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偽逢

 眠っていると、人の気配がした。見知った気配に、幸村が反応をせずにいると、夜着の中に影が入り込んできた。
「旦那ぁ」
 甘えた響きのある声に、幸村は目を開ける。漆黒の闇に閉ざされた室内では、輪郭がようやく見える程度だ。だが、相手はきっと、こちらの顔が見えているのだろうと、幸村は思う。
「どうした、佐助」
「俺様、つかれちゃった」
 言いながら、もぞもぞと着物の中に手を入れられて、幸村はぎょっとした。
「っ! 疲れたのなら、おとなしく寝ていればよいだろう」
「疲れたし、気が昂ぶってんの。だから、甘えさせて?」
 声の調子で、どんな顔をしているのか、容易に想像がつく。小首をかしげ、悪びれぬ笑みでねだっているのだろう。幸村は思わず、笑ってしまった。
「いまの笑いは、了承の笑みってことで、いいよね? 旦那」
「あっ、こら……。やめぬか」
「なら、忍の分際で、主に手を出すとは、何事だって叱ったら?」
 幸村は口をつぐんだ。そのような言い方をされれば、拒めなくなることを、この影は知っている。
「ずるいぞ、佐助」
 腹心の忍、猿飛佐助の目の光を追ってにらめば、艶やかな笑みを浮かべた瞳にぶつかった。
「っ」
 幸村の喉が鳴る。
「そんな顔をされちゃったら、ガマンが利かなくなっちまうだろう」
 楽しげに、佐助が幸村の帯を解く。
「もとより、やめるつもりなど、ないではないか」
「んふ」
 むくれると、軽く唇をついばまれた。幸村は観念して、目を閉じる。もとより、佐助は明日に響きそうなときは、こうして甘えてこない。甘えてこられる時間と余裕があるときにしか、忍んではこなかった。ならばそれを受けとめるほかに、幸村の選択肢はなかった。
 結局は佐助の望むままに身をゆだねるのに、とがめてみせるのはどういう理由からだろう。幸村は自分でも、わからなかった。――羞恥、だろうか。
「んっ、ぅ」
 佐助の舌が口内でうごめく。幸村はぎこちなく、舌を動かした。すると佐助の舌は器用に、幸村の舌をあやす。
「ふっ、んぅ、う」
 佐助の手が、幸村の肩を滑る。鍛え抜かれた、はじける若い筋肉を包む皮膚を、細く長い指になぞられた箇所が、ポッと火がともったように熱くなるのは、なぜだろう。
「んっ、は……っあ、あ」
「旦那」
 甘く掠れた佐助の声に、胸が切なく絞られる。幸村は腕を伸ばして、佐助を抱きよせた。
「佐助」
「うん。旦那」
 うれしそうに、けれどどこかさみしそうに、佐助が返事をする。幸村は腕に力を込めて、佐助を抱きしめた。
「ふふ。旦那ってば、あったかい」
 佐助の手が背中に触れる。着物を落とされた幸村の、盛り上がった胸筋に、佐助の薄いがしなやかな胸板が押し当てられる。
 ふたつの鼓動が、ひとつになるような錯覚を覚えて、幸村は目を閉じた。
「旦那」
 佐助が唇で耳朶に甘える。
「ぁ、ああ……っ、佐助」
「うん、旦那」
 名を呼べば、名を呼ばれる。合い言葉のように、あるいは儀式のように繰り返しながら、幸村は佐助の手が背を滑り、下帯にかかるのを感じた。
「この格好じゃ、ほぐせないなぁ」
 甘えた声で、遠まわしに言う佐助に、幸村は苦笑した。
「このままで、よいではないか」
「ええー。俺様、もっとヤラシーことがしたい」
「なっ」
 唇を尖らせているであろう佐助の言葉に驚けば、気配が笑った。
「旦那の魔羅、舐めさせて」
 耳元でささやかれ、顔に血がのぼる。
「なっ、は……」
「はいはい、破廉恥はナシねぇ。これから、すんごい破廉恥なこと、するんだからさ」
 軽く頬に口づけられて、幸村は口をつぐんだ。
 たしかに、そうだ。佐助はとても破廉恥で、心地よくて、身も心も溶け合うことを、しようとしている。
 幸村は、佐助を抱きしめる腕の力をゆるめた。
「ふふっ」
 楽しそうに、佐助が鼻先に唇を当ててくる。幸村は次にくる刺激に身構えた。
「そんなに緊張しないでよ。まったくもう。いつまでたっても、ウブなんだから」
「佐助は……」
「うん?」
「佐助は、俺が、その……もっと、なんだ、積極的というか、その、そうなったほうが、うれしいのか」
 ぎこちなく問えば、闇に溶けている佐助が笑った。
「旦那が旦那なら、俺様はなんでもいいよ」
「なんだ、それは」
「それじゃあ、俺様が希望を言えば、旦那は聞いてくれんの? 自分から足を開いて、グチャグチャにかきまわしてって言われたいって、俺様がねだったら、どうする?」
「なっ」
 脳みそが沸騰するほど恥ずかしいセリフに、幸村は言葉を失った。佐助の気配がクスクスと震える。
「あはは。冗談だって。……でも、足はもうちょっと、開いてほしいかな」
 膝をつつかれ、幸村は仕方なく足を開いた。
「ありがと」
 うれしそうに、佐助が足の間にうずくまる。幸村が口に手を当てると、「こらぁ」と軽く咎められた。
「声が聞きたいんだけど」
「そう言われても、恥ずかしいものは、恥ずかしいのだ」
「じゃあ、手を縛っちゃうよ」
「それは、いやだ」
 佐助に触れることが、できなくなる。
「それじゃあ、ガマンして、声を聞かせて?」
「ぬ、ぅ」
 幸村はうめき、深呼吸をして目を閉じた。
「か、かまわぬぞっ」
「旦那、そんなにガチガチになんなくっても……。まあ、俺様がすぐに、ほぐしてあげるけどねぇ」
 ぬらりと、下肢に温かく湿ったものが触れる。佐助の舌だと、幸村は知っていた。拳を握り、奥歯を噛む。しかし佐助は舌技を駆使し、あっけなく幸村の唇を開かせた。
「ぁ、は……ああっ、ふ、んぅう」
 幸村は、すがるものを求めて佐助の髪に指を這わせた。
「んふ……、旦那の。さっきまでやわらかかったのが、ウソみたいにカッチカチ」
「言う、なぁ……っは」<br>「ふふ。さきっぽから、気持ちがいいよーって、液を垂らしてるぜ、旦那」
「ふぁっ、あ、だから、言うなと……ぁ、んっ」
「いやだね。俺様、言葉にしながら旦那のことを、確かめてんだから」
「は、ぁあっ、あ、ああ」
 佐助の唇に蜜嚢を捉えられる。陰茎の先を指で擦られ、幸村は背をそらして短い嬌声を上げた。
「あっ、あ、ああ、あ……さすっ、ぅ」
「んふふ。イケそうでイケないの、たまんないでしょ?」
「っ、は、ぁ、ああう、佐助ぇ」
「イキたいって言えたら、イカせてあげるよ」
 そんなこと、言えるはずがない。幸村が唇を固く閉ざせば、佐助は幸村の先走りで濡れた指を、秘孔に埋めた。
「ひっ、ぁ、ああ……」
「ほうら、ほら……どうお、旦那。降参して、言っちゃいなよ」
「ふはっ、ぁ、ああんっ、佐助ぇ、あ、ああっ」
 陰茎をしごかれ、蜜嚢を吸われて秘孔を探られる。それは強く、けれど決定打に欠ける刺激を、幸村に与えた。
「ぁはっ、ぁ、ああ、さす、けぇえ」
「ほうら、旦那。いい加減、降参しなって」
「は、ぁああっ」
 絶妙な動きで、佐助は幸村の絶頂を調整する。あとすこし、ほんのわずか強い刺激があれば、心地よい解放を得られるのに。
 破裂するほどに昂ぶっている幸村は、目じりに涙を浮かべて、佐助の名を呼びながら、あえいだ。
「はふぁあ、あ、さすぅう、佐助、ぁあ……っ、は、あ」
「ねえ、旦那。きもちいい? きもちいいよねぇ……。コッチはビクビク震えるくらい固くなってるし、ナカはキュウキュウに俺様の指に、しがみついてくるんだもんなぁ」
「んふぅ、ぁ、だから、言うなと……っ、は、言って……ぁあ、佐助」
 なぶられる体が、淫らに酔う。揺れる意識が、欲に侵食されていく。
「は、ぁあ……佐助ぇ、あ、さす、けぇ」
「なあに、旦那」
「んんっ、もぉ、はやく……ぁ、ああ」
「ちゃんと言って。ねぇ、旦那」
 佐助が欲しい言葉を知っている。それを引き出すために、佐助はこうして、幸村を高めたあとに、ひたすら焦らす。幸村はそんな佐助の児戯にも似た甘えが、嫌いではなかった。
「素直になりなよ、旦那」
 どちらがだ、と幸村は胸中で文句を言う。素直なようでいて、ひねくれている佐助の不器用な甘え方が、どうしようもなく愛しくて、幸村は羞恥を捨てた。
「さ、すけ」
「なあに、旦那」
 髪を引き、顔を寄せろと動作で示せば、佐助の耳が唇の近くにきた。
「ほ、しぃ」
「なにが、欲しいの?」
「佐助が……」
「ちゃんと言って」
「佐助と、繋がりたい。……俺の中に、埋めてくれ、佐助」
「旦那」
 佐助の弾んだ声が唇に触れたかと思うと、高く足を持ち上げられた。
「俺様も、旦那が欲しい。俺様と、ひとつになろ? 旦那」
「うむ、……佐助」
 幸村が佐助の首に腕を回すと、佐助が慎重に身を埋めてきた。
「ぁ、は……っ、は、さす、ぁ、あ」
「んっ、旦那、ああ、すごい……あったかい、旦那のナカ、きもちぃ」
 掠れうわずる佐助の声に、幸村の胸が塞がれる。
「さ、すけ、ぁあ、でる」
「ん? いいよ……出して」
「なれど」
「先に1回、イッといて。……そのほうが、旦那のここ、ほぐれるから」
「しかし、佐助が」
「俺様は、大丈夫。すぐに旦那を追いかけて、いっぱい注がせてもらうから。――旦那、ほら」
「っ、あ、ああぁあああ――っ!」
 さきほど、あれだけ焦らしたくせに、佐助はひと突きで幸村に絶頂を与えた。幸村の内壁は、佐助の固く凝った熱を、はっきりと意識に描くほどに、締めつける。佐助は幸村にしがみつき、強い刺激に堪えた。そんな佐助がいじらしくて、幸村は佐助を全身で抱いた。
「は、ぁあ、佐助、は、ぁあ」
「旦那……、動くよ。いい?」
「んっ、動け……佐助。お前を、俺に……っ、は」
「うん、旦那……ああ、すごい……あったかい、旦那、ああ」
「佐助、ぁあ、さす……っ、は、ぁあ」
 はじめはゆるゆると。徐々に激しく、佐助は幸村を求めた。幸村は輪郭と目の光のみが確かな佐助を、全霊で受け止め、求める。
「ああ、佐助ぇ、あっ、さ、すけぇ」
「旦那、ぁあ、旦那ぁ」
 熱っぽく甘える佐助を、無心に抱きしめた翌朝。
 幸村はただひとり、朝日の差し込む部屋で目覚めた。
「佐助」
 身を起こし、つぶやく。情事の名残は、体のどこにもついていない。注意深く鼻を動かしても、それはおなじだった。
「……影ではなく、本体で俺を抱け。佐助」
 無事の帰還を、心待ちにしておるぞと、部屋の隅に残る闇に向かって、幸村はささやいた。

2016/03/01



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