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kiss you

 大量の書物を抱えた真田幸村は、両手が塞がっているのでやむなく、足を襖にかけてひらいた。
「政宗殿。お待たせ致した」
 室内にいたのは、白皙の美青年だった。漆黒の髪が肌の白さをきわだたせ、透き通っているかのようだ。細い顎と切れ長の瞳、薄く形の良い唇は超越の美をうかがわせる。右目を被う眼帯が、彼を人の世に留まらせるかのように、生々しさを添えていた。
「ずいぶんと、大量に持って来たじゃねぇか」
 ニヤリとした青年、伊達政宗の人を食ったような笑みに、幸村は少年の丸みを残した頬を持ち上げ、人好きのする笑みを浮かべて後ろ足で、器用に襖を閉めた。
「片倉殿に伺えば、あれもこれもと出してくだされたゆえ、政宗殿に吟味していただき、目を通そうと思うたのでござる」
 片倉殿というのは政宗の腹心で、ここ奥州のナンバー2である片倉小十郎のこと。つまり、政宗は奥州の王だ。その政宗に親しげにしている幸村は、甲斐の虎と呼ばれる、他国からも一目も二目も置かれるほどの器量人、武田信玄の薫陶を受けている男だった。
 一応、奥州と甲斐は敵対している。が、政宗と幸村はそういうものを通り越した、じつに親しく近しい関係を持っていた。信玄も承知の上で、領主として幼い頃より過ごしている政宗から、何か得てくるようにと幸村に申しつけ、幸村は勉学のために、奥州へと学びに来ていた。
「Ah、そうだな。小十郎は、あれでアンタをけっこう気に入っている。あれもこれもと書物を出すのは、それの現れだろうぜ」
「なんと。では、片倉殿の期待にそえるよう、励まねばなりませぬな」
 幸村は大量の書物を手にかかえたまま、すとんと腰を落とした。積み重ねてある書物が、少しも揺れずに床に置かれたのはさすがだと、政宗は胸中で褒める。足腰の強さと体の軸がしっかりとしている証拠だ。
「それでこそ、俺のRivalだ」
 あたり前のようにしてのけた幸村は、きょとんとした。なにをほめられたのか、わかっていない。年よりも幼く見える幸村の、もともと丸い目がそうしてより丸くなると、無垢さが強調される。政宗は嗜虐と庇護者的欲求という、相反するものを湧き立たせ、それの融合する先に青年らしい欲を疼かせた。
「幸村」
 政宗が細く長い指で招けば、幸村はきょとんとしたまま傍に行く。さらりとした漆黒の髪と白い肌を有する政宗と並ぶと、幸村の褐色の肌と鳶色の髪の対比は月と太陽のようだ。性格もおのおの、その差に近いものがあった。
 政宗は楽しげなものを口元にただよわせ、幸村の短いクセ毛に触れた。指を後方に流し、ひと房だけ長い、獣の尾のような部分を引き寄せて口をつける。政宗の仕草に色香を感じ、幸村の満面に火が点いた。
「んなっ、ま、まままま政宗殿っ、何を」
 身を引こうとする幸村の腰に素早く腕を回し、膝を立てて身を寄せた政宗は、からかう瞳で意外そうな顔をした。
「Why are you so surprised? 髪を引き寄せただけだろう」
「ひっ、引き寄せただけではなく、その、か、髪に接吻をいたして……ううっ」
 幾度も肌を重ねているのに、幸村はいつまでも初心なままだ。乱れきった彼の、ボタンのような艶やかさなど、微塵も感じられない。政宗はその落差にそそられるのだが、幸村はいっこう気づかない。
「なあ、幸村」
 艶めいた声で政宗がささやけば、真っ赤な顔をそらしてしまう。
「あの書物のなかの、どれから某、目を通せばよろしゅうござるか」
 幸村の声が緊張に震えている。幸村も年頃らしく、性欲はある。政宗の官能に感化もする。けれど自ら欲することは、あまり無い。修練が大好きな彼は、性欲をそちらのほうで発散してしまうので、色事には受動的だった。
「幸村」
 政宗が甘美に呼びながら耳に舌を伸ばせば、幸村はギュウッと目を閉じた。
「勉学をいたすために、参ったのでござる」
「わかっている……だが、息抜きも必要だろう?」
「政宗殿の望むものは、息抜きにはなり申さぬ……それに、まだ何もはじめてはおりませぬのに、息抜きも何もございますまい」
 体を硬くし、必死になっている幸村は、言葉ほど行動で政宗を咎めてはいない。久しぶりの逢瀬ということで、少しは胸をときめかせてもいた。けれどそれは日もとっぷりくれた、眠りの前の刻という認識があり、こんな日も高いうちから、というのは羞恥が期待に勝る。が、期待が皆無なわけではない。幸村がはっきりとした拒絶を示さない理由を、政宗は知っていた。
「Ok、幸村。なら、Kissだけで勘弁してやる」
「き、きす」
 その南蛮語が何を示すものか、幸村は覚えていた。モジモジとする幸村に、キスだけだと政宗が扇情的な誘いをかける。幸村は唇を尖らせ、すねたように「それだけならば」と承知した。
 政宗は満足げに目元を細め、幸村の顎に手をかける。幸村は羞恥からくる不機嫌な顔を、ゆっくりと唇への期待に溶かせた。幸村の受け入れの表情に、政宗の心が甘く絞られる。政宗はふっくらとした幸村の唇を軽くついばみ、唇に軽く歯を立て舌を伸ばした。
「んっ、ふ」
 開いてくれと舌先で告げれば、幸村が少しだけ顎を広げる。ほめるように目を細めた政宗は、幸村の口腔を愛撫した。
「ふ、んぅ、う」
 上あごや頬裏、舌や歯茎をくすぐられた幸村は、淡い官能に肌を奮わせた。これ以上は危険だと察知し、離れようと身を引けば、がっしりと後頭部を掴まれ腰を抱かれる。
「んっ、ぅう」
 幸村が咎めるように唸れば、政宗はイタズラっぽく目を光らせた。離すわけがないだろう、と政宗の目が笑う。幸村は目を見開き、だまされたと訴えた。口を閉じようとする幸村の舌を、政宗が強く吸う。
「んふっ、うう」
 艶めいたものが舌から喉を通りぬけ、幸村の下肢は熱を帯びた。
「んふっ、ふ、ぅう、う、うう」
 押しのけようとする幸村の力を、政宗が口腔の愛撫で削ぐ。たくみに動く政宗の舌の猛攻に、幸村は成す術を持たなかった。ただ蹂躙され、官能の渦に飲み込まれる。
「ふっ、んぅうっ、ふはっ、ぁん、ぅう」
 逃れようと動かす首は、しっかりと政宗の手に捕らわれている。閉じようとする口は艶美なものに阻まれて、幸村の意思には従わない。本能が政宗の舌技を求めていることに、幸村は気づいていた。それでも残る理性が、逃れなければと叫んでいる。
「ふっ、んぅふ、は、んむっ」
 口内で生まれた淫猥なものが、脳を蕩かせて下肢に血を送る。どうしようもなく若い体が欲を求め、本能を滾らせていた。
「んふぅうっ、う、ふ、んう、う」
 あふれる唾液が飲み込みきれず、口の端から流れる。淫蕩に湿る幸村の瞳に、政宗の勝ち誇ったような、慈しみを含んだ眼差しが映っていた。
「ふっ、んぅう」
 幸村の下肢は下帯を押し上げるほど硬くなり、胸乳の先が震えて尖る。みじろぎをして乳頭が布にこすれただけで、心地よさに痺れた。
「はふっ、ぅうん」
 甘ったるい息が、幸村の鼻から漏れる。政宗はそれすらも味わうように、彼の口腔を貪りつくした。
「ふっ、んふ、ふ、ふぅ、う」
 幸村の体から、抵抗の全てが消える。彼の下肢の先からは、欲を求め過ぎるあまりの先走りが滲んでいた。幸村の呼気や瞳から、政宗はそれを察する。
「ふは、ぁ、ああ、は」
 すっかり力を失った幸村から、政宗は顔を離した。濡れた自分の唇を舐める政宗の、情欲的で獰猛な笑みに、幸村の肉欲がわなないた。
「十分に、Kissを堪能させてもらったぜ。それじゃあ、持って来た書物のどれから読むか、選んでやるよ」
 え、と幸村は淫靡に気だるい体を横たえながら、驚いた。政宗がしれっと言う。
「Kissだけだと言ったろう? 約束は、違えねぇよ」
 幸村は羞恥と疼きに震えた。たしかに、政宗はキスだけだと言った。そして幸村は、それだけならばと許可をした。政宗が幸村の野欲の疼きに気づいていないはずはないのに、彼は約束を守って肌身をまさぐったりはしなかった。
 ぐぬぬ、と幸村は情欲を満たした体を持て余す。約束を守った政宗を、咎めるわけにはいかない。接吻のみと条件を出した手前、この身の処置は自力でなんとかしなくてはならない。
「Hey、どうした真田幸村」
 政宗は皮肉っぽい勝者の笑みを浮かべた。幸村は自分が試されたのだと悟る。これほどの官能を引き出された幸村が、どう肌身を治めるのかを、政宗は楽しもうとしていた。
 ならば、と幸村は腹をくくる。この状態では何も頭に入らない。それでは時間の無駄になる。呼吸を整え体裁をつくろっても、政宗の傍にいては隠しようもないし、治まることも無いだろう。
「政宗殿」
 幸村はおもむろにモロ肌脱ぎとなった。政宗が「どうする気だ」と瞳で語る。
「たしかに、政宗殿は約束どおり、接吻のみで終わらせてくだされた。なれど、某の身が浅ましくも、それ以上のものを求めておりまする。ゆえに、今後は某にお付き合い願いたい」
 ほう、と政宗が楽しそうに片頬を持ち上げた。
「政宗殿も、多少は某との接吻で、御身を滾らせてござろう」
 幸村は力の入らぬ足で部屋の隅ににじりより、懐紙を手にした。
「互いに、身を軽くしてからのほうが、意識も冴えてようござる」
「自慰をしあおうって誘いか?」
 からかう政宗に、幸村は首を振った。
「そうではござらぬ。いや、あるいはそうやもしれませぬ」
 政宗の傍に戻った幸村が、はにかみながらも政宗の胸元に手を入れて、襟をくつろげた。
「互いの熱を擦り合せるのでござる」
「I see. そいつは、俺も賛成だ」
 政宗は手早く帯を解き、隆々と猛る自身を取り出した。幸村はゴクリと喉を鳴らして、それに見入る。
「そんなに熱心に見るんじゃねぇよ。アンタの中に、入りたくなるだろう」
「はっ、あ……それは、そうなっては、困るゆえ、堪えていただきたい」
 幸村は耳まで赤くして、顔をそらした。わかっていると言いたげに、政宗が幸村の髪に唇を寄せる。
「そっちは、夜までガマンするさ」
「……かたじけない」
 ボソリと幸村がつぶやく。政宗は幸村の下肢を手早く剝き出した。しっとりと先端が濡れ光っているのを見て、口笛を鳴らす。
「ずいぶんとゴキゲンじゃねぇか」
「こ、これは、その」
「恥ずかしがるなよ、幸村。俺のKissで、相当感じちまったって証拠は、俺にとっちゃあうれしいモンだ」
「ううぅ」
 恨みがましく幸村が睨めば、政宗は楽しげに喉を鳴らす。政宗が幸村の腰を引き寄せ、幸村は政宗の肩に腕を回して、ふたりは互いの牡を重ね合わせた。
「俺がスる。アンタは、しっかり感じてな」
「そういう言い方を、しないでいただきとうござる」
「なら、なんて言えばいい」
「知りませぬ」
 拗ねた幸村の首に口付け、政宗は二つの欲を握った。
「っ、あ」
「たっぷりと楽しみたいところだが、小十郎が茶を持ってくるとまずいからな。飛ばしていくぜ」
「ふっ、政宗殿、ぁ、ああっ」
 政宗の指が互いの熱をこね回す。幹を扱きながら先端を揉み込む政宗の指技に、幸村は素直な声を上げた。
「ぁ、はああ、ぁ、そんっ、ぁ、擦れっ、ぁ」
「イイだろう? もっと乱れてかまわねぇぜ、幸村」
「ふっ、ぅう、ぁ、溶け、ぁ、は、ぁあ政宗殿ぉ」
 先走りがあふれ、重なる肉の滑りを良くする。政宗は指に欲液を絡めて、脈打つ熱をしごいた。
「っあ、は、ぁあ、政宗殿っ、ぅあ、あは」
 クビレが絡み、幹が擦れるたびに幸村は喘ぎ、腰を揺らした。濡れた指を幸村の秘孔に伸ばしたくなる自分を戒め、政宗は互いの牡を昇らせる。
「ふっ、ぅうっ、ぁ、も、ぁあ、あ」
 幸村の降参が近い。政宗は自分の熱を彼に合わせた。両手で互いの陰茎を揉みこみ、促すように体をゆする幸村の首に顔を埋めて、二つの先端に爪を立て低く唸る。
「っう」
「っ……は、ぁあ、あああああ」
 政宗が身を硬くするのと、幸村が仰け反るのが同時だった。いきおいよく吹き出したほとばしりが、互いの肌を濡らす。幸村はそのまま後方に倒れ込み、政宗は彼が取ってきた懐紙で後始末をした。
「スッキリしたか? 幸村」
 自分のことは棚に上げ、優位者としてふるまう政宗に、幸村が陶酔した目で微笑んだ。艶冶な笑みに、政宗の腰が疼く。
「しばし休んでから、お教え願いたく存ずる」
 淫猥な教育を脳裏にひらめかせた政宗は、それをおくびにも出さずに微笑んだ。
「なら、アンタが休んでいる間に、書物を選んでおいてやるよ」
「かたじけのうござる」
 とろりとした幸村の笑みに甘美なものを見た政宗は、書物に手を伸ばしながら「今宵は存分に」と不埒なたくらみにほくそ笑む。そんなこととは気づかぬ幸村は、久しぶりの政宗の肌の匂いに恍惚と目を閉じ、想いの重なる幸福を味わった。

2015/07/26



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