メニュー日記拍手

さかさ・うらしま

 ばうん、と煙幕が小屋の中で上がった。
 何事かと駆けつけたのは、真田忍の面々。館の従者や下男でない理由は、煙の上がった小屋が、館の敷地の外れにある林中にあったからだった。そこに、真田忍の住まいがある。
「幸村様」
 煙の出た小屋は、真田忍の長である猿飛佐助の専用。そこに入れる者は、忍らの主、真田幸村の他にはいない。
 忍がそう叫んだもの、当然であった。
 もうもうとたちこめる煙は、なにやら妙な色をしている。白でもなく、黒でもなく、灰色ですらない。緑のような、と思えば赤が混じり、そうかと思えば黄色にもなる。いったいこれはどういう煙なのかと、忍のものらはその中に飛び込むのをためらった。得体の知れぬものに、安易に手出しをしては二次災害になる。そこのところを彼らはよく心得ており、主の幸村は常人の常識を覆す頑丈さと運の強さを持っている事も知っているからであった。
 火の手があるような気配は無いので、とりあえず煙をなんとかしようと、忍らは風を立てて煙を追いはらった。そうして煙が落ち着いた頃に小屋に足を踏み入れ、彼らは目を丸くする。
「けほっ、けほっ」
「ゆ、幸村様……いや」
 呼びかけた忍が、咳き込む主の姿を見て、言いなおした。
「弁丸様」
 大きすぎる着物に包まれた少年が、そこにいた。
「これは、いったい」
 きょとんとした少年は首を傾げ、自分の着物が大きすぎる事に気付き、手のひらをなんとか袖から出して眺め、呆然とする。
「これは、何だ」
 出した声の高さに喉を抑え、立ち上がれば着物がストンと落ちた。下帯までも落ちてしまった全裸の彼に、忍らが慌てる。
「急に、小屋が広く――?」
「弁丸様だ」
「どう見ても、弁丸様だ」
 忍らがざわつく声を聞き、弁丸と呼ばれた少年は裸身のままスタスタと小屋の外に出て、井戸の縄に手をかけた。それを見た忍があわてて縄を引き、水を汲んで一番大きな桶に入れる。たっぷりと水をたたえた桶を覗き、映る自分を確認しながら頬や肩、胸をペタペタと触った少年は、驚きに口を丸くした。
「なんと」
 忍らが、自分の事を『弁丸』と呼んだ理由を知り、腕を組む。
「佐助は、若返りの薬でも研究しておったのか」
 少年は、さして困った様子も無くつぶやく。
「佐助が帰れば、なんとかなろう」
 とりあえず、と少年は心配そうに自分を見守る忍に笑みを向けた。
「着るものを、なんとかせねばならんな」
 ニッコリとする少年に、忍らは慌てて着物を用意した。

 長期の任務を終えて、佐助は久しぶりの帰還に足を急がせていた。佐助にとっては面白みの無い、簡単すぎる任務だったが、無駄に時間がかかった。自分のふりをさせて別の忍を任務につかせればよかった、などと思う位に簡単なくせに、時間のかかる任務だった。だが、甲斐を治める武田信玄に深く信頼されている、佐助の立場があったればこその成功だったという自負もある。
「大将、お館様とはしゃいで屋敷を壊してねぇだろうなぁ」
 信玄が病に臥せってから、大将と呼ばれるようになった佐助の主、真田幸村は血気盛んすぎるきらいがある。お館様こと信玄は、それを諌めるどころか楽しみ、おおいに煽って滾らせる。気分を高ぶらせた二人は、並の足軽千人を持ってしても叶わぬのではないかと思うほどの剛力を、嬉々として思うさまぶつけあい、その余波で庭の敷石をふっとばしたり、燈篭を粉砕したり、屋敷の壁をぶちぬいたりすることがあった。
「まったく。あの二人のおかげで、うちの家計は火の車だっての」
 ぶつぶつと文句を吐きながら走る佐助の唇は、楽しそうにゆがんでいた。任務に出て交渉を終え、帰還するまでに二ヶ月も要した。その間、佐助は一日たりとも忘れ得ぬ人の面影を浮かべては、彼に会って面白みの無い任務の虚しさを慰めたいと願った。それが、ようやく叶うのだ。
「ん?」
 風のように疾駆する佐助の目に、道の真ん中にぽつんとある、こちらに歩いてくる人影が留まった。常人よりも遠くを見る事の出来る佐助は、その影をよく見ようと目を細め、焦点を合わせた瞬間、目を見開いた。それと同時に、足を速める。
「なんで」
 ほてほてと道を来る人の姿に、佐助は自分が時空のひずみでもくぐりぬけ、過去に戻ってしまったのではないかと疑う。
 駆けに駆け、その人の前に姿を現せば、佐助の腹の辺りにある顔が親しげに見上げてきた。
「おかえり、佐助」
 クラリと佐助はめまいを覚える。数年前。主の幸村が弁丸と言う幼名で呼ばれていた頃。任務に出た佐助が帰還すると聞けば、こうして迎えに来ることがあった。首を振り気をとりなおした佐助は、自分を出迎えた幼き日の主、弁丸に瓜二つの少年の尻をなでた。
「ひゃっ」
 少年が飛び上がる。かまわず尻をなでまわす佐助の頭を、弁丸にそっくりな少年がポカリと拳で打った。
「い、いきなり破廉恥ではないかっ!」
 弁丸であった主は、破廉恥などという単語は知らない。この反応は、幸村となった青年の主と同じだ。佐助は少年と目線を合わせるためにしゃがみ、じっと目を見た。まんまるい鳶色の瞳に佐助が映る。
「いきなり、ただいまも無しに尻をなでるとは、何事だ!」
 真っ赤になった丸い頬を、佐助はつまんで引っ張った。
「ひゃにをしゅうっ」
 何をする、と文句を言われて手を離し、佐助は両手で少年の顔面をこねくりまわす。
「む、むむぅうっ、むっ?」
 眉を寄せた佐助の腕を少年が叩き、佐助は腕を組み、顎に手を当てた。
「ふうん?」
 まじまじと少年の周囲を回りながら、確かめる。
「狐狸の類か、そっくりさんか。何にしても、よく出来てるよねぇ」
「なっ! 佐助。俺がわからぬのか」
「見た目は弁丸様。反応は大将って、なんか、ちぐはぐなんだよな」
「佐助、俺だ。幸村だ」
「幸村だ、て言われてもねぇ。俺様の大将は、もっと大人の体をしてんだよ」
 佐助の目が剣呑に細まり、少年は色をなして叫んだ。
「何故、俺の事がわからぬのだ、佐助!」
「忍ってのは、疑り深いもんなんだよ。まして、面倒くさい交渉をしてきた帰りだからね。あちらさんが俺様を出し抜いて、何かをするために仕込んだ罠かも」
 ぐ、と少年が唇を歪めて悲しげに佐助を睨む。
「罠ではない」
「証明する、証拠は?」
「証拠……」
「そう。弁丸様そっくりなアンタが、俺様の大将だって証明する、証拠」
 唇を引き結んだ少年は、うなだれた
「無い」
「話にならないね。信用されたいのなら、それなりの証拠を示してくんなきゃ」
 ううっと唸った少年が、うらめしげに佐助を睨む。
「本物だって言い張るなら、それなりの覚悟をしてよ」
「覚悟とは、何だ」
「そうだなぁ。俺様しか知らない大将の姿、見せてくれるとか?」
 小首を傾げた佐助の笑みが、どす黒い。ぞわりと毛を逆立てながらも、少年は眉をそびやかして頷く。
「いかにすれば良い」
「そうだなぁ。狐狸の類かもしれないし、間者かもしれない。その姿で俺様を油断させてブスリ、なんてことをするために妙なものを仕込んでいる可能性もあるからね。そうじゃないって確認をするのに、手っ取り早い方法がひとつあるけど、どうする?」
 佐助の不遜な提案に、少年は快諾を示した。

 まさか佐助が自分をわからぬはずはないと、高をくくっていた少年姿の幸村は愕然とした。けれど突然、幼い姿になったのだから、信用をされぬのも無理は無いとも思う。佐助は優秀な忍で、忍は疑う事を第一とする。佐助の用心深さがあったればこそ、自分は幾度も危うき事柄から逃げる事が出来た。その佐助を信用させるためなら、身体検査ぐらい、なんとも無い。
 人目のつかぬところに行こうと佐助が誘い、幸村は彼の腕に抱かれて森の中に入った。木々の茂るうっそうとした場所に下ろされ、着物を脱がされる。鍛錬の後、もろ肌脱ぎになって汗を拭っている時に佐助に見られても、何とも思わない。けれど、こうして着物を脱がされると妙な気になる。
 それは、佐助と自分が深い関係であるからだ。
 幸村は普段よりも大きな佐助の姿に、妙な興奮を覚えていた。それが幼い肌に示される。
「へえ?」
 感心したような声をもらした佐助の目が、幸村の下肢を見ている。
「生えてないのに、立派に反応は示すんだ」
 クスクスと漏れる佐助の息に羞恥が増し、幸村の肌は野欲を強めた。
「ヤラシーなぁ。ちょうど、お稚児さんとして可愛がられる年頃だし、たっぷりと教育をされて俺様を色仕掛けで騙そうって腹とか?」
「違う! 俺はお前を騙そうなどという気は、毛頭無い」
「信用されたいのなら、黙って俺様に従って?」
 温和ながら、有無を言わせぬ響きを持つ声に、幸村は身をこわばらせた。ぎゅっと目を閉じ四肢に力を込めて堪える幸村の姿に、佐助は喉を鳴らす。
 佐助は、これが本物の主であることを、とっくに見抜いていた。この俺様が、大将を見間違うはずはないと、確信を持って弁丸姿の幸村を認めている。それなのに疑っている風を装っているのは、幸村が自分の言いつけを守らず、勝手に佐助の小屋に来て色々といじくったせいで、こうなっているだろうからだ。何がどうしてどうなって、若返りという結果になったのかはわからないが、こんなことでいちいち驚いていては、甲斐の忍はつとまらない。それくらい奇想天外なことが日常で起こるということを、佐助は長年仕えている間に、たっぷりと身に沁みていた。
 大将には記憶に残るような後悔を受けさせておかないと、注意をしても懲りないからなぁと、佐助はわざと狐狸の類が自分を化かそうとしているか、どこかの工作員であろうと言って仕置きをしようと思ったのだ。
「っ、もう、十分に身体検査は終わったであろう」
「まだまだ。尻尾を上手く隠しているかもしんないし」
「ひぁうっ」
 佐助が尻をなでれば、甲高い悲鳴が上がる。あきらかに主は自分との性行を無意識に蘇らせている。佐助はそう確信をしながら、幼い牡が一丁前に立ち上がって震えているのを眺めた。
 いっぽう幸村はそんなつもりはさらさら無く、どうして自分の牡が反応をしているのかがわからない。羞恥がさらに野欲を高めているということにも、気付かない。佐助の大きな手のひらが肩をすべり胸に触れる。ぴくりと反応した幸村を確かめるように、佐助の指は胸に留まり、乳頭を指の腹でクルクルと刺激した。
「んっ、う、佐助ぇ」
 拳を握り堪える幸村の声に、佐助は「やばいかも」と心中であせる。少年愛好の趣味は無いはずだし、弁丸時代の彼に欲情をした事など無い。けれど今、佐助の股間は熱を集めている。
「ぁ、佐助っ、んっ、もぉ」
 甘く幼い声で呼ばれ、佐助は任務で溜まった鬱憤を仕置きにかこつけ癒してもらう事に決めた。
「そんな甘い声を出して。やっぱり、俺様のことを色仕掛けで陥落させるつもり? 弁丸様」
 クスクスと意地悪く佐助が言えば、幸村が首を振る。
「つるんとして、なめらかな肌の上にプックリ起たせて、いけない子だね」
「ひぁ、あっ、佐助」
 佐助の舌が伸び、幸村の乳頭を捉えた。チュクチュクと吸われ、幸村が肌を震わせる。
「んふ。感度いいね」
「ぁ、あ、佐助、もう」
「だめ。狐狸の類も人も、弱らせたら尻尾を出すもんだからさ。堪えられないっていうのなら、ここで止めて解放してあげるよ。偽者の弁丸様」
 わざと「偽者」という言葉を強調すれば、幸村は奥歯を噛み覚悟を決めた。
「っ、かまわぬ。好きにせよ」
「へぇ? それじゃあ、遠慮なく」
「はうっ」
 幸村の腰に腕を回し、佐助は執拗に彼の胸を攻めた。舌を絡めて吸いながら、もう片方を指の腹でこねる。
「はっ、は、ぁ、あっ、ぁふ、うんっ」
 幸村の幼い指が佐助の髪を探る。すがる場所を探しているらしい幸村の指の動きに、佐助は欲を募らせた。
「ふふ。こんなに硬くして。触っていない魔羅も震えてる」
「ひっ、ぁ、はぁあ、さす、けぇ」
 幸村の潤んだ瞳が求める光を発する。
「なぁに?」
「う、ううっ」
「魔羅、触って欲しいの?」
 こくりと幸村が頷いた。
「ま、どうせ触るつもりだったし。――いいよ。いっぱい、いじってあげる」
「は、ぁあうぅ」
 するりと佐助が未熟な陰茎に指を這わせれば、彼が震えた声を出す。
「心地よさそうな声、出しちゃって。つるっつるの子どもなのに、やらしーなぁ」
「ふぁ、そんっ、言うな、ぁあっ」
「恥ずかしいの? 恥ずかしいのは、ソッチの体だろ。先っぽからあふれさせて、強請ってるみたいに震えて」
「ぁ、は、ぁあ、佐助ぇ」
「痛いんじゃない? こんなになってたら。舐めてあげる」
「はふぅ」
 佐助が先端を舐めれば、うっとりと幸村が啼いた。幼い陰茎は簡単に佐助の口腔におさまり、舌の上に乗ってしまった。
「は、はふっ、は、ぁあ、さす、ぁ、佐助ぇ」
 甘く幼い声が淫靡に響く。佐助の股間が早く解放しろと訴えた。幸村の陰茎をしゃぶりつつ、佐助は帯を解き自らの牡を取り出す。
「ふっ、んぁ、も、ぁ、でるぅ、佐助っ、ぁ、あ」
 佐助の頭を抱き抱え、幸村が訴える。口を離した佐助が、幸村を草の上に寝かせた。濡れた瞳に疑問を浮かべる幸村に、佐助は自分の陰茎を見せる。はっと息を呑んだ幸村が、それを凝視した。
「ふふ。なぁに? その顔。魔羅の味、知ってるって顔だよね。そしてそれが好きって、欲しいって顔してる。淫乱だなぁ、弁丸様は」
「ぁ、あぁう、佐助、そんなこと」
「違うって言うの? それとも、そんなことを言うな、とでも。ま、どっちでもいいけど」
 言いながら、佐助は自慰を始めた。
「体内に毒を持っているって可能性もあるからね。見ていてあげるから、自分で扱いてごらん? イキたいんだろ。弁丸様」
 ぶるっと幸村が震えた。さぁどうする、と目線で佐助が告げて、幸村はそろそろと濡れた自分の陰茎を掴んだ。
「そう、いい子だねぇ。弁丸様は」
「はっ、はっ、ぁ」
 未発達の体を淫蕩に染めて、幸村が懸命に自慰をする。たまんねぇと心中で呟きながら、佐助は自分の牡を高みへと導いた。
「あ、ああっ!」
 ビュルッと幸村が欲を放ち、佐助が彼の上に子種を撒き散らす。欲の証に濡れた幸村の――弁丸の猥らな姿に、佐助はすぐに高ぶりを取り戻した。
「どうやら、毒は仕込まれて無かったみたいだね」
 あくまでも身体検査の一環という態を貫き、佐助は鼻をひくつかせて幸村の腹に散った彼の欲を嗅ぐ。射精の虚脱に包まれながら、幸村は顔を持ち上げた。
「信用したか、佐助」
「まだまだ。こっちに妙なものを入れて運ぶって手段も、あるからね」
「ふぁっ」
 佐助が幸村の尻を掴む。手のひらにおさまるほど小ぶりな幼い尻の肉はやわらかく瑞々しい。ひょいと割り広げれば、小さな花が咲いていた。
「こっちも探らせて貰うよ」
「え、ああっ」
 べろりと幸村の秘孔を舐めて舌を押し込み、唾液を注ぐ。青年のそれよりも小さな窄まりが、佐助の舌をキュウと掴んだ。佐助は傷用の軟膏を取り出し、潤滑油がわりに指にタップリと掬い、幼い孔に塗りつける。
「あっ、ぁあっ、は、ぁあ」
「んー。このくらいの場所には、何も仕込んでないなぁ。もっと、奥かな」
「ひぁあうっ、ひっ、ぁ、はぁああっ」
 目に溜まった涙を溢れさせ、幸村が首を振る。
「やめっ、ぁ、佐助ぇ、佐助っ、ぁ、ああっ」
「んふ。気持ちいいんだ? 魔羅がまた大きくなってるよ、弁丸様」
「ひっ、ひぁううっ」
 佐助の指が増えるたび、幸村の叫びは大きくなる。秘孔は佐助の指に絡み、嬉しげに猥らに蠢いていた。
 佐助の息が荒くなる。幼い姿になってしまった主と、繋がるまではしないつもりでいたが我慢ができそうに無い。これだけやわらかく解れていれば、大丈夫だろうと自分に言い聞かせるように脳裏でつぶやき、佐助は猛る牡をひくつく孔に押し当てた。
「もっと奥に、何かを隠しているかもしれないから、コイツで探らせて貰うぜ」
「ぁ、佐助ぇ」
 小さな手が佐助に伸びる。手のひらに唇を押し当て、佐助は彼の中に沈んだ。
「っ、あ、あぁあぁああ!」
 幼い体を精一杯反らせ、幸村が声を限りに叫ぶ。
「く、やっぱ、きつい、かも」
 片目をすがめつつ、佐助は牡を押し込んだ。
「ぁ、は、はぁ、あっ、あ、あ」
 ビクビクと全身を痙攣させる幸村は、見開いた目から涙をこぼし、口の端からはヨダレを垂らしていた。ほんの少しの罪悪感を浮かべつつ、佐助は彼の牡が萎えていないことを救いに、ゆったりと腰を動かした。
「ぁ、は、はぁ、あ、はぁうっ」
 こぼれんばかりに見開かれていた幸村の目が、だんだんに心地よさげに細められる。佐助の牡に絡む媚肉は奥へといざなうように動いている。
「すごいね。弁丸様の中、あったかくてやわらかくて、ヤラシー動きしてる。俺様の魔羅に絡み付いて、もっともっとって強請ってるみたいに動いてる」
 のけぞっていた顎をひいて、幸村は佐助の腕にしがみつき、微笑んだ。
「ぁ、俺が、佐助を求めるは、当然のこと、ゆえ、んっ、何の不思議も無い、ぞ」
 ぶちん、と佐助の何かが引き千切れた。
「ああもうっ!」
「ぁひっ、ひっ、あはぁあうぅ」
 胸の奥深くに隠せるほどの小さな体躯を抱きしめ、佐助は本能の赴くままに腰を打ちつけた。悶える幸村は佐助の腕にスッポリ包まれ、激しいものに狂う以外の術を持たない。
「大将」
「ひぃいっ、は、ぁあ、さすっ、はぁああううう、んっ」
 絶頂を感じ、佐助は幸村の唇を塞いだ。ぶるっと震えて幸村の奥へと野欲を注ぎつつ、腕の中の幸村も性を放った事を知る。繋げた唇から漏れる彼の嬌声を全て飲み干し、佐助は深い息をついた。
「は、ぁ……旦那ぁ」
 大将より以前に呼びなれた呼称をつぶやいた佐助は、完全に気を失い、ぐったりとした幸村の姿に頬を引きつらせた。
「やば。ちょっと、やりすぎちゃったかも」

 目を覚ました幸村は、ぼやけた視界の焦点があってから身を起こした。ぎし、と体中が軋み、はてと首を傾げる。どうして自分は眠っていたのだろう。そういえば、妙な夢を見ていたようなと、手を目の前に伸ばした。武人として槍を握る、見慣れた手がそこにあった。
「あれは、いったい」
「おはよう、大将」
 耳慣れた声に顔を向ければ、ニコニコと佐助が座っていた。
「おお、佐助。帰っていたのか」
「うん。ただいま」
 言いながら佐助が盆を勧めてくる。その上には、湯飲みと団子が乗っていた。湯飲みを手にして喉を潤し、幸村が問う。
「何故、俺は眠っていたのだ」
 それに、佐助は眉間にしわをよせ、思い切り苦い顔をした。小言を言うときの決まった顔に、幸村は条件反射で背筋を伸ばした。
「俺様の留守中に、勝手に小屋に入ったらダメだって、何度言ったらわかるのさ」
「う、それは。その、久方ぶりゆえ、埃も積もっておろうと思い、掃除をするためにだな」
「あそこには、いろんな薬の材料とか、毒なんかもあるんだよ。研究中のものだって、たっくさんあるの! 危ないって、いつも言ってんだろ」
「ぬぅ」
「まったく。勝手にいじって薬を嗅いで、眠っちまってたんだよ。ビックリしたぜ」
「そ、う、だったのか」
「そうそう。ま、毒じゃなくて良かったけどさ。一歩間違えたら、死んでたかもしんないんだから。もう二度としないでよね」
 小言を聞きつつ、なんだそうかと幸村は安堵したように頬をゆるめ、団子に手を伸ばした。
「何、怒られてんのにヘラヘラ笑ってんのさ」
「いや。妙な夢を見たのだ」
「妙な夢?」
「うむ。俺が幼い頃の姿となり、佐助が俺だとはわからずに、その」
 口をつぐんだ幸村の頬が赤くなる。
「なんだかよくわかんないけど、とにかく! もう二度と俺様の忍小屋には入らないでよね」
「わかった」
「じゃ、俺様は大将が散らかした部屋の片付け、してくるから」
 すっと佐助が立ち上がり、幸村がその背に声をかける。
「佐助」
「ん?」
「その、今宵は、その」
 言いよどむ幸村に、佐助はニヤリと唇を歪めた。
「久しぶりに、たっぷりと任務の労を労ってもらうぜ、大将」
 全身を赤く染めた幸村に軽く手を振り、襖を閉めた佐助はつぶやいた。
「何をどう調合したら、肉体だけ幼くなれるんだろ」
 ふうむと考えつつ小屋に向かった佐助が、その後、調合を成功させたかどうかは定かではない。

2014/05/19



メニュー日記拍手
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送