寝室に入った片倉小十郎は、険しい顔で襖を閉めた。 室内は暗く闇に沈んでいる。小十郎は闇に溶けた自分の影に声をかけた。「いつまで人の影に乗っているつもりだ」 すると床の闇がふくらんだ。小十郎はそれを険しい顔でながめている。「いつから気づいていたのさ」 ふくらんだ闇は、人の顔になった。あるかなしかの光を含んで、ふたつの瞳が輝いている。小十郎はやれやれと嘆息した。「俺の寝首でも、掻くつもりだったのか。それとも、この奥州の情報でも探りに来たのか」「やだなぁ。俺様のことを、そんな卑怯者だとでも思ってたわけ?」 へらへらと答えた相手を、小十郎は「猿飛」と苦々しく呼んだ。「テメェは忍だろうが」 にんまりとした猿飛佐助は、ずるずると闇から床の上へと全身を出した。「まあ、たしかに俺様は忍けどさ。やるなら片倉の旦那の影になんて入らずに、もっとうまくやるっての」「俺の影に入っているほうが、重要な情報を手に入れやすいだろう」 佐助はちょっと肩をすくめた。「たしかに。片倉の旦那はここの領主の側近だし? くっついてたら便利だろうなってのは、まあ誰でも思うよなぁ」 しかし、という言葉が言外に匂っている。小十郎は形のいい眉をひそめた。「そんな険しい顔をしなさんなって。いい男が台無しだぜ?」 佐助は気やすく、小十郎の眉間に人差し指を立てた。ぐりぐりと険しいシワをほぐすように、指を動かす。「やめねぇか」 小十郎が指を叩き落とそうとすると、佐助はさっと腕を引いて笑みを深めた。「畑の土とか野菜の苗とかに向けているみたいなさ、やさしい笑顔を俺様に向けてくれても、いいんでないの?」「理由もなしに、そんな顔なんざできねぇな」「ええ。けち臭い。かまわないだろう、笑顔くらい。減るもんじゃなし」 小十郎は深々と息を吐きつつ首を振った。「で。なんの用だ」 ぎろりと目を向ければ、佐助は「おお、こわい」とまったく怖くなさそうな様子で、おどけた。「暇つぶしなら、帰れ。お互い、これから忙しくなるだろう」 小十郎はめんどうくさそうに、夜具にごろりと横になった。すると佐助がいそいそと隣に並ぶ。「なんだ」「なんだって……。わかんないほど鈍いわけ?」 佐助が意味深に目を細める。艶やかに輝く瞳に、小十郎は息を呑んだ。「ねえ、片倉の旦那」 甘い声に、小十郎は体ごと顔をそむけた。「あっ。ひっでぇ」 佐助の腕が小十郎の肩にかかる。小十郎はその腕を払いのけた。「なんだよ。せっかく俺様が会いに来てやったってのにさ」 文句を言いながらも、佐助は帰るそぶりを見せない。「そのためだけに、来たっていうつもりじゃねぇだろうな」「ほかに、どんな用があるっていうのさ。奥州の秘密はべつにいらないし、旦那や大将からの文なんて預かってないぜ」「どうだかな」「俺様を疑ってんの? まあ、忍相手だから当然か」 佐助が身を起こす気配を、小十郎は背中で感じた。ごそごそと衣擦れの音がする。「? 猿飛」 小十郎が身を起こすと、佐助はきょとんとした。「なに?」「それは俺のセリフだ。なにしてやがる」「なにって、着物を脱いでんだよ」 布が床に落ちる音がした。「片倉の旦那は俺様ほど夜目が利かないからさ、触って確かめなよ」 ほら、と佐助は小十郎の大きな手を掴んで、自分の胸に当てた。「ちゃんと俺様が裸になってるか、両手で触って確かめてみな。なぁんも武器を仕込んじゃいないぜ」 小十郎は渋面になった。「灯りをつける」 佐助の胸から手を離そうとすると、しっかりとつかまれた。それほど強い力ではないが、佐助は忍だ。どうすれば相手の動きを最小限の力で防げるのか、よく知っている。小十郎は無理に抵抗をしなかった。「灯りをつけるなんて、無粋なまねはしないでくれよ」 佐助の濡れ光る瞳が、小十郎に近づく。呼気が触れるほど傍に寄った佐助の目を、小十郎はただ見つめた「雪が溶けたから、これから往来が激しくなるだろ。田畑の世話だって本格的にはじまっちまうから、お互い、寝る間も惜しんで働かなくっちゃならなくなる」 佐助の息が甘いと、小十郎は思った。「ここまで言えば、俺様が来た理由、わかるだろう?」 あやしくひそめられた声に腕を伸ばした小十郎は、佐助の肩を掴むと床に沈めた。「わわっ」 受け身を取った佐助の上に、小十郎がのしかかる。「そのためだけに来たってんなら、遠慮はしねぇぜ」「遠慮なんて、されるほうが不完全燃焼で困るって」 佐助の腕が小十郎の肩にかかる。 もっと灯りが欲しいと、小十郎は望んだ。夜目の利く佐助ばかりが、こちらの表情を楽しんでいるというのは面白くない。「おい、猿飛」「灯りはなしだぜ、片倉の旦那」 小十郎は舌打ちをした。佐助がケラケラと笑う。「言っただろ。触れて確かめなって……、さ」「なら、そうさせてもらうぜ」 小十郎はもろ肌脱ぎとなって、佐助に襲いかかった。唇を重ねて舌を伸ばし、乱暴に口腔をまさぐる。「んっ、ふぅ」 佐助の腕が小十郎の首に絡む。うごめく小十郎の舌に、佐助の舌が挑みかかるように絡んだ。「ふっ、ん……んぅうっ」 蜜技というよりも攻防と呼ぶにふさわしい動きで、ふたりは互いの熱を求めた。薄くしなやかな佐助の肌に、小十郎は無骨な手のひらを乗せた。無駄なものをそぎ落とした、柳の枝のようにしなやかな体の輪郭を両手でさぐる。「ふっ、ん、う」 佐助はうっとりとした目で、小十郎をながめていた。それが小十郎には気に食わない。眉間にシワを寄せて、佐助の胸をまさぐると尖りをつまんだ。「んふっ、ぅう」 乱暴に両の乳頭を指の腹でこねれば、佐助の目が険しくなり、抗議をするように小十郎の背中をたたいた。小十郎は重ねたままの唇の端を持ち上げ、佐助の舌を強く吸った。「んふぅううっ」 佐助の腰が浮く。小十郎は満足そうな息を漏らして、佐助の首に吸いついた。「んあっ、ひっでぇ……、ひさしぶりなんだから、もっと丁寧に……、ああっ」「この程度で音を上げるのか」「そういうことじゃなくって、ぁ……、は……、そっちがその気なら、俺様だって容赦しないぜ」 佐助の目が楽しげに煌めいたかと思うと、小十郎の下帯の中に指が入った。「うっ」「浮気をしていないかどうか、確かめてさせてもらうよ」「なにが浮気だ……、っ」 佐助の手は器用に小十郎の下帯を外して、まだやわらかな陰茎に絡んだ。根元を擦られながら先端を指でくすぐられて、小十郎がうめく。「ふふん。忍の俺様とやりあおうなんて、百年早いぜ」「そういうセリフは、勝ちが決まってから言うもんだ」 小十郎はすばやく首を動かして、佐助の胸に吸いついた。指に刺激されたところが、ぷっくりと熟れている。それに軽く歯を立てて転がせば、佐助が鼻から甘い息を漏らした。「はっ、ん……、ううっ、ずっりぃ」「なにがずるいのか、さっぱりわからんな」「ううっ」 くやしげな佐助に、小十郎は鼻を鳴らした。「どうずるいのか、言ってみろ」「んんっ、エロ親父みたい……っ、ふあ」 強く刺激をされた乳頭は過敏になる。それを見越して、小十郎は佐助の両の胸先をわざと乱暴に下ごしらえをしたのだった。それに気づいていなかったわけではないだろうに、そうやってわからぬふりをするのは佐助が状況を楽しんでいるからだ。 ならば自分も存分に楽しもうと、小十郎は佐助の尖りにたわむれながら、下肢の刺激を味わった。「ふっ、はぁ……、すっご。もうこんなカチカチになってる」 佐助の手の中で、小十郎の牡は隆起していた。「テメェがそうしたんだろう?」「んふ」 佐助が楽しそうに鼻を鳴らした。暗闇でも彼の表情が読めることに、小十郎は満足した。見えるにこしたことはないが、今宵はこれで満足をしておこうと自分を納得させる。「んっ、なに?」「なんだ」「すっごい楽しそうな顔してる」 瞬時に小十郎は渋面になった。「えっ? なになに。俺様、なんかマズいことでも言っ……、ああ」 佐助の目が丸くなる。小十郎は佐助の脚を大きく開いて顔を寄せた。下帯は穿いたままかと思ったら、つけていない。小十郎はそのまま、佐助の牡を口に含んだ。「ふあっ、あ……、いきなり、あっ、あ」 佐助の指が小十郎の髪をまさぐる。小十郎は半勃ちだった佐助の牡を、丹念に口内でもてあそんで硬くした。「あっ、ふぅ、んっ、んうう、……なんで、急に」 答える代わりに、小十郎は強く佐助の牡を吸った。「ひぁあっ」 佐助の腰が浮く。小十郎は腕を伸ばして、佐助が脱いだ着物の端を引き寄せた。佐助の脚を片腕で掴みつつ、もう片手で着物を探る。すると指が貝殻に触れた。それを手の中に入れた小十郎は、顔を上げた。「これでいいのか?」 佐助の前に、掴んだものを見せる。佐助の目がまたたいた。「テメェのことだ。自分で用意をしてきたんだろう」 小十郎が鼻を鳴らすと、佐助は「ご名答」と目を細めた。「痛いの困るし、中途半端に終わるのももったいないだろ。せっかくここまで来たのにさぁ」 佐助の手が伸びて、小十郎の手の中の貝殻を奪った。「片倉の旦那の、すぐにでも入りたそうだし、準備しますかねぇ」 歌うような節をつけて、佐助が身を起こす。小十郎はすかさず佐助の肩を押し、貝殻を奪った。「テメェは転がってろ」「そっちにばっかりされるの、不公平だろ」「なにを言ってやがる。乱れる姿を見られたくねぇだけだろう」 だから灯りのない寝室まで、仕掛けてこなかった。 小十郎の読みは当たったらしく、佐助からの返事はない。「おとなしく、俺の好きにされていろ」 佐助がぷいっと顔をそむける。いやではないようだと、小十郎は頬をゆるめた。 貝殻を開けて軟膏を指にすくい、佐助の尻に触れる。びくりと佐助の尻がこわばった。「怖いか」「なんで、いまさら」「だろうな」「そう思うなら、聞かないでくれよな」 軽口の中にわずかな緊張がひそんでいるのは、羞恥があるからだろう。小十郎は佐助の内腿に唇を寄せて、軟膏をすくった指で尻の谷をさぐった。「んっ……」 秘孔の口に指が触れると、佐助が小さな音を出した。小十郎は狭いそこをあやすように、軟膏の助けを借りつつ指で探った。「はっ、ぁ……、あ」 秘孔の口がひくついて小十郎の指を食む。その動きに合わせて、小十郎は指を沈めた。「ぁはっ、は、ぁ、ああ」「つらいか」「んっ、……指でつらいとか言ってたら、片倉の旦那のなんて呑めないっての」「それもそうだな」 ふっと笑みを交わして、小十郎は指を根元まで沈めた。「はぁあっ、あ、ああ」 あたたかな内壁をまさぐりながら、小十郎はこまめに軟膏を足して秘孔を濡らした。やわらかなそこを傷つけないよう、慎重に指を動かしほぐしていく。「あっ、はぁ、あ……、片倉の旦那、ぁあっ」「なんだ」「そんな、壊れないから……、俺様」 もっと激しくしてもいいと告げられて、小十郎は迷った。「久しぶりだろう」「そ、ぅ……だけど、さ」 佐助の指が小十郎の左頬にある傷跡に触れる。「だからっての、あるかも」 佐助の目が細くなる。ずくんと小十郎の心臓が疼いた。「かわいいことを言ってくれるじゃねぇか」 凄みを帯びた小十郎の声に、佐助が「へっ?!」と頓狂な息を漏らした。「泣き言は聞かないぜ」「えっ、ちょっと……? 片倉の旦那。俺様はもうちょっと激しくてもいいって言っただけで、うんと激しくしてほしいってわけじゃあ」「もう遅ぇ」「ああっ」 小十郎は節くれだった長い指で、佐助の内壁を思うままにまさぐった。軟膏が佐助の熱に溶けて、指の滑りをよくしている。「ひぁ、あっ、ちょ……、まっ、ああ」「待てねぇな」「んんっ、うそ、ぁ、ああっ」 佐助の内側がゆるくなる。小十郎は指で広げて具合を確かめ、頃合いとみると手早く指を抜いて隆々と猛った己を押し当てた。「あっ……」「息を抜いてろ」 佐助の脚を、彼の胸につくほどに折り曲げてから、一気に牡を突き立てる。「ひっ、ぁああっ」 仰け反る佐助の喉仏に噛みつきながら、小十郎は根元まで己を埋めた。「はっ、はひっ、ひ……、は、ぁあ」 細かく痙攣をする佐助の肌を唇で確かめた小十郎は、心臓のあたりを強く吸った。「んぁっ」 闇に沈んで見えないが、佐助の肌にはうっ血が残されたはずだ。「どうした、猿飛」「はっ、ぁ……、もうちょっと、優しくしてくれてもよかったんじゃないの」「注文の多いヤツだ」「そっちが極端なのがわるいんだろ」 しばらくにらみ合ってから、同時に吹き出し唇を重ねる。「もう。片倉の旦那は俺様を大切に扱いたいのか、むさぼりたいのか、どっちなのさ」「そういう猿飛こそ、どうなんだ」「どっちだと思う?」 さあな、と小十郎は佐助の鼻先に唇を当てた。「どっちでもいい。――夜は長いからな。両方たっぷりと、味わわせてやる」 にやりと片頬を上げれば、佐助の目が満月のようになった。 クックと喉を鳴らしつつ、小十郎は佐助の耳に声を注ぐ。「この俺を夜這いするつもりだったんだろう? そのぐらい、覚悟をきめてきてんだろうな」 佐助の腕に小十郎の頭が包まれる。「お手柔らかに、なんて通じない相手だってことは、よくわかってるさ」「なら、いい」 熱くかすれた息が重なる。 闇に沈んだ二匹の獣は、互いの思うままに相手をむさぼり、求めて啼いた。 2016/05/15