むき出された闘争本能そのものの、恍惚とした獰猛な笑み。躍動する筋肉と、沸騰しそうなほどに高揚している血液。 見ているだけの身の裡に、それが移り込んできたかのような高揚。それを押さえることも、あの方が気兼ねなく竜となるために必要な行為。 それとわかっているはずなのに――それとわかっておこなってきたというのに、なぜいま、それを抑えきることができないのだろう。「小十郎?」 竜虎の例えそのままに、竜の異名を持つ伊達政宗が、若き虎と呼ばれる好敵手の真田幸村と仕合った後も、竜の右目として知られる政宗の側近であり情夫でもある片倉小十郎は、彼等ふたりの滾りに感化されたまま、気を鎮めることができていなかった。 沈着で冷静な小十郎が、抑えきれぬ高ぶりをまとっていると気づいたらしい。政宗がいぶかしげに左目を細める。右目は幼少の頃に病のため失っている。その右目の変わり、あるいは同等の存在として、小十郎は周知されていた。 いわば、一心同体の間柄。 そうであるからこそ、主の興奮をそのまま自身の躍動として受け止めてしまうのだろう。 小十郎には、そう冷静に受け止められるだけの分別があり、常ならばそれを受け流す、あるいは沈静化させて平素の心持ちに戻れるのだが、今日にかぎってそうはなれなかった。「どうした」 政宗がたのしげに唇をゆがませて、小十郎に歩み寄る。漆黒の絹糸のような髪が揺れて、雪のように白い肌を輝かせる。鋭い瞳は愉快そうに細められ、通った鼻梁の先にある唇は薄く、艶冶にゆがんでいる。細く尖った顎、長い首、鎖骨までもが着物の襟からのぞいている。湯上りだからだろうか。それは、ほんのりとした薄桃だった。「It is a very ferocious look」 歌うように南蛮語を紡いだ政宗の唇の隙間から、舌が動くのが見えた。それを視認した瞬間、小十郎の内側で燻っていたものが火を吹き、彼は主を乱暴に抱き寄せ顔を重ねた。「んっ……う、ぅう」 驚き見開かれる政宗の目に、小十郎の理性が自制を促す。しかし本能は聞く耳を持たず、体を動かし政宗を乱暴に組み伏した。「んぅっ、う、ううっ」 政宗は抵抗するわけでも、受け入れるわけでもなく、ただ混乱していた。小十郎がこんなふうに強引に事に及ぼうとしたのは初めてだ。いったいなにが起こっているのかと、戸惑っていた。その間に、吹きあがり続ける小十郎の野生的情動は、政宗の腰帯を奪い去り、着物をくつろげた。「んっ、んんっ、はっ……小十郎、あ、ぁうっ」 小十郎は組み敷いた政宗を反転させ、着物を剥いだ。無駄なものを削ぎ落とした、しなやかな筋肉に覆われた背中があらわになる。「政宗様」「あっ……」 小十郎は政宗のうなじに噛みつき、政宗の右手をひねって左足を持ち上げ、それを帯できつく縛った。「小十郎……っは、なに、ぁあ、あ」「政宗様、ああ――っ」 小十郎の手はせわしなく政宗の下帯を奪うと、わずかに硬くなった政宗の牡を掴んでしごいた。唇はうなじに噛みついたまま離れず、荒い息を濡れた肌にかけながら、自分の着物を脱いでいく。「ふっ、ぅあ、あ、こじゅ、ぅ……どうし……ぁ、ああ」 小十郎自身も、どうしてしまったのかがわからない。身の奥が熱く滾って、どうしようもなかった。消え失せぬ理性が、必死に主への無体な振る舞いをやめろと叫んでいるが、本能は彼の体に欲を深く突き入れて、思うさま貪らなければ気がすまないと言っている。小十郎の下肢は、これ以上ないほどいきり立っていた。「ああ、政宗様」 切なく荒い呼気を当てながら、政宗の白い肌にうっ血の花を散らす。政宗は低く呻きながらも、小十郎の手に煽られて欲情の証を漏らした。「はっ、ぁ、こじゅぅ……っあ」 政宗の声に甘さが滲む。小十郎は政宗の右手と左足を結わえた帯にゆるみがない事を確かめ、政宗の傍から離れた。「……小十郎」 か細く切ない声で呼ばれる。小十郎は政宗の目に、ありありと欲情している自分の体を見せた。これで終わるつもりはないと、無言で伝える。政宗の喉が飢えたもののように動き、瞳は淫靡に揺れた。小十郎は丁子油を手に取ると、政宗にそれを見せてから彼の足の間に膝を着いた。政宗はじっと、小十郎がしようとしている行為を待っている。「……」 小十郎は唇を動かし、しかしなにも音を発さず政宗の小ぶりな尻に手のひらを当てた。ヒクリと政宗の太ももに緊張が走る。小十郎は折り曲げた政宗の左足首に唇を寄せ、丁子油を尻の谷に流した。「はっ、ぁ」 政宗が身を震わせる。丁子油が床に落ちる前に、小十郎は指で擦った。肉の谷間で指を蠢かせ、幾度も自分を突き入れた孔の口を探る。「ふっ、ぅ……んぁ、あ」 政宗の声を頼りに、小十郎は孔をつつく強さを変えた。濡れた音が響く。「あはっ、ぁ、あう、ぅうっ」 孔の口がもの欲しそうに指に吸いつく。小十郎は求めに応じて、指を深く沈めた。「ぁおっ、は、はぁう、ううっ、こ、じゅうろぉ」 小十郎は政宗に応えるために指を動かし、唇で左足を愛撫した。足指を吸われながら媚肉を拓かれる政宗が、小刻みに肌を震わせ声を放つ。小十郎は指を増やし、自分の容積に足るほどほぐそうと、肉壁を掻き乱した。「んぁあっ、あ、は、ぁ、こじゅ、ぅうっ」 もどかしそうに政宗が腰を浮かせる。彼の牡からは先走りがしたたっていた。その匂いと肉壁の熱、媚肉の蠢きに小十郎の欲も怒張を極める。「っ、政宗様」 とうとう我慢ならず、小十郎は政宗の腰を掴んで一息に根元までを押し込んだ。「ぁがっ、あ、は、ぁあ……あぉ、おふ、ぅう、は」 政宗が息を詰め、喉を震わせる。小十郎の牡は媚肉にきつく締め上げられて、先走りを絞られた。「は……ぁ、政宗様」 いつもなら、こんなふうに主を気遣わぬ挿入など行わない。それだけではなく、小十郎は政宗が身を開く圧迫を受け止めるのを待たずに、自侭に腰を振りたてた。「あはぁあっ、はんっ、ふぁ、あ、あぁあっ、こ、じゅう……ろっ、ぁあぁあああ」 小十郎はより深く繋がろうと、政宗の左足を掴み、体を横向かせた。右足に馬乗りになる格好で、欲望のままに身を打ちつける。「政宗様……っ、は、ああ」 苦しげに息を詰め、次に悦楽の息を吐いて、小十郎は政宗の奥に憤りをほとばしらせた。「……っあぁあああ!」 小十郎に追い詰められた形で、政宗も絶頂を迎える。 体を痙攣させ、小十郎の牡に縋るように媚肉をこわばらせる政宗が、すべてを放ち終えて落ち着くまで、小十郎は待たなかった。「ふぁっ、あ、まっ、ぁ、こじゅっ、ぁあっ」 回復しきっていない牡のまま、小十郎は政宗を貪るかのごとく揺さ振り、政宗の絶頂の余韻を継続させた。「ぁはっ、はふぅああっ、まっ、ぁあ、まて……っ、んぅう」 制止の言葉に、小十郎は反発した。勇躍する小十郎に煽られ、政宗の身は昂ぶりを強要される。「はひっ、は、あふ、んはぁあ」 涙を溢れさせる政宗を見ても、小十郎は攻め手をゆるめはしなかった。自分の魂をぶつけるがごとく、政宗を乱し続ける。「ひふっ、ぅうっ、あぁ、こ、じゅぅうっ、は、ぁああっ」 政宗の淫欲が小十郎と同じ位置にまで達する。体をくねらせ政宗が求めると、小十郎は戒めを解いた。「ああっ、小十郎!」 政宗の両手が小十郎の首にかじりつく。唇を求めて首を伸ばした政宗に、小十郎は情熱的に応えた。呼気を奪うほど激しく口を吸いながら、身を穿つ。政宗は体をゆすって、小十郎を挑発した。「はっ……小十郎」「政宗様……ああ」 理性の失せたふたりは、本能のままに意識を失うまで絡み合った。 指先を動かすことすら億劫で、小十郎は裸身のまま床に転がっていた。主も汗と欲液にまみれた、一糸纏わぬ姿で眠っている。彼の体を拭い、着物を着せて休ませなければと思うのに、小十郎の体は少しも動かない。 自分は一体、どうしてしまったのだろうかと、小十郎は先ほどまでの嵐のような愛欲に首をかしげる。情動に突き動かされ、政宗を気遣う余裕もなく犯し尽くすなど、してはならない。当たり前すぎて意識すらもしなかった行為を、どうしてしてしまったのだろう。そして心に少しの悔恨も生まれていないのは、なぜなのか。 政宗の首が動き、瞼が開いた。小十郎はじっと、それを見つめる。 政宗はまぶしそうに左目を細め、小十郎を認識すると不遜に唇をゆがめた。「It was really comfortable time. まさか、こんなSurpriseが待っているとはな」 小十郎は石像になってしまったかのように、まばたきすらもせずに政宗を見た。政宗は億劫そうに体を回し、小十郎に近付く。汗で湿った髪がゆれて、普段は眼帯に覆われている右目の古傷が表れた。「小十郎」 政宗はひどく上機嫌に、小十郎の肩に頭を乗せた。「嫉妬でも、したか?」 ニヤつく顔に、はたしてそうだろうかと小十郎は考える。「そう、見えましたか」「所有欲が爛々と満ちていたぜ」 どこにと問うのは愚になろう。「では、そうかもしれませんな」 自分でもよくわからないと正直に伝えれば、政宗が鼻先で笑った。「たまにゃ、いいもんだ」「政宗様」 小十郎が身を起こそうとすれば、政宗の腕が胴にまきついた。「Let's relax 小十郎……もう少し、このままで」 それは小十郎も望むところだったので、すぐに四肢を弛緩させた。重なる肌の心地よさは、灼熱の奔流とは違った妙味を心に与える。「You should express jealousy in this way a little more」 眠気に彩られた政宗の声は、子守唄のように聞こえた。「政宗様?」「意味がわからねぇように言ったんだ。気にするな」「……はぁ」 不得要領に返事をした小十郎は、満ち足りた笑みを浮かべて目を閉じた政宗にほほえんだ。 政宗があの行為を喜ばしいものと感じている。それが、先ほどの南蛮語の意味に通じているのだろう。 小十郎は首を持ち上げ、政宗の額に唇を当てた。充足が心身のすみずみに行き渡っている。この心地をあっさりと拭うなど、もったいない。もうしばらく、怠惰に喜びを貪っていよう。 小十郎は政宗の身に腕を回して目を閉じた。 2015/10/25