ひやりとした風に当たりながら、毛利元就は暮れなずむ茜の空を眺めていた。彼の耳に、さきほどまで居た広間の騒ぎが、別の世界の出来事のように、隔たりを持って届いてくる。 徳川家康の世となり、安芸の安寧を約束され、もう用はないとばかりに饗応の座を立った元就の脳裏には、敵味方に分かれて命のやり取りを行っていたはずの相手と、屈託無く酒を酌み交わす者たちの姿が残っていた。 くだらぬと呟き去る元就に、存外に居心地よさそうな顔をしていた大谷刑部吉継が、ちらりと目を投げて寄越したが、黙殺した。西と東に分かれて争った西側の総大将、石田三成は蟄居をしているため、代理として吉継が来た、ということになっている。けれどそうではないことを、元就は知っていた。敬愛する豊臣秀吉を討った同胞だった男、徳川家康を滅すると、半狂乱になりながら叫んでいた三成は今、抜け殻のように生気無く、人形のように何に対しても反応をしない状態である事を、元就は斥候の報告で知っていた。島左近という男が、かいがいしく世話をしているという事も。 愚かな、と元就は報告を受けた際に呟いた。 まったく、くだらぬ話だ。領土の事など念頭に無く、ただ仇討ちのみを意識して大軍を動かした石田三成。そんな男だからこそ、御しやすいと吉継の誘いに乗り、瀬戸内海を挟み争っていた長曾我部をこちら側へ引きこんだのだ。それが裏目に出た、ということか。いや、元就の望む安芸の安寧は変わらず、むしろ表向きは誰に脅かされることもなくなったのだから、結果としては問題が無かったと言えるかもしれない。 ふう、と細く息を吐いた元就の傍に、大柄な足音が近付いてくる。顔を向けるまでも無く、足音の主が誰かを、元就は知っていた。「そんなとこに、ボーっと突っ立って。酔い冷ましでもしてんのか? 毛利よぉ」 徳川家康の友でありながら、元就と吉継の策略にはまり、先の大戦では家康を敵としていた男、長曾我部元親が親しげに声をかけてくる。「貴様には関係が無い」「つれねぇなぁ。せっかく家康が開いた、天下の分け目を繕って、一枚の布にしたてようって開いた宴会なんだからよ。オメェも、もうちっと愛想よく……」 元就が目だけを元親に向ければ、彼の言葉が止んだ。息を呑んだ元親が、うめくように呟く。「なんて目ぇ、してやがんだよ」「知らぬ」 自分がどんな目をしているのかなど、元就は知りたくもなかった。だから自分を真っ直ぐに見つめてくる元親の目から、すぐに目を離した。「命を狙いあっていた相手と、能天気に食事が出来るような愚鈍な神経を、我は持ち合わせてなどおらぬ」「言ってくれるねぇ」 斬りつけるように言えば、元親の声に安堵が滲んだ。「バカにされて、嬉しげな声を出すとは。気でも狂ったか、長曾我部よ」「狂ってねぇよ。いつもどおりだったもんで、安心したんだ。さっきは、悲しそうに青ざめていたからよ」 悲しそうにとは、どういうことかと元就は元親に体ごと顔を向けた。鬼と称されるにふさわしい、隆々とした偉丈夫を見上げれば、包みこむような笑みを向けられた。「貴様の目は、幻想を見るようにできておるのか」 澄んだ元親の瞳を見返す事が出来ず、元就は彼の左目の眼帯に視線をずらした。「鬼の目は、何もかもを取っ払った奥底までを、見通せるんだぜ?」 冗談めかした元親の言葉に、元就の胸に苛立ちがざわめいた。それを一笑に伏して、背を向ける。「かつて友と呼んだ男の命を狙い、戦が終わればもとのように大口を開けて、笑いあえるような神経の持ち主が何を言う」 そのまま歩き出した元就の背を掴むように、元親が声を張った。「だからだよ」 ぴたり、と元就の足が止まった。「だから、わかるんだよ。本気でダチと殺し合いをしたからこそ、わかるんだ。それらを全部抱えたまま、昔みてぇに酒を飲めるから、わかるんだ」 ゆっくりと振り向いた元就は、泣きだしそうな顔で笑う鬼を見た。ふうっと視線が元親の目に吸い込まれ、彼が歩み寄ってくるのを、元就はただ眺める。「好きで命を狙いあったわけじゃ無ぇ。そういう話になるんなら、俺は今すぐにでも、俺をハメたアンタをくびり殺しているだろうぜ」 元親の大きな手が、細い元就の首にかかった。「貴様ならば、我の首をへし折るなぞ、造作も無いであろうな」 何の感情も込めずに元就が言えば、元親がくしゃりと顔をゆがめた。「なんで、アンタはそうなんだ」「貴様らのような、めでたい頭を持つ者には理解など出来ぬ」「教えてくんなきゃ、理解も出来ねぇだろう。なんで、アンタはそうなんだ」「教える必要も無い」 元就の首にかかる元親の指先から、人肌の温もりが伝わってくる。こうして人を感じるのは、どれくらいぶりだろうかと元就は細い息を漏らし、元親の裸身の胸へ手のひらを添えた。「――?」 疑問を浮かべつつも、元親は元就の好きにさせる。元就の手は元親の胸筋の谷で止まった。わずかに左にずれた元就の手のひらから、あたたかなものが流れ込んでくる。そんなはずはないと知りつつ、元就はその流れを心地よく受け止めた。 元親の手が元就の首から滑り、着物の合わせ目から覗く首と鎖骨の間に指が添えられた。どく、どく、と自分の脈を元親の指を通して感じた元就は、ゆっくりと瞼を下ろす。 血の巡る音が、体の中でひびいている。触れられている箇所から、伝わってくる。生きている事を確かめるような行為に、元就の目じりからひとしずく、何かが伝い落ちた。 滑るように、元就が瞼を開ける。目の前には、命というものを体現しているように、筋骨たくましい、生命力の溢れる体躯がある。生きているのだと、胸を張って示す肉体がある。 顎を持ち上げ、元就は元親を見た。「言葉じゃ伝わんねぇことも、伝えられねぇことも、酒を飲んでタガを外して、ふざけあって笑いあって。そんで、なんとなく感じ合えるってことを、通じ合えるってことを、俺たちァ知ってんだよ」 くだらぬ、と言い捨てようとした元就の唇が、震える。「アンタは、そういうものを知らねぇんだろう」 憐憫を含む元親の言葉に、元就の胸が詰まった。胸を詰まらせた感情が何かわからぬまま、元就は奥歯を噛み元親の胸に爪を立てた。「ならば」 食いこむ爪が痛くないはずは無いのに、元親は元就のするままにさせている。「教えよ。言葉なく通じるものがあるという事を、我に身を持って示せ。長曾我部」 ほころんだ元親の唇が、ふるえる元就の唇を柔らかく押しつぶした。 あたりまえのように全裸になった元親を、元就は立ちつくしたまま眺める。下帯すらも脱ぎ去った元親が、両腕を広げて心の裡までさらけ出すように微笑んだ。「貴様は、警戒という言葉を知らぬのか」「こういうことに、警戒も何もねぇだろうが。あ。もしかして、やめたくなったとか言うんじゃねぇだろうな」 わずかに目線を落とした元就に、がりがりと元親が頭を掻く。「まあ、別に嫌になったんなら、しなくてもいいけどよ」「そうではない」「あ?」 元就の目が、元親に戻る。「我に殺されるとは思わぬのか」 頭を掻いた姿勢のまま、元親が首を傾げた。「ああ、まぁ、あれだよな。こういうことするってぇ時が、一番無防備になるってんで、暗殺に使われるって話も聞いた事があるから、そういうことを言ってんだよな」「それ以前の問題だ」「んあ?」「我が何ぞ刃物を持っておったら、貴様、どうするつもりだ」「どうするもこうするも、襲われたら迎え撃つしかねぇよな」 元就の眉間にしわがよった。「我を侮っておるのか」「そういう意味じゃねぇよ。ああ、なんつったらいいんだろうなぁ。こういう行為ってのは、何もかもを相手にさらけ出すモンだろう。そんだけの信頼っつうか、そういうもんを持ってなきゃ、こんだけ無防備にゃなれねぇよ。もちろん、そうじゃない場合もあるっちゃあ、あるけどな。――けど俺ァ、アンタが俺を殺さねぇって確信をしている。だから、こうやって裸になってんだ。少なくとも今は、アンタに俺を殺す気は無ぇだろうよ」 確固たる確信を持った元親の言葉に、元就は地面が揺らいだような気がした。背中に冷たい汗が流れ、動悸が苦しいほどに激しくなる。喉が渇き、元就はそれを癒す術を元親が持っているような錯覚に陥り、ふらりと彼の傍に足を踏み出し手を伸ばし、胸に手を添えて見上げた。やわらかな元親のまなざしが近付き、元就の唇に元親の呼気が触れる。「こうなっちまったら、人間も動物みてぇなモンだ。五感を使って相手を知ろうとするって思えば、アンタもちったぁ納得できるんじゃねぇか?」 笑みを含んだ元親の声が、元就の喉を滑り落ちる。「言葉にならねぇモンを伝えあうにゃあ、触れ合うしかねぇからな」 じっと、元就は元親の瞳を見つめた。そこに映る自分が、頼りなげな子どものように思えて、元就はそれを消すために元親の首に腕を回し、頭を引き寄せ舌を伸ばした。「おっ」 元就が目を舐めても、元親は珍しいと言いたげな音を発しただけで、おとなしくしている。元就は気の済むまで元親の目を舐め、次に鼻を軽く噛んだ。彼の匂いを嗅ぎ、頬に噛み付き舌を這わせ、元親の顔中を口で確かめる元就に、元親はされるがままになっている。元就は無心に、初めて触れるものを確かめる赤子のように、元親の顔中を舐めまわした。 頬に両手を添えて、舐め回した彼の顔を眺める元就は、胸の奥にほんの小さな熱が灯ったのを感じる。その熱に浮かされたように、何もかもを許すと告げる、受け止めると告げてくる元親の瞳に促されるまま、元就は元親の首に歯を立てた。「いっ、て」 少し裂けた皮膚を舌先で舐め、元就は両手で元親を掴みながら肩から腕に進み、手指までも味わうと再び腕を登り、今度は彼の背中を味わった。力強く、みっしりとした筋肉を包む肌は白く、絹のように滑らかだ。元就の唇が、するすると元親の肌を流れていく。 わき腹まで流れた唇は北上し、今度は盛り上がり、手のひらに掴めるほどに鍛え抜かれた胸筋にたどり着いた。「ふ、毛利」 野生の獣に手を伸ばすように、元親が元就の髪に触れる。元就はその指を好きにさせた。拒まれぬとわかった元親が、元就の髪を指で梳く。それが心地よく、元就は目を細めて元親の胸筋に耳を当てた。 とくり、とくり、と鼓動が聞こえる。その拍節の速さが心地よく、ほうっと元就は息を吐いた。自分の息が熱を帯びている事に気付き、下肢に甘い疼きがあるのを感じ、元就は元親から体を離した。「毛利――?」 身を覆っているものが、忌々しいほどに邪魔だと思え、元就は呆然とする元親の視線を浴びながら裸身となった。痩身の、けれど武将として鍛え抜かれた元就の薄い肌が、元親の前にさらされる。元就は頭をもたげている自分の欲を意識し、元親のそれもまた反応を示しているのに目を向けた。「毛利」 伸ばされた元親の手を払いのけ、彼のたくましく盛り上がった胸乳に手を添える。「我の為すままに、何もせずにおれ」 元就の命に、元親は苦笑と共に了承を乗せた息を吐いた。 元就は再び元親の心音にしばらく耳を傾けてから、胸筋の谷に舌を伸ばす。しっとりと汗ばむ肌は、海の香りを強めていた。唇を押し当てたまま、元就は腰を落とし元親の臍に舌を差し込む。顎の下には隆起した元親の牡があり、独特の香りを放っていた。「毛利」 降って来た元親の声が、熱く掠れている。見上げた元就を見下ろす彼の瞳が、熱っぽく潤んでいることに、元就の胸が熱くなった。うっすらと笑んだ元就は、ためらうことなく元親の牡を掴み、その先端を口に含む。「っ、う……毛利」 このようなものを食すのは、無論はじめてのことだ。どちらかといえば生臭く不味い、弾力のある硬いものを味わう元就は、触れられていない自分の牡が、元親の興奮を確かめるたびに痛いほどに張りつめていくのがわかった。それが不快では無いことに、元就は心中で首を傾げながら、味わう野蛮であるはずのものが、ひどく愛おしく思える自分に驚いていた。「は、ぁ、毛利」 熱を増した元親の呼び声に口を離し、元就は元親の膝裏を叩いた。「座れ、長曾我部」 人の心を持たぬ、情緒を解さぬ冷徹な武将、などと言われることもある元就ではあるが、秘戯画くらい目にした事はあるし、交合の作法も知っている。そりかえったもののために、ぎこちなく座った元親を見ながら、元就は自分に溺れるこの男を見たいという情動にかられていた。 男が女に溺れるという話は、よく耳にする。衆道でも、分別を忘れるのは攻める側であると、籠絡されるのはそちら側であることが、物語やウワサなどでも多い。ならば自分がどちら側になればよいか、元就は考えるまでも無く決していた。「っ、おいおい、ちょ、ちょっと待てって、毛利」 元親をまたいだ元就の腰を、大きな手のひらが掴んだ。「何故、止める」 声を出して、元就は自分も熱に息を乱していることを知った。「オメェ、このまま俺のをケツに迎えるつもりじゃねぇだろうな」「なんだ。貴様、逆の方が良いのか」「そうじゃねぇよ」 たくましい腕が元就の腰にからまり、元就は促されるまま元親の胸に倒れこんだ。「準備もしねぇで、入るわけねぇだろうが。痛い思いをすんのは、アンタなんだぜ」「濡らして広げればよいということぐらい、我とて知っておるわ」 けれど、自分でそのような事は出来かねる。そう心で呟き、ぐっと眉間にしわを寄せた元就に、羞恥と呆れとその他もろもろのものを混ぜ合わせた、奇妙な笑みを元親が浮かべてみせる。「んじゃまあ、その準備をしようじゃねぇか。今度は、俺にいじくらせてくれよ」「っ、貴様、何を……ッ」「いいから、任せろって」 元親の広い手のひらが、元就と元親の二本の陰茎をまとめて包んだ。「濡らすモンが無ぇから、一回出して、それを使う。二人ぶんありゃあ、なんとかなんだろ」「何っ、ぁ、は」 二本を擦り合わせるように捏ねて扱く元親の手に、人の手に急所をゆだねた事の無い元就は戸惑った。「ぁ、やめ、ぁ、くぅ」「この程度で根をあげてちゃ、アンタがさっきしようとしたことなんざ、出来ねぇぜ。毛利、もっと素直に感じてくれよ。なぁ」 額に唇を寄せられて、元就は元親の首に腕を回した。下唇を噛み、漏れる嬌声を堪える元就に唇を幾度も押し付けながら、元親は互いの欲を捏ねあわせて高みへ向かう。「ぁ、あっ、は、んっ、んっ」「どうでぇ、毛利ぃ。気持ちいいか?」「ひっ、はぅん」 クビレを擦り合わせるように捏ねられて、元就は胸をそらして天井に声を発した。震える薄い胸に、元親が唇を寄せる。「はっ、は、はぁ、あ、ふ、ぁ、も、やめっ、ぁ」 湧きあがってくる淫蕩に、溺れそうな恐怖に囚われる。それと同じくらいの恍惚が元就の意識を蝕み、逃げ出したい恐怖と貪りたい欲望とに心が苛まれた。「んっ、毛利、すげぇな、気持ちいいんだろう? こんな、ガマン汁垂らして」「ぁ、はっ、はぁう、ふっ、ちょ、そかべ、ぁ、は、はぁあ」 空気と液体の混じりあう音を聞きながら、濡れて滑りのよくなった肌が、溶け合うような錯覚に陥る。元就は無意識に腰を揺らめかせ、元親の胸に額を擦りつけて声を上げた。「んぁ、はっ、ぁ、はぁあ、ぁは」「ふっ、たまんねぇ」 切羽詰った元親の声がしたかとおもうと、元就は野欲の切っ先に鋭い刺激を感じた。「っ、は、ぁあああああっ!」 鈴口を抉るように爪で刺激され、元就は全身を震わせて欲を吐き出す。「くっ、ぅ」 それに合わせて元親も子種を放ち、自分の腹に散ったそれを指に絡めて集めた。「毛利」 全てを放ち終えた元就が、ぐったりと元親の胸に寄りかかる。それを抱きとめた元親が、気遣うように耳元にささやいた。「もう、ここでやめておくか?」 ぎろりと、鋭い光を宿した元就の目が、元親を見上げた。「我が、耐え切れぬと思うたか。侮るでないわ」 あえぐ胸のおさまらぬ元就の、放った言葉は気だるさに満ちている。「侮ってるわけじゃねぇよ。慣れねぇこと、してんだろ?」「余計な気を回すでない。必要なものが手に入ったのなら、さっさと準備をせよ」 強がりでも何でもなく、純粋にそう命じてくる元就の髪を、濡れていない手でクシャクシャと掻き混ぜるように撫でてから、元親が白い歯をむき出して「わかった」と呟く。「嫌んなったら、言えよ」「つべこべ言わずに、さっさとせぬか」「はいはい」 元親の、二人の欲液で濡れた指が、小ぶりな元就の尻に触れた。思わず身をこわばらせた元就の背を、あやすように軽く叩いた元親が、繋がる箇所に指を押し込む。「ひっ、ぃあ、あ」「毛利、いけるか?」「っ、うるさい、ぁ、さっさと、く、ぅ」「ったく」 愛おしさを乗せた元親の嘆息が、元就の髪に触れる。それを追うように触れてきた唇に、元就の胸が甘く絞られた。「ぁ、は、ちょ、そかべ」 首を伸ばした元就の薄い唇を、元親の呼気が撫でる。「はっ、んっ、ん、ふ」 体内に元親の指の蠢きを感じながら、元就は彼の唇を求めた。元親はそれに応じながら、元就を気遣うように繊細に彼の秘孔をほぐす。「んぁ、はっ、ぁ、はふ、ぅ」「あったかくて、やわらけぇな」「んぁっ、し、知らぬっ、あ」「毛利」「んぁ、はっ、は、ぁあっ!」 元親の指が、元就の内壁にある快楽点を見つけた。ひときわ高く啼いた元就の顔を見ながら、元親は慎重にそこを探った。「ぁはっ、は、はぁ、あっ、ちょ、ぁ、そかべっ、ぁ」 過ぎた快楽に、わずかに恐怖を滲ませた元就の目に気付き、元親は安堵させるように、濡れた瞳に唇を寄せた。「ゆっくり、するからよ」「んぁ、はっ、はぁ、う、ふ」 自分が怯えたことに気付かぬまま、元就はゆったりと身をとろかせる元親の指に酔った。元親の指は快楽点をかすめつつ、元就の意識が強い刺激に驚かぬよう、だんだんに彼の体を開いていく。身を揺らめかせ元親にしがみつく元就の牡が再び凝り、熱を蘇らせた元親の牡とぶつかった。「んぁ、長曾我部」 あえぎながら元親の顔を掴み、自分に向けた元就が荒い息を無理やりに押さえ込む。「もう、よい。指を抜け」「ん? 嫌んなったか」「っは……が、ぅ。違う、ぁ、早く抜け」 元就の苦しげな媚態に喉を鳴らしつつ、元親は彼の奥に沈めていた指を抜いた。すれば、元就は元親の肩を掴み、腰を寄せて足を震わせながら、慎重に元親の牡を自分の秘孔にあてがった。「うぇっ、ちょ、毛利オメェ、いきなりソレは、キツイんじゃねぇか」「っ、黙って、ぅ、く」 腰を沈めた元就が、元親の傘の張りまで飲み込めずに息を詰める姿に、元親は彼の腰を掴んで気遣う。「無理すんなよ。俺がすっから、オメェは横になっとけ」「はっ、く、断る。貴様に組敷かれるなどっ、ぁ」 ふうっと息を吐いた元親が、仕方がねぇなと呟いて元就を抱きしめた。「なら、アンタが上でかまわねぇよ。けど、これじゃあ俺も生殺しで辛ぇから、ちっとガマンしてくれよ」「何を……っあ、は、はひっ、ぁ」 元就の首に唇を押し付け愛撫しながら、元親は彼の牡を掴み先端を手のひらで捏ねる。そうして体のこわばりを解いた元就の腰を掴み、牡のクビレまでを押し込んだ。「ぁがっ、ぁ、は、はぁ、ぁう」「は、ぁ、毛利、あとは、ゆっくり深めていきゃあいいから」「ぁ、は、はぁ、あう」 ぶるぶると震える元就が、涙に揺れる目を元親に向ける。「余計な、ぁ、真似を」「強情も過ぎると、よくねぇだろ?」「っ、貴様にされずとも、ぁ、我は……」「時間をかけりゃあ、出来ただろうがな。俺が、先っぽだけでも早く、アンタと繋がりてぇって思ったんだよ」 あふれるほどに涙を浮かべる元就の目に、元親が唇を寄せる。元就の濡れた睫を軽く吸った元親が、熱い息を漏らした。「これでも、かなりガマンしてんだぜ? わかんだろ」「ぁ、は、野蛮な、ぁ」 元親の笑みが泣きたくなるほど優しくて、元就は彼の首に腕を巻きつけ、彼のたくましい肩に額を寄せて顔を隠した。「は、ぁ、くふっ、ん、ぁは」 元親を飲み込もうと腰を沈める元就のこわばりを解すため、元親は彼の陰茎を愛撫する。その心地よさと秘孔に迎える質量のある熱の苦しさに、元就は身もだえながら開いた口から嬌声を漏らした。「ぁは、は、はぁ、あふ、ひ、ぐ、んぅう」「毛利」 低くやわらかな声と共に、元就の髪に元親の唇が押し当てられる。胸が熱く詰まり、早く彼の全てを体内に収めたくて、元就は息を詰まらせながら元親に命じた。「ぁ、奥に、は、ぁう、手伝わぬか」 目を丸くした元親が、苦笑を漏らして了承を告げ、元就の腰に手を当て引き寄せた。「ぁがっ、は、は、はぁあぉう」 頭の先まで貫かれたような息苦しさと衝撃に、元就はこぼれんばかりに目を見開きのけぞった。「くっ、は……毛利」「ぁ、は、ちょ、ぉそか、べ」 天を仰いでいた顎を引き、元親を見た元就は、充足にとろけた彼の顔に息を呑んだ。「毛利んナカ、あったけぇな」 うっとりと漏れた元親の声に湧き上がった甘いものを、ふんと元就は鼻先で吹き飛ばす。「そのまま、我の体に溺れてしまうがいい」 きょとんとした元親が、まじまじと元就を眺め、次いで豪快に声を立てて笑い出した。「ぶっ、ははは! なるほどな。そいつぁいい」 笑う元親の震える腹筋に連動し、元就の肉壁が包む彼の牡もまた揺れる。その刺激に眉をひそめる元就を、両腕で深く胸に抱きすくめ、元親がささやいた。「じっくりと時間をかけて、二人して快楽の海を泳ぎ合おうじゃねぇか。なぁ、毛利」「ふん」 小憎らしく鼻を鳴らした元就は、慣れぬ自分の体を気遣い、元親が動かず堪えていることに気付いた。「長曾我部」「あん?」「……なんでもない」 元親の大きな背に腕を回し、目を閉じて、元就は五感の全てでこの男を味わい、言葉では伝わらぬものを知り尽くすのも悪くはないと胸に浮かべた。 しっとりとした夜気が、二人を包む。 二人は長い間、身じろぐことなく繋がったまま、深く抱き合い、体温でひそやかに語らい続けた。 臨界に達すれば弾けるように互いを貪り、獣のように吠え立てて、繕うものの何もない相手を知り、飾るもののない自分を知り尽くした。 身を離し、立場の伴う互いの顔を取り戻すまで、ぞんぶんに元就は元親という名の波に輝き、その身を揺らめかせる心地よさに、何者でもない己の安寧を見つけ、そして――。2014/03/25