呼気が白い。 体が冷えぬようにと、足早に素足で冷たい廊下を進み、寝所の襖を開ける。足を踏み入れれば、刺すように鋭かった空気が、やわらかなものに変じた。我知らず、ほっと頬をゆるめて、その空気が外に逃げぬように、ぴったりと襖を閉める。 炭火でぬくもった寝所に敷かれている布団の前に立ち、真田幸村は分厚い綿入れを脱いで体の前に回した。これを前から着て腹の部分を縛れば、うっかりと蹴り飛ばして腹を冷やす心配がないからと、彼の世話役である忍が、幸村が幼い頃からそうさせていたので、そうするクセがついていた。「うう、寒いったらないぜ。まったく」 唐突に、幸村の耳傍で声がしたかと思えば、背後に人の気配が現れた。薄いがたくましい胸板がぴたりと背中に触れて、着物の合わせ目から冷えた手が差し入れられる。そのあまりの冷たさと、触れられた箇所の二重の驚きに、幸村は「ひゃ」と小さな悲鳴をあげた。「はー、あったかい」 幸村を抱きしめるように両手を着物の中に入れた男は、心底安堵した息を吐きながら、幸村の肩に頭を乗せた。「さ、佐助。なんだ、急に」「んー? 任務から帰ってきて、寒すぎて指がかじかんじゃったからさ。ちょっと、あっためようと思って」 言いながら、佐助の冷たい指先は湯を使いぬくもった幸村の肌を探る。胸乳にある尖りを指の腹で転がす佐助は、凍えた息を吐いて幸村の首に顔をすりよせた。「ほんっと、かなわねぇよなぁ。寒さはさ。忍ってのは繊細な仕事が多いんだから、指がかじかんじまったら、危険だっての」 佐助の言っていることは、幸村もよくわかる。寒さでかじかめば、槍を掴む指の力が甘くなり、思うように戦う事が出来ない。忍の佐助は指先を使う仕事も多いので、指をあたためたいというのは理解し納得は出来る。出来るのだが。「佐助」「なぁに、旦那」「俺で、ぬくめずともよいのではないか」「何言っちゃってんの。人肌が一番効果的で手っ取り早いってことは、旦那も知ってるでしょーが」 たしかに。川に落ちて冷えたり、血を流しすぎて冷えた者をあたためるには、裸身で添い寝をするのが効率も効果も良い。そのことは、幸村もよく知っている。「なれど、っ、その、指……っ」「俺様の指、すんごく冷えちまってるだろ? こんなに冷えてて、万が一火薬の量を間違えちゃったりしたら、大事だよなー。ほんっと、冬の任務は辛いぜ」 やれやれと吐息をこぼす佐助の指は、幸村の尖りをつまんで捏ねたり、指の腹で潰したり、尖りの周囲をクルクルとなでたり忙しく動いている。「っ、あ、冷えているのはわかるが、その、い、いじる必要など無いのではないか」「んー? なんで」「何故と言われても、問うておるのは俺の、っ、ほうだ」 細身の忍と自分を比べれば、肉付きのいい幸村の方に力の分がある。しっかりと抱きとめられているとはいえ、全力ではがせば逃れられないことは無い。――無いはずなのだが、佐助の両手が幸村の力を削ぎ、思うよりしっかりと腕を動かせぬよう脇を閉められているので、身じろぎをするのがやっとという状態だった。「っ、人肌でぬくめるというのは、まだ、ぁ、理解する……っ、なれど、いじる必要は、んっ、無いのではないか」「どこを、いじる必要は無いって?」 きょとんと佐助が問う。どこも何も、自身がしていることなのだから、佐助もわかっているはずなのに、耳朶に唇を寄せてささやいてくる。「ねぇ、旦那――どこ?」 佐助の息に、幸村の背骨が甘く震える。なんという意地の悪い男だろうか、などと幸村は思わない。いじくられている箇所の名を口に出せず、目じりを朱に染めて奥歯を噛みしめている。そんな初心な反応を示す主に、佐助は目を細めた。「ねえ、旦那」「ひぁっ、あ、佐助」 耳の中に舌を入れれば、幸村が高い声を上げた。そのまま耳を探りながら、一段低めた声で佐助がささやく。「ねぇ、どこを、いじる必要が無いの?」 ぶるぶると震える幸村が、拳を握り呟く。「――び」「ん? なぁに。聞こえなーい」 ニヤつく佐助を悔しそうに睨みつけ、幸村はやけくそになって言った。「乳首だっ!」「ああ。ここね」「ひぃっ」 ぐい、とつまんで引きながら、佐助がねじる。尖りを絞られ、幸村が背を反らした。電流のように走った快感が、下肢に集まり熱に変わる。「いじる必要、大有りだぜ? 旦那」「んぁ、あっ、何故だ、ぁ、は」「だって。指先がどんくらい凍えているか、動かしてみないと、わかんないでしょ」 言いながらギュウギュウと遠慮なく、佐助が幸村の胸乳を絞る。全身を震わせる幸村が内腿を擦り寄せたのに気付き、佐助はニヤリとほくそ笑んだ。「っはー。しっかし。やっぱ旦那の肌は、あったかいね。すぐに、ぬくもれそう」「んっ、ん、ぁ、佐助っ、あ、それだけ動くのならば、もう、ぁ」「だめだめ。まだまだ指の芯が冷たいから、あんま器用に動いてないだろ」「も、ぁ、じゅうぶっ、ん」 幸村が佐助の腕を震える指で掴む。その震えが快楽からきていることを、佐助は十分過ぎるほどに知っていた。主は、性根だけでなく体も素直だ。「まだまだだって。いつもは、もっと器用に動くだろ」「ふぁ、あっ、あ」 キュッと乳首をつまみ転がしながら、佐助は先端に爪を押し付けた。絞るようにされながら乳腺を抉ると、幸村は面白いほど簡単に情欲に溺れてしまう。「は、はぁうんぅうっ」 内股になりもじもじと内腿を擦り合わせる幸村に、佐助が「あれっ」とわざとらしく声を上げた。「旦那、厠に行きたいの?」 ふるふると、幸村が首を振る。「じゃあ、どうしてそんなに足を擦り合わせてんのさ」「っ、は、ぁ、なん、でもな、ぁううっ」「なんでもなく無いでしょ。言ってごらん。どうしたの」 どうしたのかなど、佐助はとっくにわかっている。胸乳の刺激だけで、幸村は下肢を切なく疼かせているのだ。けれど、言わせたい。そういう欲をかきたてるものが、幸村にはあった。「ね、旦那」 あえぎながら、幸村が悔しげにうなった。「教えて」 とどめとばかりに佐助が甘くささやけば、幸村がうるんだ瞳で佐助を睨んだ。ぞく、と佐助の腰が疼く。「触れて、確かめろっ」 ありゃ、そうきたか。佐助は真っ赤になった幸村のうなじに唇を押し付けた。「りょーかい」 胸乳にあった両手を、下肢に伸ばす。下帯の上から両手で包めば、しっかりと存在を主張する熱がわかった。「すっごい、熱くなってるね」「お前が、悪いのだろう」 うつむいた幸村が弱々しく吼える。ぞくぞくと胸を震わせて、佐助は唇を舐めた。「俺様の指をあたためようと思って、こんなに熱くしてくれたってことかなぁ」 鼻歌交じりに言いながら、佐助は下帯をずらした。ぶるん、と怒張した幸村の牡が姿を現す。「わ、立派」「うるさいっ」「褒めてるのに、うるさいは無いでしょーが」「ひぁうっ」 ぎゅっと袋と先端を握れば、幸村が悲鳴を上げる。そのまま手のひらで捏ねれば、天を仰いだ幸村の唇が心地よさげに震えた。「あったかい通り越して、熱いね。これいじってたら、すぐに指の芯までぬくもれそう」「ぁ、はっ、佐助っ、そこばかり、ぁ、あぁ」「そこって、どこ?」 またも意地の悪い質問をしてくる佐助を、もはや幸村は睨む余裕など無い。下肢の幹が疼いて仕方なく、射精欲に意識を奪われ、忍の長い指で扱かれ達したいと、その折の心地よさを思い出し求めていた。「ぁ、もぉ、佐助っ、は、ぁあ」 背後に腕を回し、佐助の着物を掴んで引く幸村は、完全に佐助の策中に堕ちている。とろりと甘く潤んだ瞳は、さらなる愛撫を求めていた。「あ。そっか、わかった。旦那、もっとあったかいところで、俺様の指をあたためろって言いたいんだろ」 え、と疑問を浮かべた幸村の目に唇を押し付け、佐助は牡の先端を揉んでいた手を伸ばし、尻の割れ目に忍ばせた。「こっちのほうが、あったかいもんねぇ」「ひぅ」 つぷ、と幸村の先走りでぬれた指を秘孔に押し込む。ぴん、と背を伸ばした幸村の首すじに、佐助は吸いついた。「んふふ。からみついてきて、あったかい」「ぁ、は、ぁあう、佐助っ、ぁ、あ」「なぁに、旦那」 きゅっと蜜嚢を握れば、幸村が息を呑む。心地よいのに絶頂を迎えるほどではないことに、幸村は悶えている。先走りをこぼし震える主は、すぐにでも凝った欲を放つ恍惚を味わいたいのだ。「はぁ、うふ、ぁ、さすっ、ぁ、佐助ぇ」 幸村の求める淫靡な声に、佐助の下肢が疼く。ぐ、と幸村の尻に熱を押し付ければ、びくりと彼がこわばった。「体の芯まで、あったかくなりたいなぁ」 甘えた声で佐助がねだれば、硬く目を閉じ幸村がうなずいた。ふふっと笑みを漏らした佐助は、幸村の頬に唇を押し付け、彼の膝裏を膝で押して四つんばいにさせた。「そんじゃ、準備をしますかね」 幸村の着物の裾を持ち上げた佐助は、彼の下帯を解き尻を割り、小さな竹筒の蓋を開けて幸村の秘孔に押し込んだ。「ぉあっ、佐助っ、ぁ」「丁子油、たっぷり入れて、ほぐさないとキツイだろ?」 竹筒の中の油で幸村の秘孔を満たした佐助が、指で媚肉をほぐす。クチャクチャとぬれた音が響き、幸村は拳を握り布団に顔を押し付けた。「なぁに、旦那。恥ずかしいの? 俺様の指をしっかり咥えて、ヒクヒクしちゃってるの、恥ずかしいんだ」「っば、ぁ、言うな、ぁあ」 つ、と幸村の牡の先から透明な糸が伸びる。ぶるぶる震える彼の牡は、限界を示していた。「そんじゃ、ま。あったまるどころか、熱くさせてもらいましょうかねぇ」「んあっ」 指を抜いた佐助が、幸村の腰を掴み滾る熱の先を秘孔に当てた。「しっかり、俺様を受け止めてくれよ? 旦那」 ず、と佐助が幸村の中に沈む。「ぁがっ、ぁ、はぁおおうっ」 そのまま奥まで抉るように貫けば、快楽点を擦られた幸村が伸びをする猫のように背を反らせ、欲を放った。「くっ」 その締め付けに引きずられないよう、佐助は歯を食いしばる。「はんぁあぁはぁあおぉお」 うっとりと欲を吹き出す幸村の足を掴み、繋がったまま佐助は彼の体を反転させた。「はひぃああぁああっ、さすっ、ぁはぁおお」 佐助の牡が内壁によじれる。放つ最中に与えられた刺激に、幸村はこぼれそうなほど目を見開き、野欲の涙をあふれさせた。「んっ、旦那、すっごい」 もっと、ドロドロに溶けて身も世も無く乱れ狂う幸村が見たい。佐助は幸村の絶頂がおさまらぬうちに腰を乱暴に打ちつけ、彼の胸乳で存在を主張する赤い蕾をひねりあげた。「ぁひぃいっ、は、はぁおおっ、さすっ、ぁああ」 幸村が高く吼える。彼の意識が自分の与えるものに染まりきっている事に、佐助の胸が満たされる。自分の与えるもの以外、幸村は何かを感じ思う余裕など砂粒ほども残っていない。「ああ、旦那」 首を振り声を放つ幸村の唇を、唇で覆う。舌で口腔を探り胸乳をいじり、腹で牡をすり潰しながら内壁を穿ち抉る。「んっ、んふっ、ふぁあっ、さすぅうっ、佐助っ、ぁはぁおお」「はぁ、旦那。ねぇ、きもちい? ね、俺様の魔羅、気持ちいいよね」 体中で幸村を乱し主導権を握っているはずの佐助が、幸村に縋るように言葉を求める。幸村は佐助の背に腕を回し、強く抱きしめ口付けを返した。「んはっ、はぁあ、佐助、ぁ、いいっ、ぁ、から、もっと、ぁ、俺に全てを、ぶちまけぬかっ、ぁあ」 腰を揺らし求める幸村に、うんと素直に頷いて、佐助は穿つ速度を速めた。「んぁ、あはぁあっ、さすっ、ぁ、はぁう、ぁはぁああ」「くっ、すご、旦那、ぁ、俺様、溶けそう」「んぁあ、も、ぁあ、溶けっ、ぁ、しま、ぁあ」 身も世も無く声を上げ乱れ狂う幸村が、佐助の背に爪を立てる。その痛みが、幸村に求められているという実感が、佐助の快楽を増幅させた。「旦那、全部、出すよ」「は、はぁううっ、佐助ぇ、ぁ、はんっ、はっ、はぅああぁあああああ」 ごぷ、と佐助が幸村に想いの熱を放ち、それを受けた幸村がはじける。腰を突き出し震える幸村が、全てを出し終えるように幹を扱き、自らも内壁で擦って一滴残らず搾り出す。佐助はフウっと息をつき、幸村のうっすらと汗ばんだ額に張りついた髪を、指で払った。そこに、唇を寄せる。「すっごい、あったまった。ありがとね、旦那」 額を重ねて微笑めば、両頬を平手で打たれた。「いってぇ!」 ばちん、と良い音が鳴り、佐助はひりひりと熱を持つ頬に細い眉をしかめる。涙目になってしまった佐助を、濡れた瞳の主がにらみつけた。唇を尖らせるその顔は、本気の怒りではなく拗ねと照れを綯い交ぜにしたものだと、佐助は知っている。「佐助」 唇を尖らせたまま、主が言う。ちょっと意地悪しすぎたからかな、と佐助は彼の文句を待つ。けれど幸村が言ったのは、佐助が想像したどの文句とも違っていた。「甘えたいのならば、このように回りくどい事をせず、素直に言ってこい。俺は、そこまで了見の狭い男ではないぞ」 ん? と佐助は首を傾げ、幸村はプイとそっぽを向いた。じわじわと言われた事を理解して、佐助は顔を赤くする。「だ、旦那」「なんだ」 そっぽを向いたまま、幸村が不機嫌な声を出す。ちょん、と頬に唇を押し付けて、佐助は胸のぬくもりそのままを満面に広げた。「俺様、旦那に甘え足りないんだけど。もっと、甘えてもいい?」 ちろり、と幸村が値踏みするように目だけを佐助に向ける。佐助は、とろけた笑みを浮かべていた。佐助から目を離した幸村が、頬を膨らませた。「寒いのなんのと言わず、はじめからそう言えばよい」「うん」 ぎゅ、と佐助が幸村を抱きしめ、幸村も彼を抱きしめ返す。「旦那」「なんだ」「旦那から、口吸いしてほしいな」 ぱ、と顔を赤らめた幸村が、がっしと佐助の頭を掴み唇を押し付けてきた。色っぽさの欠片も無いそれに、佐助はこの上も無い幸福を感じる。「ありがと」「うむ」 羞恥にこわばる幸村を、ふたたび熱でとろかせようと、佐助は全身で彼に甘え魂をゆだね重ねた。 2014/02/03