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甘悋

 大きく口を開き、ご機嫌に杯を重ねている長曾我部元親が、天下人となった徳川家康に酌をしている。それを煽って返杯をする家康の肩に気安そうに手を置いて、彼はいたく上機嫌であった。
「これからが大変だけどよ。とりあえず、でっけぇ戦は無くなるんだ。それを成しえたのが家康とくりゃあ、寿ぐ以外に無ぇだろうがよ」
 元親の上機嫌は、それが理由であるらしい。大きな戦が無くなれば、兵役として男手が取られ農村や漁村が疲弊することは無い。兵糧を集めろと食料を奪われることも無い。現在疲弊している人々の生活を立て直すには数年を要するだろうが、少なくとも飢饉などが無ければ今より悪くなることは無いだろうと、元親は喜んでいた。
「俺のカラクリも、戦の道具じゃなく使ってもらえりゃあ、より研究開発をしようって気にもなる。多くのものが運搬できるカラクリを作れば、どこかが飢饉になっても別んとこから食料を運ぶことが出来る。そうやって色んなところが手を取り合って、元気になっていくんなら言うことは無いぜ」
 酒気を帯びてほんのりと桃色になった元親の白い肌を、同席していた毛利元就が冷ややかな目でチロリと舐めた。
「阿呆か」
 ぼそりと呟いた元就の言葉に、家康が反応して苦々しげな笑みを浮かべたが、存分に酒を喰らっている元親の耳には届かなかったらしい。
「なあ、毛利ぃ。これからは瀬戸内がどうのこうのって争ってねぇで、お互いのいいところを伸ばして、豊かな国にしていこうじゃねぇか!」
 家康が元親と元就を招いたのも、長年の二人の争いを天下人となった自分が取り持ち、浅からぬ因縁を絆という形に変えて国づくりに力を尽くしてもらいたい、との気持ちからであった。安芸の国を治める元就の智謀は、新しき世を作るため、日ノ本全土を治めるために是非とも借りたい力でもあった。元親の人心を掌握する天性の求心力と行動力もまた、家康にとってはかけがえの無い絆であり国づくりに欠かせぬものであった。その二人が争うことなく自分に力を貸してくれれば、これほど心強いことは無い。そう言った家康に元親は「水臭ぇことを言ってんじゃねぇよ。今更だろうが」と呵呵大笑し、元就は拒否も承諾も口にはせずに杯に酒を受けてくれた。それに元親は「毛利も承諾するってよ」と歯を見せて笑い、いつもの彼以上に上機嫌に酒の速度を上げて現状に至っている。
「なあ、元親。なんだか今日は杯を乾すのが早くないか?」
 家康の言葉に
「こんな目出てぇ日に、酒を過ごさねぇ手は無いだろう」
 上機嫌で元親は酒を煽り家康に酌をして、新鮮な魚介の膳を食べ進めた。
 そうして家康が酔いつぶれるまで宴は続き、元親は眠ってしまった家康の寝顔を慈愛を込めた瞳で見つめる。その元親の頬に、刺さるような元就の視線が触れていた。けれど元親は気にする様子も無く、家康の額を大きな手のひらで撫でる。二人の姿は兄弟のようにも父子のようにも見えた。杯を置いた元就が立ち上がり、無言で去っていく。その背に微笑んで、元親は家康を残して彼を追った。
 元就の客室に、無言で後を追いかけた元親は気安い様子で足を踏み入れる。元就はそれを咎めるわけでもなく、まるで元親などいないように窓際に腰を下ろして窓外の月に目を向けた。
「機嫌悪ぃな。安芸の国は、変わらず治めてくれって話なんだから、文句は無ぇだろ。安芸の安寧が約束されてんだから、もうちっと家康に愛想よくしてやってもいいじゃねぇか」
 どっかと腰を下ろした元親に、ゆっくりと元就が顔を向ける。月光に浮かぶ痩身の彼が、ほんのりと輝いているように見えた。あるかなしかの笑みを唇に浮かべた元親が、その姿に見惚れる。重さなど無いように立ち上がった元就が元親の傍に舞うように歩み寄り、細く長い指を元親の顎に当てて上向かせた。
 無言で、見つめあう。
 面白そうな光を浮かべた元親の瞳に、何の感情も浮かべていないような平坦な元就の顔が映っている。けれど元親は、彼の瞳の奥に揺らめくものがあることに気付いていた。
 流れるように元就の唇が元親の唇をかすめ、胡坐をかいた元親の大柄で逞しい体に小柄で華奢な元就の体が収まる。みっしりとした逞しい胸筋に指を這わせ、元就が元親の瞳を見ながら唇を重ねる。何かを探るような瞳を、元親は微笑を浮かべた瞳で抱きしめながら、身じろぎもせずに唇を受け止めた。
 やがて元就の唇が顎に触れ、元親の喉仏に甘え、鎖骨にうっ血を残し、盛り上がった胸乳に唇を這わせる。隆々とした胸筋を手のひらで撫でる元就の唇がそのまま降りて、元親の袴に手をかけた。それでも元親は動かずに、元就のするにまかせている。
「は、んっ、ん」
 下帯をずらして、まだやわらかな元親の陰茎を取り出した元就が口に含む。両手で根元を掴んで先端と舌で遊ぶ元就の髪を、元親はさらりと撫でた。
「んっ、ふ、ぁふ」
 ふくらんでいく元親の熱が、元就の口に収まりきらぬほどに猛る。ぷにぷにと柔らかく弾力のある先端から独特の生臭さと苦味のある液体が滲んで、元就は口を離して元親を見上げた。その瞳が、淫靡に潤んでいる。
「毛利」
 ささやいた元親が手のひらで元就の頬を包み、顔を寄せた。自分の先走りの味がする元就の口を吸い、瞳に口付ける。
「家康に嫉妬でもしたのかよ」
 意地悪く元親が犬歯を見せれば、忌々しそうに鼻先にしわを寄せた元就が、元親の下唇に噛み付いた。
「痛ぇっ」
 ふん、と鼻を鳴らした元就に苦笑し、元親が元就の鼻に噛み付く。
「貴様は、我が駒であれば良い」
「駒って……もうちょっと、違う言い方をしてくれてもいいんじゃねぇのか? 毛利」
 とろけるような顔をして、元親が元就の腰を抱き寄せた。
「貴様は我のことだけを、考えておればよい」
「素直なんだか、素直じゃねぇんだか」
 むっすりとした元就の頬に、うれしげに元親が唇を寄せる。しっかりと抱きしめて小さな子どもを甘やかせるように、そのまま頬をすり寄せた。元就は不機嫌な顔のまま、元親の好きにさせている。元親は元就の耳を甘く噛み、頬に口づけを繰り返しながら、ゆっくりと元就の体を横たわらせて覆いかぶさった。
「毛利」
 ささやき、首を唇で撫でる。無骨ながら器用な指が元就の着物をはがし、薄いが引き締まった四肢を撫でた。
「っ、は」
 幾度も丹念に裸身を撫で続ければ、元就の呼気が乱れてくる。美術品を愛でるように、元親は元就の着物を奪いながら、月光に淡く浮かび上がる彼の裸身を大きな手のひらで撫で、慈しむような視線で包んだ。
「……っ、ふ、ん」
 もどかしげに元就が頬を震わせ奥歯を噛んで、顔を背けながら腕で目を隠す。クスリと喉を鳴らした元親が、元就の左胸を強く吸った。
「っ、あ」
 心臓のある辺りに、元親が痕をつける。
「声、抑える必要は無ぇぜ。そのために家康を酔い潰したんだからよ」
 ニヤリとした元親に、腕の隙間から目を向けた元就が呆れた息を鼻から漏らす。
「阿呆が」
 へらりとした元親が、舌を這わせて元就の胸乳の色づきにじゃれた。
「ぁ、んっ、ふ、んく、ぅ」
「だから、声を抑えなくてもいいって」
「っあ、ならば、ぁ、堪えきれぬほどにしてみせよ」
 挑発的な元就に、仕方ねぇなぁと雰囲気で語った元親が、彼の下肢に手を伸ばした。
「あっ」
「俺をしゃぶって、気持ちよくなっちまってたのかよ」
 悪童の笑みを浮かべれば、忌々しそうに歯を噛み締めた元就が、ぺちりと元親の頭を叩いた。それにクックと喉を鳴らした元親が、ぱくりと元就の陰茎を咥える。
「ふっ、ぁ、んっ、ぅうっ」
 舌と上あごで潰すように扱かれて、元就が腰を揺らす。震える内腿を撫で、ふくらんだ蜜嚢を揉み、元親は彼を昇らせていく。白い肌が酒気ではないものに赤く染まる姿がたまらない。自分の牡が熱く痛むのを自覚しながら、元親は彼を性急に昇らせた。
「っは、あぁあああ」
 鼻にかかった嬌声を上げ、腰を突き出した元就が元親の口内に放つ。それをこぼさぬように受け止め、残滓もきつく吸い上げて口内にとどめた元親が、射精後の余韻に瞳をとろかせながら自分に目を向けた元就に、得意げな顔をして口を開いた。
「なっ」
 舌の上にとどめられていた元就の蜜液を手のひらに受け止めた元親が、彼の足を掴んで持ち上げ、肩に担ぐ。
「何を考えているっ」
 真っ赤になってしまった元就に、可愛いなと心中でつぶやきつつ、元親は元就の愛液で濡れた指を彼の尻に当てた。
「何って。濡らさなきゃ痛いだろ?」
「だからと言って、そのようなっ……ひっ、ぃ」
「ぐちゃぐちゃ言うなって」
 鼻歌でも歌いだしそうな機嫌の良さで、元親が元就の秘孔に指を入れる。そのままグイグイと根元まで押し込んで、肉壁をほぐしだした。
「っあ、貴様は、もっと、ぁ、は、ぁううっ」
「なんだよ。風雅とか情緒を感じられるようなヤり方をしろとか言うんじゃねぇぞ」
「ひぃいっ」
 元就の泣き所を刺激しながら肉壁をほぐしていく。乱れる元就を眺める元親の喉がゴクリと動いたのを、元就は身悶えながらも瞳に捕らえた。
「っ、あ、ちょ、おそかべっ、ぁ」
「何だよ」
 元親の顔が、すぐにでも欲しいと叫んでいる。それに、元就の胸が甘く疼いた。優位にいる者の笑みを浮かべ元就が手を差し伸べる。
「そのように、物欲しそうな顔をするでないわ」
 延ばされた指に唇を寄せて、元親が噛み付いた。
「欲しいんだから、仕方無ぇだろう?」
 すうっと元就の胸にあった不快が解けて、愉悦に変わる。
「ならば、与えてやろう。来るがよい」
「自分も欲しいクセによぉ」
 やれやれと呟いた元親は、元就の両足首を肩にかけて彼を抱きしめ、猛る熱杭を元就の可憐な秘孔に押し当て沈めた。
「ぁはっ、は、ぁあぉおううっ」
 体中の空気を押し出すような質量に、元就が細い首を仰け反らせて息を吐き出す。上向いた顎に唇を這わせ、元親は彼の細い腰が壊れぬように根元までを埋めた。
「くっ、ふ、ぅ……はぁ。ぴったり、寸分のすきまもなく繋がったぜ?」
 ニッカリとする元親に、ふんと元就が苦しげな息でうれしそうに見下す。
「満足か?」
「ンなワケがあるかよ。ぐっちゃぐっちゃにかき回したいに決まってんだろ。うりゃっ」
「ぁひっ、はっ、ぁ、ああっ」
 大丈夫と見て取った元親が、ぐんと腰を動かして乱暴に元就を揺さぶり始めた。
「ぁはっ、ぁ、ちょぉそっ、かべっ、あっ、ああ」
 がくがくと体を揺さぶられながら、嵐のような穿ちに振り落とされまいと、元就が元親の首にしがみつく。うっすらとかいた汗が、元就の顔に髪を張り付かせている。寸分も乱れを見せぬ普段からは想像もつかぬその姿に、元親の腰が速度を増した。
「ぁひぃいっ、はっ、はぁあっ、ぁ、腰が折れるっ、ぁ、もう少し、ぁはううっ」
「もう少し緩めろってか? 無理な相談すんじゃねぇよ、毛利。俺がどんなふうになってんのか、しっかり咥え込んでわかってんだろ。こんだけ熱くなってんのに、チンタラ出来るかよ」
 元親の声が野欲に乱れている。それに、元就の野欲が煽られた。髪を振り乱し涙を滲ませながら、元就が嬌声を上げて身悶える。その身がするんと逃れてしまわぬように、元親はしっかりと彼の体を腕の中に収めて腰を打ち続けた。
「はんっ、はっ、はんぁああっ、ぁおおっ、ちょおそ、かべぇあぁああっ」
「はぁっ、毛利っ、もぉり、たまんねぇ」
 乱れた呼気を重ねあい、唇を重ねて口腔を貪りあう。腕を絡め足を絡め、身が一つに解け合うのではないかと錯覚するほどに、二人はピタリと沿って熱を高めた。
「んふっ、ふんぁあおっ、ぁ、壊れっ、ぁ、はぁあ」
「壊すんじゃねぇ、腰砕けにさせんだよ」
 ぐ、と内壁をえぐって元親がはじけた。
「は、んぁあああっ!」
 促されるままに、元就が秘孔を絞り欲液を吹き上げる。ビクビクと互いに痙攣しながら全てを放ち、余韻に歪んだ唇を押し付けて、汗で張り付いた元就の髪を元親がかき上げれば、元就も元親の髪に指を絡めた。
「これからも、末永くよろしく頼むぜ? 毛利よぉ」
 ほんわりとおだやかに、とろけるような笑みを浮かべた元親に
「貴様が愚かでなければ、考えてやらんこともない」
 ふふんと鼻を鳴らした元就が、うれしげに憎まれ口を叩いた。
「ったく。素直なんだか、素直じゃねぇんだか」
 くすくすと鼻を鳴らした元親の口付けを、元就が素直に受け取る。
 家康が心配するまでも無く、二人の因縁は深く強い絆となり、寄り添い絡み合っていた。

2013/10/19



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