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鬼宿2

 山の天気は、とかく移り変わりやすい。季節の変わり目なれば、なおのこと。
 わかってはいたが、真田幸村はつい夢中になりすぎて、木の葉の隙間を見上げて空の様子を窺ったり、鼻を利かせて雨の気配を探ることを失念していた。
「っ、ふう。参った」
 半袴姿で籠を背負った幸村は、背の籠を下ろし、手にしていた太い木の枝にくくりつけ担いでいた鹿をおろして、胸元から手ぬぐいを取り出し髪をくくる紐を解き、乱雑に髪をぬぐって首元を拭いた。
 秋の味覚を求めて山に入り、つい肉置き(ししおき)の良い牡鹿に夢中になり深追いをしてしまった。背の籠には、栗やキノコがひしめいている。雨に濡れて立ち上る芳香を深く吸い込み吐き出して、幸村は雨宿りに飛び込んだ洞窟の入り口に、目を向けた。
 ざんざんと、雨の帳が視界をさえぎっている。これほどの大降りならば、一刻ほどもすれば止むだろう。
「くしっ」
 くしゃみをし、ぶるっと身を震わせた幸村は洞窟の奥へ目を向けた。秋の雨は、体を冷やす。土はぬくもりを残しているので、洞窟の奥は暖かいのではないかと思い、先に進もうと決め、籠と牡鹿を抱えて進んだ。
 人が一人、やっと通れるぐらいの大きさの洞窟は、薄暗い。慎重に足を運ぶ幸村は、生暖かな風と、腐葉土のような甘い香りを受け止め、導かれるように突き進んだ。
「なんと」
 少し低くなった天井をかがんでくぐれば、十畳ほどの広さのある場所に出た。奥に小さな祭壇があり、その周囲にヒカリゴケが生えている。ほんのりとした甘い香りは、このヒカリゴケであったかと、幸村は得心しながら荷を下ろし、祭壇に近づいた。
「おお、これは助かる」
 そこには火打石が置かれていた。首をめぐらせれば、祭事のときに使うのであろう、乾いた薪と藁が置かれている。
「このような場所があるとは、ついぞ知らなかったが」
 藁を敷いてその上に薪を並べ、祭壇に手を合わせてから火打石を手にする。
「佐助に問えば、きっとどういうところなのか知ることが出来よう。この薪と藁を拝借し、体と着物を乾かさねば」
 ついでに、腹も満たしたい。借りたものは、腹心の忍である猿飛佐助に頼み、返せばよい。早速に火打石を打ち合わせて藁に火をおこした幸村は、濡れた着物を脱いで広げた。
「下肢から冷えて、風邪をひくこともあると申しておったな」
 口うるさく注意をしてくる佐助の言葉を思い出し、このような山奥に女人は来ぬであろうと、幸村は下帯も外して乾かすことに決めた。
「まるで、幼子の頃に山に入り遊び呆けていた頃のようだな」
 一人、くすくすと思い出に胸をくすぐられながら、幸村は栗を火にくべキノコを焼いて、腹を満たした。腹も満たされ、ぬくもってくると、次は眠気が襲ってくる。遠くから流れ込んでくる雨音は激しく、まだまだ止みそうにない。少しくらい横になってもかまわぬだろうと、幸村は火打石を祭壇に戻し、ふかふかとしたヒカリゴケの上に身を横たえた。ヒカリゴケがついたとしても、後で手ぬぐいで体をぬぐえば、それでいい。
 横になり、ヒカリゴケの香りにつつまれれば、すうっと意識が眠りに引き込まれ、幸村は瞬く間に寝息をかきはじめた。

 ごり、ぼり、と硬いものを噛み砕く音がする。何の音かと、幸村は眠りのふちに手をかけて、意識を起こした。目覚めたばかりの目に映ったのは、淡く発光している緑。ああ、と自分がどこに居るのかを思い出した幸村は、骨を噛み砕く音に緊張を走らせた。この音は、仕留めた牡鹿が食われているのだろう。腹をすかせた熊でも、入ってきたのだろうか。勢いよく飛び起きれば、相手を警戒させてしまう。気付かれぬように身じろぎをし、音のするほうへ目を向けた幸村は、驚愕に目を見開いた。
 牡鹿が、何かに食われている。それは間違いない。牡鹿の肉が削られ、消えていく。
 ――これは、どういうことだ。
 幸村は、息を潜めて困惑した。牡鹿は、確かに食われている。だが、食っているものが見えない。空間に削り取られていくように、牡鹿が骨ごと肉を食まれて消えていく。そしてその削れていく場所は、一箇所ではない。複数の何かが、牡鹿を食んでいる。
 ごくり、と緊張に喉が鳴った。これはいったい、どういう現象なのだろうか。妖の住処に、自分は入り込んでしまったのか。
 緊張を全身にみなぎらせる幸村の目が、牡鹿が完全に消え去ったのを確認した。がらん、と牡鹿をくくりつけていた木が地面に落ちる。ばくばくと心臓が痛むほどに脈打ち、落ち着けと幸村は自分に言い聞かせた。
 見えぬ相手は何者なのか。
 その疑問は、すぐさま解消された。くすぶる焚き火が、異形の者を――鬼と称される者の姿を、ほんの一瞬、浮かび上がらせた。
 ヒュッ、と幸村の喉が鳴った。その一瞬で、鬼の姿はまた不可視となる。この祭壇は、鬼を祀るものであったのか。だから祭壇の火打石と奉納されたらしい薪や藁で、見えぬ姿が浮かび上がったのか。
 すぐさまそう理解した幸村は、くすぶる焚き火が消えぬ前に、残りの薪や藁に火をつけようと決めた。そうすれば、鬼の姿が目に映る。何かあれば交わし、利くかはわからぬが牡鹿を仕留めた手槍を振るって逃れられる。見えぬままでは、どうにも動けない。
 よくよくに目を凝らせば、空気がそこここで陽炎のようになっている。きっとあれが鬼なのだろう。焚き火は、燃え盛るとも消えるとも無く炎を維持している。呼吸を整えた幸村は、陽炎の隙間を見定め、全身の筋肉を鞭のようにしならせて起き上がり、地を蹴った。
「はぁああっ!」
 一気に焚き火への間合いをつめて、手を伸ばす。燃えきっていない、薪へ。
 ――いける。
 そう確信した幸村の長い後ろ髪が、強く引かれた。
「あうっ」
 がくん、と動きが止まる。頭皮の痛みを感じる前に髪は離され、変わりに手足をつかまれ中に浮かされた。
「くそっ、離せ! 離さぬかっ」
 暴れてみても、恐ろしい力で掴み上げられ暴れることすら叶わない。身を起こされて顎を掴まれたかと思うと、生臭い空気が顔を覆った。
「ぐっ、げほっげほっ、ぉぐっ」
 あまりの生臭さにむせた口に、何かが突っ込まれた。喉の奥まで差し込まれたそれの先から、ぬらりとした液体があふれて幸村の喉に注がれる。
「ぐげっ、げふっ、ぉ、かはっ」
 咽頭に注がれたものは、飲み下すしかない。望まぬままに多量に飲み下されたものが、ゆったりと体内に落ちていき肌身に沁み込んでいくのを感じながら、息苦しさに幸村は目じりに涙を浮かべた。
「ぐはっ、は、ぁ、あぁ」
 ざわりと産毛が逆立つ。
「っ、あ、何、だ……これは」
 体のあちこちが甘痒く疼き始める。気泡のような甘さが体の奥からふつふつと湧き上がり、はじけるたびに肌身に官能が走るのに気付き、幸村は恐ろしさに身を震わせた。
「あっ、ぁあ、これは、これは」
 どういうことなのか。鬼に食われる者は、途中から心地よくなるのだという。痛みではなく、快楽を味わうのだと。あの呑まされた何かは、食われる痛みを官能に変える薬のようなものなのだろうか。
 ――だとすれば、俺は食われるのか。ここで、果てるというのか。
 敬愛する武田信玄の、お館様の天下統一を見ぬままに。血沸き肉踊る、好敵手伊達政宗との決着をつけぬままに。
「いやだっ!」
 そのようなこと、天子様がお望みになった自分の天寿であろうとも、受け付けぬ。
「くっ、ぉ、おおおっ」
 紅蓮の鬼と称される自分が、鬼に食われて跡形も無く消えうせるなど、ガマンがならぬ。総身に力を込めて抗おうとする幸村を、あざわらうかのように掴まれた腕も足もびくともしない。それどころか、呑ませた液体の効能を確かめるように、見えぬ手が幸村の逞しく鍛え上げられた、弾力のある筋肉を押し、その肉筋の流れを確かめるように滑った。
「っ、は、ぁああ」
 意図せず、自分の声とは思えぬほどに、甘く淫靡な悲鳴が上がった。驚き戸惑う幸村の反応を他所に、無数の手のひらが中空に浮かんだ幸村の胸を、脇を、鎖骨を、腕を、足を、背を、尻を、形を確かめるようになでまわす。
「っ、ぁ、く、ぅうっ、やっ、やめっ、ぁ、離せっ、はぁあ」
 幸村に出来るのは、せめて声を上げぬようにするぐらいだが、意識を裏切るように、本能は従順に触れられる快楽に打ち震え、若い性は首をもたげて喜びを示し、蜜をあふれさせた。
「あ、そんっ、な、ぁ、く、ぅうっ」
 自分の身のあさましさに、性的なものに潔癖で初心な幸村は奥歯を噛み締め、不甲斐なさを呪う。けれど、どれほど意識が屈さずとも、体は呑まされたものの効能ゆえか、それとも鬼の手の巧みなせいか、褐色の肌を快楽に薄く色づかせた。
「んっ、ぅう、ぁ、ひっ、ひぃいっ」
 硬く目を閉じ歯を食いしばる幸村を、鬼らは好きに撫で回す。ぬるりとした温かなものに陰茎を包まれ、扱くように吸われて、幸村は腰を震わせた。意識の裏で、本能が声を上げる。
 ――気持ちいい。
 それを認めるわけにはいかぬと、幸村はますます総身に力を込める。すると、ふっくらとした胸筋を滑っていた鬼の手が、ぷつりと起き上がった胸乳の尖りに絡んでもてあそび始めた。
「は、ぁうっ、んっ、く、ぅう」
 そのようなところが快楽点になるとは思わず、幸村は驚きながらも歯を食いしばる。それが面白くなかったのか、幸村の鼻を何かが摘んだ。
「ぶはっ、はっ、ぁ、おぐっ」
 呼吸が出来ず、思わず開いた幸村の口に、太く逞しいものが突き立てられた。それが口腔をかき回しながら、甘くとろりとした液体を喉に注ぐ。
「おぐっ、ぅ、ぐふぅううっ」
 呼吸をするには、それをしゃぶり呑まねば叶わない。不本意なまま幸村は口内の見えぬ何かをしゃぶり、あふれる液体を嚥下した。その度に体の熱が上がり、胸乳は甘く痺れ、ぬるつくものに扱かれる牡が限界を迎えた。
「ぉぐっ、ふっ、んぶふぅうううっ」
 喉を突かれながら、絶頂を迎える。びくびくと放ちながら、心地よさにトロリとしかけた幸村の意識を引き戻そうと、全てを放ち終えていない蜜口に、蓋がなされた。
「ひぐっ、ぉ、ぶぅうっ」
 叫ぶ幸村の喉を、突き入れられた熱い塊が圧迫する。放つ途中の蜜口をふさいだ何かが、そのまま内部へと進み、蜜筒を擦りかき回した。
「んぉっ、ぉふっ、ふひっ、ひ、ひ、んぐっ、げふっ」
 陰茎の内部を何かにいじくられるなど、想像すらしたことがない。蜜筒をかき回され、放ちきれなかった野欲が留まり逆流し、骨の髄に流れるものを快楽に変えてしまう。そのために窄まった幸村の口に、多量に獣臭く甘い液体が弾けるようにあふれ、むせた幸村の口の端や鼻から、それが流れた。
「げはっ、げほ、は、はぁ、あ、やめっ、ぁ、ああ」
 脳の芯まで甘く痺れている。拒絶の言葉を紡ぐ唇から、あふれでる息は淫靡な熱に囚われていた。
「ひはっ、ぁ、あは、ぁうっ、ぁ、そのようにっ、ひっ、はぁう」
 口内で弾けた液体が次々に幸村の肌に降り注ぐ。それが体中に塗り広げられ、ぬめる肌は少々強くされても痛みを感じない。それどころか、与えられる刺激がぬるいと、より激しく乱されたいと皮膚の下に渦巻く欲が、身もだえ暴れた。
「んひぃいいっ、やっ、ぁ、胸っ、もげっ、ぁあ、そんっ、強っ、ひ、もげるぅううっ」
 胸の尖りをつままれ捏ねられ、ぎゅうっと強く引っ張られ、目の前に火花が飛び散る。好き放題に左右のそれをもてあそばれて、幸村はあふれる唾液を口から垂らし、小鹿のように身を震わせて声を上げた。
「ひっ、はぁ、あっ、は、はぁ、も、もぉ、ぁ、イキた、ぁ、はぁあ」
 何ものかにふさがれかき回される蜜筒に、野欲の液が爆発しそうなほどに溜まっている。それを放ちたくて、幸村は涙をこぼして首を振った。
「ふっ、く、ぅうう」
 ――このような恥辱、屈するわけには参らぬ。
 なまじ強靭であるがゆえに、早々に狂うてしまえば楽なものを、幸村は一遍の理性のために自らをより窮地に立たせた。素直に放ちたいと泣き叫び懇願するのではなく、彼は自由にならぬ泥土のような快楽に包まれながら、屈することを拒んで歯を食いしばる。そんな意地を打ち砕くように、彼の尻がわし掴まれ、左右に広げられた。
「ひっ」
 小さな窄まりが、見えぬ相手の無数の視線に晒されている。ひくりとおののく菊花に、あの甘い謎の液体が触れて、幸村は足を広げた形でさかさまに浮いた。
「ぁ、何っ、ぅう」
 体を丸められ、目の前に自分の陰茎が来る。その先端の口が何かに押し広げられ、内部がかき回されて広がり、ぐちぐちと精液があふれるのが見えた。
「っあ、ううっ」
 見たくないのに、幸村の目はしっかりと開き、自分の陰茎が犯されているさまを、意識にまざまざと突きつける。奥に揺れる蜜嚢が、やわやわと見えぬ何かに揉まれているのも、わかった。
「ぁ、は、はぁ、あっ、ぁあ」
 自分の性器が、どんなふうになっているのか。はっきりと見せ付けられた幸村の若い性欲が、ぶわりと広がり意識を包んだ。かろうじて残っていたはずの理性が揺らぐ。
「ぁ、もう、やめっ、ぁ、おやめくだされっ、ぁ、はぁあ」
 制止の言葉を紡ぐ自分が、本当にやめて欲しいのか、さらなる快楽の渦に叩き落されたいと願っているのか、わからなくなった。そんな幸村の気持ちを知ってか知らずか、見えぬ鬼は恐れおののく菊花に甘い液を注ぎいれ、秘孔の入り口をあやしはじめた。
「っ、い、ぁ、何っ、ぁ、ああっ、あ」
 戦国の世では、衆道は当たり前のように行われている。それを知らぬ幸村ではなかったが、初心な彼の知識は、秘孔を使うことにまで届いてはいなかった。
「っ、は、ぁ、あはぁああっ」
 秘孔の内側に、やわらなかものが押し込められ、それがグニグニと動いて肉壁を刺激し、探る。その最中に押された一点に、幸村が激しく反応し声を上げたことに、見えぬ鬼らは興奮をしたらしい。生臭い呼気が周囲に立ち込め、甘い液が次々に幸村の全身に浴びせかけられた。
「ひっ、ひぃいっ、そこっ、ぁ、やめっ、ああぁああああ」
 執拗にその一点をいじくられ、たまらず自由ならぬ身で精一杯腰を突き出した幸村の蜜口から、栓が抜かれた。震える幸村の陰茎から放たれた液が、自分の顔に降り注ぐ。
「ぁ、はぁ、は、はぁあぁああ」
 うっとりとそれを顔に受ける幸村の瞳は猥らに濁り、唇は嬉しげにも見える形に歪んでいた。それをどう捉えたのか、放つ陰茎が扱かれ、蜜嚢は揉みしだかれ、背骨は撫で回され脇から寄せ上げるように胸を揉まれ、その先にある尖りはひねりながら絞るように引かれ、秘孔は乱雑に開かれた。頭の先から足の先まで、余すところ無く愛撫をされて、嵐のような快楽に幸村の理性はついに崩壊し、押しとどめられていた淫欲が濁流のようにあふれ出た。
「ひんっ、ひぃいっ、ぁはぁあっ、きもちぃ、ぁ、よぉござるぅうっ」
 どのような変化をもたらされたのか。呑まされ、体中に振りまかれた甘い液のせいなのか。放つ幸村の陰茎は、壊れたように欲液を漏らして自分の顔を濡らし続ける。広げられた秘孔は媚肉へと変わり、逞しく反り返った、見えぬ鬼の陰茎と思しきものが、突き入れられた。
「がはっ、はひぃいいっ、ひっ、ぁ、あがっ、ぁ、ふ、ふと、ぁ、あは」
 最初は探るように動いていたそれが、だんだんと乱暴なものへと変わり、やがて容赦の無い突きとなった。
「ぁはっ、はぁおっ、おふぅうっ、奥っ、ぁ、ひぃい、ねじってはっ、ぁ、ひっ、イイっ、ぁ、すご、ぉああ」
 笑みの形に留まった幸村の口から、淫欲に素直な言葉が紡がれる。がつがつと突き上げられ揺られながら、体中のどこもかしこもを愛撫されながら、止まらぬ射精を続けながら、幸村は涙を流し淫悦の声を上げ続けた。
「ぁひっ、はんっ、はんぁあっ、すごっ、ぁ、熱っ、はぁあ、とけるっ、ぁ、はぁあああああっ」
 溶けてしまいそうだと思った瞬間、両の胸乳を強く絞られ、媚肉が締まった。それに促されるように、幸村の奥深くで熱が弾け、あの甘い液が熱の奔流となって、幸村の体液を押しのけ全身に広がりしみこむ。
「は、はひっ、はっ、は、ぁ、あぁ」
 大きく胸をあえがせる幸村の内部から、見えぬ熱きものが抜かれ、彼は地面へと下ろされた。肩で息をしながら、力の入らぬ身を何とか腕で支え、上体を起こした幸村の目に、くすぶる焚き火にあぶられた、半透明な幾体かの鬼の下肢が見えた。その腰に、逞しいものがそそり立っているのを目にし、髄液までもが野欲に入れ替えられた幸村は、ぶるりと腰を震わせ、治まらぬ熱に唇を舐めた。
「はぁ、あ、ああ、まだ、治まってはおられぬ様子。ふ、ぅ、この、紅蓮の鬼と称される幸村を、その怒張したイチモツで貫いてくだされ。某を、もっと熱くたぎらせてくだされ」
 ぎらりと、幸村の目が獲物を捕らえた獣のように光った。半透明な鬼の下肢が、幸村のそばによる。目の前に来たそれに手を伸ばし、確かな手ごたえを感じながら口を開いた幸村は、自らしゃぶりついた。
「んっ、んむっ、はふぅ、んじゅっ、おふ」
 そこからあふれる蜜の、なんと甘美なことか。これこそ天上の果実の蜜に違いないと、夢中でむさぼる幸村の尻が掴まれ、ひくつく媚肉に太い熱杭が埋め込まれた。
「ぅごっ、がっ、はっ、はぁううっ」
 その衝撃に前に体が押し出され、呑んでいた淫靡の果実で喉を突く。苦しさに涙をあふれさせながら、それでも幸村は口を離さずそれを求めた。
「んふっ、おいひゅうござるっ、はぁあ、鬼の蜜、は、あぁ、おいひゅうござるっ」
 その声に、背後の鬼が乱暴に幸村を乱し始めた。
「ひはぁあっ、ひっ、奥ぅ、奥っ、ぁ、すごぁあ、熱ぅござっ、ひぎっ、ぅああぁああ」
 次々と鬼の手が伸び、幸村は極楽のような淫蕩地獄に引きずりこまれ、野欲に溺れる獣と化した。

「――な、旦那」
 ゆさゆさと、体が揺れる。聞きなじみのある声に、幸村はぼんやりとした意識を浮上させ、瞼をあげて声の主を確認した。
「さ、すけ」
 寝ぼけた声に、佐助がほっと息を吐く。
「まったく。狩りに行ったまま帰ってこないっていうし。どしゃぶりだしで、どこでどうしてんのかと、心配しただろ」
「ぬ、ぅ。すまぬ」
 寝ぼけた頭のまま、幸村はのろのろと身を起こした。ふ、と横に祭壇があることに気付き、山に入ってから寝入るまでの記憶が、怒涛のように蘇って飛び起きる。
「うわっ、何、どうしたの旦那」
 目を丸くする佐助を他所に、緊張をみなぎらせた幸村は洞窟内を見回した。燃え尽きた焚き火のあとがある。キノコや栗の入った籠がある。その横に牡鹿の姿もあって幸村は目を瞬かせ、体の力を抜いた。
「何なに、どしたの」
 ただならぬ幸村の気配に、軽い口調で返しながら、佐助が周囲に意識を張り巡らせる。
「ああいや。なんでもない。妙な夢を見た」
 安堵したように、年よりも幼く見える笑みを浮かべた幸村に、佐助も意識を緩めた。
「もう。おどかさないでくれよ」
「ぬ、すまぬ」
 佐助が、キノコなどを入れた籠に手を伸ばし、それを背負った。
「牡鹿は、旦那が持って帰ってくれよ? さっさと帰らないと、夕餉の仕度に間に合わないぜ」
「うむ。ああ、そうだ。佐助、雨は」
「止んでるよ」
「そうか」
 すたすたと出口に向かう佐助の背を見ながら、幸村は牡鹿をくくりつけている木に手を伸ばした。掴んだ瞬間、どくりとめまいのような鼓動を感じ、はっとして祭壇を見る。
「旦那? どうしたのさ」
「いや。雨宿りをさせてもろうた故、礼を述べねばと思うただけだ」
「ああ、そっか。この洞窟が無かったら、旦那は風邪を引いていたかもしんないもんね。焚き火に使った分と、なんかお礼の供物を後で誰かに届けさせるよ。でも旦那、せっかく焚き火をするんなら、濡れた服をそのまま着ていないで、脱いで乾かしてよね」
「うむ、次からはそうしよう」
 そう言いながら胸元を掴んだ幸村の着物は、わずかに湿っていた。ふわりと、腐葉土のような甘い香りが鼻に触れ、幸村の腰が疼いた。
「お礼を言い終わったんなら、帰るよ旦那」
「ああ」
 背を向けたまま答えた幸村の唇が、普段の彼に似つかわしくなく、淫靡に歪んでいることに、彼の忍は気付けなかった。

2013/09/23



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