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熱帯夜

 室内にいても、じりじりと焼けた空気が肌身に迫る。
「ん……」
 にじむ汗が肌に髪をまとわりつかせて気にかかる。
 真田幸村は身を起し、ふうっと息を吐いた。ひと房だけ長い髪が、うなじに張りつく。このままではどうにも寝つけそうにないと、幸村は起き上がった。
「はぁ」
 音に出して嘆息し、障子を開ける。外はしらしらと月光に照らされ、足元は明るかった。ペタリペタリと足音をさせながら、たしかこちらに井戸があったはずだと歩く。
 この屋敷は幸村のものではない。他者のものであるから配置をよく覚えていなかった。
 ここは奥州の海に近い場所にある、とある男が見分時に滞在する館だった。その男の名は、伊達政宗。奥州を統べる竜として全国に名を響かせている武将である。そして自他ともに認める、幸村の好敵手だった。
 幸村がここに滞在していると知っているのは、彼を送り届けてきた四国を統べる西海の鬼、長曾我部元親と幸村の忍である猿飛佐助。それと奥州の軍師であり猛将として、また野菜作りの名人としても有名な片倉小十郎。最後に、館の主である政宗の四人のみだった。
 大阪に用があり出て行った際、海を知らぬ山国で育った幸村に船旅を味わわせてやろうと元親が言い、せっかくの申し出ありがたくと喜んだ幸村の横から、政宗が己の領地は海に沿っているので、ついでに送り届けてくれと言ったのだ。
 政宗を嫌っている佐助はいい顔をしなかったが、これもまたいい機会であろうと、幸村の主であり甲斐を統べる武田信玄は賛成をするはずという意識もあって、しぶしぶと承諾した。そして同行するつもりであった佐助に、幸村は先に帰還し報告をせよと命じた。
 船旅を満喫した幸村は、奥州の港で政宗や小十郎とともに下船した。陸路で帰国をする前に、どうせなら港を見学していけと政宗に誘われて日中を過ごし、夜になって案内されたこの屋敷で疲れをいやしている。
 幸村が歩いていると、廊下の先に人の姿があった。
 柱に背をあずけて空を見上げるその姿は、淡く月光に輝いて見える。
 幸村は思わず足を止めた。
 藍色に薄く沈んだ夜気に、その男は幻のように白光している。それは白い襦袢が月光を含んでいるからばかりではない。白磁のように白い男の肌が、冴え冴えとした輝きをまとっていた。
 顎のあたりまである絹のように細い漆黒の髪にふちどられた秀麗な顔立ちに、幸村の大きな目があこがれにも似た心地に細くなる。なんと美しいのだろうと、思わず吐息が漏れた。
 まさか吐息の音が聞こえるはずもないが、男が顔を動かして幸村の姿を見た。
「政宗殿」
 渇きにかすれた声で、幸村は男を呼んだ。
「こんな夜更けに、どうした」
 低く通る男の声に、幸村の心臓が震える。
「政宗殿こそ」
「――どうにも眠れなくてな」
「某もにござる」
 政宗の腕が持ち上がり、幸村に向けて差し出された。ふらふらと引き寄せられた幸村がその手を取ると、強く引かれた。
「あっ」
 膝をついた幸村の頬に、政宗の細く長く、しかし力強い指が触れる。
「汗、かいてんな」
 息がかかるほど近くに顔を寄せられて、幸村は思わず目をそらした。
「こっち向けよ、幸村」
 からかいを含んだ声音に、わざとこうされているのだと気づく。幸村は目に力を込めて視線を戻した。
 切れ長の目に愉快そうな色が乗っている。けれどその光は左側にしかない。右は刀の鍔にひもを通した眼帯でおおわれていた。
 幼いころの病が原因で、右目を失ったと聞いている。均整の取れた顔立ちに、それは凄みを与えるばかりで政宗の美麗さをわずかも損ねるものではなかった。
 ごくり、と幸村の喉が鳴る。
「It is whetted.――なんて顔してやがる」
 どんな顔をしているのだろうと、幸村は政宗の瞳に映る自分を見ようとした。
「ん、ぅ」
 唇がふさがれる。なにかを試すように唇をついばまれても、幸村はじっとしていた。政宗と唇を重ねるのは、これが初めてではない。それどころか、その先も充分に経験をしている。けれどいつも幸村は反応をできずに硬直してしまうのだ。政宗も、それはよく知っている。だから唇で、幸村に拒絶の意志がないかどうかを確認してから行為に及んだ。
「っ、ふ……」
 幸村に否やはないと判断した政宗の舌が、幸村の唇をなめた。幸村が薄く唇を開くと、舌はわが物顔で口腔に入った。頬にあった政宗の指は幸村の後頭部に移動し、とび色のクセの強い髪に沈んだ。幸村はどこを掴めばいいのかわからず、膝の上でこぶしを握る。
「ふっ、んぅ、うっ、う」
 口腔をまさぐられ、甘露よりもまだ甘いものが口内にじわりと生まれて、幸村は目を細めた。政宗の瞳がやわらかな色を帯びる。それと反対に、舌の動きは活発になった。
「んぅっ、ふ、んむ、ぅう」
 強く頭を固定され、深く舌を差し入れられる。息苦しさに、幸村の目じりに涙がにじんだ。
「んふぅううっ」
 口腔を蹂躙されて、追いやられた舌を唇からのぞかせると、強く吸われた。甘痒い刺激が舌の根から背骨を走り、下肢をうずかせる。
「んふっ、ふぅうっ、は、ぁ」
 ふいに唇が離れる。ニヤリと歪んだ政宗の薄い唇が、口吸いの唾液で濡れ光っていた。きれいだ、と思う。
「幸村」
 艶やかな声に幸村の心臓が跳ねる。その声音から、政宗も興奮をしているのだと伝わった。
「政宗殿」
 呼び返すと、政宗の唇は日に焼けた幸村の首筋に落ちた。胸元に手を差し入れられ、肩から着物を落とされる。鍛え抜かれ盛り上がった胸筋を、下から持ち上げるように掴まれた。かと思うと、政宗の親指が乳頭にからんでたわむれる。
「んっ、ぅ……」
 幸村は手の甲を口に当てて声を抑えた。どういうわけか、深い口吸いをした後にそこをいじられると、なんともいえぬもどかしくも心地よい痺れを得てしまう。
「声、聞かせろよ」
「そのようなこと……、あっ」
 いいさした幸村の声は、胸乳の尖りに歯を立てられて遮られた。政宗の唇が乳首をとらえている。舌ではじかれくすぐられ、強く吸われて幸村は背をそらした。
「は、ぁ――」
 たっぷりと濡らされた乳首はツンととがって小さく震える。みだらに喜ぶ己の一部に、幸村は満面を朱に染めた。
「いつまでたっても、初心なままだな」
 クックと喉を鳴らした政宗に、そこを指先ではじかれる。
「はぁっ、あ、あ」
 強くひねられれば、痛みの奥にえもいわれぬ快楽を感じて、幸村はのけぞった。それを利用され、床に倒される。おおいかぶさった政宗の手で裾を割られ、太ももを持ち上げられた幸村はあわてた。
「ま、政宗殿」
「You have no need to be ashamed.――俺も熱くたぎってんだ」
 幸村の体温が上がった。思わず政宗の股間に視線を向けると、意地の悪い笑みを向けられる。
「あとでたっぷりと味わわせてやるよ」
「なっ……、某は、別に」
 モゴモゴと口ごもる幸村の内ももに、政宗の唇が触れる。
「あっ」
 唇は肌を滑って脚の付け根に到達した。
「下帯を押し上げて、窮屈そうだな? 幸村」
「ぐ、ぅ……」
 どうしていつも、こう意地悪く羞恥をあおろうとしてくるのか。幸村はプイと顔をそむけた。
「ぁ、は……、んっ」
 下帯の上から陰茎の先をなぞられて、幸村の喉から切ない息が漏れた。
「汚しちまったら、後始末が面倒だ」
 その言葉に幸村の満面に血が上った。
「ううっ」
 羞恥にうなりながら赤くなった顔を腕で隠し、おとなしく政宗に下帯をほどかれる。
 政宗の唇から満足そうな口笛が流れた。
「すいぶんとゴキゲンじゃねぇか」
 幸村のそこは隆々と立ち上がっていた。
「もうすこしすりゃあ、ガマン汁が垂れていただろうな。はやめに脱がして正解だったぜ」
「っ……、うう」
 自覚しているだけに、より恥ずかしい。幸村がうなりつつ身をこわばらせるのと、政宗が口を開いて陰茎にしゃぶりつくのとは同時だった。
「んはっ、ああ、あ……、あっ」
 わざと舌鼓を打つように音をさせて、陰茎をねぶられる。根元を指でとらえられ、舌先で鈴口や裏筋をくすぐられつつ口内でしごかれると、肌身が浮き立つような快楽が走り抜け、幸村は腰をくねらせて先走りをあふれさせた。
「んふっ、ふ、ぅあ……、あっ、んん」
 じっくりと味わわれるのが、心地よくも物足りない。蜜孔がうずいて絶頂を求めている。けれどそれを口にのぼせられるほど、幸村は奔放でも淫蕩に落ち切ってもいなかった。
「ぁは、は、ぁあっ、あ……、あ、あ」
 ただ政宗にされるまま、淫靡な刺激に耐えるしかない。幸村の太ももに力がこもり、尻にはエクボが生まれた。
「もっとrelaxしろよ、幸村」
「んはっ、あ、無理に……、ござ、ぁあ」
 南蛮語はわからないが、ニュアンスで言われたことは理解した。幸村は向けられた言葉とは反対に、足の指も強くにぎって快楽に耐える。
 やれやれと吐き出された政宗の息に濡れた陰茎が刺激されて、幸村は「ふぁ」と寝ぼけたような声を出した。
 その後も政宗は決定的な刺激を与えてはくれなかった。幸村は絶頂を渇望しながら、持ち前の強靭さでもどかしさを抑え込む。陰茎からはとめどなく先走りがあふれ、下生えをてらてらと月光に輝かせた。触れられていない乳頭が、刺激を求めて切なく震える。そこに触れたい衝動を、幸村は必死でとどめた。
 下生えを濡らす蜜があふれて蜜嚢に流れ、その先の尻にまで伝い落ちる。すると政宗の指が尻の谷に触れて、蜜を受け止めた。
「んぁっ、政宗殿……」
「潤滑油がわりに使わせてもらうぜ」
 焦らされている意味を、幸村は悟った。幸村の腰が浮かされ、政宗の膝に乗せられたかと思うと、硬くて熱いものが尻の谷に触れた。
「あっ」
「俺も辛ぇんだ。……わかるだろう」
 尻をつつく熱と硬さに幸村はうなずく。政宗の陰茎もまた、幸村同様に凝り切っていた。その先が幸村の肉谷に隠れる秘孔に触れる。政宗は己の先走りと幸村の先走りを利用して、自然に濡れることのない秘孔を潤し広げようとしていた。
「ふ、んぁ、あっ」
 秘孔の口をシワを伸ばすようになでられて、幸村の肉体はその先の行為を思い出した。たぎる熱の応酬の記憶に、秘孔が収縮する。
「期待してんのか?」
 からかわれ、
「そのようなことは……、ひっ」
 文句を言おうとしたら、指を押し込まれた。
「あっ、は、ぁううっ、ぉふ、ぅ」
 ふたりの先ばしりに濡れた指が、幸村の内壁でうごめく。政宗の指は肉壁の快楽点を避けて動き、幸村の絶頂を制御している。
「ぁはっ、は、ふ、ぅうっ、んぁ、あっ、あ」
 痛いほどに張りつめた陰茎から、淫らな波が体中に広がって、幸村は涙をこぼした。寝苦しさにかいた汗とは別の種類の汗が、幸村の肌をおおう。
「ふはっ、あ、政宗殿、あっ、あ」
「まだだ……、もうすこし」
 幸村を翻弄しているはずの政宗の声が、うわずりかすれている。彼もまた己の欲望をこらえているのだと、幸村は妙な安堵に包まれた。
「んあっ、は、ぁううっ」
 指が増やされ、内壁が媚肉へ育てられる。丁寧な動きでほぐされた幸村の内壁は、政宗の指にたわむれかかるほどになった。
「そろそろ、か」
「ぁうっ」
 指が抜かれ、秘孔がものほしそうに動いた。そこにピタリと政宗の熱の切っ先があてがわれる。
「覚悟はいいか、真田幸村」
 睦事とはほど遠い、剣呑な声をかけられた。幸村はニヤリと不敵に応じる。
「むろんにござる、政宗殿」
 政宗の指が幸村の陰茎にかかり、乱暴とも思える動きでしごかれた。
「んはっ、あっ、あああ、あっ、あぁあああ――」
 とうに臨界を超えていた幸村は腰を浮かせてあっけなく精を吹き上げ、小刻みに痙攣しながら弛緩した。そこにすかさず政宗が腰を進めて幸村を突き上げる。
「ふぐっ、ぁ、はぁおお、ぅうんっ、あ、ま……、さむね、どのぉ、あ、ぁあ」
「手加減はしねぇ。俺も限界なんでな」
「ひぁあああっ」
 絶頂のゆるみを狙われ奥まで貫かれた幸村は、車軸のように止まらぬ突きを食らわされた。媚肉となった内壁を振り切るように、政宗は皮膚のぶつかる音がするほど激しく腰を打ちつけてくる。
「はんっ、は、はんぁあっ、ま、さむ……、どのぉ、あっ、ああ」
 放ったばかりの幸村の陰茎はムクムク育ち、やがて政宗の腹に先端がこすれるほどに勃起した。
「いいぜぇ、幸村……、ふっ、最高、だ」
 言葉で返す余裕など、幸村にはない。
「はっ、はぁあっ、ぁんっ、ん、ふぁあっ、あ」
 腕を伸ばし、政宗の首にかじりついて身をくねらせて返事とした。
「上等」
 政宗はそれを気に入ったらしく、さらなる勇躍で幸村を突き上げる。
「んはぁああっ、ああっ、まさっ、あ、むねどおぉ、あっ、ああっ」
 頭の先まで突き抜けるような衝撃と欲の情動に身を任せ、幸村は政宗の熱を求めた。
 熱を持った政宗の肌が薄桃に染まり、快楽の苦痛に余裕なく顔が歪む。その表情に幸村の欲望はさらに高まり、気持ちに呼応した内壁が政宗を強く絞った。
「く、ぅ」
 短いうめきと共に政宗の体液が注がれる。それに奥を激しく打たれて、幸村は背をしならせた。
「は、ぁああああ――っ!」
 二度目の絶頂を迎える幸村は、体内の政宗の形をまざまざと知るほどに、彼を強く締めつけていた。
「んは、は……、あ、あ」
 ちいさく震える幸村の心臓のあたりに、政宗の唇が触れる。
「よく眠れるように、まだまだ付き合ってくれんだろう? なぁ、幸村」
 剣呑で艶やかな政宗の濡れた瞳に、幸村もまた獰猛な光を淫靡にひらめかせながら笑った。
「むろんにござる」
 そして唇が惹かれ合う。

2016/06/27



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