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思惑

 ぱたぱたぱた、と軽い足音がせわしなく近づいて来る。廊下を歩いていた猿飛佐助は、必死になって自分のそばに寄ろうとする足音に、足を止めた。
「さすっ、わぷ」
 角を曲がったところで佐助が止まったものだから、追いかけてきた小さな塊は、思い切り佐助の足にぶつかった。
「なあに、弁丸様」
 佐助がしゃがめば、へらりと笑った小さな主、弁丸が両手を伸ばして佐助の首にしがみついた。
「よう帰ったな!」
 ぽんぽんと、佐助が弁丸をあやすときのように、弁丸が佐助の肩を叩く。そうして離れた弁丸は、佐助を逃がすまいと、ぎゅっと手を握り締めた。
「おれの部屋へ来い、さすけ]
「俺様、ちょっと忙しいんだけど」
「さすけは、しばらくは仕事がないと聞いたぞ」
「誰に」
 にこっとぷよぷよとした頬が持ち上がり、弁丸の目が細まる。これは敵わないなと、佐助は嘆息して弁丸に手を引かれるまま、彼の部屋へ行くことにした。
 うきうきとしている茶色の、柔らかな髪を見下ろしながら歩く。けがれのない朗らかな気配。子ども特有と言ってしまえばそれまでなのかもしれないが、戦国の世では、その無防備な無邪気を放てぬ子どもは少なくない。少なくとも佐助が見てきた屋敷の外では、そうであった。
 楽しげな弁丸が自室に入り、佐助も失礼しますと呟いて入る。しっかりと襖を閉めた弁丸は、座布団の上にきっちりと座してきりりと眉を一本気に引き結ぶ。
 あらま。
 その姿に、佐助は神妙な外面を作り、弁丸の前に控えた。おそらく、主として任務から帰った忍を労おうとしているのだろう。
「ごくろうだったな、さすけ」
「は」
「ほうびを、とらせよう」
「は? いやいや。ちゃんと貰ってるから、大丈夫だって」
 これが弁丸でないのならば、金の小粒でもいただけるのかもしれないが、主は年よりも幼い子どものように扱われている。彼が今までくれようとした褒美は、彼のおやつの団子であったり、竹細工の玩具であったりした。
「そう、えんりょをするな。なんでも、おれができることで、ねがえ」
「えっ」
 ふんっと鼻息を荒くして期待をしている弁丸は、どうやら物品や食べ物では佐助が喜ばないと覚えたらしい。そうだとしても、忍に向かって主が「なんでも、おれができること」を望めとは、とんでもない。
「いや、あのね」
「おれでは、何もできぬともうすか」
 しゅんとしてしまった弁丸に、彼の無邪気さに、素直さに、佐助の奥で意地の悪いものが浮かんだ。それと同時に、頭の隅で声が聞こえる。
 元服をすれば初陣を飾り、どこぞの姫を娶り、忍風情にこうして声をかけることなど、しなくなるだろう。――俺様のことなんて、見向きもしなくなるだろう。
 そうならないために出来ることは、ひとつ。情を交わしてしまえばいい。けれど今、最後までするのは酷だろう。ならば――
「ねぇ」
 ふわ、と佐助の纏う空気が変化したことに気付いた弁丸が、ごくりと喉を鳴らす。
「誰にも内緒にできるなら、ひとつだけ、弁丸様にしかできないことがあるんだ」
 共有の秘密を持てば、それが彼がどういうことかと気付く前に、どうしようもないほどに身に覚えさせてしまえば、弁丸が元服をしたとしても、離れることはなくなるだろう。
「おれにしか、できないこと」
「うん、そう」
 にじりよった佐助が、弁丸の柔らかな頬に手のひらを当てた。
「でも、これはとてもとても、人に知られてはいけないことなんだ」
 憂うように目を伏せれば、弁丸は拳を握り、佐助の顔を覗き込んだ。
「だれにも、言わぬ」
「ほんとうに?」
「うむ!」
 しっかりと頷いた弁丸に、佐助は安堵の笑みを表面に浮かべて、そっと弁丸の手をとり自身の股間へと導いた。
「ここを、気持ちよくして欲しいんだ」
 きょとんと弁丸が首を傾げる。
「ここが急所だってのは、知ってるよね」
 こっくりと、弁丸が頷く。
「その急所を晒して触れられるって、どういうことだと思う?」
 首を傾げて問えば、同じように弁丸も首をかしげ、ううんとうなった。
「おれを信用してくれているということか」
「うん、そう。だけど、忍が急所を晒すなんて、とんでもないだろう? だから、誰にも内緒にしていてほしいんだ。弁丸様がいやって言うなら、諦めるよ」
 ふっと寂しげに唇の端を持ち上げた佐助に、弁丸は勢い込んだ。
「おれが、なんでもと言ったのだ! させよ」
「ありがと」
 おばかさん。
 口に出た言葉と、脳裏に浮かんだ言葉が乖離している。佐助は袴を落とし、下帯を外して下肢を晒した。
「お風呂のときに、見慣れてるよね。これを、やさしく両手で擦って、さきっぽを舐めてほしいんだ」
「な、舐めるのか」
「いやなら、いいよ」
「いやではないっ」
 おそるおそる両手を伸ばした弁丸が、まだやわらかな佐助の牡を掴み、ぎこちない手つきで擦り始める。ゆっくりと熱を持ち勃ち上がってきた牡に目を丸くし、変化が楽しいのか弁丸は夢中になって佐助を扱いた。
「はぁ、ああ、そう。気持ちがいいよ」
「まことか!」
 ぱ、と顔を輝かせる弁丸の髪をなでて、佐助は微笑む。
「うん。ほんと、ほんと。だから、ねぇ」
 つるりと頬を手のひらで撫で、幼い唇に指を添えて開かせる。勃ち上がった陰茎にそれを導けば、弁丸はためらうことなく舌を伸ばし、赤子が乳を吸うように、佐助の牡に吸い付いた。
「は、ぁ、そう、ん、気持ちいいよ」
 佐助がうっとりといえば、弁丸はますます張り切る。そうして意味も知らぬまま、弁丸は佐助に導かれるままに、褒美を与えようと口淫の技を磨いていった。

 そして弁丸が元服し、真田幸村という名が甲斐の若虎として勇名を馳せる頃になっても、その褒美の体制は続いていた。
「は、ぁ」
 佐助の腰で、やわらかな幸村の髪が揺らめいている。
「んぅ、ふ、じゅっ、んぅ」
 すっかり熟練した幸村の口淫を味わいながら、その手のことには初心すぎるほどの主が、これの本当の意味にまだ気付いていないのだろうかと、佐助は彼の髪を撫でた。ふ、と潤んだ瞳が佐助を見上げる。その瞳の無垢さは、弁丸と呼ばれていた頃と変わらない。紅蓮の鬼と称される男が、幼子のような瞳で、無心に自分の欲をしゃぶっている。
 どくん、と佐助の魂が震えた。
「くっ、ぁ」
「んぶっ、んっ、んっ」
 放った佐助をこぼすことなく、幸村が飲み干す。ちゅうちゅうと残滓も吸い上げた幸村の股間が、膨らんでいた。
「旦那」
 唇を舐める幸村の前にしゃがみ、彼の猛る牡に手を乗せる。
「旦那も、気持ちよくなろっか」
 ふわ、と幸村の頬に朱が注した。いつもならば、ここで佐助が無抵抗の幸村を高ぶらせて終わるのだが、今日は違っていた。開いた下帯から、待ちかねたように飛び出した幸村の牡に、佐助が顔を寄せようとするのを、幸村が止めた。
「え、何?」
 そんなことは、今まで一度も無かった。きょとんとして見上げれば、いつになく険しい顔の幸村がいた。
 ぞく、と佐助の心臓が冷える。まさか、この行為のことを知らぬ間に幸村が理解し、とがめようとしているのではないか。拒絶しようとしているのではないか。けれどそれなら何故、自分にはしてくれたのか。油断を誘うためなのか。
 そんなことが、一瞬で佐助の脳裏に走った。
「佐助」
 ごくり、と佐助は喉を鳴らしながら、道化のような笑みを浮かべた。
「やだなぁ、旦那。どうしちゃったのさ。そんな怖い顔しっ、痛ぇ」
 佐助の足を掴んだ幸村が、ぐいと引き寄せ佐助が転ぶ。そのまま両足を開かせた幸村は、仰向けの佐助を見下ろした。
「いつもは、別々に心地ようなっておるが、此度からは共に、な」
「へっ?」
 どういうことかと驚く間に、幸村がはにかみながら竹筒を取り出す。その蓋が開かれ漂ってきた香りに、佐助は目を丸くした。
「旦那、それ」
「丁子油だ。このようなときにも、使うのだろう?」
「いや、あの、えっ、そうだけど、なんで、えっ、ちょっ」
 はずかしそうに、幸せそうに微笑む幸村が、佐助の足を高く抱えて尻を浮かせ、丁子油を垂らす。愛だの恋だのと聞けば、真っ赤になってしまう主の行動に、佐助の理解がついていかない。
「ちょ、まって、旦那、ちょっと」
「恥ずかしがるな。俺とて、恥ずかしい。なれど、佐助を心地ようしたくて、色々と勉強をしたのだぞ」
 照れくささを押し隠そうと唇を尖らせる幸村は、変わらず無垢で愛らしい。けれど、この状況とはあまりにも不釣合いだ。
「だ、んな? え、うそ」
 幸村の指が、ひたりと佐助の尻に当たる。
 ちょっとまってくれよ。俺様、こんな展開は予想していなかったんだけど。そろそろ繋がってもいいかなぁなんて思っていたけれど、だんなの初心さ具合から、立場は逆になるとか思っていたんだけど。
 そんなことがグルグルと頭を駆け巡っている間に、幸村の指が佐助の秘孔を押し広げた。
「っ、あ」
「おお。あたたかいな」
 ぐにぐにと、珍しいものに触れた子どもの無邪気さそのままで、幸村が佐助の秘孔を暴いていく。その相違に、佐助はクラクラとした。
「たしか、このあたりだったはずだが」
「ひんっ」
 幸村が秘孔を探れば、佐助が高い声を発した。幸村がしたりと、見つけた箇所を責め立てる。
「ぁはっ、ぁ、そんっ、ぁ、旦那ぁ、なんでっ、ぁ、ああっ」
「言っただろう。勉強をしたと。書物のみで、実践は始めてゆえ、どうなるかと思ったが、安堵した」
「ぁあんっ、安堵しないでぇええっ」
 にこにこと、幸村が佐助の秘孔を広げてえぐる。その度に佐助は声を上げ、身を震わせ、牡の先から蜜をこぼした。
「はひっ、はっ、ぁああ、そこばっか、ぁ、だめっ、旦那っ、ぁ、俺様、ぁ、ああっ、あっ、くぅうううっ」
 ぐん、と佐助が腰を突き出し、欲を放つ。
「おおっ」
 嬉しげな声を上げた幸村が、ぐったりとする佐助の上に圧し掛かった。
「心地よかったか。佐助」
「はっ、はぁ、は……も、さいあくぅう」
 へなへなと声を揺らす佐助に、幸村が眉を下げた。
「初めてゆえ、許せ」
 しゅんとしてしまった幸村に、思わず笑みがこぼれる。
「そういう意味じゃないよ、旦那」
 くしゃりと髪をかき混ぜれば、幸村が問うように佐助を見つめた。その瞳に唇を寄せれば、愉快な気持ちが湧き上がる。
 どっちがどっちでも、かまわないじゃないか。目的は、共にあり続けるということなのだから。
「旦那」
「うん?」
「俺様ばっかイッちゃって、旦那、つらいでしょ」
 手を伸ばして掴めば、幸村の牡はこれ異常ないほどに熱くなり、先端を濡らしていた。そこをクリクリと指の腹で刺激すれば、心地よさげに幸村が鼻を鳴らす。
「ふふ。旦那ぁ、一緒に、気持ちよくなるんだろ? だったら、ほら、早く」
 足を広げて幸村の腰に巻きつければ、照れくさそうに頷いた幸村が、腰を進めた。
「っ、ぁ、は、う」
「くっ、佐助、痛くは無いか」
「んっ、平気、だから」
 指でほぐされていたとはいえ、幸村のそれは比べようも無いほどに逞しい。みちみちと媚肉が開かれ圧迫されて、佐助は顎を仰け反らせてあえいだ。
「はっ、ぁ、あっ、あ」
 旦那が、俺様のナカに――。
 深く沈んでくる熱とともに、幸福が胸に渦巻く。そしていよいよ全てが埋まると、頭の先まで何もかもが全て、幸村と同化しているような心地になった。
「は、ぁ、旦那ぁ」
 意図をせずとも甘えた声が出て、佐助は幸村の首に腕を回して唇を寄せる。
「っ、ふ、キツイ、な」
「ぁ、仕方ないだろ、んっ、旦那っ、ぁ、おおき、ぃ」
 ふわあ、と幸村の顔が赤くなった。それに、ふふっと微笑んで、ちゅっと鼻先に口付ける。
「ね、旦那。動いて」
「しかし」
 ぎちぎちと締め付けてくる肉筒は、動く余裕があるようには思えない。ためらう幸村に、大丈夫だよと佐助がささやく。
「旦那も、このままじゃ辛いだろ」
「苦しくは無いか」
「ぁ、苦しいよ」
 慌てた幸村が抜け出ようとするのを、腰に絡めた足で引き止めた。
「んぁ、そうじゃなくって。旦那の熱を、もっと感じたくて、苦しい」
「佐助」
「ね?」
「うむ」
 唇を重ね、ゆっくりと幸村が動き出す。はじめは佐助を気遣う余裕もあったが、若い性は従順に欲に従い、幸村の腰を速めた。
「はぁっ、はっ、ぁ、佐助っ、く、佐助ぇ」
「はんっ、はんぁ、ああっ、旦那ぁ、すご、ぁ、はげしっ、ぁ、もっとぉ、あ、旦那ぁ」
 もっと、もっと強く、離れがたくなればいい。この人が立場というものを自覚し、身分の違いを理解し、妻を娶り自分に見向きがなくなるときに、それでも裏では手を伸ばし、変わらぬ笑みを浮かべて自分を呼んでくれるようになればいい。
「ひっ、ぁあ、旦那っ、ぁ、もっ、だめっ、でるっ、ぁ、から、旦那もっ、ぁあ」
「ふっ、んっ、佐助っ、さすっ、くぅうっ」
「っ、ぁあああぁああああ――〜〜〜〜!」
 ぐうんと大きく深くえぐられて、佐助が放つ。肉筒が締まり幸村を促し、佐助の奥で熱が爆ぜた。
「はっ、はぁ、あ、ああ」
「ひっ、ひぅ、うっ、はふ、ぅう」
 ぶるぶると互いの身を震わせて、残滓までをも吹き出した二人は、顔を見合わせクスリと笑い、額を重ねた。
「佐助」
「なぁに、旦那」
 言いようの無い、甘くあたたかなものが佐助を包んでいる。このままふわふわと雲にでもなりそうなほどに、心が軽い。ああ、この人は太陽のような人だから、自分は雲になって、その熱をずっと浴び続けていたい。
 静かに瞼をおろした佐助の耳を、ささやく声が撫でた。
「好きだ、佐助」
 驚き、目を開ける。そこには、とろけそうなほどに甘い笑みを浮かべた幸村がいた。
「えっ、え?」
「情を重ねるというのは、そういうことなのだろう?」
 まばたきをして呆然と見つめてくる佐助に、幸村は照れくさそうに、幸せそうに、言葉を続けた。
「幼き頃は、佐助が何を求めて、俺にかようなことを望むのかがわからなかったが。酒の席で、その、いろいろと聞くこともあり、佐助が俺とは慣れがたく、深くつながりたいと望んでおるのだと、わかってな」
 羞恥をこらえ切れなくなったらしい幸村が、佐助の肩に顔を伏せる。
「打ち震えるほど、嬉しかったぞ」
 ああ、そうか。
 佐助は唇に笑みを乗せ、瞼をおろした。無邪気に、懸命に、佐助の望むままに意味もわからず苦しいであろう口淫を続け、覚え、さらに佐助を高めようと奮闘していた弁丸の姿が浮かぶ。
 彼もまた、必死に自分とのつながりを深めようとしてくれていたのか。
「旦那ぁ」
 彼のために作るみたらし団子の蜜よりも、ずっと甘い甘い思いを乗せた唇に、幸村はそっと口をつけて味わった。

2013/09/30



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