遠くに、勇ましく嬉々とした雄たけびを聞きながら、猿飛佐助はあぜ道に腰掛け、頬杖をついていた。 雄たけびと大気の揺れを感じる以外は、のどかな秋の昼下がりである。くちくなった腹と日差しが、佐助を眠りに誘っていた。 あふ、と大きなあくびを遠慮なく零し、眠い目でせっせと野良仕事に精を出す男を眺める。 奥州の軍師、片倉小十郎。 戦場に在っては人々に畏怖される男が、野良着姿で農作物に慈愛に満ちた目を向けている。 初見の折は、その意外さに目を丸くしたなと、なつかしく見つめる。今ではもう、彼の肌から土の香りが漂ってくることを、当たり前と認識していた。 足を自分に引き寄せ、佐助はそっと息を吐く。 徳川の世となり、泰平が成ったとはいえ、細かな争いはそこここにある。それを鎮めるための鍛錬と称して、佐助の主・真田幸村が、好敵手と定めた相手、奥州の伊達政宗と手合わせを楽しんでいる間、佐助はこうして小十郎の傍で時間を潰している。始めの頃は熱中しすぎた主たちが、とんでもない怪我でもしてしまわないかと心配をしていたが、真剣でやらなければ見張っている必要も無いだろうと、小十郎が刃を潰した得物を使用する事を提案し、それが完成してからは別行動をとっている。 刃を潰すと言っても主らの力量であれば、十分に殺傷能力を持てる。万が一、彼らを狙う別の誰かが、仕合いに夢中になっている隙を狙おうとしても、問題は無いだろう。 小十郎が籠を手にあぜ道に上がる。佐助は腰を上げて、彼の後をついて歩いた。小十郎が気配で佐助を気にしている。声どころか視線すら向けてこなくとも、小十郎の全身から放たれる気配が、佐助を意識している。 ぶる、と佐助は身を震わせて苦笑した。腰の辺りに熱が灯っている。 なんとも言えない顔をして、小十郎の後をついて歩く。小十郎は、気付いたのだろうか。伺う目を広い背中に向けるが、何の変化も感じられない。 佐助は軽く肩をすくめて、ぶらぶらとのどかな空気の中を歩いた。 納屋に入った小十郎に続き、佐助も足を入れる。小十郎が農具を片付けるのを、詰まれた藁の上に腰掛けて待った。 片付け終えた小十郎が、眉間にしわを寄せて佐助を見る。けわしい顔の理由がわからず、佐助は首を傾げた。「そんな目で、俺を見るんじゃねぇ」「そんな目って、どんな目?」 ふふんと佐助があごを上げれば、小十郎は鼻の頭にしわを寄せた。 ぞくぞくと、佐助の胸が震える。鼻梁の整った男らしい彼の顔が歪んでいる。その理由が自分である事が、いつの間にか佐助にとって楽しいものとなっていた。「なんて顔してんのさ」 くすくすと佐助は両手を差し出した。渋面のまま、小十郎が佐助の腕の間を通る。唇と唇が触れて、小十郎の腕が佐助の腰を抱いた。「んっ、ふ、んんっ、ん」 ついばむ口付けが、繰り返すうちに深くなっていく。小十郎の腕が着物の上から佐助の肌をまさぐり、佐助はもどかしく小十郎の着物を剝いだ。「まだ、昼間だぜ?」 半裸の佐助が楽しげに咎める。「テメェが誘ったんだろうが」「へへっ」 自分の疼く熱に小十郎が気付き感化されていたと知れて、佐助の愉悦が深まった。湧き上がる情動のままに、小十郎のたくましく盛り上がった胸筋にかみつく。「っ、おい」「んふふ」 歯型を舌でなぞり、胸乳に吸いつく。甘える佐助の髪に、呆れと許しを含んだ息がかかった。胸をくすぐられた佐助は手を伸ばし、小十郎の熱を掴む。藁の上で身を滑らせ、小十郎のヘソを経過した佐助の舌が、牡の先に触れた。「んっ」 そのまま口内に導いて愛撫する。小十郎は身じろぎもせず、佐助の好きにさせていた。小十郎の肌の熱が上がり、息が乱れて行くのを肌身に受けながら、佐助は喜びを舌技で示す。奉仕をすればするほど、小十郎の牡が熱く硬くなっていく。少し苦味のある独特な味が舌に触れ、佐助はますます励んだ。「んっ、ふっ、んむっ、んっ、んはっ」 しゃぶるほどに雄々しくなる牡が、佐助の口内を擦る。触れていない自分の牡も屹立し、求め震えている。それに手を伸ばし擦りながら、佐助は小十郎の欲を丹念に味わった。「ふっ、猿飛」 小十郎の声が上擦っている。「んふ。まだまだ。……もうちょっと、我慢して」 佐助の胸が喘ぎ、全身に熱を運ぶ。滲む小十郎の欲を味わいながら、佐助は自身の蜜を指に絡めては秘孔に運んだ。「んっ、んふっ、ふ、んっ、は、ぁあ」 口内の熱をギリギリの所で焦らし続ける佐助もまた、じりじりと欲の熱に炙られている。この焦がれる感覚がたまらなくて、佐助は恍惚に意識を浸しつつ小十郎をしゃぶり、自らの蜜で秘孔をほぐした。「んはっ、は、はぁ、あ、あ」 指では足りない。口内にある熱が欲しい。けれどまだ、もう少し――。「猿飛」 小十郎の苦しげな声が、佐助の鼓膜を愛撫する。「ふっ、もうちょっと、ぁ、待って」 小十郎が臨界に達しようとしている。もう少し、あと少しだけ待ってくれと、佐助は自らを犯す指をせわしなく動かし、小十郎の熱をギリギリで留めた。「は、片倉の旦那……おまたせ」「っ……う」 嫣然と笑んだ佐助が、小十郎の牡を吸い上げる。張りつめきっていた牡は、見事に弾けて子種を吹き上げた。口内に受け止めた佐助は、筒内に残るものも吸い出して、口内で転がし集め、手のひらに零した。それを不足の湿りとして、秘孔に塗る。「猿飛」 小十郎の息が手負いの獣のようで、佐助は口の端を不敵な優越に歪ませる。「いいよ。お待たせ」 佐助の唇に、小十郎の唇が押し付けられる。足を抱えられた佐助は、小十郎にしがみついた。「自分の子種の味がすんのに、なんでいっつも接吻すんの?」 佐助の秘孔に押し当てられる小十郎の熱は、早々と硬さを取り戻している。「夜のお前が、いつだって泣きそうな顔で縋りついてくるからだ」 はっと見開かれた佐助の目が揺れる。頬笑み、小十郎は腰を埋めた。「ぁがっ、ぁ、あはっ、か、たくらの、だん、な、ぁ」 息を詰まらせる佐助の仰け反った首に、小十郎の唇が触れた。「ふっ、ずりぃ、ぁ、そんっ……は、ぁあ」「どっちがだ。――猿飛」 痛みを含んだ慈しみの声に、佐助の瞳が揺れて光る。「俺しか、居ねぇぞ」 ふるふると、佐助は頼りなく首を振った。「俺様の内側にある力、知ってんだろ? 片倉の旦那」 ちろりと姿を現した闇を、佐助は唇を噛んで押しとどめた。「小十郎、だ」 小十郎が優しく咎め、佐助はまたも首を振った。「今はまだ、片倉の旦那、だよ」 小十郎が怪訝に眉をひそめる。「咲いて乱れても、昼の顔ってね」 おどけてみせた佐助に深い息をこぼし、小十郎はニヤリとした。「なら、今夜は夜の顔も見せるんだろうな」「そちらさん次第かなぁ」 くすくすと佐助が唇に甘える。それに応えつつ、小十郎は体を揺らした。「んはっ、はっ、ぁ、ああっあ、ぁはぁううっ」 小十郎の熱が佐助の内側の熱を高め、舞い上がらせる。陽炎がちらつくほどの熱さに、佐助は今が昼であることを忘れそうになった。「猿飛」「ぁあっ、はっ、ぁ、こじゅ……っ、片倉の、ぁあ、旦那ぁ」 言いかけた佐助に気付きつつも、小十郎は言葉を紡がず佐助を穿つ。「はっ、ぁはぁううっ、ぁ、もっと、ぁ、ああっ」 佐助の望むまま、小十郎は持ちうる熱の全てを使い、彼を高めた。「はっ、はんっ、はんっ、ぁ、ああっ、もぉ、ぁあ」「猿飛……っ」「っあはぁああああ――っ!」 小十郎の熱が注がれ、佐助が仰け反り弾ける。あえぐ胸をあやすように唇を寄せた小十郎の髪に、佐助の指が絡んだ。「は、ぁ……片倉の旦那ぁ」 甘えた声に、小十郎の唇が触れる。「夜には、小十郎って呼ばせてくれんだろ?」 肩をすくめて首を傾げた佐助の鼻に、小十郎は噛みついた。「明日には、声が出なくなっているかもな」「ええー。それは、ちょっと困るかも」 楽しげに身を捩りつつ、佐助は小十郎の下から逃れた。うんっと腕を伸ばす背には、無数の傷が残っている。戦場のものではなく、鍛錬のために出来たものと聞いているその傷跡に、小十郎は手を伸ばした。「おっと」 すんでのところで交わした佐助が、人差し指を唇に押し当てた。「それは、夜に」 何もかもをさらけ出し、泣き咽び縋りつくのは、身に沈めた力を拒まぬ時刻に――。 言葉にしない佐助の声を聞いた小十郎の目に、寄る辺無く揺れている野花が見えた。「ねぇ、片倉の旦那」「なんだ」 のそりと身を起こした小十郎に、佐助が微笑む。「昼顔の花言葉って、知ってる?」 小十郎の腕に引き寄せられた佐助は、乱暴に唇をふさがれ瞼を伏せた。 2014/10/05