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寝苦しい夜に

 むくりと起き上がった毛利元就は、不機嫌そうに眉根を寄せて障子に目を向けた。月光が薄闇を透かして、元就の白い肌を照らしている。残暑の寝苦しさに、彼は機嫌を損ねていた。
 そういえば、今宵はあやつが泊まっておったな。
 元就は立ち上がり、丁子油を掴んで廊下を進んだ。部屋の中よりは夜気の中を進むほうが、行く分か涼しい。だが、心地良いというほどではない。
 不眠は思考の妨げとなる。ならば、寝苦しさなど気にならぬように、体を疲れさせれば良い。
 元就はそう考え、招いてもいないのに、夕刻に酒と肴を手に現れて、そのまま宿泊している長曾我部元親の客間へ向かった。
 声もかけずに障子を開けた元就は、おとなしく褥に納まっている大柄な偉丈夫を一瞥する。
 足音にも気付かず寝こけておるとは、緊張感のない奴よ。
 フンと鼻を鳴らして、元親の足元に膝を着く。だが、彼が眠ったままなのは好都合だ。こちらの目的だけを済ませて、元親のように深い眠りを取るとしよう。
 元就は無造作に、元親の下肢を剥きだしにした。冷ややかにも見える冷静な顔には、すこしの興奮も浮かんでいない。元就は元親の、たくましいふとももを持ち上げて膝を折り、足を広げさせた。
「ここまでされても、起きぬのか」
 呆れつつも、元就は手早く着物を脱ぎ落とした。しらしらと輝く月光に、しなやかな元就の肢体が浮かび上がる。元親の肌も元就に負けず劣らず、透けるような白さを有していたが、その体躯は隆々とした筋肉に覆われた、大柄なものだった。
 元就は元親の寝顔を眺めた。こうしていると、彼は繊細で整った顔立ちをしている。普段の粗野な部分が、眠りに落ちているぶん、こちらのほうが理知的に見えると、元就は薄い笑みを浮かべた。
「さっさと、済ませるとするか」
 元就は丁子油で両手をたっぷりと濡らした。そして右手を自分の尻に伸ばし、秘孔に差し込む。
「んっ、ぅ……」
 小さな呻きを漏らして、元就は天を仰いだ。指を沈め、ほうっと息を放つと元親の腹をまたぎ、彼の秘孔にもう片手を伸ばす。
「んむぅう」
 指を入れれば、元親が寝言のような音を出した。だが、起きる様子は無い。
「阿呆が」
 こんなことをされても、起きぬとは。
 呆れつつも、元就は目的を達するために指を動かした。
「はっ、ぁ……んっ、んふ、う」
 自分の秘孔をほぐしつつ、元親の媚肉を探る。
「ぁ、あぁ、は……ふぅ」
 自分の内側は丁寧に、元親のそこは快楽点を重点的に探れば、元就の秘孔は淫靡な蠢動をはじめ、元親の陰茎は隆々とそびえ立った。
「んぅ……う、うう……うおっ?! 毛利」
 まつ毛を震わせ目を覚ました元親が、ぎょっとする。
「やっと目を覚ましたか。我が刺客であれば、貴様の命はとうに無くなっておったぞ」
「そうだとしたら、殺気で目が覚め……っつうか、何やってんだよ」
「わからぬほど、貴様は阿呆か」
 元就は心中で「面倒な」とこぼした。起きた元親が、おとなしくこちらの思惑通りにするとは思えない。
「いや、何をしようとしてんのかは、十分すぎるぐれぇにわかってっけどよぉ」
 案の定、元親は腕を伸ばして元就の腕を掴んだ。先に身動きができないように、縛っておけばよかったと、元就は自分の失策に舌を打つ。
「そんな、欲求不満には見えなかったけどなぁ」
 案の定、ニヤニヤ笑いを浮かべて、起き上がろうとする。元親はニヤニヤしているつもりは無かったが、元就にはそう見えた。とっさに足を伸ばし、元親の顔面を足裏で押さえる。
「んぶっ。何しやがんでぇ!」
「貴様は、おとなしく寝ているがよい。我は我の望むままに動く」
 自分が満足をするまで元親を使い、気が済めば終わるという意味で言ったのだが、元親はそうは取らなかったらしい。
「毛利が奉仕してくれるってぇことか。そいつぁ、楽しみだ」
 元親にとっては喜びに満ち溢れた笑みなのだが、元就にとっては不快極まりない、調子に乗っている顔と見えた。反論をしようと口を開いたが、勘違いをさせたまであるほうが御しやすいと思い直す。
「わかったのなら、貴様は寝ているがよい」
「おう」
 わくわくと横になる元親を、冷ややかな目で見下ろし、元就は指の動きを再開した。
「うっ、なぁ、毛利よぉ」
「黙っておれ」
「……っ、けど、俺のケツをいじるんじゃなくて、魔羅のほうを扱いてもらうほうが、ありがてぇっつうか、なんつうか。気持ちはいいが、妙な感じがすんだけどよぉ」
「我の好きにすると、申したでは無いか。貴様は木偶のように、黙って横たわっておれ」
「うう……ったく。仕方ねぇなぁ」
 先ほどはうれしそうにしていたくせにと、元就は不満そうな元親をにらみつけた。
 隆起した元親の陰茎が、元就のそれとぶつかる。そろそろいいかと、元就は自分から指を抜き、準備が整いひくつく秘孔に、元親の短槍を納めた。
「ぐっ、ぁ、は……はっ、ぁう、う」
 挿入されるのと、自分でするのとでは勝手が違う。傘の部分がひっかかり、なかなか奥へと入らない。が、傘の張り出し部分を飲み込めば、あとは秘孔の蠕動が元親の肉欲を、奥へと招いた。
「はっ、ぁ、ああっ、ああ」
 根元まで飲み込んだ元就は、か細く高い声を放った。キュッと秘孔が締まり、猛る熱を包みこむ。
「うっ、毛利」
「貴様は、動くな」
 艶然とした笑みで、元就は命じた。ごくりと元親の喉が鳴る。
「お、おう」
 勝ち誇った顔で、元就は元親の中に指を入れたまま、腰を動かした。
「あっ、ああ、はっ、はぁ、あっ」
 はじめはぎこちなかったものが、元親が先走りをこぼすので、滑らかになった。元就は自分の心地よさを追及するため、元親を調教する気持ちで彼の秘孔を責める。
「ううっ、毛利……なあ、もうケツは、いいだろ。俺ぁ十分、でっかくなってっしよぉ」
「はぁ、うるさい、あ、ぁあっ」
 恍惚に頬を上気させ、元就は指で探れば探るほどに猛る肉欲を、面白がった。
「ふっ、ぁ、ああ、あ、ああ――っ」
「く、ぅうっ」
 元就が絶頂を迎えると共に、元親の秘孔の過敏な箇所を刺激すれば、肉筒に熱が放たれた。それを受け止めた元就は、自分の望む時に熱の奔流が得られると知って、ほくそ笑んだ。
 なるほど。この方法は良い。
 元親に乱され、彼に昇らされるよりも、主導権をにぎることができる。
「は、ぁ……毛利ぃ」
 元親が甘ったるい声で伸ばしてきた腕を、元就はピシャリと叩いた。
「木偶のように、横たわっておれと申したではないか」
「もう、一回ヤッたんだから、いいだろう。次は、俺がアンタを良くする番だ」
「我を、良くする……だと?」
「おうよ」
 腕で床を蹴った元親は、元就が反応するより早く起き上がり、あっと思う間もなく元就を組み敷いてしまった。
「気持ち良くなかったわけじゃねぇけどよ。やっぱ、接吻とか、他のことも色々としてから、繋がりてぇじゃねぇか」
 歯をむき出して屈託無く笑う元親に、元就は面食らう。
「貴様……」
「うん?」
「やはり、阿呆か」
 こちらは性欲処理と眠るための運動を求めただけというのに、元親はそうとは取らなかったらしい。
「毛利」
 最高に甘ったるい声で、唇を寄せてくる。
「ふっ……」
 ついばむように唇を確かめられる。十分にたわむれてから、元親の舌が深い口づけを求めて伸びてきた。それを咎めるように、軽く歯を立てれば元親が微笑んだ。慈しみを湛えた右目を忌々しそうに見て、元就は彼の左目を被う眼帯に手をかけた。
「邪魔ぞ」
「なら、アンタが取ってくれよ。毛利」
 面倒くさそうに鼻を鳴らし、元就は元親の眼帯を取り、傷痕に唇を寄せた。元親がおとなしく、元就に甘えるように身を寄せてくる。
 大きな獣を飼っているような気になる。だが、悪くない。
 元就は頬をゆるめた。
「我を良くすると宣言したからには、存分に奉仕をするのだろうな」
「理性なんて邪魔なもんを、ぶっとばすぐれぇ良くしてやるぜ」
 自信満々に請け負った元親の首に、元就は腕を絡める。
 安眠をするという、当初の目的は達成できそうだ。
「ならば、励むがよい」
「ったく。ほんと、えらそうだよなぁ。毛利は」
 うれしそうに文句を放つ唇が、元就の唇を塞いだ。
 言葉どおりに励んだ元親に、元就は満足のいく快楽を得た。そして、どっしりと肉厚で広い胸に包まれ、深く安らかな睡眠を得ることに成功する。

2015/08/12



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