薄明かりに照らされて、床板が見えた。 どうやら小屋の中にいるようだと、真田幸村は靄のかかった意識で考える。 いつものように鍛錬ついでに峠の団子屋まで走り、団子を購い帰るつもりだった。 ああ、そうだ。 道の途中でうずくまる子どもを見つけたのだった。近付き声をかければ、子どもは苦しげにしていた。家はどこかと聞けば、林の中の道を指す。呻きながら、子どもは漁師小屋に父親がいると幸村に告げた。そこに、連れて行って欲しいと。 幸村は承知した。 近くの里に連れて行くよりも、そちらのほうが近いと判断したからだ。 漁師小屋に薬があると、子どもは言った。幸村は子どもを抱え、木々の間にある人の足のあとがうっすらとうかがえる獣道を進んだ。小屋を見つけて扉を開き、轢いてあった筵に子どもを横たえた。子どもは苦しげに、水が欲しいと訴えた。土間の片隅に水甕があり、幸村は柄杓で水をすくって子どもに与えた。だが、子どもは水を飲み下さずに、咳き込んで吐いた。幸村は自分の口に水を含み、子どもに飲ませようとして……。 そこから、意識が無かった。 自分は一体どうしたのだろうかと、四肢に力を入れる。 ぎしりと、太い縄の軋む音がした。 そういえば、背に床の感覚が無い。ひと房だけ長い髪が、さらさらと背中に当たっている。どうやら自分は裸身であるらしい。 幸村は眉根を寄せて、滲む視界の焦点を整えようとした。首を巡らせ、自分が下帯すらもつけていないことを知る。手足に縄がつけられ、四肢を広げた格好で吊るされていることも知った。「俺は」 声を出してみる。酷く喉が渇いていた。妙な、あまったるい花のような香りが鼻腔をくすぐる。薄い靄がかかったように、思考が揺れる。「お目覚めのようだ」 明かりの届かぬ闇溜りから、声が聞こえた。「ようこそ。紅蓮の鬼。甲斐の若虎。真田幸村」 声は、若いのか年がいっているのか、わからなかった。「誰、だ――」「花を咲かせる者」「花を――?」 男の言っている意味がわからない。「弁丸と呼ばれていた頃から、貴殿の事を気にかけていた。これは手をかければ、芙蓉以上の花となるだろうと、ね。だが、なかなか我が手で開かせる機会は訪れなかった。青年は私の食指の範疇外だが、貴殿は違う。逞しく伸びやかな四肢。褐色の肌。少年の初々しさを宿したままの貴殿は美しい。何よりも、無垢なままであるというのが素晴らしい」 声の主が何を言っているのか、幸村にはさっぱりとわからなかった。「俺を殺し、甲斐に仇なすつもりか」 もつれる舌先で、幸村はすごんだ。どういうわけか、四肢に力が入らない。「殺す? とんでもない。私は、貴殿を大輪の花としたいだけ。この子たちのように」 その声を合図に、裸身の美しい少年たちが明かりの中に現れた。そのどれもが大人びた淫靡を、妖気のように纏っている。「さぁ。私に頑なな花がほころぶ様を見せておくれ」 少年たちは艶冶な笑みをたたえながら、幸村の傍に近寄った。未完の美が媚態を滲ませ幸村に手を伸ばす。「何を……っ、やめぬか」 彼らは幸村の鍛えぬかれた筋肉に、幼さを残した指を這わせた。それはぬらりと妖艶で、幸村の喉奥が得体の知れぬものに鋭く鳴った。「やめろ。何を……っ! 何を」 幸村の下肢の茂みから下がるものを、恭しく手のひらに乗せた者が口を開き、先の割れ目に舌を伸ばした。ぬめりに怖気を感じ、幸村は息を呑む。「やめさせぬか! このようなっ、こっ……っう」「男を喜ばせる手練手管は、全員が十分に熟知している。彼らに導かれるままに、極楽に咲く蓮となればいい」「何を……う、は、ぁ」 幾つもの舌が幸村の牡をチロチロとあやす。無垢なはずの子どもの口に、自身の牡が捕らえられている。灯明に照らされた彼らの瞳が怪しく光り、彼らが妖魔の手下に見えた。「くっ」 四肢に力を込めようとするが、眠りのふちにいるかのように体が浮遊している。意識も変わらずぼんやりとしたままで、幸村は充満する甘ったるい香りのせいだと気付いた。「ううっ」 香りの出所を目で探る。それに気付いたらしく、男の声がした。「極楽の香りがするだろう? 幸村……いいや、弁丸。そう、君はまだ弁丸なのだよ。その子たちと同じように、美しく妖しい花となり、我が目を楽しませてくれ」「誰が、ぁはっ、ふ、んぅうっ」 屈しはせぬと思う意識が香りと刺激に乱される。幸村の牡は硬さを持ち、頭を上げて蜜を垂らした。「はっ、は、ぁ、あはぅ、やめ、ぁ」 幸村の肌にまとわりつく舌は、陰茎だけでなく、手足の指先までにも絡んだ。真綿でじわじわと首を絞めるように快楽を探り引き寄せ、幸村の意識を犯していく。「は、ぁ、あぁ、あ」 見えぬ男の視線も、幸村を犯した。陰茎を舐められ蜜嚢をしゃぶられ、幸村の息が上がり肌は赤味を増した。「ぁ、は、もうやめ、ぁ、やめぬか……っ、んふっ」 自分の乱れた声と、淡々と奉仕する濡れた音だけが耳に届く。屹立しきった幸村の牡からはとめどなく蜜があふれ、今か今かと破裂する時を待ちわびている。彼にまつわる手や舌は、その望みを叶えることなく、ゆるやかな快楽ばかりを彼に与えた。「ひふっ、は、はぁ、あ、やめっ、ぁ、ああ」 意識が快楽に溶かされる。汗ばんだ幸村の肌に、尾のような髪が張りついた。それを慈しみながら背筋を舐められ、脇を吸われ、臍をくすぐられたかと思うと、胸の尖りに舌が絡んだ。「ひはぁっ、やめっ、ぁ、はぁああっ、や、ぁあっ」 幸村は快楽から逃れようと、手足の指を握っては開きを繰り返し、身を揺する。肌身のすべてに舌が這い、指が滑る。幸村の四肢に、未熟な体でありながら、開花した快楽を存分に振るう者たちが、無言でまとわり続けている。「はっ、はぁ、あっ、こん、ぁ、こんっ、ぁ、このようなっ、ぁあ」 放つに放てぬもどかしさを抱えたまま、ゆるゆるとした愛撫に責められる幸村の肌は、すべてが性感帯へとなっていった。「ふっ、ふぁ、もぉ、やめ、ぁ、あぁあ」 尽きぬ快楽に幸村の目じりに涙が浮かぶ。「ああ……それをもっと早く、未完の頃の、弁丸の姿でながめたかった」 うっとりと男の声が響く。満足と悔しさを綯い交ぜにした声に応えるように、淫靡な技が幸村に加えられた。「ぁはあううっ、ふっ、ふんぅうっ」 じんじんと胸乳の尖りが甘痒く痺れている。陰茎は切なく震えて刺激を求め、幸村の理性を削り取る。「ぁはっ、このようなっ、ぁ、やめっ、ふっ、ぁはぁううっ」 こり、と牡のクビレにやわらかく歯を立てられて、幸村は仰け反った。したたる蜜は茂みを濡らし、灯明にてらてらと光っている。「ふっ、ふんっ、ふぅうぁんっ」 蜜嚢を口腔で揉まれ、蜜口をくすぐられて、幸村は鼻にかかった甘い声で鳴いた。体がグズグズに溶けてしまいそうで、たよりない感覚に不安が渦巻く。それが顔に出ていたのだろう。闇の中から声がかかった。「その境地を抜けた先に、極楽が待っている。さぁ、可愛い子どもたち。彼を極楽へと誘ってさしあげなさい」「ひっ、やめ、ぁ、はぁあああっ」 幸村の尻に手がかかり、双丘が割り広げられた。ぬめりのあるものが谷に塗られ、秘窟に押し込められる。「ぁはっ、お、ぉううっ」 緊張する幸村の意識をほぐそうというのか、陰茎にいくつもの唇が吸い付いた。「そんっ、な、とこ、ろ、ぉおあぁあっ」 内壁をくすぐる指が、開花の種を探り当てる。その周囲を丹念にくすぐりながら、指は幸村の秘孔を広げた。「はっ、はぁ、あひっ、ひぃいっ」 ぼろぼろと大粒の涙をこぼし、幸村は首を振った。これほどの快楽を味わうのは、初めてだ。しかもそれは終わる気配の無いままに、幸村を苛み続ける。「やめぁ、もぉ、やめてくだされぇえっ、ひっ、ぁ、あぁ」 口の端からよだれを垂らし、嗚咽と嬌声を交えながら、幸村は快楽から逃れる事を願った。秘孔は丹念にほぐされ、ひくつき赤く熟れている。そこに、陰茎を模した玩具があてがわれた。「ひぎっ、ぁ、が、ぁはぁおおぅ」 ゆっくりと食まされたそれを、幸村の秘孔は受け入れた。しっかりと咥えこんだ秘孔の口を、舌が這う。「はひぉおっ、や、ぁあ、このようなっ、ぁ、ああっ」「何もかもを受け入れ、原始のままに望めばいい。――さあ、弁丸」 闇から響く声は、まるで呪のようだった。幸村の理性をはがし、本能をむき出しにさせる。「たった一言、口にする事で楽になれる。言ってごらん、弁丸。気持ちがいいと」 それは、この上も無く甘美な誘惑だった。「ぁ、あ、ぁあ」 秘孔に埋まった玩具が抜き差しされる。跳ねる陰茎がしゃぶられ、疼く胸乳が吸われた。背を這う舌。指に絡む口。逞しく鍛え抜かれた、武人らしい幸村の四肢を妖しく撫でる指。それらが、幸村を追い詰めた。「は、ぁ、あ……きもち、いい」 ぱりんと、幸村の中で何かが砕けた。唸りをあげて、快楽が幸村の理性を取りこみ本能を引きずり出す。「ひはっ、は、ぁあっ、きもちぃいっ、ぁ、きもちよぉござるっ」 堰を切ったように、幸村は繰り返した。拒絶していたものが肌身に沁みて、淫蕩の波が押し寄せる。「はんっ、はっ、はぁあっ、ぁ、は、もっとぉ、ぁ、もっとくだされぇえ、もっと、ぁあ」 花開いた幸村に、慈愛に満ちた声がかかる。「どこに、何が欲しいのか言ってごらん。何もかも、思いのままだ」「ひっ、ぁあ、乳首もぉ、魔羅もぉおっ、は、ぁあ尻奥っ、は、もっと、ぁあ、いじってくだされっ、掻きまわしてくだされぇえっ」「ああ、思った通りだ! つくづく、彼らと同じ頃に貴殿を手に入れられなかった事が悔やまれるよ、弁丸。ああ、なんて美しい花だ」 感極まった男の叫びが響く。けれど幸村の耳に、意味の有る言葉としては認識されなかった。幸村はただ、肌身に与えられるもののみに意識を向け、ささいな刺激も漏らすまいと身をくねらせるのに必死だった。 そしておよそ一刻ほど経った頃――。「ひんっ、ひっ、は、はぁあっ、きもちよぉござるぅうっ、ぁあ、もっとぉ、は、もっとぉお」 床に這い、尻を突き出し淫靡な少年らに穿たれながら、彼らの牡にしゃぶりつく幸村の姿がそこにあった。「はっ、はぁあ、ぁふっ、んふぅううっ」 そこにいるのはもはや、戦場を駆け巡る若き虎ではなく、快楽という極楽に咲く、紅蓮の婀娜花だった。「ああ、弁丸。私の可愛い弁丸。やっと手に入れた。――貴殿はこれからまた弁丸と名乗り、この私に愛でられ生きるのだよ」 闇から漏れた呟きは、嬌声を上げて身悶え狂う幸村の耳には届かなかった。2014/09/19