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もっと、もっとその顔を――。

 べつに、困らせることが好きなわけではない。けれど、快楽に苦しむ顔は極上の好物だ。

「なあ、小十郎」
 伊達政宗は艶やかな笑みを浮かべて、失われた己の右目と称される腹心であり情人でもある男、片倉小十郎に顔を寄せた。
「いつまでも堅苦しい顔してんじゃねぇよ」
「この顔は、もとからです」
 小十郎は気難しそうな真顔のまま、眉ひとつ動かさずに答えた。政宗はフフンと鼻を鳴らして盃を置き、その手を床について小十郎に這い寄った。
「そういやぁ、そうだったな」
 下からすくいあげるように見れば、小十郎の目がわずかにそれる。
「目ぇそらすなよ」
「そらしてなど、おりません」
「Don't lie」
 低く息に乗せてささやけば、小十郎の喉仏が上下に動いた。
「わざとらしすぎるんだよ」
 政宗の手が肩にかかっても、小十郎は身じろぎすらもしない。
「わかってんだろう?」
「なにをですか」
「俺が、なにを欲しがってんのかを」
 小十郎の視線が政宗に戻った
「政宗様」
「朝まで、誰も来ねぇぜ」
 小十郎の首に腕を回して小首をかしげた政宗が、不敵に唇をゆがませる。
「なあ、小十郎」
 首を伸ばして唇を舐めれば、小十郎の腕が政宗の腰を掴んだ。
「政宗様」
 小十郎の声に、わずかな熱が乗っている。政宗は左目を猫のように細めて、薄く唇を開いた。
「小十郎」
 かすれた声で呼べば、小十郎の唇が政宗の唇をかすめ取った。
「もっと、ちゃんとしろよ」
「……」
「明日の予定でも、気にしてんのか?」
「は、……いいえ」
「どっちだよ」
 ククッと喉を鳴らした政宗は、小十郎の唇に噛みついた。そのまま唇で唇に甘えながら、小十郎の瞳を捉える。
「俺が欲しくねぇってんなら、そう言えばいい」
「そのようなことは……」
「なら、欲しいのか?」
「……」
「分別くせぇ顔は、昼間だけで充分だろう。Let's forget social position, and let's enjoy tonight」
 誘えば、必ず最後は乗ってくる。そうと知っている政宗は小十郎の逡巡がほどけるのを、唇をついばみながら待った。
「……政宗様」
 小十郎の瞳に淫靡なものがひらめく。政宗はニヤリとした。
 唇を開き、甘くて熱い息を小十郎に吹きかける。それを拾うように、小十郎の唇が政宗の呼気に触れた。
「んっ、ふ……」
 吸いつく唇が官能のはじまりの音を紡ぐ。角度を変えてたっぷりと重なり、艶やかに唇が色づくと舌が絡んだ。剣先で相手の出方を探るように舌先が動く。
「ふぁっ」
 小十郎の唇に舌先を捉えられ、鋭く吸われて政宗は鼻にかかった声を上げた。小十郎の目じりが笑みにゆるむ。
「んっ、はぁ」
 牡の気配を発する小十郎の瞳に、政宗の心臓がゾクリと震えた。
「はふ……、んっ、ふぁ、あっ、んむ、ぅ」
 彼の欲を引き出したくて、政宗は小十郎の舌を口内に招いた。小十郎は招かれるままに政宗の口腔を舌でまさぐり、呼気と唾液を掻き混ぜる。
「んふっ、ふ、んぅうっ」
 政宗は背をそらして、小十郎の胸に自分の胸を寄り添わせた。小十郎の片腕が政宗の腰をしっかりと包み、もう片手が袴の隙間から内側に入って股間を掴む。
「んぅうっ、うっ、ふ」
 下帯の上から握られて、政宗はうめいた。蜜嚢ごと持ち上げるように揉みしだかれて、甘い疼きが湧き上がる。口内にトロリと湧いた淫靡なものと、下肢の刺激が体に広がり結びつき、政宗の胸の先が尖り疼いた。
「はふっ、ん、ぅう」
 政宗は小十郎の頭を引き寄せ、さらに深い口淫を求めつつ胸を擦りつけた。小十郎の肌と自分の肌の間に留まる着物に、胸の先がこすれて気持ちいい。うっとりとした政宗に、小十郎が苦笑した。
「それでは、痛みも生まれましょう」
「あっ」
 体を離され、床に倒される。
「乾いた刺激では、皮がめくれてお困りになられるかと」
 言いながらかぶさってきた小十郎に、政宗は挑むように笑った。
「なら、そうならないように慰めろよ」
「承知」
 端的な答えとおなじく、よどみのない動きで胸元をくつろげられた。無駄のないしなやかな胸筋が夜気に触れ、官能にふくらんだ色づきが白い肌にクッキリと存在を示している。小十郎は迷わずそこに顔を落とした。
「はっ、ぁ……、んっ」
 小十郎の舌が胸の先をもてあそぶ。舌先で転がされ、軽く吸われたかと思うと歯を立てられて、政宗のそこは硬さを増した。それに呼応するように、刺激の失せた下肢がふくらむ。
「は、ぁあ、小十郎、あっ、あ」
 普段の端的で合理的な言動とはうらはらに、小十郎の舌技はねっとりと緩慢で、遠まわしだった。それなのに的確に政宗の性欲を高めてくる。ジワジワと追い立てられる理性の危機に、政宗は酔った。
「ぁあ、小十郎、あっ、ああ」
 片方の乳頭が充分に濡れ凝ると、小十郎はもう片方の攻めにとりかかった。唇の離れた方には指を置き、指の腹でつまんでこねる。
「んぁっ、ああ、こじゅ、ぅうっ」
 政宗は小十郎の、きっちりと後ろに撫でつけられた髪に指を沈めた。キュウッと胸先を吸われると腰が浮く。その拍子に膨らんだ下肢が小十郎の腹に擦れて、えもいわれぬ快感が背骨を走った。
「は、ぁあっ、あ」
 政宗は膝を立てて腰を浮かせ、小十郎に股間を擦りつけた。先走りがあふれて下帯を濡らし、それが陰茎に絡んで心地いい。
「政宗様、はしたのうございます」
「あっ、ああ……、おまえが、ぁ、しないからだろう」
 とがめれば、小十郎はやれやれと楽しげに嘆息して、空いている手で政宗の帯を解き、袴をはがして裾を開くと、下帯の横から手を入れて陰茎を取り出した。
「はぁ、あっ、ああ」
「このように硬くなされて……。下帯も、濡れてしまっておりますな」
「小十郎が、さっさと脱がさねぇのが悪い」
「政宗様が過敏であらせられるのも、問題かと」
「んっ、誰が……、こんなふうにさせている」
 ふっと小十郎が口の端に笑みを乗せる。性的なものを孕んだ小十郎の笑みに、政宗の股間が疼いて先走りがこぼれ落ちた。
「ならば、責任を取らねばなりませんな」
「Obviously」
 背を浮かせて小十郎の頭を抱え、額に唇を寄せる。すると小十郎が首を伸ばして、政宗の唇をついばんだ。
「この竜を、天に昇らせろ」
「おおせのままに」
 重なった小十郎の唇は、ふたたび政宗の胸乳に落ちた。
「あっ、あ……、んっ、ふぁ、あ」
 両の乳頭への刺激と陰茎を擦られる心地よさに、政宗は目を閉じて喉をそらせた。立てた膝はそのままに、さらに大きく脚を広げる。
「はっ、あぁ、小十郎、あ、あ」
 あふれる先走りが小十郎の指を濡らし、しごく動きを助けている。小十郎は人差し指を立てて、それを鈴口に当てた。
「んはぁっ、あ、ああ」
 幹をしごかれながら鈴口を撫でられて、政宗の心臓は激しく快楽に波打った。キリキリと痛むほどに陰茎は屹立し、絶頂の機会をうかがっている。しかし小十郎はそれをかわすように、決定的な刺激を与えてはくれない。
「はふっ、ぅあ、あ、小十郎、あっ、ああ、あ」
「ああ、政宗様」
 熱っぽくかすれた小十郎の声に、政宗の腰が反応した。
「ふあっ、あ、ああっ」
 わずかに子種が吹きあがる。中途半端な射精は、さらに政宗をもどかしくさせた。
「なんと、おかわいらしい反応か」
「ふっ、あぅ、小十郎、あ、もう」
「ガマンなりませんか」
 うなずく政宗の目じりには、涙がにじんでいた。小十郎が身を起こし、着物を脱ぎ棄てる。たくましく鍛え抜かれた小十郎の裸身に視線を滑らせた政宗は、彼の怒張した股間に喉を鳴らして期待に胸を膨らませた。
「ああ、小十郎……、はやくよこせ」
「まだ、準備は整ってはおりません」
「なら、さっさとしろ」
 ちいさくうなずいた小十郎が政宗から離れ、部屋隅の道具箱から丁子油を取ってくる。政宗は膝を自分に引き寄せて、小十郎を招いた。
「小十郎」
 期待に満ちた声音で呼べば、小十郎は政宗の脚の間にしゃがみ、丁子油を政宗の陰茎に垂らした。
「っ、う」
 かすかな刺激に政宗がうめく。油はゆったりと垂れて政宗の下生えを濡らし、そこからさらに流れて尻の谷へ向かった。小十郎は床に油が落ちる前に指で受け止め、それを尻の谷に塗りこんだ。
「あ、……はぁ、あ」
 ゾクゾクと悪寒に似た官能が政宗を襲う。政宗の四肢が淫蕩に弛緩した。それを見計らい、小十郎の指が谷奥にある秘孔に触れる。
「ひぁ、あっ、あぁ」
 指が繊細な菊花を開き、奥へと進む。政宗の浮いた腰を、小十郎の腕が支えた。
「は、ぁあ、小十郎、あっ、あ……、ぅん」 あえぐ政宗の唇が、小十郎の口にふさがれる。甘やかしてくる舌に甘えながら、政宗は小十郎にしがみついた。
「ふっ、ん……、んんっ、んむ、ぅう」
 猛る牡の先が、小十郎の割れた腹筋の隙間に擦れる。政宗は腰を揺らして先走りを小十郎の腹に塗りつけた。
「ふはっ、あ、ああ……、小十郎、あ、んぅうっ」
「ああ、政宗様」
 小十郎の呼気が乱れている。政宗はよろこびに欲を高めた。
「んぁ、まだか……、もう、いいだろう」
「もうすこし……、お待ちください」
 秘孔のほぐしが足りないと、小十郎は言う。けれど政宗はもう、ガマンならなかった。
「いい、……よこせ!」
「政宗様」
「小十郎、はやく……、っ」
 身もだえれば、小十郎が困惑気味に眉を下げた。秘孔に包まれた指は、肉壁を媚肉に変えようとうごめいている。それを強く締めつければ、小十郎が息を詰めた。
「小十郎っ」
「……わかりました」
 催促すれば、観念したように小十郎がうめき、指が抜けた。代わりに硬いものが秘孔に押し当てられる。
「失礼いたします」
「いいから、はやく……っ、あ、が、ぁは、あ、ああ」
 たっぷりと濡らされ広げられたはずの秘孔が、小十郎の質量に悲鳴を上げる。詰まる政宗の息を逃そうと、小十郎は押しては引き、押しては引きを繰り返し、すこしずつ秘孔を慣らして肉壁をなだめ、ようやっと奥まで己を埋め込んだ。
「は、ぁ、あ、あ……、あっ」
 のけぞった政宗の陰茎からは、ダラダラと蜜液がだらしなく流れている。小十郎はそれを掴んでしごきつつ、腰で弧を描いた。
「うは、ぁ、あ、あ……、はっ、はぁ、あ」
 刺激にうながされて呼吸を取り戻した政宗は、小十郎の熱をクッキリと脳裏に描いた。媚肉と化した肉壁が、小十郎の熱杭を包んでいる。
「は、ぁ……、小十郎」
 もう大丈夫だと、政宗はぎこちなく笑みを浮かべて示した。小十郎の顎を指先で促すように撫でれば、唇を重ねられる。
「んっ、ふ……、小十郎、なぁ、もっと」
「政宗様」
「遠慮すんな」
 気遣う余裕もないくらい、小十郎も滾っていると媚肉が伝えてくる。
「なあ……」
 左頬にある傷跡に舌を這わせて誘えば、小十郎が勇躍した。
「んぁっ、はっ、はんっ、あっ、こじゅ、あ、ああっ」
 揺さぶられ、政宗は手足で小十郎にすがりついた。小十郎の腕が背と腰をしっかりと包んでいる。ピタリと寄り添った肌の間で、にじんだふたりの汗が混ざって床に流れる。
「はんっ、は、小十郎、あ、こじゅ、あっ」
「政宗様、ああ、政宗様――ッ」
 切羽詰まった小十郎の乱れた呼気と、したたる汗。快楽ゆえに歪んだ顔は苦痛にも似て、必死さをうかがわせる表情に政宗は充足を得た。
「ああっ、小十郎」

 もっと、もっとその顔を――。
 ほかの誰にも見せぬ無防備で実直で狂おしいその姿で、魂を打ちのめしてくれ。

2016/06/14



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