疑問を深める顔を眺めながら、察してもらえず言葉で伝えねばならぬ事態になったと知り、政宗は唇を引きしめた。「政宗様、これらは一体」 縄や帯、小壺などを手に取った小十郎が、風呂敷包みの一番下にあったものに気付き、動きを止める。陰茎を模した物体を凝視している小十郎が何を思っているのかと、政宗はハラハラしつつ羞恥に体を熱くした。「こ、小十郎」 あまりに長く小十郎が静止をしているように思えて、政宗はおそるおそる話しかけた。「その、それが何か、わかるか」 張型だとわかっているから硬直しているのだろう。それならば自分の言いたいことも伝わっているはずだと、希望的観測をしながら政宗は小十郎のうつむいた額を見た。「…………」「小十郎?」 二度目の呼びかけに、小十郎は尻を下げて床に額を擦りつけた。驚く政宗の耳に、苦しげな小十郎の言葉が届く。「いかようにも」「……え?」 小十郎の後頭部と広い背中を見ながら、政宗は今の言葉の意味を考えた。 が、わからない。 焦れたのか、小十郎がまた言葉を発した。「浅ましき心根を持つ、この小十郎をいかようにも処罰なさってください」 そう取られるとは思わなかった。「No、小十郎。そういう意味で、これらを集めたわけじゃねぇ。とりあえず、顔を上げろ」 促しても、小十郎は顔を上げない。政宗は唇を歪めて立ち上がると、帯を解き着物を脱いだ。音で気付いているはずなのに、小十郎は微動だにしない。「顔を上げろ」 下帯姿で命じても、小十郎は石になったかのように、動かず音も発さない。舌打ちをした政宗は、小十郎の傍にしゃがんだ。「俺に恥をかかせんな。それとも、俺の勘違いで、気を使って下心がありましたってフリをしてんのか」 小十郎の拳が握られる。それを見下ろし、政宗は太い息を吐いた。「Well, Well……俺の勘違いだったみてぇだな。悪かった」 言いながら、政宗は小十郎の耳に唇を寄せる。「昼間の約束どおり、俺を好きにしていい、と言いに来たんだがな」 目に見えて小十郎が胴震いしたのが面白く、政宗は目の前の耳朶を唇で挟んだ。軽く歯を立てれば、胸の奥からウズウズと湧き上がるものがあった。それに促されるまま小十郎の耳とたわむれていると、陶然とした心地になる。美酒をほろほろと味わっているようで、政宗はうっとりとした息を交えつつ小十郎の耳を味わった。「小十郎」 吐息交じりにささやけば、亀のように手足を引っ込めていた小十郎が跳ね起きた。かと思うと、肩をつかまれ顔を寄せられ、驚きに開いた口を塞がれる。「んんっ」 目を白黒とさせた政宗は、上あごを柔らかなものにくすぐられ、間近にありすぎる小十郎の瞳を見つめて、彼に口腔を探られているのだと知った。「んっ、ふ……ふ、ぅうっ」 動かぬ間に力を溜めていたかのように、小十郎は乱暴に政宗の口腔を乱した。呼吸すらもままならぬほどの激しさに、政宗の目じりに涙が滲む。「んっ、ふ、ふぅ、う」 頭の芯が痺れ、政宗は肌が泡立ち熱を持つのを感じた。むさぼりつく小十郎の匂いが腰の辺りを疼かせる。我知らず足を開いた政宗は、小十郎の首に腕を回して舌を伸ばした。「ぅふぅうっ」 伸ばした舌を吸い上げられて、政宗は鼻から甘い悲鳴を上げた。舌に生まれた官能が背骨を走り、足の間を熱くさせる。硬くなったそこは膨らみ、小十郎の腹筋に擦れた。「っ、ふ」 それだけで、心地いい。 甘く淡い刺激を追いかけ、浮かせた腰と床の隙間に、たくましい小十郎の腕が差し込まれた。これ以上、深くなどなり得ないと思っていた口付けが、より深くなる。片腕で腰を抱かれた政宗は、小十郎のもう片手がわき腹や胸筋をまさぐるのを感じた。「んっ、ん……ぅ」 しなやかな政宗の筋肉に、節くれだった小十郎の指が這う。刀や農具を扱うことにより、ところどころ硬くなった指の皮が、なめらかな肌にひっかかるのを感じながら、政宗は小十郎に全身を擦り付けた。腰のモノはキリキリと痛むほどに屹立し、先は淡く濡れている。下帯が窮屈で脱ぎたいのに、小十郎の体から腕を離すのも惜しく、政宗はただ身をくねらせて彼の愛撫に翻弄された。「はふっ、ぁ、あ」 唐突に唇が離れ、失われた熱にあえいだ政宗は、淫靡に濡れている小十郎の瞳に気付いた。腹の底から愉悦が広がり、政宗は小十郎の襟に手をかけ、みっしりと肉厚で日に焼けた胸筋をむき出しにする。そこに手を添えて、彼の肌がしっとりと汗ばんでいると知ると、首を伸ばして鎖骨に唇を寄せた。「小十郎」 思うよりも甘い声が出た。「政宗様」 低く唸るような小十郎の声が、肌身に沁みる。政宗は小十郎の唇に唇で甘え、彼の素肌を手のひらで確かめた。当たり前のように傍にいて、誰よりも近い場所に立っていると思っていた相手の未知の部分。それを知りたいという欲求が、政宗を支配する。 小十郎の帯に手をかければ、彼の大きな手に阻止された。咎めるように睨み上げると、穏やかに目を細められる。ドキリと心臓を強張らせた政宗は、小十郎が身を起こし、帯を外して着物を脱ぎ、その流れで下帯までをも取り去るのを見た。薄明かりに浮かんだ彼の下肢は、隆々と聳え立っている。胸をうわずらせた政宗に、小十郎がおおいかぶさった。「止めたいと思われましたか?」「俺がビビッたとでも思ったのか。冗談じゃねぇ」 高まる胸を悟られまいと、虚勢を交えて不敵に笑えば、心底の安堵を滲ませた小十郎に、頬を包まれた。「それを聞いて、安堵いたしました。やはり止めにすると言われても、従えそうにはありませんので」 グッと息を呑んだ政宗の額に、小十郎の額が重なる。「お覚悟、よろしいか」「……おう」 掠れる声で返事をすれば、小十郎の手が政宗の下帯に伸びた。「湿っておられますな」「っ、るせぇ」 硬くなった小十郎を見はしたが、自分だけが反応をしているような心地になって、政宗は唇を尖らせて顔を背けた。「感じてくださっているのだと、うれしく思ったまでのこと。政宗様をからかう気持ちは、わずかもございません」「ゴチャゴチャとうるせぇよ! す、するなら、さっさとしやがれ」 余裕を見せる小十郎の肩に額を寄せて、顔を隠した政宗の髪を小十郎の唇が撫でる。自分が頼りなく、守られる小さな存在になったようで、政宗は下唇を噛みしめた。それと同時に、何もかもをゆだねて甘えても良いのだという安堵も浮かぶ。「ぁ……」 小十郎の手のひらに、過敏で繊細な場所が包まれる。先端を指の腹で撫でられて、政宗は喉を震わせた。「こんなに、硬くして」「ば、ぁ……お前は、どうなんだよ」 羞恥からくる不機嫌を拳に乗せて小十郎を叩けば、眉を下げた小十郎に腰を引き寄せられる。脈打つ熱を自分の牡と重ねられて、政宗は硬直した。「政宗様と変わらぬほど、凝らせております」 ゴクリ、と喉を鳴らした政宗は手を伸ばして二つの熱を握った。脈打つ小十郎と自分が重なっているのを確かめ、手を動かしてみる。「っふ、ぁ」 熱が重なり擦れる箇所から、えもいわれぬ快楽が立ち上り、政宗は恍惚に目を細めた。「政宗様」 かすれた小十郎の声に答える代わりに、唇を寄せる。ついばむような口付けを交わしながら、政宗は小十郎の手に高められつつ彼の欲を高めた。「はっ、ぁ、ああ、あ」 太い根元が絡み合い、クビレが擦れて先端が押しつぶされる。しとどに濡れた牡は滑らかに寄り添い溶けて、天上を望んだ。その欲のままに政宗は腰を揺らし手を動かして、苦しげに眉根を寄せつつ快楽に瞳を濁らせた小十郎の唇を求める。「んっ、んふ、は、ぁ、こじゅ……ぅ、あは」 加速した快楽は羽ばたく瞬間を求めて勇躍する。自分がどのような状態であるのかを気にする余裕も無く、政宗は小十郎を求めて声を上げ、本能に魂を委ねた。「ふっ、ぁ、こじゅ、ぅああ、あっ、は、あぁあああっ!」 そして待ち望んだ時を迎え、腰を突き出し震えながら本能を吹き上げる。鼻孔を襲った欲の香りが脳を溶かし、極上の酔いを与えてくれた。「は、ぁ……」 全てを放ち終えた政宗の唇に、小十郎がたわむれる。彼の首に腕を回して口付けを返しながら、もっと深く繋がりたいと望んだ政宗の気持ちとは裏腹に、小十郎はキュッと政宗の唇を吸うと離れてしまった。「こ、じゅうろう?」 胸を喘がせながら気だるい声で呼べば、困ったように微笑んだ小十郎に髪を撫でられた。「最後まで、しねぇのか」 ぴたりと小十郎の手が止まる。疑問符を浮かべて見つめれば、小十郎が低く唸った。「政宗様」 押し殺した声で呼ばれ、抱き上げられて、政宗は小十郎がそこまでは望んでいないのではと危惧した。 座らされた政宗は、真っ直ぐな小十郎の瞳に見つめられる。真摯な瞳を覗くように見返せば、手を握られた。「政宗様」 決意を秘めた硬い声に、政宗の背筋も思わず伸びる。「ことは簡単な話ではございません。政宗様が許そうとしている行為は、気まぐれで許して良いものではないのです」「気まぐれで、俺があんなモンを用意して来たと思ったのかよ」 顎をしゃくって風呂敷に包んできた物々を政宗が示せば、小十郎が顔をしかめた。「……そういう意味では、ございません」「どういう意味だ」 挑むように目に力を込めれば、小十郎が嘆息しながら肩の力を抜いた。「怖い、と申せば驚かれますか」 小十郎の呟きは、鼓膜を震わせてから意識に浸透するまで、時間がかかった。「……え?」「分をわきまえず、貪り喰らい尽くしたいと望む獣が、ここにおります」 小十郎の手に導かれ、政宗は彼の広い胸へ手を当てた。「今、貴方様の全てを奪ってしまえば、狂いそうな自分がいる。それを伝えようとして、気まぐれなどと言葉を選び間違え、ご不快にさせてしまいました」 謝罪する小十郎に、嘘は見えない。そこまで欲してくれていたのかと、政宗は浮き立った。「俺の右目が俺の体に収まりたいと望むのは、自然なことだろう」 だから、と続けようとした政宗の唇に、小十郎の人差し指が押し当てられる。「それ以上は、なりません。政宗様……この小十郎のわがままを、聞いていただけますか」 政宗が首を傾げれば、小十郎がはにかんだ。「少しずつ、政宗様との睦言を進めたいのです。貴方様が大切だからこそ、嵐のような肉欲のままに奪いたくない。ですから、どうか、今宵はここまでで。どうぞ煽らずに、いていただきたい」 ぽかん、と政宗は小十郎の包みこむような笑みを見た。じわじわと言葉の意味を実感し、顔の筋肉がだらしなく溶けるのを感じながら、仕方ねぇなぁと素っ気無い声を出す。「I can understand your feelings well 小十郎。なら、今夜は俺も収めておくぜ。けど、いつか」「必ず、この小十郎をその身の奥に受け止めていただく」 言葉を継がれ、互いの望みが同じであると確信をした政宗は、小十郎の頬に唇を当てた。「右目でしか見えねぇ景色を、見せてくれよ」「承知」 甘い約束とは程遠い、挑発的な政宗の言葉は、小十郎の柔らかな唇に受け止められた。 全幅の信頼と安堵以上のものがあるのだと、どっしりとした両腕に包まれた政宗は知った。 2015/05/10